この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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今回、携帯で書き上げたので少々見にくいかもしれません。ご了承ください。


限界

 

 

 

「………うまい具合に逃げられましたか。しかし、ファヴニールの天敵がいるとは予想外でした。これからはコレを使うのも控えるとしましょう。………さて、バーサーカー、セイバー。もうじきバーサーク・アサシンが合流します。合流したら奴らを確実に殺しなさい」

 

私の指示に従い、バーサーカーとセイバーが別のワイバーンに乗って彼らが逃げた方向に向かっていく。それを見送りながらわたしは先ほどのことを考えていた。

 

–––まさか、人の身でファヴニールに傷をつけるとは。

 

ファヴニールの天敵、ジークフリートの宝具を回避されたと同時に宝具にも勝るとも劣らない威力の攻撃を仕掛けてきたあの男。的確にファヴニールの目を狙い爆風で私まで屠ろうとしてましたねあれは。とっさにファヴニールの気配を消してみましたが……おそらくは無駄でしょう。ジークフリートが居ますしあのマスターも自分の実力を理解しているがために仕留めたなんて思ってないでしょうしね。

 

「……ふふっ、何度も何度も驚かされましたが……あそこまで行くとむしろ清々しいですね」

 

あれで向こうはフランスを救おうとしているのだから更に歪なことになっている。やることなすこと完全に悪者のそれだというのにね。

けれど–––––

 

「そっちの方が好ましいわ」

 

清濁併せ持っている方が実に人間らしい。むしろ、どちらも持っていないのは人とは呼べない。人の形をしたナニカでしょう。だからこそ、それに気付けないあの聖女様がわたしを不快にさせるのですけれど。私も人のことは言えませんが。

何はともあれ、この戦いのキーパーソンは間違いなくあのマスターです。何らかの対策が必要でしょうね。

–––しかし問題なのが、一体どうすればいいのかさっぱりわからないことですかね。ほんと、どうすればいいんでしょう。かえったらジルにでも聞いてみましょうか。

 

 

––––––––

 

 

 

「………まさか、マスターもサーヴァントだったとは。世の中、不思議なこともあるものだ」

 

「ちげえよ。うちのマスターは頭のてっぺんからつま先まで純粋な人間だぜ。多分な」

 

 最近マジで怪しくなってきやがったけどな。

 

 たった今背負っている竜殺しのサーヴァント––––ジークフリートの質問に答えながらも俺は走っていた。

その疑問は最もだろう。誰だって、自分の強敵を爆散させられたらサーヴァントかそれを超える何かとしか考えられないだろうさ。

 

「あれで人間か………現代人も捨てたものではないらしい」

 

「あぁ、あれは根っからの英雄(キチガイ)だ。現代人には珍しいことにな」

 

 そもそも、英雄には幾つかの種類が存在する。世界の人々を憂い、自ら立ち上がり強大なものに立ち向かう英雄(勇者)、身近な人のために立ち上がる英雄(ヒーロー)、人に仇なす悪を倒す英雄(正義の味方)だ。

 大体英雄と呼ばれる存在は上記に上げたものの中のどれかに当てはまることが多い。問題なのはうちのマスターである仁慈もがっつりこの条件に一致しているということだな。むしろこれらの条件をすべて鍋にぶち込み、長時間煮詰めたものが仁慈と言っても過言ではないかもしれねえな。煮込んだ結果が英雄(キチガイ)なわけだが。

 

「それにしても驚いたわ!あんなに強そうな竜を倒してしまうなんてね」

 

「これほど敵に回したくないと思った人物はいまだかつていなかったね」

 

「なんて失礼なサーヴァント達なんだ……。こんなんじゃ俺、戦いたくなくなっちまうよ……。まあそれは冗談として、別にファヴニールを倒せたわけじゃない。あれは槍に込めた魔力が爆発してそう見えただけで、おそらく本体はそこまでダメージを受けたわけじゃないと思うよ」

 

 なに?

