この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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MK5(マジで消え去る五分前)

 

 

「俺の矢は大地を割るぜ」

「なら我が剣はその矢すらも退けてみせよう」

 

 なんとも締まらない一言で始まったこの戦い。だが、対峙するはどちらも一級の英霊だった。片や、知名度はかなりのもの。かの有名な円卓の騎士……その中でも最強と名高い湖の騎士ランスロット。もう一方は中東に置いて弓兵の代名詞とされるアーラシュ・カマンガー。この戦い、本来であれば自分の距離に持ち込んだ方が戦況を有利に進めることができるだろう。

 しかし、今回に限ってはそうもいかない。アーラシュはランスロットの不意打ちにより負傷している。その為本来の力を引き出すことは難しいのだ。むしろ、致命傷ではないとは言え、傷を負いながらもランスロットの距離をこれ以上詰めさせないようにしている彼は流石弓兵の代名詞と言える。生まれ持った頑丈さもあるだろうが、精神力も大したものだった。尤もそれが長時間続くかと言われればその限りではないのだが。

 

「(あの攻撃が結構響いてるな。このままじゃジリ貧でお陀仏―――となると……)」

「(流石正統派弓兵の代名詞、というところだろう。我が盟友のように弓を勘違いしていない手堅い運び方だ……。が、今回ばかりは私の方が有利。ここは少々強引に突破する……)」

 

 お互いに思考し、同時にその考えを行動に移す。ランスロットはこのままではらちが明かないと防御を捨て、己の技量と鎧の強度に任せた強行突破を、アーラシュはスキル弓矢作成で四本の矢を生成して取り出し、5本の矢をつがえそのまま一度に放った。放たれた矢は各自自在な軌道を描きつつも偏にランスロットへと向かって行った。目まぐるしく軌道が変わる5本の矢を前にしても湖の騎士は平然とする。何故なら、彼が放った矢にはそれぞれ僅かな時間差が存在しているからだ。その隙を突けないようでは円卓最強は名乗れない。

 

 一番に殺到する矢を首を僅かに傾けることで回避、続く第二撃は上段からの振り下ろしで真っ二つにする。剣を振り下ろしたところに迫る第三撃の矢を剣を持っていない左手で掴むと、そのままその矢で第四撃を相殺する。最後に迫って来た矢は既に構えなおしていた剣で振り払い……加速。これ以上の追撃を行われないように全力を以ってアーラシュの懐へと潜り込んだ―――いや、正確には潜り込もうとした、だ。

 アーラシュは接近戦が本懐であるランスロットに迫られても険しい表情一つ見せなかった、いやむしろ笑っていた。ランスロットも当然これには疑問を抱く。そしてそれはすぐに目に見える形で現れた。

 

 キィィィィィン!!

 

「なっ!?」

 

 唐突に響き渡る閃光と不快な音響……そう、ダ・ヴィンチちゃんがトリスタンに使った閃光玉――その弓矢バージョンである。これには流石のランスロットも虚を突かれたらしく一瞬だけ動きが鈍くなる。

 アーラシュはその一瞬を活用し、その場からすぐさま離脱。バックステップを踏むと同時に同じく弓矢作成で作り出した矢を八つセットし、時間を置くことなく放つ。それだけではない。八つの矢を同時に放った後、彼はすぐさま第二矢を用意し、再びセット、発射する。それはまるで矢の雨だった。何なら疑似宝具とでもいえる有様だった。訴状の矢文が何処かで泣いているようだ。

 

 予想外の出来事による動揺と、弓兵の代名詞たるアーラシュが降らす矢の雨。並みの英霊であれば一撃貰うどころかとっくに座に還ってもいい猛攻である。が、相手は湖の騎士ランスロット。その技量は聖者の数字の加護を受けたガウェインの攻撃をも耐えきり、勝利するほどの人物。動揺を突かれたとしてもすぐさま我に返ると目にも留まらぬ剣裁きを披露し、ことごとく矢を打ち落としていく。

 

「(……この調子であればこちらは致命傷を受けはしないだろう。だが、同時に動くことができない。我が王から加護を受けているとはいえ、それでも無視できるような攻撃ではない……)」

 

 一瞬だけ巡る思考。彼は獅子王からのバックアップを受けている為、普通の英霊では太刀打ちできない力を持っている。今は余りにもアーラシュの戦い方がうまいだけで、並みの英霊では一太刀の元に切り伏せられていることだろう。

