DEBUを倒し、ガリアを奪還した俺たちはその小さいながらも確かな成果を喜んでいた……というわけではなかった。
ガリアを奪還し、ネロのテンションが降下したもののそれなりに明るい雰囲気で歩いていたはずなのに、帰還途中に聞えてくる噂が明るさを奪い言いようのない不安を掻き立てていた。その噂とは、地中海にある島に古い神が現れたというものである。
この噂の所為でマシュとロマンはそちらの方に思考回路が寄っており、ネロも今までのことからローマに関する神が敵に呼び出されたのではないかという推測を立てていた。
一方俺とXはお互いに顔を近づけて小声でその孤島について話し合う。もちろん、彼女の直感からどの程度の重要度がその島にあるのかということを決定づけるためである。
「と、言うわけなんだけど。どう?ちなみに俺の第六感は全力でその島に関わるなと言ってる」
「同じくですマスター。あの島には神というにふさわしいねじ曲がって、とんでもなく厄介な連中がいるという旨の宇宙からの電波を受信しました」
「なぜいきなり電波キャラに……」
普通に直感でいいじゃないか。最近キャラがブレブレすぎるぞXェ……。
「電波ではありません。大宇宙からの意思です。っと、それはともかくマスター、その古の神がいるという島に行くのはお勧めしません。ぶっちゃけ、聖杯とも何の関係もないということも感じますし。絶対骨折り損のくたびれ儲けになるかと」
「………だよなぁ」
このことに関しては完全にXと同意見だった。
確かに情報は重要だ。不確定な要素はできるのであれば排除するべきだ。しかし、しかし……それでもその理屈を凌駕し、本能が近づきたくないと叫ぶこともまたあるのだ。今回は特にそれがひどい。古の神とやらもやばそうだが、その付近に居そうな者達もやばいとビンビンに告げているのだ。
このままではまずいと、俺は話の修正に乗り出す。
「別に島のことは気にしなくていいと思うよ。藪をつついて蛇を出す必要はないし、今の俺達には余計なことをしている余裕が欠片もないんだから」
「む?そうは言うがな、仁慈よ。余は気になって仕方がなくなってしまったのだ」
『そうだそうだー。神代の神が実際に現界しているかもしれないんだぞー。このロマンが分からないのかい、仁慈君!』
「………皇帝陛下。今我々のすることは僭称皇帝が率いる帝国を倒し、民と自分が築いてきたローマを取り戻すことでしょう。目的を忘れてはいけませんよ」
ネロの目を見てしっかりと言葉にする。
俺自身が行きたくないという理由も当然ながらある。しかし、俺たちは既にがけっぷちにいるのであり、ガリアを取り戻したからと言って決して優勢であるわけではないのだ。向こうには宮廷魔術師なるものが持ってる聖杯がある。その宮廷魔術師が何者であろうと、強力な英霊を大量に召喚することが可能なはずだ。対するこちらは英霊の数に限りがあり、総大将たるネロは人間。常軌を逸脱しても耐久だけはどうにもならないことを何より俺が知っている。
厄介ごとに首を突っ込むということはそれ相応の体力も消費するのだ。ここで寄り道するわけにはいかない。
「……うむ。そうだな。この余を前によく言った。褒めて遣わすぞ仁慈!」
「光栄です」
『………まぁ、言われてみればそうだよね。確かに』
「俺たちはピクニックで来てるわけじゃないんだ。個人的な探求心よりも確実性を取った方がいいと思う」
『そうだね。流石に今の発言はサポーターの領域を越えすぎた。反省するよ』
「罰として一日レトルト&非常食で手をうってやろう」
『なんだって!?』
横暴だぁ!というロマンを華麗にスルーしつつ、俺たちは何事もなく帰った。
ほら、飼い主として躾はしっかりしないといけないし。
『いつの間にか家畜の位置に!?僕の立場低すぎィ!』
流石に冗談だよ。
――――――――――――――――――
ローマ帝国に最も近い領地であったガリアを奪還し、帰って来た俺たちを待っていたのは大量の敵兵だった。
「おかしいな」
「むむむ……。近郊のガリアは既に奪還したはずだが……。まさか別のところから?いやしかし、それでは斥候が気づくはず」
『気づいた斥候を口封じできれば、バレないで済みますよ。………その証拠に、大量の敵兵の中にサーヴァント反応が一つ混じってる』
「くっ、待ち伏せされておったか……」
目の前に広がる大量の敵兵を前に苦々しい表情を浮かべるネロ。その思わず零れたという言葉に対して意外なところから返答が帰って来た。
それは敵兵をかき分けて最前線へとやって来た敵のサーヴァントだった。強靭な肉体を隠そうとせず、頭に炎を乗せた男である。持っている武器からランサーだろうか。
相手のクラスを予想しつつ、清姫にごにょごにょと一つ問いかける。それに対する彼女の答えはお任せくださいという頼もしいものだった。
……こういうところは本当に良妻のようである。
「待ち伏せではない。私はここを防衛すると決めただけのこと。我が拠点に、貴方たちは侵入したのです。すなわち―――――」
「清姫、宝具」
「転身火生三昧!」
別に領地だとか防衛戦だとかどうでもいいです。
この中で唯一、広範囲にわたって被害を及ぼすことができる宝具を持つ清姫に頼み、マッスルサーヴァント諸共大量の敵兵を薙ぎ払う。……兄貴には悪いけど清姫を連れてきて本当によかったかもしれない。
ヤル戦いすべてが無双ゲーを思わせるような敵の数なんだ。広範囲用の宝具を持ってないとやってられない。
