GEの方はもう少し待ってください、お願いします。
あ、今回はキャラ崩壊注意です。
カルデアにめでたく人間として認められた俺は、カルデアの中に入ろうとする。しかし、一向に近未来的な扉が開く気配がなかった。なにこれいじめ?オメェの席ねぇから!とかそんな感じですか?もしそうなら、この吹雪の中帰るのも嫌なので扉ぶち破ってでも侵入を試みるけど。
それともあれだろうか。唯の霊長類には興味ありませんというやつか。宇宙人や未来人、超能力者じゃないと入れてもらえなかったりするんだろうか。
『………申し訳ございません。入館手続きには後180秒ほど必要です。その間、模擬戦闘をお楽しみください。―――――レギュレーション:シニア。契約サーヴァント、セイバー、ランサー、アーチャー。今回の戦闘は記録に残すようなことは一切致しません。どうぞ、ご自由に戦闘をお楽しみください。――――――召喚システム・フェイト起動。この180秒間、マスターとしての善き経験ができますよう』
その言葉を最後に、俺の視界に映る風景は一変した。先ほどまで死にそうな思いをして歩いてきた吹雪く雪山はどこかへと消え失せ、代わりに緑豊かな平原のような場所が目を通して俺の脳内に送られてくる。
あまりの変わりように数秒だけ自分の体が硬直するものの、冷静になったとたんにこの場所が現実でないことに気づく。理由は単純、俺の視界に入っている植物に生命の息吹を感じることができないからである。いろいろな武術を触り程度でも齧っていると、そういうことも分かってきたりするのである。つまり、ここはカルデアの科学と魔術が交差して物語が始まるような技術で作られた風景であるということが考えられた。
なにそれ超燃える。まるでSA〇みたいだな、と小学生並みの感想を抱きつつ、左右にくまなく視線を動かす。傍から見たらただの不審者だが、こんなスーパー技術を見せられて興奮しないやつは男じゃないと思う(偏見)
そんなくだらない思考に意義を唱えたようなタイミングで緑豊かな風景に一筋の光が現れる。その光はそのまま人の形となり、全貌が見えるようになった。
身なりはぼろぼろの布を1枚かぶっただけのもので、その隙間からは体全体のラインが見えている。ぼろぼろの布から覗く体は細く、日焼けしていないかのごとき白さであった。そして、その細く白い手には刃こぼれが激しい剣を握っている。
……そう、俺の目の前に現れたのはまごうことなき、スケルトン……いわゆる、骸骨だった。
「なんでやねん」
どうして急に骸骨がここに来たのかさっぱりわからない。
カタカタとそこら辺の骨を鳴らしながら俺に近づいてくる骸骨。命の危険などは全く感じることはない。むしろ、シュールですらある。しかもとどめに、サーヴァントという存在が一向に現れる気がしない。
先ほどの機械アナウンスでは『マスターとしての善き経験をできるよう』と言われたはずなのだが……経験積ませる気ないよね。俺のもとにカタカタ歩きながら近づく骸骨に注意を張りつつ、周囲を見渡してみる。が、視界に入る光景は変わることはなく、サーヴァントも現れる気配をみせない。
「――――――!」
結局、サーヴァントらしきものが現れる前に骸骨が俺の前まで来て、刃こぼれを超しまくっている剣を振り上げた。
「gain_str(32)、gain_con(32)」
カルデアに来る途中に読んでいた「サルでもわかる現代魔術」に乗っていた身体能力を強化する魔術をつかう。そして、剣を持っている骨を手でつかみそこから先に振り下ろせないようにする。直後、地面を強く踏みつけるように踏み込みつつ背中で体当たりするように骸骨に突進する。
震脚の力を上乗せしたこの攻撃―――靠撃で襲い掛かってきた骸骨は爆発四散、身にまとっていたぼろぼろの布も刃こぼれしている剣もそして本体も木っ端みじんに砕け散り、あとには何も残っていなかった。
「………」
これでいいのだろうか。
結局マスターとしての経験なんて積めなかったんだけど……というか、武術の才能がない俺の疑似八極拳で爆発四散するとかこの骸骨どんだけ弱いんだよ……。それとも魔術での強化が強すぎたのだろうか?
