この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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ファラオ・オジマンディアス

 

 

 一方仁慈達が一度訪れた太陽神殿。長い歴史の中でも最も偉大なる王として知られる人物。ファラオ・オジマンディアスは神殿の最深部にて何かを待っていた。もちろん、その何かとは改めて口にするまでもない。一度見逃し、しかして再びこの神殿へと足を運んだ遥か遠い時空からの異邦人たち――――すなわち仁慈達の事である。今回此処に足を踏み入れるということはそれ即ち、勇者として現れたのと同義。であれば、優れた王であり、暴君であり、何より勇者たちの敵として立ちはだかる存在であるオジマンディアスは迷うことなくそうするのだ。

 

 そのことを知りながらも、同じ場所にて佇んでいるニトクリスは少しだけ、その端整な表情を歪ませていた。これは彼女が真にファラオとして未熟だからであり、それ故に誰しもが持っている当たり前の人間性を捨てていない証拠だ。……彼女は王となるには優しすぎる人物なのである。そのことを当然見抜いているオジマンディアスだがあえて言及はしていない。ファラオたるもの、その程度のことは己で対処して当然だからである。

 

「……ファラオ・オジマンディアス」

「よい、ニトクリス。貴様が何を思い、何を口にするかなどを予想するのは容易だ。……そしてこの神殿はもはや余の身体と言っても過言ではない。ネズミの一匹や二匹を知覚することなど造作もないわ」

「失礼いたしました」

「一度のみ許す。……しかし、何とも面白い駒をそろえてきたものだな」

 

 呟いてオジマンディアスはたった今自分の領域に侵入してきた人物を一瞥する。柵から解放されたマスターにそのマスターを健気にも守る盾の乙女。自ら性別を逆転させた飛び切りの変態(天才)、東方の武芸者、オジマンディアスに無断で砂漠を横断するという失礼ながらも偉業を成し遂げた僧、過ちを正すために生きて来た騎士と楔から解き放たれた騎士………果てには嘗て対峙した弓兵にそれと協力してた勇士の別の可能性が二人と来ている。まるで闇鍋でも開かれるのではないかと思えるほど統一感のないその集団に対して彼はクツクツと笑う。

 

 次に対する時には敵対するとニトクリスが伝えていたはずだ。にも拘わらず、この集団に緊張感などはない。彼らに対して仕向けていたスフィンクスを危なげもなく処理し、着実にその歩みをこの最深部へとむけていた。本来であれば不敬と断じるところであるが、王たるオジマンディアスは違う。むしろ、実に楽しみだと言わんばかりの笑みを浮かべて彼らの様子を確認していた。……最高の王にして暴君である彼にとって、勇者とはこれほどまでの存在でなくてはならない。この身を止めるのであれば、ごく普通に委縮する凡骨はいらない。彼が求めるは勇者。その名にふさわしい非凡を見せつけなければ面白くないのだ。その点で言えば、彼らは十分に合格だった。戦力とても現段階であれば問題はない。そして何よりも異邦人であるマスター―――樫原仁慈が《《己のことを少しは理解している》》ということもある。

 

 そう、紆余曲折あり未だ完全とまではいかないモノの、あのマスターは確かにオジマンディアスの期待に応えたのである。王が課した試練を越えた勇者たちには褒美を与えるのが真にできた王というもの。

 

「ただそれだけよ」

「……」

 

 ニトクリスはそこまで聞いて改めてオジマンディアスの偉大さに感服すると同時に、それだけではないということに気づいた。なんせ、彼の表情が明らかに楽しそうなのだ。その原因は果たして自分の目に合う勇者がやってきたことなのだろうと彼女は予想を立てる。

 

 ……このことに関して正解を求めることは流石に酷である。なんせオジマンディアスが思っている楽しみとは勇者の件もあるが何よりここではないどこかで行われた聖杯戦争に置いて彼の目に叶ったサーヴァントが仁慈達の所に居ることが理由だなんて彼女に分かるわけがない。

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

「一度来た時にここの構造は覚えています。こちらが恐らくファラオ・オジマンディアスがいる最深部です」

「さすマシュ」

 

