この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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あれ?


動けるDEBUは総じて曲者

 ――――――そのDEBUは暇だった。

 あるお方から現ローマの領地の一つであったガリアを奪いとり、ローマに攻める算段をつけ、それに対抗するローマ軍が自分の兵力と激突し激しい戦いを繰り広げられていれば彼もここまで暇を持て余すことはなかった。しかし、現状戦力はこちらの方が有利であり、特に彼自身が手を下すまでもなかった。これが逆ならば彼の持っている知力をあるだけ絞り出し、勝利をつかむという楽しみ方もあっただろう。

 

 が、現状は先程言った通り、いわばオートプレイでも勝てるゲームのようなことになっておりまったくやることがない。唯一彼を動かした二体のサーヴァントは一度交戦してからはすっかりその姿を眩ませているため本当に楽しみがないのだ。

 

「―――――退屈だな」

 

「はっ?」

 

「退屈だ、と言ったのだ。これも戦争であるし、大した被害もなく勝てるのであれば当然それに越したことはないだろう。だが、それにしても退屈が過ぎる」

 

「は、はぁ……。しかし、貴方様は我々の――――」

 

「よい、皆まで言うな。この私が分からないと思っているのか。名将たる、この私が」

 

「も、申し訳ありません……」

 

「よい。私も少々口が過ぎたようだ。………さて、そろそろこの戦いも幕引きと行こう」

 

 よっこいせ、と文字通り重い腰を起こして立ち上がろうとするDEBU改め連合ローマ帝国に呼ばれた皇帝の一人であるガイウス・ユリウス・カエサル。

 しかし、ここに来て、願ってはいけないはずだった彼の願いを叶える伝言が届いた。

 

「ハァハァハァ……申し上げます!僭称皇帝ネロ率いる小部隊が現れましたぁ!………現在、かなりの勢いを以ってこちらに進軍中とのことです。如何いたしますか?皇帝陛下」

 

「………………どうもせん。放っておけ」

 

「はっ」

 

 カエサルの言葉を聞いた妙なテンションの兵士はそのまま頭を下げて彼の前から消えていった。なにもしないという言葉に特に疑問を持つことなく下がっていくその姿は考えなしとも取れ、主君の言葉に間違いはないと確信している忠実者とも思える対応であった。

 その兵士が消えた後、元々カエサルと居た兵士は彼に詳しいことを尋ねた。一応、彼もカエサルの言葉を他の兵士に伝える役目を負っているため、解釈の違いなどで間違った指示を出さないための処置である。

 

「皇帝陛下。失礼ながら、一つお聞きしてよろしいですか?」

 

「うむ」

 

「何もしない、というのは……?」

 

「どちらにせよ、奴らの相手は同じサーヴァントにしか務まらん。であれば、奴と戦う役目が私に来ることはもはや必然よ。そのために、我々はここで待っているだけでいい。向こうも私を探しているのだ。こちらから動く必要はない。精々歓迎の準備をして待って居ようではないか」

 

 くつくつと、黄金に輝く剣に視線を向けつつカエサルは笑った。それに対して兵士は不安を感じていた。

 自分たちは真のローマであると信じているにも関わらず、自分たちには親愛にして絶対の支配者である真の皇帝陛下が居るというのに、

 

 ドカン!ドカン!ドカン!

 

 今もなお絶えることなく聞こえてくる轟音と仲間たちの叫び声を耳にするとほんとうに不安で仕方がなかった。

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

 ドカン!ドカン!と一撃一撃に尋常じゃない効果音を付属しつつ仁慈たちは突き進んでいた。

 自分たちよりも多い敵兵も何のその。誰もかれもが一騎当千の実力を持つサーヴァントと+αの前には平均的な物量など何の意味もない。今目の前で繰り広げられるのは大多数の人間から見れば悪夢のような光景である。物量で潰せない個人など、どう制すればいいのかわからないからだ。

 残念ながらここには大多数の人間はおらず、どいつもこいつも頭のねじを外しているような輩なので関係はなかったが。

 

「フハハ!フハハ!フハハ!人類最後のマスターに逃走はないのだ!」

 