なんにせよ。出てきた骸骨は倒したので何かしらのアクションが起こると思って再び周囲を見渡してみる。
予想通り、先ほど骸骨が出現したときと同じような光が現れ、人型を作った。今度はただの骸骨ではなく、頭蓋骨がない暗い青色の骨が数体出てきた。レベル2ってところか。
「というか、いい加減サーヴァント出してくれよ……」
相変わらず俺の味方と思われるサーヴァントは現れず、新しく出現した青い骸骨に襲われる。召喚システム・フェイトとか言ってたけど本当に大丈夫なのだろうか。真っ直ぐ振るわれる攻撃をさばき、骨を粉砕していきながらこの施設大丈夫かなととても不安になった。
……いや、待て。逆に考えるんだ。実はマスターというのは先陣を切って戦う人のことだと。うん、きっとそうだな。
―――――――――こうして、樫原仁慈に間違った知識がインストールされてしまった。
――――――――――
「おぉ、いつの間にか扉が開いている……」
襲ってきた骸骨をすべてばらばらにしてやると180秒経過していたらしい。今まで開いていなかった扉がしっかりと開いていた。締め出される前に扉を潜り抜けると、その外見に遜色ないくらい近未来的であった。さっきも思ったけどやっぱりこういう建物のなかってわくわくするよね。
少しどうかと思うけど、きょろきょろ周りをくまなく見ながらわずかに湾曲している廊下を歩く。いやー、見れば見るほど創作物に出てくる建物みたいだな。魔術というまさにファンタジーといった技能を使っている俺が言うのもなんだけどさ。
しばらくそうしていたのだが、時間がたって冷静になった頃、俺はふと思った。
「……あれ、俺どこに行けばいいんだ?」
よくよく考えてみればこの中に入った後、どこに向かって何をすればいいのか何一つわからなかった。さっきから人とはすれ違うことはないし、これってまずくね?もしかしなくても迷子じゃね?案内役くらい居てもよくね?
ありもしないプライドを投げ捨てて、次にあった人に道順を聞こうと心に決めると早速、自分の正面から声が聞こえてきた。……来た、人キタ、メイン第一住人キタ!これで勝つる!
「フォーウ!フォ?フォフォ?キューン!」
来てなかった。話が通じる相手ではなかった。むしろ人ですらなかった。
正面からやってきたのは見たこともないモフモフの生き物。ちなみにとってもかわいい。抱きしめたい。あ、男の俺がやっても気持ち悪いだけですね。分かります。
小さい生き物を見たらとりあえずかがんで呼びかけてみる。これ鉄則。というわけでそれに習って俺もその場にしゃがみ込み、いつもより高めの声でこっちに来るよう呼び掛けてみる。まぁ、大体の動物は寄ってこないけどね。
「フォウ?フー、フォーウ!」
しかし、このモフモフの生物はそんな前例にとらわれることなく俺の胸に飛び込んできてくれた。なにこれ超かわいい。持って帰りたい。
時間を忘れ、外面から思考を逸らしながらも自分の手の中にあるモフモフの生物を一心不乱にモフモフする。フフフ、ここがええのんかー。
「……………………」
うわー、かわいいなー。あったかいなー。小さいなー。このカルデアに来るまでの疲労と全く出てこなかったサーヴァントのことなんて気にならなくレベルで癒されるわー。
「…………………あの、色々お見せできない表情なのでそろそろ気を引き締めてください。先輩」
「うぉっひょい!?」
いつの間にか後ろにいたらしい人物に声をかけられ、素っ頓狂な声をあげてしまう。というか全く気が付かなかった。どういうことだ。武術の才能がない俺でも気配察知だけは無駄に自信があったというのに……ハッ、もしかしてニンジャか!?アイエェェェェエエ!!??
って今この子なんて言った?お見せできない表情?ということは今までの醜態がこの子に見られていたということに………。
「」
「先輩?そんなに固まってどうしたんですか?」
思わず顔を両手で覆ってその場にしゃがみこんでしまった俺は悪くない。もはや道を聞くことすら忘れて俺はひたすら後悔した。……初対面の女の子にあのような醜態をさらすとは何たる失態……!
「………あの、どこか具合でも悪いんですか?」
「いや、そうじゃないんだ。肉体面では多少の疲労はあるものの万全の状態といってもいい。だから心配しなくてもいいよ。ありがとう」
精神的には致命的な致命傷を受けましたけどね(ブロント感)お前調子に乗ってモフモフした結果だよ?