 改めて神殿というよりピラミッドに潜入すると、マシュが道案内をかって出てくれた。一度来た時に覚えることができるあたり本当によくできた子である。後ろの方でランスロットが何やら騒いでいたが、マシュはこれを一撃で黙らせて何事もなかったかのように先に進み始めた。

 

 そんなこんなでオジマンディアスが待っている場所へ向かっているのだけれども、ここでおかしいところが一つある。神殿に入る前には砂漠でよく見かけたスフィンクスたちに襲撃を受けた。ここが自分たちの王であるオジマンディアスのいる場所であるためにこの行動に何ら不思議はない。けれどもそれがこの中に入ると一変して、俺達の往く手を阻もうとする者たちの姿がパタリ消えたのだ。スフィンクスも兵士たちもない。只ただ広く目に悪そうな構造の建物を進むだけとなっている。正直何処かトラップかなんかで一網打尽にされそうで怖い。

 

「なにもないことが不安か?」

「アーラシュさん」

 

 表情に出ていたのであろうか、普段と変わらず柔らかい笑みでアーラシュさんは話しかけてくれた。彼の言葉に俺は首を縦に振る。すると彼も気持ちは分かると言って軽快に笑った。

 

「気持ちはわからなくもないけどな……多分、平気だ。なんせこの場所でのファラオの兄さんはとんでもなく強いからな」

「……アーラシュさんはオジマンディアスと戦ったことが?」

「あぁ。……奴さん、この建物の中だと霊核を破壊しても再生するんだよ。多分、この建物から色々と受け取ってんだろう」

「そういえば、このピラミッドもオジマンディアスの宝具だって言われてた……」

 

 自分の領域に置いては不死身。それはとてつもなく厄介である。単純な力押しでは勝てない。恐らく根本的にこの宝具とのかかわりを断つか、もしくはこのピラミッド事フッ飛ばすしか対処法はないだろう。こちらとしてはまず会話による交渉から入るからそこまで物騒なことは考えたくないけれども……正直無理だと思うんだよなぁ。このピラミッドから離れるときにニトクリスも次会った時は―――みたいなこと言ってたし。

 

「―――まぁ、そこまで心配しなさんな。これまた俺の予想だけどな。向こうもそこまで俺たちの事悪く思ってないだろ」

 

 アーラシュさん曰く。このピラミッドはオジマンディアスの宝具である。故に此処に侵入した人物は逐一彼に把握されているのだ。それを利用して俺達の排除を行うことは簡単にできるのだという。

 けれども俺が不安に思った通り、俺達の追撃に現れた敵は誰一人としていない。……これはオジマンディアスが自分から俺達を呼んでいるのだと彼は言った。

 

「―――着きました。この先が、ファラオ・オジマンディアスのいる最深部です」

 

 先行していたマシュが歩みを止める。かなりの人数が居るので押しかけた瞬間怒られそうだなと、心の片隅で思いながら不安を払拭する。いざとなったら……その時の俺に任せるとしよう。うん。

 

 

 

――――――――

 

 

 

「来たか」

 

 オジマンディアスは自分の領域に不敬にも大人数で乗り込んできた仁慈達に視線を向ける。その行いは不敬ではあるが、世界には他人の家に勝手に上がり込んで箪笥をあさっていく勇者も居るし、何より目の前に居る彼らはそれらを赦すほどの価値がある。誰も彼も自分には遠く及びはしないが有名どころの一級サーヴァント達。今後の見通しを確かなものとするついでに自身の退屈を潰すにはもってこいの人材である。

 

「このまま刃を交えるのもよいが、余は王である。直に力を向ける獣などではない。……異邦の魔術師、再び余の前に現れた用件を述べることを赦す」

「では遠慮なく……自分たちと協力して獅子王を倒しませんか?」

「…………ふむ、それは余が獅子王と不可侵の条約を結んでいると知っての事か?」

 

