この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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流石だぜ、ロムルス(ローマ)!


じんじは ちからを ためている

 

 

 

 仁慈は激怒した。必ず、かの邪智暴虐なレフ・ライノールを血祭りにあげ(ピー)して(ピー)して(ピー)(ピー)すると決意した。仁慈には世界や人類の未来などわからぬ。仁慈は、ちょっと武術が盛んだった家の人間である。剣を振り、槍を突き、矢を放って、拳を構えるだけだった。けれど、癒しには人一倍敏感であった。

 

 幼少期から意味不明な師匠共に囲まれ、鍛えられ、家が勝手に決めたことでカルデアを訪れ、その場の流れから特異点を正常に戻すというハード極まりない人生を送って来たからである。

 マシュの存在は仁慈にとってどれだけの救いだったのだろうか。

 睡眠をとればランダムで影の女王に攫われ、起きれば扱い注意の自称嫁が、部屋を出れば職員の食事を、それが終われば自身を鍛える……思えばこの生活も彼女が居たからこそなのだ。もし彼女が居なければ今頃仁慈が人類を滅ぼす側に回っていたかもしれない。

 

『――――――――――ッ!!!!』

 

 ローマと連合帝国の間に広がる広大な大地を、仁慈は魔力放出を使って音速で移動していた。これにはさすがの連合帝国の兵士たちも驚きを隠せない。しかも、彼を見た瞬間に自分は衝撃で宙を舞っているのである。彼らが誰一人例外なくポルポル状態になったのは言うまでもない。

 

「弓兵!か、構え!この化け物を我らが皇帝に近づけてはならない!ここで絶対に仕留めるんだ!」

 

『うぉぉおおおおおお!!』

 

 それでも彼らは諦めなかった。

 自分たちがやられてしまえば彼らが信じるローマにして皇帝が倒されてしまう可能性があったからである。彼らにとってローマとは全てであり、皇帝もまた全てである。かの皇帝の為なら自分の命など喜んで差し出すのだ。

 だからこそ、彼らは持ち直した。せめて皇帝のためにダメージでも与えようと、自分の命が潰えてもほかの仲間があの化け物を止めてくれることを信じて彼らは戦った。

 

 弓を放ち、剣を構え、槍で突く。

 一人一人の実力は確かに頼りないものだった。だが、彼らには仲間がいた。この平原を埋め尽くすとまではいかずとも大部分を占める信頼できる仲間がいた。これならばきっとあの化け物を倒せると、彼らは信じて戦った。

 

 

 

 

 

――――――――――しかし、現実は非情である。

 

 

 

 

 

『■ ■ ■ ■ ■ ■――――――!!!』

 

 魔力放出をやめて、その場に立ち止まった仁慈はその場で咆哮を行う。これだけならば唯の威嚇程度だが、仁慈が行ったことは違う。魔力放出で推進力として使っていた魔力を今の咆哮に混ぜて集団に向かって放ったのだ。

 魔力を纏った咆哮は唯の威嚇ではなく、威力を持ったれっきとした攻撃へと変貌したのだ。

 

 放った矢、突撃していった兵士、そしてその背後に控える者たち、それら全てを無慈悲に吹き飛ばした本人は、四次元バックから使い捨ての槍を一本取り出し、それに暴力的なまでの魔力を注ぎ込む。

 元々、魔力との親和性もなく、耐久力がそれほどあるわけでもない槍はそれだけで壊れそうになっていたが、その槍が壊れる前に仁慈はそれを投擲する。

 

 

 そして、敵軍にそれが当たった瞬間、槍は崩壊し中に詰められていた魔力が解放される。その光景はまるで空爆のようでもあった。

 

 これには連合帝国兵も一歩たじろいだ。

 敵は確かに強かった。しかし、こちらにも何千……いや何万の軍勢が居たのである。それにもかかわらず傷をつけるどころか近づけすらしないとは一体どんな悪夢だと彼らは思った。

 

 仁慈は、敵の心情など知らぬと言わんばかりに先ほど自分がこじ開けた場所を再び魔力放出を駆使して音速に足を踏み入れつつ突破した。

 