完全に自業自得なので余計もやもやするわー。
ぐちゃぐちゃな内心を一時的に忘却することで何とか平静を保つと、俺のことを先輩と呼ぶ少女のことを気にする余裕が出てきた。髪型はショートだが、前髪は片目が隠れるような長さをしており眼鏡をかけている。服は制服のようなものの上にパーカーを羽織っているような格好だ。
今まで近くにいなかったタイプの子だと思いつつ、彼女に問いかける。
「えーっと……君はどちら様?俺、君の先輩ってわけじゃないよね?初対面だと思うし」
「いきなり難しい質問なので、返答に困ります。名乗るほどのものではない―――――とか?」
「難しい質問なの?もしかして、名前を教えたくないくらいの変人だと思われたとかでしょうか?」
もし、そうだったら泣けるんだけど。思わず敬語になっちゃうくらいはショックを受けたよ。
「いえ、違います!ただ……あまり自分の名前をいう機会がなかったものですから、どうすれば印象的な自己紹介ができるのかと考えていました」
「普通でいいよ、普通で」
初対面の人を先輩呼び、そして俺の醜態を見られたということから印象はもうばっちりだから。これほど鮮烈に脳内に焼き継いだ人物はいまだかつていないから。
「そうですか?では―――――」
「フォウ!キュー、キャウ!」
「……失念していました。あなたの紹介がまだでしたね。フォウさん」
眼鏡少女の自己紹介が始まるかと思いきや、俺の腕にいるモフモフの生き物が異議を唱えるように鳴き始めた。眼鏡少女はそのモフモフの生き物の言いたいことがわかるかのようにこの生物の紹介を始めた。
「こちらのリスっぽいのがフォウ。カルデアを自由に散歩する特権生物です。私はフォウさんにここまで誘導され、先行していたフォウさんを一心不乱にモフモフしていた先輩を発見したんです」
「すみません。忘れてください」
せっかく忘却しているんだから思い出させないでくれよ……。
眼鏡少女の言葉に思わずがっくりと肩を落とす。しかし、責めることはできない。先ほども言ったように俺の自業自得であるし何より彼女に悪気が全くなさそうだからである。
そうして微妙に気持ちを落としたと同時に、腕に抱いていたモフモフの生き物改めフォウは俺の腕から飛び出し、謎の鳴き声を上げたのちに湾曲した廊下をぽてぽて歩いて行ってしまった。
「……またどこかに行ってしまいました。あのように、特に法則性もなしに散歩していきます」
「……なんという珍生物」
「はい。正体不明のフォウさんですが、あまり私以外には近寄らないのです。おめでとうございます。先輩はどうやらフォウさんに気に入られたようです。二代目お世話係の誕生ですね」
「……あれ?勝手に就任させられた?」
いつの間にかフォウの世話係になっていた……。どういうことなの。しかも、結局眼鏡少女の自己紹介聞いてないし。
「あ、そうでしたね。私の名前は―――」
「ああ、そこにいたのかマシュ。だめだぞ、断りもなしで移動するのはよくないと……」
とことんタイミングが悪いな。名前もわかっちゃったよ……。
眼鏡少女―――マシュに話しかけてきたのは全身緑のロンゲ版タ〇シっぽい人だった。糸目で浮かべる表情は柔らかい。町で見かけたら10人中8人くらいはいい人そうという印象を抱くだろう。けれど、何か引っかかる。キャラを作っているというか……ゲロ以下のにおいがぷんぷんするというか……。俺の直感(笑)スキルがビンビン反応している気がするんだよ。
俺がそんな失礼極まりない考えをしているとは思ってもいないだろう緑タケ〇は俺の存在に気が付くとそのまま自己紹介をしてきた。この緑タケ〇はレフ・ライノールというらしい。ここの技師とは言っていたが具体的に何を作ったのかはわからなかった。俺のことも聞かれたが正直、ほとんど何も答えることはできなかった。だって俺も自分の意思で来たわけではないもの。むしろ、前情報ほぼなしでここまで来ましたからね。
簡単な自己紹介をお互いに終えた後、この後のことについて教えてもらった。なんでも、中央管制室というところでこれから所長からの挨拶があるらしい。俺と同じく今日からマスター候補生となる人達の浮ついた心をしつけするとか。
「大体わかりました。それでは失礼します」
「……先輩、中央管制室の場所わかるんですか?」
「……………」
「わかりやすいくらいのやってしまった顔ですね。よければ案内しましょうか?」
「お願いします」
「君に一人で動かれると後で私が怒られるんだが……まぁ、私も同行すればいいか」