元々は唯の少女だったとはいえ、思い込みで変化した清姫の炎は致命傷を与えるには十分なものだった。サーヴァントは所々焼け焦げているだけでまだ立っているが、彼が率いていた数多の兵士たちはサーヴァントの宝具に耐えることができず、完全に沈黙をしてしまっている。
「むァだむァだァ!!私が、防衛戦において負けることはあってはならない!いきなり宝具を放ってくるとは計算が狂ってしまったが、私が……このレオニダスが立っている限りは、何人たりとも通しはしない!」
「なんと、あのスパルタのレオニダス王だと………」
「そうなると、これは長い戦いになるかもしれませんね」
レオニダスは圧倒的数の差を埋めて、強大な軍勢に多大なダメージを与えた防衛の英雄である。そのため、戦力を削っても彼があきらめることはない。むしろ、死ぬ間際まで自ら率先して戦い続けるのだろう。しかも、確か彼は馬鹿ではなく普通に頭の良い人物だったはずだ。圧倒的物量差を覆しそうなくらいの戦果を挙げたことがそれを証明している。普通に戦えばとんでもなく厄介な手合いであることは間違いない。
まぁ、まともに戦えば、の話だ。
「―――――――――――」
「ぐほっ!?」
全体に影響を及ぼす宝具である転身火生三昧は、威力に見合う分だけの派手さがある。蛇の形をした炎が相手を飲み込みながら向かってくるのである。どう頑張ったってそっちの方に視線が行ってしまうことは仕方ないことと言えるだろう。
だからこそ、それを利用した。
派手ということはその分注目されるということ。
注目されるということはそれ即ち、他がおろそかになるということでもある。
転身火生三昧に紛れて敵の懐に潜り込むなんてことは、平気でできるわけだ。そんなことをしたら俺も宝具に巻き込まれてしまうが、そこは流石の清姫である。自身の思い込みだけで人外の化生へと変化した彼女からすれば、その伝承をかたどった宝具の対象から俺を外すなんて楽勝だ。実際に俺はダメージを全く受けていないのだから。
……こうして考えると、俺と清姫って相性は悪くないのかもしれない。
そうして炎に紛れた俺はレオニダスの懐に入り込み、そのまま霊核をざっくりと貫いたのだ。
「ま、まさか……宝具に紛れて接近するとは……考え付きませんでした……」
「………」
「いえ……。私の心の持ちようもあったのでしょう。暗殺など、一番初めに思いつかなければならないこと。それをおろそかにした私は、やはり………」
最後まで言葉を紡ぐことなくレオニダスは消える。
俺は俺で、味方からドン引きしたような視線を受け取るという若干いつも通りのような光景を目にすることとなった。
レオニダスと一戦交えるというハプニングがあったものの、無事にローマに帰って来た俺たちはローマを挙げての宴でもみくちゃにされた。
いくら何でも来るもの全員を振り払って雰囲気を壊すのもよくないために、そのままなし崩しで受け入れていたのだが、その所為で無駄に疲れた俺は宴(というか祭り)が終わった後、用意された椅子と机でぐったりとヘタレてしまった。
「あぁ、先輩がふにゃふにゃになってしましました……。表情が緩み切ってます」
俺の顔をつんつんしながらマシュが言う。くすぐったいからやめてくれませんかね。
そんなことを思いつつも振り払う気になれない俺はぐるりとほかの人の様子を見てみる。
Xは未だ祭りで出されていた料理をパクついては首を傾げていて、清姫はへにょっている俺の横から抱き着いてきていた。
「ふぅ……。仁慈もそうだが、他の者たちも今日は疲れたことだろう。与えられた自室にて、ゆっくりと休息をとるがいい」
ネロの言葉に甘えて俺はへにょったまま立ち上がり、自室へと向かった。
祭りでの疲れもあるけど、宝具ブッパとDEBU戦で使った魔力の方が結構効いてるかもしれない。
いくら聖杯によるバックアップによって魔力が大量にあろうとも、一気に消費する負担までは減らせないだろうからなぁ……。
結局その後は、そのまま俺は与えられた部屋にて泥のように眠りにつくのだった。
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「サーヴァント、アサシン。ハサン・サッバーハ。召喚に応じて参上いたしました」
「………まぁ、アサシンというのであればそれが必然か。……ネロ・クラウディウスの暗殺とマシュ・キリエライトを連れて来い。山の翁、アサシンという者の基となったその力を以てすれば造作もないだろう」
「その通りでございます。必ずや、その任を達成してみせましょう」
レフ・ライノールに召喚されたアサシンはそう言うと同時に城を飛び出し、自身のターゲットが居るローマへと向かう。
「暗殺、誘拐……その程度、このザイードにしてみれば他愛なし。フフフ、マスターに期待されたのは一体いつ以来か……こうして私だけが召喚されていることから、様々なイレギュラーが発生していることは間違いないだろう」
そこまで考えるが、彼は―――ザイードはその足を止めない。
彼にとって、自身が期待されるということは何事にも代えがたいものだからである。
「しかし、そんなことは関係なし。ここまで心が軽いのは初めてだ……私にもはや迷いなし!騎士王、英雄王、征服王に続く第四の王……暗殺王ザイードの名を知らしめて御覧に入れましょう!(集中線)」
暗殺者とは思えないテンションで、ザイードは夜の闇に紛れて駆けた。
フラグにフラグを重ねていくスタイル。
後、活動報告にてアンケートを行っています。
このセプテム編の流れを大きく変えるものなので、よければ覗いてみてください。