この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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この調子で行くと六章と七章の話数がとんでもないことになる気がします。


月夜に

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!」

「どうしたランスロット卿。円卓にて振るわれた卓越した技術……同じ騎士たちを散々ドン引きさせたそれをどこに置いてきたのだ。貴殿は『我が王』の命でここに現れたのだろう?」

「そ、それは―――!」

「言っている傍から剣筋が乱れている。騎兵として召喚された私ですら手間取るとは腑抜けに腑抜けたか」

 

 一度、また一度とお互いの剣がぶつかりあり、火花と共に甲高い音を月夜に響かせる。聖剣にして落ちてしまった剣であるエクスカリバーといずれ落ちてしまう宝剣アロンダイトが交わう姿は何処か込み上げるものがあると、その光景を見ていたダ・ヴィンチは思う。一方治療の済んだアーラシュは手を出そうかどうか考えていた。状況をみるのであれば確実に手を出すべきだ。元々ギフトを持った円卓は一英霊でどうにかできるような存在ではない。今サンタオルタが有利な状況にあるのはランスロットの心が乱れに乱れているからであり、もし通常の精神状態に復帰されれば勝ち目は極端に薄くなる。

 しかし、アーラシュはそこで短絡的に間に入るのではなく逆に考えた。サンタオルタというアーサー王が単騎で向かって来ているからこそあそこまで精神を乱すことができているのではないかと。実にままならない。

 

「お、王……」

「貴殿が王と仰ぎ、騎士として名を連ねているのは獅子王の円卓であろう。ならば、私を王と呼称することは貴殿の不忠を現すことになるぞ?」

 

 サンタオルタの言葉その一つ一つが確実にランスロットの精神にダメージを与えていた。もはや彼女が騎士の欠片もないサンタコスであることなどランスロットにとってはどうでもいいことである。今の彼は嘗ての王に咎められているのと何も変わらない心境にあった。……まぁ、それはそれで彼の望むとおりだったりするのだが。

 しかし、彼の後ろに道などできていない。例え獅子王が嘗てのアーサー王に似ても似つかないナニカに変貌していることに感じていても、騎士としての振る舞いではなく駒としての振る舞いを求められようとも、無抵抗の人々を殺そうとも――――既に此処に召喚された時点で彼は取り返しのつかない過ちを犯したのだ。生前のみならず死後呼び出されても、己の同朋をその剣で切り裂いたのだ。一体いまさらどのような面を下げて獅子王に物申そうというのだろう。既に道は決し退路もない。であれば己の足が止まるまで走り続けるしかないのだ。

 

 そう心中で決心したとしてもそこまで簡単に割り切れることではない。それは普通の人間であろうと英霊であろうとも、知性を、心を持つ存在であれば当然の事であった。内心穏やかとは言えないランスロットの隙を突き、サンタオルタのプレゼント袋が彼の顔面に直撃する。何が入っているのか全く分からず予想もできない袋の持つ謎の質量にランスロットは後方に吹き飛ばされることとなる。

 

「ゴッ……!?」

「はぁ……」

 

 例えどれだけ強くてもそれもそれを扱うことができなければ宝の持ち腐れ。嘗て聖者の数字の加護を受けたガウェインを退けた際に使うこととなったその戦法が自分に適応されるとは何たる皮肉だろう。

 現在は敵として立ちはだかっているとはいえ円卓最強と言われた騎士の姿にサンタオルタも溜息を殺すことができなかった。プレゼント袋をぶつけられて吹き飛ぶ姿なんて誰が想像したというのだろう。最早、このまま倒してやるのが王の務めであると思い肢体に力を込める。だが、込めた力を開放する時が訪れることはなかった。何故なら月明かりだけが周囲を照らす夜空に光の柱が唐突に出現したからである。

 

「なっ!?」

「っ!?」

 

 例外なくその場に居た人物たちがその光に視線を向ける。遠目で分かるほどの圧倒的な魔力。サンタオルタはその魔力は獅子王のものであると直感で理解した。が、解せないことがある。それはランスロットの表情だ。彼の表情は驚愕で埋め尽くされており、前もってことのことを聞かされていたとは思えない。つまりこれは獅子王が騎士たち―――少なくともランスロットには何も伝えてないで行ったことであることが推測で来た。

 そして、恐らく次はここを攻撃するということも理解できた。元々ここは既に敵対者として認識されていた山の翁たちの本拠地。仁慈達が居る居ないに関係なしにそれは行われる。

 

「――――――」

 

 同じ結論をランスロットの中でも下したのだろう。彼はすぐに態勢を立て直すとそのまま背後に大きく跳び上がる。そして、恐らく自分が乗って来た馬に飛乗りそのまま逃走を図った。このまま居ては巻き添えを喰らってしまうし、何より今の彼に勝ち目などはなかった、賢明な判断だと言える。

