この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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能力と人格は比例しない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃー!落ちてます、すごい浮遊感です!」

「いやー!暗い!怖い!助けてとーたー!」

 

 二人の少女が叫び声を上げながら落ちていく。まぁ、その声の主はマシュと三蔵のお二人なわけだけど……それも致し方ないのかもしれない。なんせ特に心構えなんてしていない時に急に落とし穴に落ちたのだから。それも結構な深さのものである。内臓がふわりと浮かぶ独特の感覚が身体を支配する。

 

 さて、どうして俺達が現在落ちているのかというのか。そのわけを簡単に説明しよう。

 

 ベディヴィエールとの話し合いを終えた俺は、当時の目的通りオジマンディアスが居るピラミッドへと再び足を進めていた。円卓の騎士とも遭遇することなくのんびりと歩みを進めていたのだが、明確な領域と言える部分に差し掛かったのだろう。スフィンクスが露骨に増え始めた。そしてさらに進めば俺達の接近に気づいたニトクリスが巨大な映像と共に注意勧告をして来たりしたのだ。口調こそ強めだったがその内容はこれ以上進むと安全の保障はできないから早く帰ってという何とも彼女らしい理由だった。一応スフィンクスが襲い掛かってきたりもしたのだが、ぶっちゃけ今の戦力はあり得ないほど充実している。アーラシュさんまじパネェっす。

 

 と、ここまでは順調だったのだが、スフィンクスを倒して再び歩みを進めようとしたら急にマシュが落とし穴へと吸い込まれるように落ちてしまったのだ。暴れているうちにその地点へと向かってしまったのだろう。続けざまに三蔵まで堕ちてしまったので俺達も彼女たちを追いかける形でその穴に落ちていったとそういうわけである。

 

 

「おっと、仁慈君上は見ないでくれたまえ。スカートの中身が見えてしまうからね」

「あ、ダ・ヴィンチちゃんの下着とか興味ないので」

「トナカイ。上を見たら殺す」

「一々言わなくても見ないから……」

 

 そもそも落とし穴の中は暗くて見えないってば。

 上から俺達を追いかけるようにして落ちてきているアホ二人組を適当にあしらうと、鞄の中から武器を取り出し、落とし穴の壁に突き立てる。普通なら壊れてしまうような扱い方だが、そこは師匠が作り出した武器。何の変哲がなくても丈夫さは一級品なのだ。

 ガリガリ壁を削りながら重力に従い下へ下へと落ちていく。時間にしてみれば三十秒ほどの時間ではあるが落下でこれは中々長い。普通の人間なら両足くらいへし折っても何ら不思議ではない距離だった。

 

 勢いを殺したおかげで大した負担もなく落とし穴の底に着地する。……三蔵は着地に失敗して潰れたカエルのような声を出していたが、それ以外の面々はそれぞれ無事に着地で来たようだった。流石サーヴァント。この程度の高さはどうってことないのか。

 

「―――っ……!すみません真っ先に落ちてしまって。皆さんは無事ですか?」

 

 ちょっとだけ痛かったのだろう。一息堪えるような吐息を漏らした後マシュが他の面子の安否を確認する。その問いかけに対して俺を含めX、サンタオルタ、ベディヴィエール、ダ・ヴィンチちゃん、アーラシュさんに藤太は普通に返したが三蔵だけ若干涙目で返事をした。

 

「聊か情けないぞ三蔵……。ところで結構な距離を落ちたな、空気は存在するようだが」

「案外地下にある秘密の工房とかだったりしてな!」

 

 涙目で尻をさすっているであろう(予想)三蔵に対して藤太が呆れつつ、冷静に現状を確認する。アーラシュさんはその情報から冗談交じりでそんなことを口にした。

 

「―――――流石、名だたる大英雄。その慧眼、見事なものだよ」

 

 すると、俺達以外の声がアーラシュさんの言葉を肯定した。どうやらここには俺達以外に人がいたらしい。敵意は感じないが、どう転ぶのかはわからないので取り合えず今の情報を纏めてみよう。気配からして普通の人間ではない。明らかにそれはサーヴァントのものだ。声の低さから見て男性。声のトーンによどみがないことから少なくとも俺達に対する怯え等の感情はなし。……残念ながら現在わかるのはこの程度のことだ。せめてクラスだけは分かるようにしたいなぁ。

 

―――やめて!これ以上僕の仕事を取らないで!

