この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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お久しぶりです。思いっきり仁慈君のキャラを忘れてしまったクソトマトです。
取り敢えず忙しい時期を乗り越えたのでちょくちょく更新していくと思います。よければ、またよろしくお願いします。


アーラシュ・カマンガー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うむ、実に有意義な余興だった」

『魔神柱になって、ついでにその枠もぶち破ったにも関わらず何事もなかったかのように王座に座りなおした……!』

「異邦の魔術師よ、一々茶々を入れるのではありません!ファラオ・オジマンディアスは偉大な王なのですからこの程度、余裕なのですきっと!」

 

 様々な英霊たちの一斉攻撃を受けて、その反応を消した魔神柱擬きアモン・ラー。その核となった英霊であるファラオ・オジマンディアス。当然、彼は無事では済まないと誰しもが思ったのだが、そんなことはなかった。ごくごく自然に五体満足を維持し、優雅に玉座に座りなおしている。これには小心者のロマニもツッコミを入れざるを得なかったようだ。

 いや、彼だけではない。声に出さないだけで、カルデア組の心情は一致していた。まさかあれだけの攻撃を受けても無傷で居るなんてと。逆にファラオ・オジマンディアスの実力を知っているアーラシュだけはただただ相変わらずだと笑うだけであった。

 

「―――さて、本来ならここで前座を乗り越えた貴様たちへ余に挑む権利を与えてもう一戦交える処だが……それは良い。此度は既にそこに居るマスターが余の試練を越えている。故に異邦の魔術師、人類最後のマスターとなった者よ。そなたの提案を受け入れよう。余と共に戦うことを赦す」

「ありがとうございます」

 

 玉座に肘をつき、顔を乗せながら言うオジマンディアスに仁慈は静かに頭を下げた。そんな彼に対して王たる彼は先程自分の血の入れ物として扱った聖杯を一瞬だけ眺めながら、仁慈達の方へと放った。

 唐突に放られた聖杯に驚きながらもマシュが回収し、自身が持つ盾の中に収める。咄嗟の行動で回収してしまったが、マシュの瞳はオジマンディアスに向けられた。その真意は当然、回収してしまってもいいのかという疑問だ。

 長いエジプトの歴史に置いて最も優れている王に名を連ねるオジマンディアスには彼女が何を考えているのかすぐに理解できる。故に彼は鼻を鳴らしながら口を開いた。

 

「余にとって聖杯の有無など些細なことよ。あれば使ってやらんこともない、その程度の物だ。先程の魔神柱化とやらも気分の良いものではなかったこともある。―――だが、この特異点は聖杯を回収すれば人理が修復されるというわけではないがな」

「もちろんそれは理解しているとも。だからこそ、貴方を味方につけるために頑張ったんじゃないか」

「余と共に戦うのだ。あの程度は当然の事である。――――しかし、戦力としては神獣兵団を貸し出すが余が自ら戦場に赴くことはない」

「それは一体どうしてなのですか?」

「盾の乙女よ。王とは常に広い視野で万物を視るものだ。……恐らく他にやるべきことがある。そこの奇抜な装飾を纏った王には理解できるのではないか?」

 

 オジマンディアスがそう問いかける先には同じ王であり、直感という未来予知にも近いスキルを持ったヒロインXとサンタ・オルタの姿があった。彼女達はオジマンディアスの言葉に首肯した。相手取るのは既にアルトリアではなくなった獅子王。魔神柱化ですら自在に行う規格外のサーヴァントであるオジマンディアスが同盟を組むほどの相手なのだ。保険はいくらかけておいてもいいだろう。その場に居る全員はそれで納得をした。只アーラシュだけが、共闘できないことを少しだけ残念がっていたが。

 

「……であれば疾く山の民の元へと向かうがよいだろう。聖都攻略まで刻がないことも理解している」

「……何から何までありがとうございます。ファラオ・オジマンディアス」

「この程度造作もないことよ。――――さて、異邦の魔術師。人類最後のマスターよ」

「……なんです?」

 