 オジマンディアスの問いかけに対する答えは当然はいである。態々口で言うべきことではないので首を縦に振ることによって肯定する。

 ぶっちゃけ、この条約別にどちらもそこまで守る気はないんじゃないかと思う。要するに自分たちの目的の邪魔をしなければどうでもいいのだから。お互いにお互いの目的を持っていて、それを実行するには時間が必要だった。だからこそ、その時は不可侵の条約を結んだんじゃないかと予想して居る。アーラシュさんと話す前、三蔵が言っていた。ここはキャメロットと同じであり、シェルターとして機能すると。彼も獅子王と同じことができるらしい。この特異点が、人類史が滅びたとしてもこのエジプト領も永久に存在し続けることができるのだろう。

 だがここで俺は疑問に思うのだ。歴代最強のファラオにして一度邂逅しただけで天は自分の上に人を作らずという態度が伝わるようなオジマンディアスが果たしてこのまま逃げるように穴熊を決め込むのかと。故に、もしこのまま交渉が決裂するようならこれを使って何とかして動こうという意欲を持ってもらおうという算段だ。

 

「……フン、大方貴様が考えていることなど読み取れるわ。この余に対してそのようなことを考えるだけでも極刑ものだが――――己の本質を知った褒美だ」

 

 なんか知らないうちに許された。というよりも俺の思考が完全に読まれていた。流石長年の歴史を持つエジプトの中でも最強の王として語り継がれるだけのことはある。改めてオジマンディアスという存在を認識したところで当の本人が今度は自ら言葉を紡いだ。

 

「―――魔術王の企みは実に見事な手前だった。人類史を止められることなく焼き尽くすという偉業、過去・現在・未来を以てしてもこれにならぶ偉業はそう現れないことだろう。それはこの余と獅子王が己の民たちを詰め込み、絶対的に安全なものを作らなければならなかったという点からしても確かなことである。……この余に協力を仰ぐということは魔術王の偉業を打ち破るのと同義。貴様たちにそれを成し遂げる力はあるのか?」

「できる」

「ほう?たかが二十も言っていない未熟者が吼えるではないか。だが――――――勇気と無謀をはき違えるなよ。余は愚者に対して寛大ではない」

 

 即答した俺に熱烈な殺意を向けてくるファラオ。しかし、負けない。殺気なんてこれまで何度も受けてきているし、その問いかけも予想できたものだ。

 

「ご存じないのですが、ファラオ・オジマンディアス。勇者とは――――大多数から見れば夢見がちな愚か者に見えるものですよ?」

 

 勇者とは往々にして人々を虐げる魔王や王様などを退治しに行く弱いものの味方。それは万人の憧れではあるが、実際にそんな人物がいた場合の反応はこの一言に尽きる。「そんなことできるわけがない」……しかし、できないと思っていることを夢想し、進んだものこそが勇者と成れる可能性を秘めている。であれば、多少馬鹿っぽくても突き進んでみようじゃないの。

 

「――ハハ、ハハハハハハ……クハハハハハハハハハハ!!言うではないか!そうか、そうか勇者は愚か者こそがなる、か。ハハハ!貴様が言うと説得力があるな」

 

 それは現在進行形で愚か者と言われているのだろうか。其れだと少し複雑なんだけど。なんてことを考えている俺は当然無視だ。きっと、ファラオはそんな小さいことを気に掛けることはないのだろう。

 

「クック……貴様の理屈は理解した。だが、口先だけでは勇者(愚か者)には慣れん。―――――――――故に、余自らが貴様らに試練をくれてやる」

 

 そういって彼は自分の懐から聖杯を取り出した。まさか、自分の魔力ブーストに使うのだろうかと思っていたのだが、予想に反して彼は聖杯を持ったまま左手に傷をつける。さらにその傷から流れ出た血を聖杯に注いで、それを自分で飲み干した。

 何をしているんだと首を傾げることができたのは一瞬だった。何故なら、彼の魔力量が今までとは比較にならないくらいに上がっているからである。……オジマンディアスの身体が光り、霊核を中心とした肉体が変化していく。

 

『おいおい、これはまずいぞ。オジマンディアスの霊基パターンが変化!このパターンは………魔神柱だ!』

 

 そういえば聖杯には魔神柱が憑き物でしたね……。

 ロマンの通信越しの声に俺は内心でそのように返すのだった。

 

 

 


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