 

「―――これはただ事じゃなさそうだな」

「これほどの魔力反応―――聖剣に匹敵あるいは上回るほどの熱量だ」

「こちらもすぐに引き返す」

 

 ランスロットに逃げられた一同はとりあえず東の村に帰還することにする。逃げるせよ、対抗するにせよ一先ず集まらなければ始まらないのだから。というか、いい加減マスターである仁慈を起こさなければならないし。

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

「―――聞くがよい(五回目)晩鐘は汝の名を指し示した(五回目)告死の羽、首を断つか(五回目)――――告死天使(五回目)」

「もう聞けるかぁぁぁぁあ!!―――――――――はっ!?」

「うわぁ!ど、どうしたんですか、先輩?」

「えっ、マシュ?……あぁ、そういえば寝てたんだっけ……」

 

 目が覚めたらマシュに膝枕をされていた。何処かで体験したようなシチュエーションだったけど、それは別にいい。只、どうしてこうなったのかがわからずすぐに記憶を辿り直すと会議が停滞して、とりあえず寝ようというところになった場面まで思い出した。そして眠りについた俺は霊廟に連れていかれてさっきまで散々晩鐘を聴かされ続けていたということか……。

 

「結局、槍を渡してはくれなかったんだが……」

 

 ここで俺があの甲冑の大男と戦っていた理由を思い出す。第五の特異点で助けに入れなかったお詫びとして突き崩す神葬の槍を直してもらい、それを受け取るためにあのおっかない存在とひたすら戦っていた(告死天使を受けてただけ)のだけど。それらしい動作はなかった。もしかして夢の中に置きっぱなしとかあるのだろうか。もう一度寝たらもらえるとかそういうことになるのだろうか。

 

「よかったですね。マシュ様」

「静謐さん、様はいらないです。あと、心なしか距離が近すぎる気がするのですが……」

「気のせいです」

「そ、そうですか。コホン、それにしても先輩。無事に目覚めてよかったです。途中身体が薄くなっていったときはどうしようかと思いました」

「フォウ」

「マジか」

 

 現実に影響を及ぼしている件について。いや、むしろあれだけの攻撃を五回も受けつつ実際には消えかかる程度で済んだことがすごいのだろうか。もう色々ぶっ飛びすぎててよくわからないのだけれども。あまり寝た気がしないのだが、それはそれ。取り合えずまだ朝ではないために水だけ貰って再び眠ろうと思っていると、Xとサンタオルタの両方から同時に念話が入った。

 

『マスター大変です!すぐに出て来て下さい!』

『トナカイ緊急事態だ。早急に起きてこっちに来い』

「うるさっ……」

 

 声のトーンからしてかなり切羽詰まった状況だということは理解できる。であれば動かなければならないだろう。

 マシュに令呪を通した念話が聞こえたことを伝えて割り振られた民家から出る。そして、彼女たちの気配がある場所へと足を運んだ。そうしてダブルアルトリアことXとサンタオルタの元へとやって来たのだが、状況説明を聞くとどうやら獅子王がやらかしてくれたらしい。先程西の村がその攻撃にやられて消滅したというのだ。……正直、結構来ている。いや、普通に最近一緒に宴会をやって料理振舞った人が全員消えましたっていうのはクる。いくら頭がおかしいと言われていてもくる。

 

「………とりあえず、このままだとこの村も消滅するってことか」

「大体あってます」

 

 ひとまず思考を切り替えよう。少なくとも今考えてどうにかなることじゃない。このまま行くと俺達も二の前になってしまう。この場面を切り抜けてからじっくりその辺は考えることとしよう。

 さて、敵の攻撃は強大でしかも超遠距離攻撃が可能と来た。これで連射性があったら確実にアウトだが、恐らくこの段階で獅子王とやらは俺達が此処に居ることを知らないだろうから恐らく第二撃はない。一発でいいなら手段はある。

 

「仁慈、なんなら俺がやってもいいぜ」

「アーラシュさん……」

 

 名乗りを上げたのはアーラシュさん。確かにこの人なら何とかなるだろう。宝具も自信をもってそういえるほどに強力なものであると断言できる。しかし、それを使えば彼の肢体は爆発四散で座に還ることとなる。遠距離からの攻撃方法があまり充実していない俺達としては彼を無為にすることはできない。それに今回は先程も言ったように素電い手段があるのだ。

 

「今回は大丈夫です」

「そうか?」

「うちには負けず嫌いが二人もいますので」

 

 そうして、俺が視線を向ける先に居るのは当然ヒロインXとサンタオルタの二人組。アーサー王は負けず嫌いということはこの二人と過ごしていればすぐにわかる。しかも、相手は聖剣ではなく聖槍を手にいれた彼女達。聖剣の不老不死性を捨てて成長している彼女自身。聖剣を有している二人としては色々な意味で負けられないのではなかろうか。

