この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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……大変お待たせしました。


進まない会議はテンプレ

 

 

 

 静謐のハサンを助け出し、宴を終えた俺達は東の村へと帰って来ていた。やっていることは今後のことを話し合っている最中である。カルデア勢に現地で会ったベディヴィエール、三蔵法師、俵藤太―――そして、山の翁+α(アーラシュさん)である。百貌さんは他の村を率いている山の翁と村で戦えそうな人たちに声をかけてくると言っていた。

 

「私が知っている聖都の中はこんな感じね。……最も、この情報も役には立たないとは思うけど……」

 

 聖都の中へと入ったことがある三蔵。彼女の話を聞き、内部の地図を作っている。それでも重要部分の詳しい構造は知ることができなかった。まぁ、外部の人間を招き入れるのであればその程度の警戒はして当然だし、何より向こうにはアグラヴェインがいる。あの騎士というよりは参謀と言える彼がいる限り、ここで弱いところを見つけたとしても既に改善しているはずだ。

 あそこで取り逃がしたということは向こうにある程度の戦力が割れたということ。今回は相手が油断していたからこそよかったものの、次からは俺のことをマスターとは見ずに排除の対象として見てくるだろう。……それらを考えると次の激突は中々に厳しいものになる気がする。

 一応、あの壁を乗り越えその上に乗りひたすら攻撃を繰り出すということもあるが、聖都に居る一般人と言える人たちを巻き添えにする上に非効率的で尚且つそんなことをやったら確実に潰されるだけである。

 

「アグラヴェインも逃がしちゃったからな。確実に対策は立ててるだろう」

「特に仁慈殿には手痛い仕打ちを受けているが故、その警戒度は並ではないでしょうな」

 

 本当にあの場面で意地でも仕留めておけばよかった。……まさか、マシュと俺以外全員静謐の毒で軽い麻痺状態に陥っているとは思っても居なかったわ。アーラシュさんは連れてくるべきだったと思いました(小並感)

 

「考え直してくれてよかったと思うよ。私はね」

 

 だって悪役ルート確定しちゃうから、と付け加えた。それに関しては完全に同意である。俺だってそれはないなと思ったからね。そもそも現実味もないし。

 

「次に仕掛けてくるときは迂闊に単独行動はとらないと思われます。……マシュ様の話を聞く限り、我々は既にモードレッドの撃破に成功している為もはや取るに足らない敵と見られることはないでしょう」

「うむ。恐らくあれは一人につきサーヴァントが複数人。最低でも二人、安全をより確実なものにするためには3~4騎は必要であろうよ」

「藤太君の意見に私は全面的に同意するよ。獅子王から賜ったギフトの力は相当に厄介だ。……今の私達には対円卓の騎士用の秘密兵器(という名のアルトリア’s)が居るからわかりにくいけど、正面から戦えば三騎で相手しても危ないかもね」

 

 自他ともに天才と認めるダ・ヴィンチちゃんは改めてその事実を口にした。そう、確かにそうなのだ。ここに居るのはどのサーヴァントも一級の力を持っている。ハサン達だって直接的な戦闘能力は低いかもしれないがそもそも畑が違う。彼らには彼らの強みがあり、また乱戦の中ではその強みもいくらか引き出すことができるのだから、戦力としては申し分ない。

 

 だが、獅子王の与えたギフトがその戦力差を均衡、いやそれ以上に引き上げている。あのギフトには恩恵を与えるほかにも何かしらのブーストがかかっているのだろう。それこそ聖杯のようなナニカによって。

 

 彼らが獅子王から賜っているギフト。聖杯はオジマンディアスが持っていることからこれを経由していないことは明白である。ということは獅子王は自力でそのような恩恵を与えることができる存在となる。しかし、そのようなことが本当に可能なのだろうか。獅子王もこの地に召喚されたサーヴァントではないかと思うんだけど……。

 なんてことを考えている時、ふとこちらに向かって来ている視線を感知した。意識を向けてみればそこには静謐のハサンにギュッと抱きしめられた頼りになる後輩の姿が。改めて見てみると物凄く百合百合しい絵面だと思う。何事か、と視線で尋ねてみる。

 

―――静謐さんが様付けで呼んで来て尚且つ離れてくれません。どうすればいいですか、先輩!

 

―――諦めてください。

 

―――!?

 

 済まないマシュ。非力な私を赦してくれ。正直、そんな女の子の対応なんてわかるわけないのだから。

 

 これまで五つの特異点を越えたことによって可能になったアイコンタクトでそのようなやり取りを繰り広げつつ、話題は残っているであろう円卓の騎士や彼らが持っているギフトに変わっていた。

 まぁ、円卓の騎士がどの程度居るのか、なんてことは物語によって違うらしいので正確な数は分からないとのこと。ヒロインXやサンタオルタだって円卓の騎士はどのような人物だったのかということは教えてくれが、何人この特異点に居るのかはわからないと言っていた。

 では現在遭遇している円卓勢のことはどうか聞いてみた。

 

「あー……今まで確認できている円卓の騎士たちについてですか……」

「ふむ。簡潔に答えよう。ガウェインは料理を根本的に勘違いしている借金取り、ランスロットは自覚無き傍迷惑、トリスタンは空気が読めず、アグラヴェインは真面目……こんなところだろう」

 

 すごくざっくりとサンタオルタが言ってくれたのだが……これを真実と受け取っていいものなのだろうか。このサンタオルタ、ベースがアルトリア・オルタのままなのでくだらない冗談を言うような性格でないことくらいは当然把握している。しかし、今彼女の口から出て来た言葉を肯定するのはどうにもはばかられた。特に、彼らの出現によって辛酸をなめさせられまくっているハサン達の前では。