そうして、てくてくと中央管制室まで歩いていく俺たち。その途中でいろいろな話をした。マシュが俺を先輩と呼ぶ理由。なぜか俺を気に入ったというレフ・ライノール。そこから派生して俺が所長に嫌われるタイプの人間だということ。……最後の一言で盛大に行く気がそがれながらもなんとかたどり着く。
「先輩の番号は………一桁台。一番前ですね」
「うわぁ……」
「仁慈君、いささか反応が露骨すぎるな。所長が睨んできている」
レフ・ライノールの言葉に俺も気づかれない程度に視線を向けると確かに所長と思わしき女性に睨まれていた。
マークされていることに気づいたのでとりあえず口をチャックして話を聞いていますよ的な雰囲気を醸し出す。
「時間通りとはいきませんでしたが、全員そろったようですね。特務機関カルデアにようこそ。所長のオルガm―――――」
何か頭のよさげな単語が敷き詰められたセリフを言っていたが正直、今朝まで魔術のまの字も知らなかった身としては何を言っているのかさっぱりわからなかった。
そのため、表情だけは真面目に所長の方を向き、頭の中でサルでもわかる現代魔術の中にあった魔術のことでも考えることにしたのだった。
――――――――
「大丈夫ですか。先輩?」
「うん」
あの後、まったく別のことを考えていたことが所長に露見してしまった俺は彼女の平手打ちを右頬に受ける――――ことはなく、ついつい癖で平手打ちしようとした手をつかんで防ぎ、クロスカウンターを決めてしまった。
そのため俺は初任務を外されることとなった。まぁ、もともと一般枠で来た人間だし、どちらにせよ参加できなかったと思うけど。
で、メンバーから外された俺は現在マシュにこれから使うことになる自室まで案内してもらっている途中です。ほんとお世話になります、マシュさん。
「それにしても見事なクロスカウンターでしたね。私、人が空を飛ぶ光景なんて初めて見ました」
「マシュもなかなか着目点があれだよね」
クロスカウンターを決めた本人が言うのもなんだけどもっとこうあるでしょう?
「何を言いますか。あの見事なまでの飛びっぷりは見なければ逆に失礼d――――きゃ!」
「どこからともなくモフモフが!?」
「気にしないでください。いつものことです」
話の途中でいきなりマシュの顔にダイレクトアタックをかましたフォウ。それに対するマシュの対応はものすごく冷静だった。なんというか、長年積み上げてきた歴史を感じさせる対応である。
「フォウさんは私の顔に奇襲をかけ、そのまま背中にまわりこみ、最終的に肩へ落ち着きたいらしいのです」
「へぇ、ものすごい懐かれっぷりだね。もしかして、名付け親はマシュだったりする?」
「よくわかりましたね。なんかビビッと頭に思い浮かんだので、直感でつけてみました。……それを見抜くとは、先輩もなかなかの直感もちと見ました」
「うん。結構当たるよ直感」
「やはり、そうですか……っと先輩、目的地に到着です。ここが先輩の自室……マイルームになります」
そう言われてきたのはこのカルデアに来た時にも通ったような扉の部屋。カルデアの中の扉はすべてデザインが統一されていてとても分かりにくいな。一人だったら絶対迷うわ。
そう、考えながらマシュにお礼をいう。彼女は俺とは違いこれからミッションがあるAチームらしく、すぐに今来た道を戻っていった。とても申し訳なくなった。
マシュの代わりに俺の面倒を見てくれるらしいフォウを肩に乗せて自室の自動ドアをくぐる。すると中には既に先客がいた。俺の自室のはずなのに。
その先客はオレンジ色の髪の毛を後ろでくくっている、白衣を着た男性だった。男でポニテ&オレンジ髪ってなかなかキャラ立ってんな。
「はーい、入ってまー―――――――って、うぇええええええ!!??誰だ君は!?」
「こっちのセリフです」
「ここは空き部屋だぞ、僕のさぼりの場だぞ!?誰のことわりがあって入ってくるんだい!?」
「多分所長です。……というか、今まであなたの言った言葉をすべてバットで打ち返しますよ」
「うぐぅ……ん?所長が案内したということは、君が最後のマスター候補生か。いやあ、初めまして仁慈君。予期せぬ出会いだったけど改めて自己紹介をしよう。―――――僕は医療部門トップ、ロマニ・アーキマン。なぜかみんなからはDr.ロマンと略されていてね。理由はわからないけど言いやすいし、君も遠慮なくロマンと呼んでくれていいよ」
実際、ロマンっていう響きはいいよね。かっこいいし、どこか甘くていい加減なかんじがするしと付け加えるロマン。なんという適当さ。
「………この人ゆるふわ系なんだ……」
「ん?髪型の話かい?」