 

 

 ―――――――レフ・ライノールとの邂逅は近い

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………どうやら、目当ての者がこちらに来ているようだ」

 

「ふむ。そのようだな。まぁ、アレが直接私と邂逅を果たしたいというのであれば望み通りにしてやろうではないか。――――ロムルス」

 

「……捕らえた娘を連れて来い」

 

「ハッ!」

 

 レフはロムルスと呼ばれた男にマシュを連れてくるように指示させた。なぜ自分ではそうしないのか?答えは簡単である。彼が命令しても部下が動かないからだ。彼らはローマの、ロムルスの部下でありレフの部下ではないからだ。これにはレフもイライラしているが、後でこの特異点諸共すべてを壊すつもりでいるため我慢していた。

 

 しばらくして、一人の兵士が肢体を拘束されたマシュを連れてくる。ロムルスは兵士を下がらせると静観する姿勢をとった。

 

「レフ・ライノール……!」

 

「立場をわきまえろ出来損ない。貴様の命は、私が握っているのだ」

 

 自分たちを裏切り、多くの人間たちの命を奪ったレフをマシュは睨みつける。それに対するレフの反応は淡白なものだった。彼にとってマシュを含めた人間は虫のようなものだ。鬱陶しいとは思うが、真面目に相手をすることもしない。

 最も、仁慈は別だが。

 

「さて、君をここに連れてきたのは他でもない。奴……あの樫原仁慈の枷になってもらうためだ。実はあの忌々しき樫原仁慈がこちらに向かっていると連絡があってね」

 

「!」

 

 ここでマシュは自分が仁慈に対する人質なのだと確信した。それと同時に彼女は自分自身に激情を向けた。マスターを守るはずのサーヴァントがマスターを追い詰める人質となるとは在り得ないことだ。しかも彼女はシールダー。守ることが本質ということも彼女の怒りを助長する一要因となっていた。

 

「……いや、人質と活用する前に、君には樫原仁慈を倒すための手伝いをしてもらおう」

 

 かつてカルデアに居たころ浮かべていた表情を作るとレフは部屋の扉を開けて何人かの兵士を招き入れる。そして、彼らにこう言った。

 

「あそこの小娘を好きにしてもいいぞ」

 

「!?」

 

 その言葉にマシュは驚愕と恐怖を隠し切れなかった。

 

 ―――レフの考えは、マシュを助けに来た仁慈に、精神的なダメージを負わせようとマシュを凌辱することを思いついたのである。助けに来た人物が既に癒えようのない傷を負っている。これは常人には耐えがたいことだろう。こういったことに対する頭の回転は無駄に速いレフだった。

 

 彼の言葉を聞いて乗り気になった兵士は一歩一歩、マシュに近づく。

 普段の彼女であれば、苦戦することもない一般人。しかし、現状は肢体を拘束されていることに加えレフの所為か力も入りにくい状態だった。

 

 レフはその様を見て他人が引くようなゲス顔を浮かべている。ロムルスはこのようなことは珍しくないのか無表情。兵士たちはマシュの美しい肢体を蹂躙する楽しみで大変な顔になってる。

 ここでマシュは自身の感じている恐怖を抑え込み、仁慈が来るまで凌辱に耐えきる覚悟を決めた。自分が捕まった所為で仁慈にまで迷惑をかけているのだ。せめてそれくらいしなければ仁慈のサーヴァントでないと、己を奮い立たせて。

 

 兵士の手が、マシュの瑞々しい肢体に伸びる。マシュは強い意思が宿った瞳でその兵士を睨んだ。

 

 

 

 凌辱が開始されるという、このタイミングで、奇跡は起こる。

 

 

 

 ドゴンと近場で何かが破壊される音が響く。

 今まで室内だったため感じることのなかった風を肌で感じる。

 外の日差しが眩しく感じる。

 

 室内で起こり得ないことを体験したその場にいた者たちは一斉に音の発生源である場所を振り向く。

 するとそこには、

 