 そのような危機的状況でも、アーラシュは普段と変わることのない―――いや、普段よりも好戦的な笑みを浮かべている。ランスロットはそのことが気がかりになり、すぐにその理由を知ることとなった。

 

 彼とアーラシュの間に西洋剣が顔を出し、ランスロットの往く手を阻んだ。そのまま剣を振り下ろせば彼の顔は設置されている剣によって真っ二つになるだろう。まさか己の感知に引っかかることなく接近されることになるとは、と相手の手腕を認めながら振り下ろしている途中の剣を寸止めして後方に大きく飛退く。

 

「何者だ」

「――――久しいな、ランスロット卿。紆余曲折を経てフランスに引きこもった時以来か?それとも、いつぞやの聖杯戦争で剣とコンクリート棒を交えたとき以来か?」

「―――――(いや待て落ち着け、落ち着くんだ私。冷静に考えるんだ。今の聞き覚えのある声は幻聴だ。そう、私の愛が……我が王への愛が幻聴を聞かせるレベルにまで昇華されてしまったんだ。きっとそうに違いない。そうであってほしい、そうであってくれ……!)」

 

 声の主がいると思われる場所にゆっくりと視線を向ける。そこに先程まで凛々しく戦っていた騎士の面影は微塵も感じることはできない。見て取ることができるのは悪いことが見つかり、ゆっくりと怒られるのを待っている子どものようなオーラのみである。ギギギ……と錆びれたブリキ人形のようなぎこちない動きで何とか目標物を視界にとらえたランスロット。そして彼の動きは完全に止まることとなる。

 

「まぁ、いつどこで顔を合わせたのかなどと、最早どうでもいいことだ。私が気になるのは唯一つ――――――この地で何をしているランスロット卿?」

「…………OH」

 

 現れたのはランスロットにとっては最悪とも言える人物。こちらも獅子王とは別のベクトルでアーサー王とは認識できなかった。何故なら恰好は鎧のよの字も見当たらない服装であり黒いミニスカート。肩には体の三分の一は優に超える白い袋を携えているのだ。何処からどう見てもサンタクロースなのである。自分たちの主人が騎士を放り投げてサンタやっているだなんて誰も信じたくはないだろう。けれども―――それはそう思われているサンタオルタであっても、この場にはいないやばい方のアルトリア事ヒロインXであっても同じであったはずだ。嘗ての部下が、人理の焼却に一役買うばかりでなく、進んで無辜の民を手に掛けるなどたとえ反転し本来のアーサー王でなくても見たくはない。故に、

 

「―――貴殿が何を思い、考えこのような行動を取っているのか私にはわからない。だが、一線を越えてしまったものに向ける容赦も又なし。現マスターの方針によりランスロット、貴様をどんな手を使ってでも座に還す」

 

 彼女は戦おう。これ以上過ちを積み重ねさせぬように。生前は出来なかった王らしく、己の家臣を導こう。

 

「……あの嬢ちゃん、真面目な雰囲気も出せたんだな……」

「あれでもれっきとしたアーサー王だからね。割とまともな部類だよ彼女は。……おっと動かないでくれよ。治療しにくいから」

 

 サンタ・オルタの啖呵をちゃっかり気配を気取らせずにランスロットに近づく仕組みを生み出したダ・ヴィンチちゃんはランスロットの注意がサンタオルタに向いている隙を突いてアーラシュの治療を始めるのだった。

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

「私は悲しい。私の接近にすら気づくことのできない程度の輩に我が王の行動が妨げられていると思うと……悲しい……」

 

 そう、一人呟くのは円卓の騎士の一人トリスタン。背後には粛清騎士たちを従え、見開かれることのない目を仁慈達がいる村に向けていた。しかしそれもすぐに終わる。彼は相変わらず何の感情も見せず、なんのためらいもなく己の武器であるフェイルノートに指をかける。

 彼の武器は音を奏でて矢として放つ、アーチャーの根底をガン無視した武器である。故に初見での対処はほぼ不可能、故に彼はこの地で多くの命を奪ってきた。それは偏に彼らの主である獅子王の為なのだ。

 

「それでは――――」

「――――さようなら。常時睡眠野郎」

「」ポロロン

 

 