 

 何処からかロマンあふれる電波が聞こえた気がするけどそこはいいや。

 

「……ははっ、警戒するのはもっともだけどもう少し君は肩の力を抜いたほうがいい。―――ともかくこのまま暗闇に紛れて話していては疑われても仕方がない。どれ、明かりをつけるとしよう」

 

 瞬間、暗い空間に順応し始めていた目が強烈な光を感知する。その為少しだけ眩暈にも似た感覚を覚えたものの数秒で慣れた。少し見渡してみれば、そこには静謐のハサンを助けたところで見たような石塚でできた空間が広がっておりパッと見るだけでもいくつかの道に分かれている。

 そして何よりも重要なのが、その空間で一人佇んでいる男性の存在である。彼はインバネスを着込み片手にはパイプを持っている。顔は大多数のサーヴァント達に漏れることなく整っており、袖口からは虫眼鏡のようなルーペのようなものがついている機械の触手のようなものを生やしていた。

 全体的にそこまで強そうには思えないが、英霊たちに対して外見での印象は役に立たない上にこいつの表情は何処か胡散臭い。なんていうのだろうか。強いて言えばダ・ヴィンチちゃんに近いイメージがある。自分だけ理解しており次々と物事を進めていくようなそんな頭のいい奴特有の雰囲気を感じた。

 

「姿が確認できたところで改めて、ようこそ諸君。神秘遥かなりしアトラス院へ。私はシャーロック・ホームズ。世界最高の探偵であり唯一の顧問探偵。探偵という概念の結晶。明かす者の代表――――キミたちを真実に導く、まさに最後の鍵というわけだ!」

「……うわぁ」

 

 満面の笑みでそんなことを伝える不審な男―――改めシャーロック・ホームズ。はっきり言おう。全く以って信用できない。だって人間性は底辺言っているし、薬物依存症だし……。

 

 

 

―――――――

 

 

 

 シャーロック・ホームズ。

 ミステリー系主人公として彼ほど有名な人物も居ないだろう。頭脳の怪物と呼ばれるほど頭の回転が速く、バリツという謎武術を始めとした物理にも強いというマルチ探偵である。相棒のワトソンに迷惑かけたり、死にかけたり、薬物中毒だったりと割とろくでなしな部分もあるけれど。

 

 とりあえず長々と何かしらを語っていたけれど簡単に言ってしまうと協力はするけれども仲間にはならない。ロンドンで情報を整えておいたのは私だ。これから先には色々なことが知れる場所があり、それを防御する脅威を取っ払ってもらおうの三本だった。

要するに露払いが欲しいらしい。シャーロック・ホームズはバベッジさんにこの人類史を焼却しようとする事件の真相を追って欲しいと依頼を受けたからこそそう行動するのだといった。

 そんな彼にマシュは大興奮である。嘗てロンドンにレイシフトする際にはシャーロック・ホームズうんぬんでロマンにツッコミを入れたというのに実は彼女も結構なファンだったらしい。

 

 ともあれ、そのような経緯を経て利害の一致から行動を共にするようになったわけだ。彼は移動中、戦闘中に限らず色々なことを聞いても居ないのに教えてくれた。この場所――――アトラス院がどのような施設なのかというのが最たる例だろう。どうやらここは結構な秘密兵器を開発したりするところであるらしいとか、俺の采配の感想だとかである。後はそう――――魔術王のことについて聞かれた。

 

