「聖杯に宿りし魔神の陰よ。魔神アモンなる偽の神。是に、真なる名を与える」
自分の血液が入った聖杯を煽ってそれを飲み干したのちにオジマンディアスはそう言葉を紡ぐ。ロマンが観測した通り彼の身体はみるみるうちに別の何かに―――具体的に言えば地面から生えている柱のようになっていった。
だが、今までの魔神達と違う点がいくつかある。まずはその色である。今までの魔人たちは黒もしくは灰色と暗めの色でカラーリングされていた。しかし、目の前に現れた魔神柱はどうだ。その色は輝ける黄金。オジマンディアスの神殿の中でそびえたっていても違和感を感じない金ぴか成金カラーである。それは何もボディーだけではない。柱に大量についている目玉も身体と同じ金色になっていた。
その姿には今までの魔神柱とは違い禍々しい気配ではなくどちらかと言えば、オリオン……の皮を被ったアルテミスに近い気配を纏ていた。……多分あれは魔神ではなく、神の類なのではないかと思う。
「七十二柱の魔神が人柱、魔神アモン―――いいや、真なる名で呼ぶがよい。――――我が名はアモン・ラー。余の神殿に祀るに相応しい、正しき神の人柱である!」
「ひゅー。随分大きく出たね、彼。アモン・ラーは古代エジプトにおける最上の権限を持っている神の一柱だよ。魔神柱を使って無理矢理引きずり出すなんてね!」
ダ・ヴィンチちゃんべた褒め(?)である。つまり今の話が本当であれば俺達が今から相手するのは完全体ではないとは言えエジプトの最高神というわけである。ぶっちゃけ魔神柱よりも高位の存在なのだろう。こちらの戦力は十分とはいえ、元々サーヴァントであった存在が神霊になるなんて初めて過ぎて、何をしてくるのか全然予想が付かない。何はともあれ、今確定している情報としては過去最高の強敵であるということだろう。
俺は静かに魔力の循環を早めていく。どちらにせよここまで来たのであれば引き返すことはできない。ここで無様を晒して殺されるくらいなら是が非でも生きたいと足掻いた方がマシである。
それに、俺だって修羅場は潜り抜けてきている。特に最近は夢の中で何度も鐘の音と共に首を切り落とされたのだ。ちょっとやそっとの事では怖気づかない。
「それでも―――彼を倒さなければ、私たちは前に進めません……!」
「マシュの言う通りです。どのみち聖杯はこちらで確保しなければならないのですから、早いか遅いかの違いです」
「フン、キャスターに態々転身とはご苦労だなピラミッド。私がその柱の中に眠っている宝を袋の中にしまって全国の良い子に配ってやろう」
「まぁ、皆がやる気なら私だけひきさがるわけにはいかないよね」
魔神柱という存在に若干慣れ始めて来た俺達だからこそ、このアモン・ラーという存在は等身大以上に恐怖だった。ここ最近、魔神柱なんて地面に繋がっているだけのサンドバックじゃないかと少しだけ思っていたのである。が、目の前のそれは違う。外見こそただの色違いであるが中身が完全に別物だった。
それでもここで戦い、勝たなければならない。マシュを皮切りに俺達も戦う覚悟を持つ。
「……我が長年の責務を邪魔させはしません……!」
「全くわからずやなんだから!悟空みたいね……お釈迦様パンチで説法ね!」
「大百足を相手にしたことはあるが、巨大金柱は初めてだ!面白い、拙者の技量で通じるかどうか、試させてもらおうか!」
「ファラオの兄さんと戦うのは二回目だが……流石にこれは予想できなかったなぁ。ま、俺は俺にできることをやるだけか」
「言葉は不要だ、全ては剣で語るのみ!」
初魔神柱の皆様は油断などはなく、そういったものとして既に覚悟が完了しているようだ。流石英霊にまで昇華された人たち、心強い限りである。さて―――いつもなら馬鹿みたいに前線に突っ込むところだが、向こうは今までの敵とは一回りも二回りも違う、言い方は悪いが皆に戦ってもらい様子を見よう。
―――――――――
戦闘開始から数十分。
これまで戦い続けて俺達は一つの結論に達した。……それは今のままでは絶対に勝てないということである。
『シェプセスカーフ!』
人間味の感じない言葉と共に覆い尽くすような閃光が弾け、それと共に轟音と爆風が襲い掛かる。
「やらせません!」
その爆風をマシュに守ってもらいながら、俺は他のサーヴァント達に強化魔術を付与、それと同時に鞄の中から弓と矢を素早く取り出して、構える。
「アーラシュさん、藤太!」
「おうとも!」
「任せな!」