 マシュのお礼を軽く受け取ると、彼はその視線を仁慈に向けた。仁慈もその声に合わせて彼の方に改めて向き直る。

 オジマンディアスからは自然と王威があふれ出し、並大抵の人間であればそれだけで視線を逸らしたり、かしずきたくなるようだった。しかしそれでも仁慈は視線を逸らすことはしない。自分は彼に共に戦うことを認めてもらったのだから。ここで目を逸らすということは先程勝ち取った信頼を丸々ドブに捨てるかのようなものだと彼は思ったのである。

 

「その双肩に、余の期待が在ること。努々忘れるな」

「伊達に日頃から死にかけてませんよ。……問題なんて何もありませんとも」

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

 オジマンディアスとの交渉を終えて、村に帰って来た俺達は百貌さんに神獣兵団を借りることができた旨を伝えた。すると向こうからも様々な人たちからの協力を得ることができたらしい。

 山の民や聖都周辺で暮していた人たち。果ては俺達のことを最初は襲ってきた反死人みたいな人たちまで協力すると言い出したのだ。なんでも彼らはマシュから人間扱いされたことがとても嬉しかったらしい。殺さずに食料を分けたことだろう。純粋であるが故にそう言ったことができるマシュは本当に素直にすごいと思う。あの時マシュがいなかったら彼らの協力は得ることができなかっただろうなぁ。

 

「それでは、仁慈殿。最後の進軍前の最期の確認と行きましょう」

「そうですね。他の皆はどうする?作戦の方は俺が聞いておくから好きにしてもいいよ」

「ふむ。では拙者は向こうの方でうまい飯でも振舞ってくるとしよう」

 

 俺がそう言った瞬間に、藤太は村の方に向かってそう言った。彼の宝具と腕なら士気上げにはちょうどいい。ついでにルシュド君を始めとするやんちゃな子どもたちの相手をしてもらった方がいいだろう。

 

「良いと思うよ」

「かたじけない。藤太殿、どうかお願いいたします」

「任された」

「私ももちろん行くわよ。突然上半身裸の男が現れて、驚かれたりしたら大変だもの!」

「衣服で言えばどっこいどっこいだと思うのだがなぁ……」

 

 藤太は頭を掻き、三蔵の言葉を聞き流しながら広場の方へと歩いて行った。そして、その二人の背後に視線を送り続ける者もいる。

 

「……マシュとX、あとサンタ・オルタも行って来れば?」

 

 名前を呼ばれたマシュはびくりと身体を震わせた。どうやらばれていないと思ったらしい。しかし残念。この特異点に来てから妙に冴えわたる俺の観察眼(ストーカーじゃないよ)からすればその程度のこと、見破るのは容易い。

 ちなみに二人の王は言葉が出た後すぐに二人の後を追っていた。……食欲、ということもあるのだろうが、今回はストレス解消も兼ねているんだろうな。普通に考えれば自分の仲間があんなことしてるんだから、色々溜まっていて同然だ。

 

「マシュもいいよ。皆と話したいことあるでしょ」

「フォーウ」

 

 三度いつの間にか近くに居たフォウがマシュの後押しをするように鳴いた。いや、後押しというより若干俺から遠ざけようとしている気がする。なんか必至だし。

 

「え?フォウさん……?」

「ほらマシュ。フォウもそう言ってるんだからさ。遠慮しなくてもいいんだよ」

「え、えっ……?」

 

 頭に疑問符を浮かべながらもフォウとダ・ヴィンチちゃんに押されて彼女も村の広場に向かう。

 戦力は整った。向こうには西の村を焼き払った遠距離攻撃がある以上、まとまった戦力をいつまでも動かさないままにするのはリスクが高い。ともなればもう進軍してもいいぐらいというところまで来ている。それはつまりここの人たちと話すのも今日が最後だということだ。彼女には積もる話もあるだろうしなるべく彼らと話す時間に割り当てた方がいいだろう。

 

「うむ。マシュ殿にはそれがよいでしょう。皆も彼女との話に胸を躍らすに違いありません」

「……今ならこの不届き物を亡き者にできるのでは……?」

「ランスロット卿。いい加減にしてください。私はこれ以上、ともに戦った者達の痴態を視たくはないのです」

「ベディヴィエールも中々キてるなぁ……」

 

