これでひとまず幕間は終わり、次から敵側に永遠の狂気が訪れる第二章が始まります。
魔力放出便利すぎワロエナイ。今までの身体能力強化の魔術とはいったい何だったのか……。消費量はそれなりにかかるんだけど生み出す効果が半端じゃないよ。兄貴ともまともに打ち合えるようになるなんて信じられない……。こんなに力が出るのは初めて、もう何も怖くない……!
「それはダメな奴だぞ、マスター。それにしても、本当に魔力放出でカッ飛ぶ化け物になったのか……」
兄貴のおかげですありがとうございます。
「なんて余計なこと言ったんだ過去の俺……」
まぁ、魔力放出を覚えた代わりに本来の目的であった遠距離攻撃の話は完全にお流れになったんですけどね。やはり俺は接近戦でしか戦えない脳筋だったらしい。自分が脳筋なのはちょっとだけわかってはいたけどこれで確定してしまったな。
「何で誇らしげなんだよ……。今度師匠に会ったらなんて言われるかわからないぞ」
「多分喜ばれるんじゃないんですかね」
知的に見えるけどあの人も脳筋でしょ。ケルトだし。
しかし、魔力放出を手にしたはいいけど、本当に魔力の消費量がネックなんだよな。普段であればそこまで気にならないんだけど、レイシフト先だと大部分の魔力は俺から持っていかれる。そうなると、中々使えないんだよね。
「というわけで、いい感じに魔術回路を増やすすべを知りませんかね兄貴」
「んなもんがあれば世の魔術師は皆とんでもないレベルになってるだろうよ。ないこともないが、どれもろくなもんじゃねえぞ」
聞いてみたものの返ってきた答えは予想済みのものだった。だろうな。魔術回路は才能みたいに後付でどうにかなるようなものじゃないらしいし。
「つーか、マスターの魔力量は十分規格外の領域だぞ。ぶっちゃけ、神秘が極限まで薄まった現代でどうして生まれてきたのかわからないレベルのもんだ」
時代が時代なら確実に英雄になっただろうよ、と兄貴は言う。
本物の英雄からのお墨付きとかやばいな。ちょっとだけ調子に乗りそうになった。自分を律しつつもそう簡単にはいかないかと思いつつ兄貴にお礼を言ってから訓練室を後にした。
「………今さらだが、俺相手に互角に打ち合うマスターとかサーヴァント要らないんじゃねえか……」
――――――――――――
魔力のことで困った俺はとりあえず、カルデアのドラえ〇んと名高いダ・ヴィンチちゃんに相談を持ち掛けることにした。そんなわけで今回来たのはダ・ヴィンチちゃんが不正に占拠して改造したと噂が立っている魔術工房である。
「いらっしゃーい。ダ・ヴィンチちゃんの素敵な工房にようこそ。今回はどんな用事で来たんだい?まぁ、最近人が全然来なくて暇だったから用がなくても大歓迎だけどね」
「ぼっちなの?」
「ふっ、天才は凡人の中に馴染めないものだよ」
「典型的な言い訳乙」
「ち、違うから。純然たる事実だから……(震え声)」
声が震えているんですがそれは……。これ以上この話を続けるのは相談に乗ってもらえなくなってしまう可能性が出てくるのでこの辺で切り上げることにする。
ゲフンと咳ばらいを一つして、空気を入れ替えるとここ最近の悩みである魔力のことに関する相談をした。
「ん?魔力の量を増やしたい?もうすでに十分なくらいの保有量なのにかい?」
「ほら、最近また考え直したんだよ。足手まといとなっているなら、そうならないくらいの戦闘力を身につければいいじゃないかと」
「流石だ仁慈君。常人ではたどり着けないところに何の迷いもなくたどり着くとは……やはり
ダ・ヴィンチちゃんが他人に対して天才というのは珍しいなと思いつつもいい方法はないかと回答をそれとなく促してみる。すると彼女はうーんと唸ってしまった。やはりダ・ヴィンチちゃんでも難しいのか。
「別に天才である私にかかればそのくらいは簡単なんだけど……ぶっちゃけどれもまともな方法じゃないのよね。君だって一から解剖された後に組み立てられたくはないだろう?」
「プラモデルじゃないんだから……」
ばらしてから組み立てなおすとか怖いことサラッと言わないでくれませんかねぇ。それ以外の方法でお願いしますと頼むと彼女は再びうーんと唸り始めたのちにハッと顔を上げて口を開いた。
「聖杯でも取り込めばいいんじゃないかな」
「ダメだろ」
そもそも聖杯って個人が取り込んでいいものじゃないでしょう?英霊を召喚できることとあの莫大な量の魔力から取り込んだ個人がどうなるかなんて想像に難くないと思うんだけれど。サーヴァントなら冬木の黒王とかオルレアンの邪ンヌとかの前例があるけど人間は流石に……。
「君の懸念も分かるけど。正直半分サーヴァントみたいな君なら案外いけるんじゃないかなと私は考えているよ。私から見ても君の存在は神秘にだいぶ近い感じだしね」
「何で?」
「さぁ?そこまでは流石にわからないけど。君の無駄に豊富な師匠達の中に君を神秘に近づけるような存在がいたんじゃないかな」
「………」