 しかし、あのとき確実に気配が消える感じがしたぞ。唯でさえ、バカでかい存在感を誇っていたんだし、まず間違いないんだけどな。

 

「それは多分黒ジャンヌの所為だと思う。竜の魔女を名乗るくらいだから竜の扱いはお手の物なんだろうし、それを抜きにしても、聖杯を持っているんだから気配の偽装くらいできてもなんら不思議じゃない」

 

 まぁ、あれだけ強大な力を持っている竜を従えていることもあるし、そう考えるのが妥当なところか。

 

『ーーー!じ、仁慈君。悪いお知らせだ!』

 

「たまにはいい知らせ持ってきて下さいよ」

 

『私達だってそうしたいわよ。でもね、すでに人類の未来が焼却されているこの状況で、早々いい情報なんて入るわけないでしょ』

 

「所長、居たんですね」

 

『くっ、相変わらずのセメント対応ね!料理を盾にとられてなければ……!』

 

–––––––––––カルデアのところの嬢ちゃんはいつもいつも元気だな本当に。

 

流れるように始まる嬢ちゃんいじりに同情せざるをえない。何て言うんだろうな、俺も他人事じゃない気がするんだよ。あれを見ているとな。

 

『って、それは今いいよ!君たちに向かってサーヴァントが接近している。数は4。接近速度からしてワイバーンに乗っている可能性がある!このままのペースだと考えると追いつかれる!』

 

ちっ、ワイバーン何て贅沢な乗り物使いやがって。俺も自分が使ってた戦車が欲しくなるじゃねえか。

 

頭の片隅にかつて愛用していた戦車を思い浮かべる。そうしていると、俺が背負っているジークフリートが申し訳なさそうに口を開いた。

 

「すまない。特に役にも立たず、無駄に鎧が重くてすまない。何だったら置いて行ってくれても構わないが」

 

「卑屈すぎます……。ジークフリートさんはあのファヴニールを倒すことのできる貴重な戦力です。決して役立たずなどではありません」

 

そうフォローを入れるのはシールダーというエクストラクラスのサーヴァントであるマシュ。いつぞやマスターが言ってたな。彼女は貴重な癒し枠だと……今ではそれに納得できるぜ。

 

他の女性陣なんてヒロインX(セイバー顔絶対殺すウーマン)ダ・ヴィンチ(性別を超越した変態)ぐらいだからな。

ジークフリートもその言葉を聞いたら幾らか気持ちが楽になったらしく、笑顔で全快した時は全力で闘うと言った。これで一件落着みたいな雰囲気が出ているがお前さんたち何か忘れちゃいねえか?

 

『サーヴァント反応もう間近だ!完全に追いつかれたぞ!』

 

『あっ』

 

––まぁ、そうなるよな。

 

 

 

 

–––––––––––––––––

 

 

 

 マシュの天使ぶりにうつつを抜かしていたら思いっきり敵に追いつかれたでござるの巻。こんなことだと、次会った時に槍師匠からぶっ殺されそうだ。

さりげなく未来に立った気がする死亡フラグから必死に目をそらしつつ、俺たちを追ってきたサーヴァントたちに目を向ける。すると、4騎のうち二体は新顔だった。一体は白髪でコートを着込んだイケメン、もう1人は黒い鎧に包まれた男と思わしき人物である。

どうやら白髪のイケメンの方はマリーとアマデウスに因縁がある人物のようで込み入った話をしていた。今回不意打ちはしないでおこう。マリーも話に応じているようだし。問題は黒い鎧の方である。彼?はずっとXの方に顔を固定していた。

 

『…………Arrrrrr』

 

「…………」

 

『Arrrrrrrrrrthurrrrrrrrrr!!』

 

「えぇい!貴方を相手するのは私ではありません!貴方は第四次に参加している私の尻でも追っかけてなさい!」

 

 やっぱり知り合いだったようで、黒い鎧の男?と我がパーティ最強のシリアスブレイカーであるXはお互いの得物を交えた。ビームサーベルっぽいものが混ざっている聖剣と明らかに現代社会にありそうな電柱擬きがぶつかり合って火花を散らす。正直、ものすごいシュールな光景である。

 

「GUAAAAAA!!」

 

「ま た お 前 ら か !!」

 

 この世界に来てからもはや見飽きるほど見ているワイバーンがこちらに向かってきている。更に最悪なことに、リビングデッドのおまけつきである。更に更に、フランスの兵隊まで現れ始めたのである。このトリプルパンチの所為でかなりの人数のサーヴァントがフォローに回れないという事態が起きた。その結果、

 

「……また、会ったね」

 