 さらりと放たれたベディヴィエールの毒。思わず苦笑するしかなかった。やだ……ランスロットんの株低すぎ……。

 

「―――改めて。我々はこれから荒野に降り立ち各地に散らばっている者達と合流。聖都に向けて進軍いたします」

「その際の道案内は私が致します。荒野における凹凸と、死角となっている場所は把握している為見つかることはないでしょう。……唯、聖都付近に死角となる場所はありません」

「ランスロット卿の言う通り、聖都付近は見渡しが善く隠れる場所は存在していません。故に我々は最後の休憩を取ったのちに闇夜に紛れて聖都へと向かいます」

「到着の時間は分かりますか?ハサン殿」

「恐らく夜明け頃になりますな。近づいてしまえばもう総力戦。聖都側は守りを固め、我々はそれを突破、聖都を攻略し獅子王を打倒する……という流れですな」

 

 作戦を改めて聞いて、これは厳しい戦いになると判断を下す。こちらのサーヴァントはその半数以上がハサン。彼らは暗殺者であり、正面から戦う戦士ではない。だが、この作戦では正面から戦力と戦力のぶつかり合いとなる。こちらの戦力が本来のスペックを発揮できない状態でこれはつらい。

 付け加えるならば、向こうにはアグラヴェインがいる。彼は一度撤退した結果、こちらの戦力の想定を修正していることだろう。ランスロットが知っている時よりも警備を強化しているだろうし、ランスロットとの因縁上、彼に隠して何かしらの最終兵器を持っていたとしても不思議ではなかった。

 

「……聖都の城壁は壊せないかね?」

「それは恐らく不可能だ。キャメロットの外壁はあらゆる脅威から守る不浄の盾。害意ある攻撃で、崩れ去ることはない」

 

 俺の言葉を否定するのはランスロット。彼のいうことが本当であれば登ることはできるが、壊すことはできないということだろう。まぁ、登るのもあの高さだと無理か。そうなるとガウェインを相手にしなきゃいけないわけだ。……前回同様、貧弱メンタルなら何とかなる。だが、あれで耐性を付けてきた場合は相当辛い。今までは精神的優位でギフト持ちにも優勢を保っていたが、それが使えないとなると途端につらくなる。技量、スペック同様に高いというのは厄介極まりないな。

 

「――――だったら、城壁を崩すその役目。俺がやろうか?」

 

 誰もがガウェインとことを構えなければならないと頭を悩ませている時に、突然そのような言葉が投げかけられた。

 全員でその方向に向いてみれば、そこに居たのはミスター・アーチャー。ギフトを所有するランスロット相手に援軍が来るまで見事に耐え抜いた規格外のサーヴァント。皆の頼れるお兄さんこと、アーラシュさんが立っていた。

 

「アーラシュ殿……」

「ルシュドやマシュ殿と共に広場に向かわなくてよかったのですか?」

「向こうに行っても子どもたち皆飯を奢る兄さんに持っていかれるのが関の山だ」

 

 普段と変わらず軽快に笑いながら、会話に混ざっていく。

 しかしアーラシュさんの言っていたことは本当だろうか。害意ある攻撃を無力化する壁を壊す方法なんてパッと考えただけでも全く思い浮かばないのだが。

 

「なんだ仁慈、信じられないか?」

「そういうわけじゃ……」

「まぁ、普通はそうだな。しかし、呪碗殿なら分かるんじゃないか?俺の逸話知ってるだろ。となれば俺の宝具についても大体予想がつくはずだ」

「………!アーラシュ殿、まさか……」

 

 呪腕さんはどうやら分かったらしい。

 

「俺の宝具は元々大戦を終わらせるための国境づくりのために放ったものなんだ。まぁ、分類としては対軍宝具になってるけどな。英霊は伝承に引っ張られる。……もしかしたらチャンスがあるかもしれないぜ?」

 

 元々が攻撃用の技で放ったわけではなかった。つまり、害意はない。只、国境を作る過程でたまたま近くにあった城の壁が壊れるだけ……。でも、その代償は……。

 