 それは物凄い食いつきようだった。この事件(人理焼却)の真相を追い求めているのだから魔術王の情報については意地でも知っておきたいのだろう。けれど、正直に言うと、あの時は細かく観察している余裕なんてものは全くなかった。必死に抵抗しているだけだった。マシュもXもそうだったのか具体的なことは殆どわからなかったが、其れとは同時にXだけは何処か決定的に違うという印象があったらしい。ホームズはそれこそが重要だと言ってマシュにスケッチをお願いした。スケッチで何かわかるのか……。

 

 

「――――成程。実に有意義な情報だった。恐らく、魔術王の正体……そのほんの一端だけだがね」

「今ので何かわかったのかい?」

「その通り。恐らく魔術王は鏡のような性質を持っているのだろう。彼に問いかける人物によってその性質を変化させる。乱雑なものが問えば粗暴に、賢明なものが問えば真摯に答える。残忍な者は彼を残忍な者と捉え、穏やかなものは彼を穏やかな者と捉えるだろう。自分を持っていない……ということではない。複製の属性を持ちそれらの中で対峙する者に最も近しい性質を引き出しているのだろう」

「ですが、あの時魔術王はこちらにまるで興味がなさそうでした。そのような性質を持っている人は――――」

「――――さて、そこの所は確信が持てないから私の口から言及することはできないな」

 

 ……一瞬だけこっちを見たのは気のせいだと思いたい。

 こうしてシャーロック・ホームズは次々とその考えを披露していった。今までに出なかった発想がこうもポンポン出てくるのは流石世界一有名な探偵と言ったところだろう。只、後ろで歩いているダ・ヴィンチちゃんがひたすらに表情を引きつらせていたのが印象的だった。小さく「成程、こう他人から見えているのか。これはうざい」と呟いている。人の振り見て我が振り直せ。どうやらシャーロック・ホームズはダ・ヴィンチちゃんにとっての鏡になったらしい。

 

 

 

――――――

 

 

 

「ところで君たちはここに山の翁の話を聞いてやってきたのかね?」

「……呪腕さんの事ですか?」

「いや彼の事ではない。初代山の翁と呼ばれる人物のことだ」

 

 初代山の翁という言葉にその場に居たほとんどの人物が首を傾げた。だが、仁慈だけ心当たりがあったようでガタガタと震え始める。どうやら彼の中で初代山の翁はスカサハに次ぐトラウマになってしまった可能性があった。

 

「まさか私の推理が外れるなんて……」

「何で俺を見るんですかねぇ」

 

 チラチラとホームズは仁慈に視線を向ける。一方、ホームズ()から熱烈(意味深)を送られていた仁慈は己の身体を抱いて自身の身体能力をフル活用し、列の最後尾へと跳んだ。身の危険でも感じたのだろう。

 

 そんなことがありながらも彼らはアトラス院の中心部に到達した。その場所はカルデアの管制室に似た構造をしており、上には地下にも拘わらずどこまでも澄み渡った空が存在している。アトラス院が地下にある以上偽物なのだろうが、本物と謙遜のない風景であった。中央には天高くそびえたつ鉄柱のようなものが何本か作り物の空を穿たんばかりに存在していた。

 

「あの中心にあるオベリスクがアトラス院最大の記録媒体。疑似霊子演算器トライヘルメス。カルデアに置かれている霊子演算器トリスメギストスの元となったオリジナルというわけだ」

 

 仁慈達はそこでこの光景がカルデアの管制室に似ていることに気づいた。砂にその大部分を隠しつつも面影が残っているその風景を見ている仁慈たちを置いてホームズはあらかじめ回収しておいたアクセス権を使って彼の知りたいことを検索しようとする。

 

「で、結局君は何を知りたいのさ」

「これはレオナルド・ダ・ヴィンチじゃないか。……何か用かね?」

「用なら今言ったはずなんだけどね……」

 

 

 

「ははっ、わかっているとも。英国紳士たる者冗談の一つも言えないといけなくてね。――――さて、私の知りたいことだったね。それはあらゆる記録、記述から抹消された事件。2004年日本で起きた聖杯戦争の顛末を」


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