心当たりあるなぁ。不老不死でよくわからない世界に居座って、ある時期からちょくちょく人の睡眠時間を奪い取って真っ暗に近い世界へと引きずり込んでくる人とか居るなぁ。………もしかしなくてもそれが原因か。ちくしょうやってくれたなあのタイツ師匠……。
「んー……。とりあえず、試してみる?聖杯との融合」
「俺らの一存で決めていいものなのかな。それ」
「別に平気じゃないかな。私の第六感が囁いているよ。聖杯は特異点の数だけでなくこれからもっとあふれかえるだろうと……ッ!」
万能の願望機がそんなぽんぽんと出るわけないじゃないですかーやだー。
「あっ、信じてないね?私の言うことはほとんど当たるんだよ。まぁ、これは後々判明することだからいいとして……どうする?聖杯との融合、ちょっとばかりいっとく?」
「ノリが軽すぎる……。というか、失敗したら聖杯から魔力が逆流して爆発四散するんでしょう?」
「色々混ざりすぎてよくわからないことになっているけど、そこら辺は問題ない。何故なら君の目の前にいるのは万能の天才であるレオナルド・ダ・ヴィンチだよ?失敗したとしても、君を元の状態に戻すことなんて造作もないことさ」
ここで彼女はいったん言葉を切って俺の表情を伺い、言葉をつづけた。今の間は何だったんだ。
「それにね。融合といっても本当に君の中に聖杯をぶっこむわけじゃあないんだ。正確にはパスを君の中に入れるんだよ」
「聖杯との繋がりを直接埋め込むってこと?」
「そう。一応これでも自分の許容量以上の魔力を一気に吸収してしまって容量オーバーでドーンなんてこともあるけれど、君の容量はおかしいくらいに大きいし、レイシフト先では常に消費して溢れ出ることなんてないだろうからそこは問題ない。レイシフトしていない時はどうなるのって言われると………そこは個人のさじ加減で」
「んな適当な……」
俺の身体が爆発四散するか否かが一応かかっているからあまり適当に扱われすぎても困るんだが……。
「気にしない気にしない。君も私と同じなら細かいことは気にしないことだよ」
「これは細かくねえよ」
ナッパも天さんもいないのに自爆なんてできるわけないだろいい加減にしろ。
「はいはい。………じゃあ聖杯を仁慈君の身体にシュート!」
「投げた!?」
話し始めに比べて雑過ぎませんかね。ダ・ヴィンチちゃん。
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「聖杯って本当に何でもできるんだな」
「ふふん。もっと褒めてくれてもいいんだよ?この万能の天才をっ!」
「ありがとう!ダ・ヴィンチちゃん!お礼にこの溢れ出る魔力の捌け口第一号という称号を与えよう」
「やめて(真顔)」
なら投げんな。
聖杯(正確にはそのパス)を肉体にシュゥゥゥゥー!超☆エキサイティン!されてから十分後、一応無事に融合というか聖杯のバックアップを受けられるようになった俺達の会話内容がこれである。
いきなりだったから心の準備とかその他の準備とかできてなかったし、割と本気で危うかった。
「あともう少しで逆流してたぞマジで」
「『あなた方はラインアークの主権領域を侵犯しています。速やかに退去してください。さもなければ、実力で排除します』」
「それには逆流王子いないじゃん」
エミヤ師匠ならいますけどね。速攻で水底逝きだけど。
「何はともあれ、どうだい?魔力には不自由しなさそうだろう?」
「確かに魔力切れの可能性は一気になくなったけど、これ願望機としての機能はどうなってんの?」
「ないね。この繋がりは願いを叶えられるほど強固なものじゃないから。行ってしまえばただの魔力タンクだよ」
聖遺物の一つを魔力タンクとして扱うなんて贅沢だねーと言いながら脇腹をつついてくるダ・ヴィンチちゃんを払いのけつつ、簡単に身体能力強化の魔術を使ってみる。すべてのステータスを上げる魔力をそれぞれ二重で使ってもちっとも魔力が減った気がしないことからかなりの量の魔力が送られてきていることがわかった。
「おぉ……」
「これなら魔力放出と身体能力強化、サーヴァントたちの宝具開帳を重ねて行ってもぶっ倒れるということはないはずだ。一応、魔力回復ポーションも作っておくから魔力面は心配しなくてもいいよ」
「ありがとう。これで大分楽になった」
いざとなったら即ブッパができるようになったということが精神的にすごい余裕を作ってくれている。
しかしここまで至れり尽くせりでいいのだろうか。
「いいに決まっているだろう?君たちは人類最後の希望なんだから、結果的に勝てば過程や方法など、どうでもよかろうなんだよ」
「レフ・ライノール涙目だわ。これは」
近い未来対峙するであろうレフ・ライノールに俺は静かに合掌した。
まぁ、合掌が必要な状態にするのは俺達だろうけど。
レフ「ん?何やら寒気のようなものが……」
仁慈(絶対に敵をぶち殺すマン)にやられるかアルテラ(絶対に文明を破壊するマン)にやられるか……レフ・ライノールの明日はどっちだ!?