この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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いやーこれこそが戦いですね(白目)


ピコン!

 

 

 

 

 

 

「たまには振るってやらんとこの剣も報われん。さぁ、この黄金剣……黄の死(クロケア・モース)の力、とくと味わうがいい」

 

 黄金の剣を携え、構えるカエサル。それと同時に彼の隣に岩でできたゴーレムが現れた。魔術によるものである。

 

「探知用の魔術だけじゃなかったのかよ」

 

『どうやら、見事に隠されていたようだね。すまないこちらの力不足だ』

 

「まぁ、あのDEBUは今までの奴らと違って物凄く頭が回るようだしね」

 

 仁慈は意外なことに一歩引いて、しっかりとマスターらしく戦況を見ていた。ゴーレムと戦うマシュと清姫に強化魔術を使用しつつ、弓でカエサルと戦うネロとXを支援している。

 どうして今まで脳筋を極めていた仁慈がこうして一歩引いているのかと言えばそれもカエサルの所為である。ここまで頭の回る相手は今までいなかったために警戒しているとも言える。だからこそ、一歩引いたところで何があってもすぐに対応できるようにしているのだ。

 しかし、カエサルは仁慈の援護とネロ、Xの攻撃を余裕とは言えないもののしっかりと捌き切り時々反撃にも出ていた。

 

「くっ、このふくよかな男は化け物か!これでも密度のある攻撃を仕掛けているのだがな……!」

 

「私以外のセイバーぶっ飛ばぁす!」

 

「そら、どうした!ローマの皇帝がこの程度では、民も失望ものだぞ」

 

 余裕がないはずなのに、嗤いながら剣を振るうカエサル。それに対して彼女らの表情は硬い。元々、サーヴァントに近い力を持っているが人間のネロと、一人でヒロイン狩りを行い最近ではマシになって来たものの俺はソロだ(キリッ)していたXではいまいち攻めきれていないからである。

 仁慈も仁慈で隙を埋めるために弓を放っているが、それも効果があったのは初めの方だけで今は新しく現れたゴーレムたちが身代わりとなってしまっていた。

 

「ちっ、あのDEBU。俺の射線上にうまい具合にゴーレムを配置してるな」

 

『仁慈君がここまで攻め切れないの、初めて見た……。こういうこと言っている場合じゃないのに、物凄く新鮮だなぁ』

 

「不意打ち、自分の隙をすべて把握したうえで戦っているな、あのDEBU。こういう手合いは厄介だけど………それは自分の尺度内での話だ」

 

 弓の矢に魔力を通し、貫通力を高めて矢を放つ。

 その甲斐あってゴーレムを貫通しカエサル本人の左腕へと矢が食い込こみ、矢が爆発した。……そう、これこそが仁慈。

 生前では体験できなかったであろう奇抜であり不可能とも思われることをまるで息をするかのように自然に行う、サーヴァントと比較しても劣らない非常識にして神秘の塊のような男だ。

 

「ぬぐっ!?……くくっ、あれが本来のマスターということか。私の予想を軽々と超えるとは……実に面白いものだ。先の不意打ちに引き続き、愉しませてくれる………」

 

 矢が爆発して千切れてしまった左腕を見やりながらカエサルは笑う。それと同時にマシュと清姫がゴーレムを倒し終え、カエサルを囲った。片腕を失ったカエサルと彼を取り囲むサーヴァント……勝負は見えたも同然である。

 

「強い、強いな。貴様ら、よいよい。どの女も強く、美しい。その身体もあり方も。マスターの方も実に力強く、私の居た時代にいなかったことが惜しまれるほどだ。……私をここまでにした褒美として、貴様らに聖杯とやらの在り処を教えてやろう」

 

 黄の死と呼ばれた剣を地面に突き立て、カエサルは語る。

 

「聖杯なるものは我が連合帝国首都の城に在る。正確には、そこの小憎たらしい宮廷魔術師が所持しているがな」

 

「その魔術師の名前を教えていただけませんか?」

 

 マシュがそう尋ねるとカエサルは表情を険しくしてマシュの言葉を断じた。

 

「それは出来ぬな。貴様らに与える褒美は終わりだ。それ以上くれてやる道理はない。………さて、私も聖杯を欲する理由がある。私が立てた約束もある。だからこそ、次は本気だ」

 

 口にした瞬間カエサルの身体から膨大な魔力が放出される。その魔力は今は亡き左腕に絡みつき、巨大な腕の形へと変貌を遂げた。そして、地面に刺していた剣を抜き構える。

 

『まさか!自分で魔力を抑えていたってことか!?くっ、今までのは本気じゃなかったってわけかい……!』

 

「本当に化け物染みているな……!しかし、余は皇帝である。僭称の皇帝などに負けるわけにはいかぬ。余と、余のローマを信じてくれている民の為にもな!」

 

「マスター、どうしましょう」

 

「やることは変わらない。………令呪を以て命ずる。我らがサーヴァント達、全力を以って目の前のDEBUを蹴散らせ。聖杯の在り処も聞いたし、宮廷魔術師についてもある程度の目途はたったから遠慮は無用だ」

 