「マスターの槍投げスイッチが入ってしまいましたか……!くっ、誰か一緒に止めていただける方は……」

 

「お前ら、セイバーだろ!?なぁ、剣持ってるしセイバーだよなァ!?首 お い て け 」

 

「私と安珍様(ますたぁ)の逢引を邪魔だてしようなんて不遜もいいところですわ。………邪魔なので消えてくれませんか?この世から」

 

「そうでした。ここにはブレーキの壊れた人しかいないんでした……!こうなったら……マスター、正気に戻ってください。じゃないと、これから三日間日常生活で言葉を交わしませんよ!」

 

「――――――――――ッ!!!???」

 

 暴走するカルデア勢を前に、唯一の清涼剤であるマシュは切り札を切る。それに反応した仁慈は高笑いと槍投げを即座に切り上げ、自分に向かってくる敵兵を風圧で飛ばしながら全力でマシュの元までやって来た。これではどちらがマスターでサーヴァントなのか分かったものではない。

 

「申し訳ございませんでした!」

 

「日頃からストレスを抱え込んでいるのもわかります。この軍勢を前に、無双ゲーのような爽快感を求めてしまう気持ちもわかります。けど、私は心配なんです。マスターが……先輩が強いのはわかってます。私よりもはるかに強いなんてことも知っています。けれど……」

 

「…………いや、俺が悪かった。ごめんなさい。心配してくれてありがとう」

 

「はい!」

 

 唐突に始まったラブコメ擬きに周囲は動揺を隠せない。ブーディカだけはまるで娘に彼氏ができた瞬間の親みたいな顔つきで涙を流しながら幸せになるんだよなどと口にしている。ネロも笑顔で頷いている。Xはその剣戟に鋭さが増した。清姫は炎の火力が上がった。敵はその悲鳴を大きくした。

 

 だが、それでも敵に囲まれているという表現も間違いではないこの状況においてラブコメっている二人は恰好の的である。

 特に、仁慈をサーヴァントたちの司令塔と薄々ながら感じていた者たちは一斉に襲い掛かかる。いきなり戦場のど真ん中でいちゃつくような奴らだ。どれだけ強い力を持っていても……否、強い力を持っているからこそそこまで周囲に気を配ることはないだろうと、自覚していない恐怖心から来る浅知恵な行動だった。

 

 彼らの行動は間違っていない。

 致命的な隙を見せたのであればそれを突き、なるべく迅速に仕留めるべきだ。

 ただそれには、本当に相手が見せた隙であった場合という前提があるのだが。

 

「マシュ」

 

「はいマスター」

 

 お互い短い言葉とアイコンタクトだけで意思疎通を済ませると、お互いの背後に迫っていた敵をなぎ倒し、位置を交代する。それと同時にお互いに自分から見て右側にいる敵を薙ぎ払い一掃した。

 

『うぁお、息ぴったり。いつの間にそんな仲になったのさ』

 

「確かに最近は周りが騒がしくなったからあまりかまってあげられなかったけどさ。マシュはこの中では一番長い仲だし、ねぇ?」

 

「先輩の奇行を一番近くで見てきたのは私ですから。考えをトレースするくらいどうってことありません」

 

『あのマシュが。いつの間にか仁慈君と熟年夫婦みたいになっちゃって……嬉しいけど、ちょっと寂しいね』

 

「親か」

 

 通信越しに割り込んできたロマニに仁慈はツッコミを入れつつ、集団の遥か後方にいる赤くふくよかな男の姿を発見した。

 彼を視界に入れた瞬間仁慈は確信する。あれが、この集団を纏めているサーヴァントだと。

 仁慈はこの大量に手に入った黒鍵を三本ほど取り出すとそのまま赤くふくよかな男に向けて投擲した。例のごとく強化に強化を重ねた身体から放たれた黒鍵はもはやサーヴァントからの攻撃と比べても劣ることのないものと化していた。

 通常の人間では捉えられないであろう攻撃を赤くふくよかな男はまるで初めからその攻撃を予見していたかのように自然な動作で剣を振るい、黒鍵を叩き落し、そして、ニヤリと笑って仁慈を見やった。