 

「―――――――ミツケタ」

 

 

 元々真っ白だったカルデアの礼装を返り血で赤く染め、真っ赤な服へと変えた仁慈が見開き血走った目でレフたちを捕らえていた。

 正直マシュは、その光景が今まで生きてきた中で一番怖いと思った。

 

「……随分早い到着だったな。樫原仁慈。ちょうどいい、今からそこの小娘の凌辱ショーを始めるところだったんだ。ゆっくり見ていくといい。おっと、そこから一歩でも動いてみろ?小娘の命は―――――」

 

 自身が優位と疑わなかったレフは、得意げな顔のまま向こう側の壁に叩きつけられた。その後、仁慈はマシュに近づく兵士の首を纏めて刈り取ってその命を散らしたのちに、魔力放出で胴体部分を消し炭に変える。さらに、仁慈はフェイク・ゲイボルク(verダ・ヴィンチ)を取り出してレフが叩きつけられた地点に投擲する。

 そしてその直後、マシュに近づき彼女の拘束を一秒にも満たないスピードで外すと彼女を思いっきり抱きしめた。

 

「ふぁ!?せ、先輩……!?」

 

「よかった……!」

 

 心からの安堵である。

 仁慈にとってマシュは替えの利かない大切な存在だ。癒しとしてもそうだが、カルデア内において一番付き合いが長い。友人としても、仁慈にとって一番大切な人なのだ。誘拐され、ここでは言えないようなことをされそうになったものの、無事に救出できてよかったと仁慈は本気で思った。

 そして、マシュの腰に回した右手を片方解いて、黒鍵を異次元バッグから取り出しレフの方に投げつけた。ついでに魔力の塊も飛ばした。

 

 一方、マシュは仁慈が震えながら自分のことを抱きしめていることから物凄く心配させてしまったのだと思った。しかし、自己嫌悪することを後回しにして、マシュの方からも仁慈に腕を回す。

 

「すみません。先輩。私は、先輩のサーヴァントであるにも拘わらずここまで心配をかけさせてしまって……」

 

「マシュがこうして無事ならいい」

 

 即答である。

 その答えを聞いてマシュは不謹慎だと考えつつもとても嬉しいという気持ちを抱いてしまった。

 彼女が生きてきた中で仁慈ほど自分を必要としてくれる存在は居なかった。だからこそ、嬉しい。自分が今最も一緒に居たいと思える人物がここまで自分を必要としてくれる。自分の存在を認めてくれる。これは生物としても人間としても重要なことなのだから。

 

「はぁー……。本当によかった」

 

「ご心配をおかけしました」

 

「ん、大丈夫」

 

 お互いに落ち着いてきたのか相手に回していた腕を解いて、笑い合う。ついでに仁慈はこの前の召喚で出てしまった儀式用の短剣を四本全部レフの方に高速で捨てた。

 

 

 

 

 ちなみに、仁慈が来る前から空気に徹していたロムルスは―――

 

 

「(………今はまだ私が出る時ではない(ローマ))」

 

 

 ――――――空気を呼んだ結果空気に徹していた。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「ぐっは……!人間風情がぁ………!」

 

 

 マシュと仁慈がイチャイチャしており、ロムルスが空気に徹しているとレフが叩きつけられた壁からようやく出てくる。しかし、その身体は短剣やら黒鍵やら深紅の槍やらが生えており、人型版の針山のようでもあった。どう考えても無事ではない。

 レフは自分をこんな無様な姿にした仁慈を睨みつけるが彼はマシュと談笑に徹していた。その様子はお前など眼中にないと言われているようだった。

 実際は全く違うのだが。

 

「ロムルス!そこの人間と出来損ないのデミ・サーヴァントを――――」

 

 レフはロムルスを仁慈にけしかけようとするが、その言葉が最後まで言い切られることはなかった。何故なら、先程まで談笑していたはずの仁慈が無表情でレフの首にラリアットをかましているからである。

 これの所為で、言葉を紡げないだけでなくレフの身体は後ろに思いっきりのけぞり、そのまま重力に従って地面に倒れた。

 