タイミングを合わせて俺達はアモン・ラーの瞳を抉るために矢を放つ。俺が取り出したのは某マハトマ少女と共に作り出した矢である。今回の効果はただ単に頑丈というだけだが、それはそれで強いのでそのまま放つ。タイミングを合わせてアーラシュさんと藤太も矢を一息に2本、3本と放っていた。
飛来する矢の全ては例外なく、それぞれ狙っていたところに当たった。声を出さないために反応は分からないがそれでも確実に効いているだろう。だが――――
『メェエエリィイアメン』
――――次の瞬間にはその傷は跡形もなく消滅し、憎たらしいほど金ぴかで鏡にできるんじゃないかという姿に戻ってしまっていた。そう、俺達はこれ等を延々と繰り返しているのである。一撃一撃が広範囲かつ高火力な上に常識はずれの回復まで加わって完全に鼬ごっこ……いや、じり貧だった。
今のところ全員が回避もしくはマシュに防御して貰っているがそれももう限界に近い。何より、どれだけ攻撃してもダメージが入らないということが精神を圧迫していくのだ。このままでは誰かの心が折れてそこから瓦解していくだろう。
「ちょっと、どうなってるんですか!?早めにアヴァロン効いてますかー!?」
「少し落ち着けなんちゃってセイバー。貴様の支援スキルでどうにかならんのか」
「残念!ピラミッドの中にまで砲撃は届きません!」
「使えんな」
Xの支援スキルが微妙なのは今さらだろいい加減にしろ!というかそれ使ったことあったっけ?などと内心で考えつつ、アモン・ラーの不死性……その原因を探そうとするが正直わからない。
「ちょっと、全然説法が効かないんだけど!」
「説法物理………うむ、悪くないな」
「またレディに床にへばりつく虫を見るような瞳で見られますよランスロット……しかし、ここまで来たら私のあれを使うしか……」
「ちっ、あの姿になっても神殿からのバックアップは受けるのかよファラオの兄さん。そりゃ反則ってもんだろ……」
「――――――!」
所々から聞こえてくる愚痴。それら全てに全面的に同意するが、その中で一つ聞き逃せないようなものが混ざっていた。そう、アーラシュさんの発言である。そういえばここに来る前に彼は言っていた。嘗て戦った時も同じ神殿の中。そしてそこでは例え霊核を破壊しても復活するほどの不死性を持っている……それがファラオ・オジマンディアスであると。
――――なら、勝機はある。恐らくオジマンディアスも本気であっても全力ではないのだろう。先程から理性が感じられない言葉を発している。彼が大人しく意識を飲ませてやるとは思えない。もしかしたらアレをオジマンディアスが言っているかもしれないが声が違うので多分その可能性も低いだろう。何が言いたいのかと言えば、恐らく理性的な行動はほとんどしてこない。格が高いだけでやることは第四の特異点で相手にした魔神柱よりも低いだろう。
よし。やるべきことは決まった。ならば今度は実行するまで。
「マシュ、少しの間全力で俺のことを守ってほしい!」
「えっ、どうs――――いえ……了解しました。シールダー、マシュ・キリエライト。是より先にはどんな攻撃も通しません!」
「ありがとう。……皆、この状況を打破できる策を思いついたから、少しの間お願い!」
理由を聞くこともなく了承してくれるマシュ。その信頼に背くわけにはいかない。それに俺がそう頼み込んだ瞬間全員が不満を出さずに笑顔でアモン・ラーに対峙してくれているのだ。ここで失敗したら……うん、俺が人類最後のマスターやっててごめんなさいって感じになる。
などという考えを打ち破り、自身のやるべきことに集中する。それは、アトラス院を出るときにホームズから言われ、渡された事。俺の起源に対することである。今まで俺の起源は『逆転』だったらしい。これはアラヤが俺を作る際に設定したとされるもので、どうしてこれにしたのかはもはや語るまでもないだろう。人間である俺が強大な存在と渡り合うにはそのようにひっくり返すものが必要だったということだ。しかし、彼曰く今の俺は半ばアラヤから切り離され起源の方にも変化が表れているらしい。普通はそうポンポン起源は変わらないのだが、俺の場合は常時上書き状態にあったのだろうと言ってくれた。
それはともかく、本来の起源はまさに人間である俺だからこそ意味のあるものだと言っていた(なんでも俺の元があるらしく其れの影響が強いのだろうと言っていた)。