「いえ、頭の中の話です」
「辛辣!?」
こんな感じの邂逅ではあったが、ロマンとは結構気が合った。どうやら彼も所長に追い出された口らしい。再び現れる専門用語の嵐に頭が爆発しそうになるものの、何とか要約すると、緊張感あふれる現場でロマンのゆるふわ雰囲気は気が抜けるから駄目だといわれたんだとか。医療部門のトップを邪魔者扱いしていいものなのだろうかと思いもしたが、これから彼らが行うレイシフトというものは機械でバイタルを図った方がいいらしいので彼は必要ないんだとか。機械に仕事を奪われた人間……。
「その言い方やめて!?そんなことより、ここで暇人同士交流を深めようじゃないか」
「まぁ、いいですけど」
「そうかい。ではさっそく――――」
『ロマニ、あと少しでレイシフト開始だ。万が一に備えてこちらに来てくれないか?Aチームの状態は万全だが、Bチーム以下、慣れてないものに若干の変調が見られる。これは不安から来るものだろうな。コフィンの中はコックピット同然だから』
「やあレフ。それは気の毒だ。ちょっと麻酔をかけに行こうか」
「ああ、急いでくれ。今医務室だろ?そこからなら2分で到着できる筈だ」
「………医務室かと思った?残念、元空き室現俺の部屋でしたっと……」
「それは言わないでほしい……ここからじゃあどうあっても五分はかかるぞ……」
「自業自得すぎてなにも言えない」
「知り合ってまだ間もないけど、君言葉の刃鋭すぎない?」
なんてくだらないやり取りをしつつも準備をして部屋を出ていこうとするロマン。しかし、すぐにそれは不可能なことだということがわかった。
フッと部屋の電源が消えたのである。
「なんだ?明かりが消えるなんて何か――――――」
『緊急事態発生。緊急事態発生。中央発電所、および中央管制室で火災が発生しました。中央区画の隔壁は九十秒後に閉鎖されます。職員は速やかに第二ゲートから退避してください。繰り返します。中央発電所、及び―――――』
「今の放送は!?いったい何が起こっている!?モニター、管制室を映してくれ!みんな無事なのか」
ロマンの言葉に反応して映し出されたモニターには先ほどまで俺がいて、マシュが向かった中央管制室の変わり果てた姿だった。そこらへんに火が回っており、傍から見てもやばい状況だとわかる。
「これは―――――!………仁慈、すぐに避難してくれ。僕は管制室に行く。もうじき隔壁が閉鎖するからね。その隙に君だけでも外に出るんだ!」
「いや、俺も行く」
「な、なにを言っているんだ!?確かに人手があった方がうれしいけど……」
「こうして言い争っている時間も惜しいだろ。それに、俺がロマン背負って管制室に行った方がよっぽど早いぞ。一分でつける」
「マジか。なら話は別だ!頼むよ!」
「お任せあれ。move_speed()」
自身の移動速度を上げる魔術を使ってロマニを抱え込む。そして、一瞬だけその体勢を低くし、人工的な床を思いっきり踏みしめて加速する。
一分よりも十秒ほど早く着いた管制室の中に入る。その中は映像で見た通り、勢いの強い炎が燃え広がっていた。
「生存者はいない。無事なのはカルデアスだけだ。ここが爆発の基点だろう。しかも、これは人為的に引き起こされたものだ」
『動力部の停止を確認。電源量が不足しています。予備電源への切り替えに異常 が あります。職員は 手動で 切り替えてください。隔壁閉鎖まで あと 四十秒。中央区画に残っている職員は速やかに――――』
「……ボクは地下の発電所に行く、カルデアの火を止めるわけにはいかない。君は急いできた道に戻るんだ。今ならまだ間に合う。いいな、寄り道はするんじゃないぞ!外に出て、外部からの助けを待つんだ!」
ロマンはそれだけ言って急いで管制室から飛び出していった。本来なら俺もそれに続いた方がいいんだけど、なんだろうな。何か引っかかる。俺の直感がここに残れと轟叫ぶ。
自らの直感に従いがれきをかき分けていると、不意に、アナウンスが聞こえてきた。
『システム、レイシフト最終段階に移行します。座標 西暦2004年1月30日 日本 冬木。ラプラスによる転移保護、成立。特異点への因子追加枠、確保。アンサモンプログラム、セット。マスターは最終調整に入ってください』
「電力はないんじゃなかったのかよ」
アナウンスに突っ込みを入れつつ瓦礫を撤去する。
すると、体のいたるところに傷を負い、今にも死にかけているマシュを見つけた。ケガだけ見ればもう助からないと思うくらいの重体だ。ロードエルメロイ二世……サルでもわかる現代魔術の著者よ、俺に魔術を分けてくれ!