 

「よく理解できているじゃないか。褒めて使わす、後でターキーを寄越すがいい」

「そうやって意外と私たちの好きにさせてくれるとこX的にポイント高いですよ」

 

 二人ともどうやら満足してくれたようである。

 

 

 

 空を見上げれてみれば、月明かり以外に光源と成り得るものが確認することができた。それは西の村を消滅させた破滅の光であり、俺達の居る東の村を消滅させようとする絶望の光であり、相手にとっては聖罰の光なのだろう。

 しかし、こっちだって一応人類全て背負い込んでいると言っても過言ではないのだ。未だに自分のことが一番かわいいが、それでも、他のものがどうでもいい……なんて考えなくなる程度には変わってきているのだ。変わってきているのだから、ここでどうにかしてみせよう。この光を、俺達が背負っている命の光で。

 

「令呪を以て命ずる。――――宝具を開帳しろ、アルトリア」

「――いいだろう」

「――承りました」

 

 令呪を一画使用してXとサンタオルタに魔力を回す。出し惜しみはなしだ。ここで討ち負けてハイ全滅しましたー、なんてことは許されない。であれば俺達は俺達らしく最初から全力で、遊びなどは一切せずに、ぶつかるべきだ。

 

 俺からの命令と魔力を受けて、二人のアルトリアは顔の前で構えた聖剣に魔力を回す。例え、セイバーのクラスで召喚されていなくても。例え、騎士の代名詞たる甲冑を着込んでいなくても。例え、円卓の騎士を従えて居なくても。例え、その恰好が威厳なんてホッぽり投げた姿であったとしても―――彼女たちは間違いなくアルトリア。滅びの決まった国を必死に守り続けた、知名度最高ランクの王。尚且つ彼女たちが扱うのは人々の願いの結晶。既に人理が燃え尽きようとも、受け取った祈りを己を媒体に束上げる。まぁ、片方は反転しているので集めているのは主に自分の膨大な魔力なのだが。

 

「「―――束ねるは星の息吹。輝ける命の奔流……受けるがいい……!」」

 

 魔力が吹き荒れる。その場で立っていることすら困難になりそうな爆風だ。

 その様子に気づいてくれたマシュが俺の前に立ち盾を構えてくれた。できた後輩である。やはり彼女は天使。

 

約束された(エクス)――――」

約束された(エクスカリバー)―――」

 

 ゆっくりと両手で構えた聖剣を振り上げる。そして、決して村に被害が及ばぬように角度を調整し、Xとサンタオルタはアイコンタクトでお互いのタイミングを図ることなく、それでいて全くの同時に真名開放を行った。

 

「――――勝利の剣(カリバー)!!」

「――――勝利の剣(モルガン)!!」

 

 人々の願いを乗せた光と闇の光源は空から強襲を図る獅子王の光と正面から激突した。

 ……確かに獅子王の力は強大だ。ギフトなんてものを聖杯を使わないで他のサーヴァントに付与できる時点で、普通のサーヴァントとは一線を画す力を秘めているに違いない。……けれど、戦いとは個人の強さを求められることもあるが基本的には数だ。どれだけ強力な個であろうとも完全に混ざり合った群に勝てる存在は少ない。

 

 唯々、純粋な光は強力だ。人々を引き寄せる力がある。それは理想だから、誰もがそれを目指す。獅子王が放っているのはそういう類の光だ。けれども、人間は善性(それ)だけでは生きていけないのだ。善性(それ)だけでは人とは呼べない。欲がある。目を逸らしたいくらいの深いものも、どうしようもない悪性も人間には存在しておりそれも必要なのだ。清濁併せ持ってこその人間と言っても過言ではないのだから。

 

 故に――――

 

 

「「はぁぁぁぁぁぁああああああ―――!!!!」」

 

 清濁(光と闇)あわせもったこちらが負けることは決してない。

 

 

 

 

 Xとサンタオルタが放った宝具は襲い来る破滅の光を食い破り、そのまま天へと駆け抜けていく。その後光の柱が消滅し、彼女たちが放った魔力が光の欠片となって俺達の元に降り注いだ。まるで星を砕きその雨を浴びているかのような感覚に陥ったのだが。まぁ、キャラじゃないし口にするのはやめておこうと思う。

 

 

 




CCCイベント皆様お疲れさまでした。メルトがとてもヒロインしててよかったと思います(血涙)

ま、まぁ、BBちゃんというアヴェンジャーキラーが来ただけいいとしましょう(震え声)

………そういえば、最終章で魔神柱たちを逃がす暇もなくボコボコにすればアラフィフと快楽天ビーストと戦わなくていいんじゃないでしょうか。

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