「ゲフッ、ゲッホッ!一度ならず、二度までもこの私に屈j――ぐはっ!?」

 

「………」

 

「あまり調子n―――ゲフッ!?の、乗るなよ人g――ぎぃ!?」

 

「…………」

 

「ちょ、ゲホッ!?まっ、グハ!?ゲフ!?ゴホッ!?」

 

「………」

 

  

 これはひどい。

 地面に仰向けに倒れたレフは、当然ながら仁慈を罵ろうとするのだが、そこで仁慈が待ったをかけているのだ。具体的には一発一発殺意を持って腹に踵を振り下ろしている。おかげでレフはまともに話すことすらできていなかった。しかも、ここまで仁慈は完全な無表情である。

 

「ウボァー………ええい!いい加減に――――ブロゲショッバッ!?!?」

 

 いい加減やめさせようとレフが立ち上がろうとした瞬間、仁慈は標的を腹ではなく首に変え、美しい回し蹴りを脊髄に叩き込んだ。

 再びボールのように吹き飛ぶレフ。追い打ちに今度は通常の槍を二本投擲していた。槍はちょうどレフのスーツに突き刺さり、張り付け状態にする。

 

 そして仁慈はそのまま、壁に張り付けにされたレフで八極拳の練習を始めた。その様子に流石のマシュもドン引きだった。

 一撃一撃を打ち込むごとにレフが張り付けられている壁に罅が入っていき、二十にも届かない当たりで壁が崩壊し、レフは解放された。最も、その様子は無事とは言えるものではなく身体も服もボロボロだった。

 

 マシュが確保されようが言葉が言えるようになろうが、はじめから唯一つ変わってないことがある。それは、仁慈は未だブチ切れているということだ。

 だからこそ、彼には珍しく正面から、嬲るように攻撃しているのである。

 

 

「ち、調子に乗るなよ……人間。このレフ・ライノールが貴様らのような凡庸な人間に負けるはずがない………貴様らに特別に見せてやろう。王の寵愛を受けた私の力を!」

 

 

 仁慈専用のサンドバッグと化していたレフは、今までの憎々しげな表情を一転させて笑い、自身の身体を変貌させていく。

 

 

 

 

 

 そうして、変身が終わった時、そこに居たのは圧倒的な存在感を持つ存在だった。

 元々人型だったとは思えないそれは一言でいうなら肉の柱という表現が一番しっくりくるだろう。それに隈なく不気味な目玉がついている姿を想像すれば大体それが変身後のレフの姿だ。

 

 その姿を見たマシュは感情や頭ではなく本能で感じ取った。

 これは自分たちとは次元が違う生き物だと。

 サーヴァントや幻想種ではない、本物の化け物なのだと。

 

『改めて自己紹介をしよう。私はレフ・ライノール・フラウロス。七十二柱の魔神が一柱である!樫原仁慈。ここで自らの所業を悔いながら、苦しみ逝け!!』

 

 圧倒的な強者からの言葉を受けた仁慈はマシュに下がるよう手で指示を出したのちに嗤った。

 

 

「キキ、キシシシシシシssssss!!!アッハハハハハッハアハハハhッハアハ!!!!」

 

 

 再三繰り返すが、マシュを取り戻したからと言って仁慈の怒りが衰えているかと言われれば否である。

 むしろ凌辱なんて無駄なことをしようとした所為で余計怒りは増していると言ってもいい。だからこそ、彼は嗤っているのである。

 別に人型だろうと肉柱だろうと、仁慈のやることは変わらないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告

やめて!仁慈のキチガイ攻撃で魔神柱をばらばらにされたら、魔神柱と化しているレフまでばらばらにされちゃう!お願い死なないでレフ!あんたが今ここで倒れたら、人類の焼却はどうなっちゃうの!?
HPはまだ残ってる!ここを耐えきれば、仁慈に(十万分の一で)勝てるんだから!

次回「レフ死す!」デュエルスタンバイ!



……正しい次回予告の使い方をやってみました。

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