「heal(16)」
「無駄です。先輩、この傷はとても……」
確かに。俺の付け焼刃の回復魔術では傷を治すには至らなかった。多少の止血程度にはなったものの、根本的な解決にはなっておらず、むしろマシュを苦しめる結果になったと後悔した。
「逃げて、ください……このままでは、先輩も……」
「heal(16)heal(16)heal(16)heal(16)heal(16)heal(16)heal(16)」
「ホ〇ミの重ね掛けみたいなことしないで下さいよ……楽にはなりましたけど……」
だが、俺は諦めない。とりあえず、痛みを感じない程度には治療したところでカルデアスに変化が起こる。光を失っていたカルデアスが赤く光りだしたのだ。
「これはやばいな。うん」
「冷静に言っている場合ですか」
『観測スタッフに警告。カルデアスの状態に変化が起こりました。シバによる近未来観測データを書き換えます。近未来100年までの地球において、人類の痕跡は 発見 できません』
シバとやらが詠うのは希望を摘み取る言葉。人類の未来を観測する機械が告げる絶望の啓示。
『人類の生存は 確認 できません
人類の未来は 保障 できません 』
「カルデアスが真っ赤になっちゃいました……。いえ、そんなことより……」
『中央隔壁封鎖します。館内洗浄開始まであと180秒です』
洗浄とはいったい。水でも流すのだろうか。
「もう少し緊張感を持ってください。隔壁しまっちゃったんですよ?もう外にはでれないんですよ?」
「せやな」
「軽すぎる」
「まぁ、こうなったら仕方ないよな。それにマシュと一緒だし、無問題」
「………」
俺、ここに友達はマシュとロマン、フォウくらいしかいないし。ロマンには悪いけど友人一人を置いておめおめ逃げるとかないしな。そもそも
『コフィン内マスターのバイタル。基準値に 達していません。レイシフト 定員に 達していません。該当マスターを捜索中……発見しました。適応番号48仁慈をマスターとして再設定します。アンサモンプログラム、スタート。霊子変換を開始します』
「あの…………先輩……。手を、握ってもらっても、いいですか?」
何やら光が漂い始めた中でマシュがそんなことを口にした。
「おや、随分かわいいお願い」
「うる、さいです……」
『レイシフト開始まであと3』
おそらく、この光がレイシフト開始の始まりなのだろう。
電気がないとか言っておきながらレイシフトを開始するとかどう考えてもバグっている予感しかしない。結構な確率で死ぬだろう。
だが、恐怖は感じない。なんだろうね。マシュがいる……一人じゃないということの安心感が俺を冷静にしてくれているんだろう。
『2』
『1』
『全行程、完了。ファーストオーダー実証を開始します』
アナウンスのその言葉を最後に俺の視界は一気にブラックアウトした。
―――――さぁ、物語の幕は今あげられた。これから先、樫原仁慈がどう行動していくのか……括目してくれたまえ。
(仁慈が)キャラ崩壊。
結構そのままっぽくなったので長くなってしまいました。ここからどんどん変えていきたいですよね。
後、プロローグなのにマシュのヒロイン力の高さよ……。どこかの闇落ち系後輩キャラとは大間違いd――――(ドロドロデス