「こいつの相手はあまりしたくないのだけど」

 

「俺に2人のサーヴァントがつくとか明らかにおかしいでしょ」

 

いや、敵の主力を潰すという点ではとても正しい選択なんだけどさ。周囲を見渡してみれば、近くにいるのは傷ついたサーヴァントであるジークフリートさんのみ。他はワイバーンやサーヴァント、リビングデッドの相手で手が離せないようである。

 

「……微力ながら、俺も参戦しよう。もしもの時、盾くらいにはなる」

 

「お願いします。一応、強化はするので」

 

なにか呪いがかかってるのか、回復系は全く受け付けないジークフリートさんだが、強化系は割と大丈夫だと思う。

試しに、自分の魔力を魔術に変えて行使してみると、見事に成功した。

 

「……これならまだまともに戦えそうだ」

 

「それは良かったです。じゃあ、この2人を倒すような気概で行きましょう」

 

「本当に生意気な子………でも、冗談じゃないのがたちが悪いわ」

 

「願わくば、私が彼女に会う前に殺してほしいね。頼むよ、英雄君。手は抜けないけど」

 

「難儀だなぁ」

 

 

––––––––––––––

 

 

 

 あの後、結局決着がつくことはなかった。どの戦力も拮抗していたためである。状況が固まったその時、この世界に生きていたジル・ド・レェが援軍として参加してくれた。そのおかげで敵は再び撤退していくが、純粋なバーサーカーとして呼ばれた黒い鎧のサーヴァントは未だに残ってXと戦いを繰り広げていた。

 

「ちっ、いい加減帰ったらどうですか!私はアーサー王ではないと何度も言っているでしょうが!私は、神に反逆するものです!主にセイバー顔ばかり増やす神を!」

 

『Arrrrrrrrrrthurrrrrrrrrr!』

 

「聞いちゃいねぇ!」

 

 激しい攻撃を激しいキャラ崩壊とともに防ぐ。しかし、バーサーカーでありながらその腕は卓越したものであるらしく、徐々にXの方が押されていた。そんな彼らの方を見てマシュが若干震えながら言葉を漏らした。

 

「マスター、あの人まっすぐすぎてなんか怖いです」

 

「なら倒そう」

 

「えっ」

 

大天使マシュを怯えさせる黒い鎧のサーヴァント死すべし慈悲はない。

そう決めた瞬間、俺はXに向けて話しかける。

 

「今から加勢するけどいい?」

 

「お声掛けありがとうございます!しかし、今の私はアーサーではありませんから別に一対一を邪魔されたからといって怒ったりはしませんよ。むしろプリーズ!」

 

 本人から許可をいただいたので、フランス兵を相手しているジャンヌさん以外のサーヴァントを招集する。そして、その後、一斉に彼らに指示を出した。内容はあの黒い鎧のサーヴァントを倒すこと。

袋叩き?卑怯?知りませんな。戦いは数だよ兄貴。

 

「Arrrrrrrrrr!?」

 

 Xに集中しきっていたバーサーカーは両サイドから来た不意打ちに対応できなかったようだ。驚いたのような声というか叫びをあげた。

 

「星光の剣よ–––––赤とか黒とか白とか(以下略)えっくすカリバーァ!!」

 

持ち前の適当さから放たれた宝具は混乱の極みにいたバーサーカーにクリィカルヒットしたようでその体を金色の粒子に変えていった。

 

「Arrr………アー、サー。私は……あなたに……」

 

「ですから、それは私の役目ではありませんランスロット卿。しかし、曲がりなりにも同じ人物として言わせていただきましょう。……話があるなら狂化なんて付けずに素で来なさい」

 

 Xの言葉が聞こえたのか聞こえていなかったのか、それは本人のみぞ知ることだが、何はともあれランスロットと言われたバーサーカーはそのまま消えていった。

 

『お疲れ様。敵の反応は完全に消失したよ。当面の間は安全だと思うよ』

 

「次はいい情報をください」

 

『まだ言うかい』

 

 ロマンとそんなやり取りをしながらも、俺は思わずその場に膝をついた。

あ、これヤベェわ。

 

「せ、先輩!?」

 

 どうやら思いの外、魔力の消費が激しかったようで段々と意識が遠ざかっていった。

 

 

 

 

 

 

 




仁慈の露骨な人間アピール

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