『わかりました』

 

 腕に刻まれている令呪が一つ消え、仁慈の中にある魔力の塊が各サーヴァントの中に流れていく。仁慈の方も一気に決めるつもりなのだろう。令呪を使い魔力が流れた後でも自身に対する魔力強化を行い前線に出る。聖杯という反則的なまでの魔力タンクがあるからこそ、できることだった。

 

「これが現代でいう最終ラウンドだ!と、言うやつか。ふっ、ならば私は答えよう。私はガイウス・ユリウス・カエサル!私は来た。見た。ならば―――次は勝つだけだ……!」

 

 剣を掲げ、その黄金を開放する。

 それはユリウスの宝具が展開される合図である。

 

「――――――――黄の死(クロケア・モース)

 

 彼の持つ黄金の剣が振るわれる。

 何度も何度も、常人ではとらえきれないほどの速さで、仁慈たちに迫って来た。それに対峙するはセイバーを憎み、今までのうっぷんをため込みにため込みまくったヒロインX。彼女は黒い聖剣を召喚し、魔力を開放、目の前に迫る剣戟の嵐に正面から斬りかかる!

 

「――――星光の剣よ。赤とか黒とか白とか、目の前のDEBUとか消し去るべし!マスターの礎となれ!えっくす、カリバーァ!!」

 

 黄金の剣と黄金の聖剣、そして黒く染まった聖剣がぶつかり合い激しい火花を散らす。実力は拮抗しておりどちらも手を抜けば切り刻まれるというぎりぎりの状態だ。それはつまり、他の者たちが完全にフリーだということ。

 

「マシュ、剣戟を適度にガードしつつXを掩護してくれ。清姫、行くぞ!」

 

「かしこまりました」

 

「お任せくださいマスター」

 

「余も行くぞ!」

 

 仁慈の指示で二人の間に割って入ったマシュはXの代わりにいくつかの攻撃を仁慈の指示を頼りに防いでいく。その分攻撃に余裕ができたXは今度こそ自分の身であのDEBUセイバーを切り伏せようとさらに精度を上げた剣を振るった。

 セイバー殺し、アルトリア顔殺しと言いつつ、なんだかんだでその力をまともに振るえなかった彼女は今最高にハイってやつだった。

 

 そして、カエサルの命を狙っているのはXだけじゃない。聖杯の情報を引き出した仁慈はもはや手心を加える気もなかった。爆発する矢をわざわざ左腕に当てたのも喋れる程度に負けを認めさせるためでもあったのだ。警戒をしていた割には余裕のある男である。

 

「清姫、火球をいくつか放ってくれ。当たっても当たらなくても構わないから」

 

「では、はぁっ!」

 

 清姫が持つ扇子を仰ぐようにして振ると複数の火球がカエサルに襲い掛かる。剣をXとマシュで使っているためカエサルはこの攻撃を受けざるを得ないと誰もが考えた。しかし、彼の身体は先程とは違うところがあった。

 

「ヌゥン!」

 

 それは爆散した左腕の代わりに形作られた巨大な手である。バランスの悪そうなそれは清姫の火球をなんなく消し去る。形は左腕だが正体は超密度な魔力だ。これくらいは造作もないことなのだろう。

 だが、それこそが仁慈の狙い。あの左腕は傍から見ても何かあると分かるようなものだった。それを使わせた今、カエサルは裸も同然。

 

「行くぞ仁慈。余に合わせよ!」

 

「皇帝陛下の仰せのままに」

 

 ネロと攻撃を合わせるということで冬木以来使っていなかった日本刀を取り出した仁慈はネロの攻撃に合わせて腕を引き絞る。

 

「死んだ者は、死んだ者らしく大人しくしておれ!僭称皇帝!」

 

「――――――!」

 

 ネロの持つ剣、自ら鍛えた真紅の剣、隕鉄の鞴『原初の火(アエストゥス・エストゥス)』がカエサルの身体に食い込むとともに、仁慈が突き出した刀がカエサルの霊格を突く。それによって剣を振るう腕が止まりXの剣戟をも自らの身体に受けることとなった。

 

「く……はっ……!が、は。ははは、やはり私に一兵卒の真似事は無理があったようだな。元々、この体格からわかる通り肉体労働は本職ではない。全く、あの御方の奇矯には困ったものだ」

 

「あの御方……?」

 

 カエサルが語り掛けた内容にネロが興味を示す。それを見て仁慈は構えていた止め用の剣を四次元鞄に仕舞いその話を聞くことにした。

 

 カエサルが言うには、その御方とは歴代の皇帝もしくは自分のような皇帝と呼ばれる前の者たちも逆らえない人なのだそうだ。そして、それに会ったときのネロの反応が楽しみだと言った。

 

「では、貴様らのこれからに期待するとしよう。特にネロと結局名前を名乗らなかったマスターの貴様にはな」

 

「座でポップコーンでも食って眺めてればいいよ。できればの話だけど」

 

 カエサルの言葉に仁慈はそう返す。

 その言葉を最後にカエサルはカリギュラと同じように光の粒になって消えていった。その様を見てネロはその整った顔を歪ませる。

 