 

「………なるほど」

 

 仁慈はこの男に不意打ちは通じないと感じた。それと同時に、自分たちを迎え入れる準備を済ませているだろうとも。

 彼は今の動作が不意打ちを警戒していないとできない動きであると感じ取っていた。行動に迷いが感じられなかった。気配を察知してからの行動にしては動きが緩やか過ぎた。それこそが彼の用心深さと、ありとあらゆる状況に対して対策を取れる、頭の回る男だと証明していた。

 

「……どうやらあれが皇帝の一人らしいな。あの不意打ちを防ぐとは、敵ながら天晴だな。正直、余では不可能だったぞ」

 

「マスターの不意打ちを防ぐとは……斬りがいのあるセイバーが居て何よりです。DEBUなのは若干納得いきませんけど。実力の方はマスターの不意打ちを防いだことからお墨付きでしょう。くくくっ、今宵の無名勝利剣は血に飢えてますよ……」

 

 顔がそっくりな二人の感想を受けて、仁慈は清姫に宝具を使うよう指示、赤くふくよかな男までの道のりに列なる兵士たちを纏めて掃除する。

 

「ブーディカ、スパルタクス。ここは任せてよいか?」

 

「ん、行ってきな。ここは私たちが責任を持って足止めしておいて上げるよ。こういったことは私の専門でもあるしね」

 

「(。・`ω´・。)9」

 

 後方のことを任せこうして仁慈たちにしては珍しく敵と真正面から対峙した。

 

「来たか。待ちくたびれはしたが……先程の催しはよかったぞ。実に楽しめた。それに………我らが愛しきローマを継ぐ者もまた美しい。これは私が待つだけの甲斐があったというものよ。さぁ、名乗るがいい。現皇帝に異国の者よ」

 

「………よかろう。ネロ・クラウディウス、それが余の名だ。僭称皇帝、貴様を討つ者の名だ。しかと心に刻むがいい!」

 

「よいぞ。そうでなくては面白くない。――――――――」

 

 過去と現在のローマ皇帝が交わる中で、仁慈(@結局名乗ってない)は気づかれない程度に周囲へと気配を配らせていた。仁慈が気にしているのは自分の不意打ちを感知した手段。彼が何らかの準備をしたうえで自分たちを待ち受けていたのは既にわかっているのだが、その具体的な手段が分からなければ意味がない。

 ものによってはこれから行われる戦闘にも支障がでる場合があるからだ。

 

「ロマン、そっちで感知できるものはある?」

 

『………魔術関連のものがいくつか。どれもこれも、感知センサーみたいな役割で攻撃性はないけど』

 

 

「了解」

 

 ロマニの言葉を聞いた仁慈は視線を赤くふくよかな男――――カエサルに定める。向こうも向こうで話が盛り上がっているようで、自分に勝てば聖杯に関する情報を吐くと口にした。

 この言葉に仁慈のテンションはMaxに達した。ここでこのDEBUを殺さない程度に倒せば情報が手に入ると。

 ……師匠の気まぐれで修行をつけられ、意味不明な速度で順応していかなくてはいけなかった仁慈は情報の大切さがわかっている。ついでに聖杯以外のことも少しだけ教えてもらおうと考えながら彼らはカエサルと激突した。

 

 

 

「さぁ、私に剣を執らせたのだ。それ相応の愉しさを以って踊れ」

 

「余こそが、黄金である。黄金劇場を作り上げた余こそがな!妙にふくよかな男よ。カラーリングが被っていることもついでに加えて存分に語り合おうぞ!」

 

「血にも肉にも飢えている私です。最高速度の宇宙剣でボンレスハムにしてあげます!」

 

「なんだったら、丸焼きでもいいですよ」

 

「戦闘開始。マスター敵サーヴァントを撃退します!」

 

「作戦:ガンガン(敵が)逝こうぜ、で行くぞ!」

 

 

 

 こうして、ローマに来てから初めて(まともな)サーヴァント戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 




おかしい。DEBU戦まで行かなかった……。

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