……自分の起源を意識しするように体に魔力を循環させていく。こちらの起源は魔術などにして撃ち込むことはできない。いや、できなくはないが効果が薄まるために直接触れなければならないようだ。けれど、そのリスク分のリターンは十分に得ることができる。
「―――天上に在りし者達よ、その光景を焼き付けよ」
ホームズ曰く、言霊というものは馬鹿にできないらしい。そのあたりは魔術が存在している段階で分かっている。故に俺の起源を使用する際にはそのカギとして何かしらの言葉を発することが効果的なのだという。なるべく長い奴で自身が考えたものがいいと教えられた。
なので今適当に言葉を考えながら、それでも自身の中に在るトリガーを引くような感覚で言葉と魔力を紡いでいく。
「もはや
正直、自分でも何言ってるのかわからない。
その辺のことはもう後から考えることにした。今はとりあえずこの状況をどうにかする方が先決である。準備を整えた俺は、契約サーヴァント達に令呪のパスから念話を送り、準備が整ったことを知らせる。それを受けた彼らは近くに居る人たちにもそのことを伝えてくれた。準備は整った。後は突っ込むだけである。
『サフラー!』
「マシュ!」
「了解しました!」
ここでアモン・ラーの攻撃が俺達全員に飛ぶ。既に起源の発動に対して大半の意識を持っていかれている俺は回避などできないが、そこにはもう毎回毎回攻撃を防ぐ実績を持っている安心と信頼の最硬の後輩が守ってくれる。いつもお世話になってます。
爆風をやり過ごすと同時に俺はマシュの盾から飛び出し、そのままマシュの盾に思いっきり押してもらう。
「先輩砲!」
「そんなことをマシュが言うなんて……!」
彼女が放った言葉に驚愕しつつ、弾丸のような速度でアモン・ラーに向かって行く。攻撃パターンは今まで図らずとも見ているところから問題はない。一撃一撃の威力が高いためか連続で攻撃できるのは三回まで、その後は少しだけ間があるのだ。そして先程の攻撃は三回目……攻撃攻撃の間だって長いわけではないが、もう射程圏内である。
「――――『天上よ、地を這え』―――」
アモン・ラーの身体に触れて俺の魔力を流し込む。その流れは先程ランスロットにガンドを撃ち込んだ時と同じだ。が、先程のものはついでだったが今回のは違う。念入りに魔力を込めて撃ち込んだためにその効果は絶大である。
『―――――ッ!?』
向こうも自身に起きた違和感に気づいたらしい。声や表情が分からなくても理解できる困惑の雰囲気が感じ取れた。当然だろう。今まで受けていた神殿からのバックアップが感じ取れなくなったのだから。
「―――今ならダメージが通る。だから全力全壊でぶっ飛せ!」
俺の言葉に待ってましたと動き出すのは当然の如くあの二人。ブリテンの王――――の中にほんのわずかに存在しているんじゃないかな?という二人組。カルデアきってのギャグキャラであると同時に頼りになる存在だ。
「任せてください、全力全壊でやってやりますとも!」
「さぁ、プレゼントの時間だ!」
Xの二振り、そしてサンタオルタの一振り―――合計三つの聖剣に魔力が込められていく。もちろんその分魔力は俺から消費されることになるが、出し惜しみしてまた復活させられるよりはマシである。
「では拙者も肖らせてもらおう」
「御仏の加護見せてあげる!」
向こうにもやる気満々のコンビが居たらしく、自分たちの宝具を構えていた。魔力のチャージは一瞬、これまで意味不明な回復量で理不尽に再生してきたこの最高神様に全力で仕返しをしてもらおう。
「「|約束された勝利の剣《エクス、カリバー/エクスカリバー・モルガン》!!」」
「五行山・釈迦如来掌!」
「八幡祈願・大妖射貫!」
実に壮大な光景だった。
三蔵が宝具で地面に生えていると思わしきアモン・ラーを空中に吹き飛ばしその後、藤太の宝具である弓矢が貫く。その刺さった矢を目印にするかのようにXとサンタオルタが放ったビームが通り過ぎていく。
『魔神柱―――いや、アモン・ラーの消滅を確認したよ!……正直、信じられない……』
ロマンの声で俺達は勝利したということ自覚することができた。……とりあえず、とんでもなく疲れましたわ。
急で申し訳ないのですが、恐らくこの話を最後にしばらく更新できません。この時期は少し忙しいので投稿している時間が無くなってしまうためです。
恐らく更新を再開するのは10月ごろになるかと思われます。……正直、そこまで長い時間開けると跡形もなく忘れられそうで怖いんですけどね(笑)
また更新が再開されたときはなにとぞよろしくお願いいたします。