「これが、こ奴らの死か……」

 

『………そうですね。皇帝カリギュラの時もそうですが、サーヴァント……過去に偉業を成し遂げ、こうして復活した者たちの死はこれです』

 

「では、先日討った伯父上も今の名君カエサルも」

 

「―――えぇ、今ので死にました」

 

「そうか……余は、カエサルをそなたたちの手に掛けさせたのか」

 

「別に気にしなくてもいいですよ。それこそが俺たちの役割ですから」

 

 仁慈は特に気負うこともなくそういう。

 ネロには悪いが、仁慈は敵として歴代皇帝が出てこようと問答無用でぶっ潰せる。この時代の人間はローマこそがすべてであり、その時代のローマそのものと言っていい皇帝を倒すことにひどい戸惑いを覚えるだろうが、別の時代、別の国からやってきた仁慈には思い入れがないのだから。それに、どこかの女王の所為で敵対する者には容赦のかけらも持たない性格になっていることも1つの要因だ。

 

「そうか……。いや、情けない姿を見せたな。ともかく、余たちは皇帝の一人を撃退し、ガリアを取り戻した。強大な帝国に一矢報いたのだ。今はそれでよかろう。これを積み重ねていけば余が、民が渇望したローマが戻ってくるのだからな!」

 

 この中で唯一この世界に生きる彼女からすればカエサルの撃破は思うところがあったのだろう。だが、士気を下げまいと気丈にふるまう彼女を見て許可が下りればこの世界ではないだろう現代の料理でもふるまおうかと考えた。

 

「DEBUセイバーよ。感謝しましょう。貴方のおかげでストレス解消と、セイバー殺しとしてのアイデンティティを保つことができました」

 

「お前なぁ……」

 

 いつでもどこでも平常運転のXに溜息を吐きながら。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 カエサルが言った連合帝国首都の城の王室において、二人の男性が居た。

 

「……カエサルが敗れたか」

 

「あぁ、そのようだ。まったく、願いがあるというから使ってやったものを……。まぁ、さして問題はない。サーヴァントなどいくらでも私が用意してやる。しかし、どいつもこいつも唯の人間を仕留めるのにいったいどれくらい手こずっているのだ。本当にサーヴァントというものは使えんな。過去に偉業を成し遂げたものも無理矢理枠に当てはめてしまえばこの程度か。不自由なものだな。ハハハハ!」

 

「………」

 

「おっと、失礼。そういえば貴方もサーヴァントだったな。―――――――だからこそ、私に従うしかない。お前に運命というものがあれば、それが私だ」

 

 二人のうちの一人である緑色のスーツを着て、穴が開いた帽子を被ったレフ・ライノールがもう一人の男に向かって憎たらしい笑みを浮かべる。そしてそのまま、言葉を続ける。

 

「この時代の完全な破壊。皇帝ネロの死と、ローマ帝国の崩壊、そして人類史の死。それこそが我が王から賜った、私の責務だ。―――――――そろそろ戦力の補強が終わるか」

 

 返答を求めない自己陶酔に染まり切った独白を終え、レフは英霊召喚を行う魔法陣に目線を移す。

 

「カルデアとは違い、私は真に自在にサーヴァントを呼び出すことができる。我らはそのようにできているのだから」

 

 魔法陣が激しい光を放つと、頭に金の兜を被り、大きな槍と盾を持ち炎までも携えた大男が現れる。

 

「サーヴァント、ランサー。真名をレオニダス。これよりあなたにお仕えします」

 

「ほう、テルモピュライの英霊か。悪くない。全力を以って皇帝ネロを抹殺せよ」

 

「ハッ!」

 

 レフの命令を受けて退室していくレオニダスを見送ったレフは先程まで浮かべていた笑みを引っ込め、憎々し気な表情を作った。それは、自分たちが呼び出した英霊、カリギュラとカエサルを屠ったカルデアのマスターに向けられたものである。

 

「樫原、仁慈……!」

 

 人類最後のマスターとして自分たちに仇名す愚かな人間。ちっぽけな存在でありながらサーヴァントたちを次々と屠っていく異常性がレフの神経を逆撫でする。本人が聞けば「知るかボケ」と言いつつ、容赦のない攻撃が飛んでくることを考えながらレフは自身の尻をさする。

 そこは、彼がカルデアに正体を明かした際に仁慈に攻撃されたところだった。彼は冬木から帰った後痔を患ったのである。そのことについてレフが言うあの方から失笑を喰らったのは記憶に新しい。

 

「貴様だけは、簡単には死なさん……!場合によっては、どんな手を使おうともだ!」

 

 ここでレフは、仁慈が大切にしているマシュ・キリエライトの存在を思い出す。あれは使えるのでないのだろうかと。彼女をうまい具合に手に入れることができれば、樫原仁慈を嬲り殺しにできるのではないかと。

 

「―――――クックック、そうと決まれば。アサシンでも呼び出すか」

 

 彼は今考え付いたことを実行するために再び英霊召喚を行うのだった。

 ――――――背中に走る尋常じゃない悪寒を無視しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後まで読めば、サブタイトルの意味が分かるはず。

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