 ひとまず村に残っている人々を纏めて皆殺しにしようとしたその時、彼の頭上から一度耳にした声が届く。トリスタンは視線を上に上げることなくフェイルノートの弦に指をひっかけ弾いた。

 すると、フェイルノートから出た透明の糸のようなものが彼の頭上に張り巡らされ上からの襲撃を防ぐこととなる。頭上から強襲をかけた人物は舌打ちを一つしたのちに、トリスタンの目の前に着地を果たす。

 

「相変わらず面倒で厄介なトリですね。しかし――」

「――――苦悶を溢せ……妄想心音(ザバーニーヤ)!」

 

 トリスタンを強襲した人物の言葉を繋げるようにしてもう一つの声が響く。その声は同時に赤く細長い異形の腕を伸ばしてきていた。トリスタンは反射的にその腕に触れてはいけないと感じ、素早く弦をはじいた。

 美しい音色と共にあらゆるものを断つ見えぬ矢が殺到する。だが、不可視の矢が異形の腕を捕らえることはなかった。もう一人の襲撃者が当然のように邪魔をしたのだから。

 

「邪魔させませんよ」

「感謝いたします!」

 

 矢の妨害を受けることがなかった腕はそのまま引き続きトリスタンに触れようとする。だが、彼は自分の後ろに控えさせていた粛清騎士を一人目の前へと突きだし肉壁にした。

 既に宝具を発動してしまっている呪碗のハサンは己の宝具が後戻りできないところまで行ってしまっていることを自覚し、粛清騎士の疑似心臓を握りつぶして絶命させた。これには呪碗も堪えたらしい。仮面で良く見えないが、それでも苦虫でもかみつぶしたかのような顔を浮かべているだろう。それほどまでの好機だったのだ。今は。

 

「触れた相手の心臓を模倣しに握りつぶす――――なるほど、系統としては呪殺に入るわけですね……これが知れたのはいいことです」

「良いことじゃねーですよ。鳥公。今すぐ馬鹿な真似はやめて獅子王あたりを説得しに行きなさい。なんなら私が直接直談判しに行きますけど?」

「そのようなことをしても無駄です。もはや王は人という枠を超え、一つ上の次元へとその存在を昇華させたのですから」

 

 唇の両端を吊り上げて語るトリスタン。その姿はとても似合っているが、ヒロインXと呪碗のハサンはそんなこと考えている場合ではなかった。正直、ここまで攻め込まれてきたことが予想外だったのだ。山の結界仕事しろと言いたくなったものの自重をすることにした。下手なこと言えば首出し案件になる可能性があるからだ。

 

「さぁ、天を見上げてみなさい」

 

 指を真っ直ぐと上に突き出したトリスタン、そしてその指に釣られて視線を空へと上げ、彼らは度肝を抜かれることになる。

 

 夜にも拘らず太陽と変わらない強烈な光を放つ筒状のものが空を駆け巡る。それは超巨大な流れ星のようで一直線に西の村へと向かって行った。――――そして、響き渡る轟音と共に西の村を一瞬にして無に変えたのである。

 

「なっ――――!?」

「ここまで堕ちましたか……というか、鳥公。貴方円卓の騎士としてよりも、獅子王に仕えようというのですか」

「何を言うのです。我々は獅子王の円卓として此処にあるのですよ?」

「ギフトにはタチの悪い洗脳効果でもついてるんですかねぇ」

 

どう考えても正気ではない。さすがのヒロインXでももはや茶化している余裕すらもなかった。幾ら何でも反転したというだけで此処までなるのはおかしいと考えているのだ。それに事実、村単位で攻撃をされ、跡形もなく消し飛んでいるところも見てしまった身としては、なんとかしてこの状況を覆さなければならなかった。

 

「……そろそろ時間ですか。それでは、アサシンとなった我が王。私は撤退させていただきます。皆殺しにはできませんでしたが、足止めの任は十分に果たしましたので」

 

踵を翻し、トリスタンはその場から去って行く。残されたのは、この村があと数分後には跡形もなく消え去ってしまうかもしれないという事態になることを知っているアサシン二人組だけであった。

 

 

 

 




一方その頃。

「聞くがよい(3回目)、晩鐘は汝の名を指し示した(3回目)……告死の羽根、首を断つか(3回目)ーーー死告天使(3回目)」
「ウボァー」

「あぁ……!なぜか先輩の身体が透けて来てます!?」

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