「……いける?」

「いけるいける」

 

 確認の意味も込めて尋ねてみても、本人は何の気兼ねもなくそう答えた。成程、これは大英雄だ。……はぁ、こんな人がカルデアに居たらなぁ。

 

 

 ついついそんなことを思いながら、これからの作戦について更に色々と話し合うのだった。

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 既に進軍を開始していた俺達はその途中、聖都の城壁となる場所で休息をとっていた。

 それぞれが最後の休息を堪能する中、唯一人空を見上げる。空には相変わらず美しい星空と、今までの特異点で嫌というほど見て来た光の帯が浮かんでいた。

 

「ん?……おぉ、仁慈か。何してんだこんなところで」

「アーラシュさん」

 

 そうして暫く星空を眺めていると、斥候を買って出てくれたアーラシュさんがやって来た。どうやら一人で佇んでいる俺の周りを警戒してくれていたらしい。お前さんなら必要ないかもしれないがな、と言いながら彼は俺の横に腰を下ろした。

 

「ねぇ、アーラシュさん。一つ聞いてもいいかな?」

「おう。構わないぞ。俺に答えられることならどんどん答えようじゃないか」

「なら遠慮なく。アーラシュさんは宝具撃ったら死ぬよね?なのにどうしてあんな提案をしたのかと思って」

 

 そう。アーラシュさんの宝具は強力だ。国境云々は知らなかったけど、その威力と射程距離は到底弓矢に出せるものじゃない。

 しかしその分反動も大きい。彼の宝具は撃った後、自身の肢体がバラバラになってしまうのだ。いわゆる人間版ブロークンファンタズムというわけである。死ぬのが怖くないのかと聞きたくなってしまうのだ。

 いや、何を今更と言われるかもしれないけど。これでも死ぬのは人並みに恐ろしいと思っているよ?ただ今まではアドレナリンとか抑止力とか慣れとかで気にならなかっただけで。

 

「あー……そうか。そうだな……」

 

 アーラシュさんは考え込むように少しだけ唸る。

 だが考えを直に纏めたのであろう。十数秒後には再び言葉を紡いだ。

 

「仁慈。俺達はな、英霊で死人なんだ。今こうして現界しているが生きてはいない。既に終わってしまった存在なんだよ」

「それは分かってるけど……」

「というか座に登録された時点で何回だって死ぬことになるんだ。今さら気にしてなんて居られない。特に俺の場合は宝具が宝具だからな。一回の戦闘で七回死んで、七回流星一条とかよくあることだ」

 

 なにその世紀末。超怖い。一体どういう想いでアーラシュさんは七回も散ったのだろうか。というかそれどこの世界の話?修羅の国の話なの?

 

 唐突に出て来たトンデモ体験談の所為で若干引きつつも、何とか意識を切り替えて、彼の話の続きに耳を傾ける。

 

「おっとそれはともかく。要するに俺は死人で現代に生きる人間じゃない。俺達の生はもう終わったんだよ」

「……」

「んで、そんな死人にできることは今を生きる者達の礎となること。それは残された遺産だったり、文献だったり、俺達のような英霊だったりと形は様々あるけどな。だからこそ、人類焼却という未曾有の危機には俺達だってできる限り手を貸す。だが、根本のところはお前たちがやるんだよ」

「………つまり」

「お前のために死ぬなら悔いはないさ……」

「何故知ってるし」

「聖杯からのバックアップでな」

「本当に余計なことしかしないなあの聖遺物」

 

 ……何だろう。真面目な話を続ける雰囲気ではなくなってしまった。息を一つ吐いた後、立ち上がった。

 何はともあれ、アーラシュさんは既に決めており、それを覆すことは不可能ということだけは分かった。であれば、一先ず思考を切り替えよう。頭を切り替えてアーラシュさんが紡ぐ先をどう活かすのかを考えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――あぁ。お前はそれでいい。そうやって()()()()()()()()――――」

「…………ま、それは今更俺が言うことじゃないよな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




済まない、アーラシュさん。
私は貴方のフル詠唱が書きたい……。なので、貴方をステる(ステラさせるの略)。
許しは請わん、恨めよ。

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