 

「すみません、マスター。一から十まで全部本当なんです」

「くっそマジか」

「この情報ではだめだったか……」

「そりゃそうですよ。今の情報、戦闘に全く役に立たないじゃないですか。全くこれだから脳内プレゼントボックスは……」

「常時スレイヤー思考の危険人物だけには言われたくないがな。そこまで言うのであれば言ってみろ」

 

 売り言葉に買い言葉、というにはあまり殺伐とした感じはないけれども何はともあれ今度はXが円卓の騎士たちのことについて話してくれるそうだ。まあ、何十分の一くらいの比率で期待している。

 

「フフフ……いいですかマスター。手始めにガウェインです、彼はロリ巨乳好き。次に鳥公、あの野郎は人妻スキーです。ランスロットは女ならだれでも口説きますし、アッくんはホモです」

「―――――――――――――――」

 

 

 ……やっぱり駄目なんじゃないかな。円卓。

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

――――ゴーン、ゴーン。

 

 あれからのことだけれど、結局話し合いは発展することはなかった。なんていうのだろう。アーサー王直々の部下紹介で皆お腹いっぱいになったのだ。もはやギフトだなんだという話題にすら行く気がなくなった。時間がないのは百も承知なんだけれども、流石にあの後に真面目な話に行こうとは思わなかったらしい。

 

 というわけで睡眠をとっているわけなのだが。

 

「油断した……」

 

 特異点の中、ついでに言えば師匠も居ないから夢の中であれば安全だと思い込んでいた。だが俺の現状はどうだ。周囲を見渡してみれば先程まで俺が寝ていた部屋など見る影もなく。唯々蒼い炎が薄暗い周囲を照らすだけの空間。つい最近訪れ、とんでもない化け物みたいな人物に殺されかけた最新のトラウマ地点である。寝る直前に妙に聞き覚えがあって尚且つ寒気を覚える鐘の音を聴いたと思ったらこの様だよ。即堕ちニコマと同レベルの伏線回収速度だ。

 

 さてこれが現実か夢かによって対応はかなり変わってくる。夢であればこのままゆっくりとこの場を立ち去るし、現実であれば自分の持てるすべての力、技術を以てして脱出を図る。当たり前だ。誰が嬉しくて精神に負担がかかる場所に止まらなければならないのか。

 

『―――魔術の徒よ』

 

 はい、逃げられませんでした。

 忽然と現れたのはいつぞや対峙した甲冑の男。相変わらず髑髏をあしらった鎧と髑髏の面を付けていて威圧感が半端じゃない。

 ただ今回は前回のように戦うという感じではないらしい。少なくとも前回使っていた剣を杖よろしく地面に刺している時点で今すぐやり合おうということはないだろうし…………しかし怖いもんは怖いんだけどね。

 

「はいなんでしょう」

 

 恐怖のあまり敬語が自然に出てくる始末。これほどの相手は師匠以外、ほとんどいなかったわ。

 

『怯えずともよい。ここは汝の夢想の内、実体に影響など出ぬ』

 

 親切にも教えてくれました。髑髏の仮面を被っている人には律儀な人しかいないのだろうか……その辺のことを考えつつも俺は内心で驚愕していた。 

 この人、人?(多分)人のことを知っているわけでは決してないのだが、それでもこの人は今の俺のように他人に対して過剰に反応するタイプには見えない。どちらかと言えば厳格な対応で、何事にも一先ず対価を貰ってからというイメージがある。勝手なものだけど。

 

『此度、我が現れたのは乞われたからに他ならない。そもそも、このような真似は出来ぬが故にな』

「乞われた……?」

『人理を決定づける時代―――狂わされた5番目のそれに置いて、何の役にも立てなかった侘びだと、そう言伝を預かっている』

 

 つまり彼は頼まれてやって来たということだろうか。誰が頼んだのかは知らないけれど、とりあえず心の中でお礼を言っておこう。

 

<アハハ~コレカラサキノコトヲカンガエレバコノクライヘイキサ―

 

 幻聴が聞こえたような気がしたけれども聞かなかったことにした。

 

「それでその人の要件とは……?」

『――これである』

 

 言って、甲冑の男が出したのはクー・フーリン【オルタ】に砕かれ、目の前の人物によって完全にバラバラになったはずの突き崩す神葬の槍であった。馬鹿な、奴はもう死んだはず……!

 

『これを汝に受け渡す。それが此処に現れた理由だ』

「は、はぁ……」

『――――しかし、渡し方は一任されている』

「えっ」

 

 こちらに出された槍を受け取るために手を伸ばすが、俺の手が槍を掴むことはなく虚しく空を切った。

 ――――ちょっと待とう。このパターンは何処かで見たことあるぞ。強制戦闘に進む流れだろう。散々師匠で予習(強制)してきたからわかるぞ。

 

『構えよ』

「あっ」

 

 地面に突き刺していた剣を引き抜き、身体から黒い煙を出し始めた甲冑の男を見て俺は悟る。これから始まるのは、夢の名からだからという免罪符を手に入れた奴らが行う蹂躙劇。常人には耐えられず、たとえ耐えたとしてもそれ以上の地獄が待っているというまさに地獄の一丁目(入口)である。満足さん大歓喜だ。

 

『彼のものの粋な計らいにより、現実とはほぼ完全に隔離されたも同然……我が信仰()による取捨選択をとくと刻むがいい』

「取捨選択……?」

 

 どうしてどいつもこいつも直接的な言い回しじゃなく、態々遠回しの言葉を選ぶんでしょうかねっ!

 

 表現が悪いがコンロの火を一気につけたような音を立てたのちに、蒼い炎が甲冑の男の姿を包み込みすぐに姿が消える。その後やはりいつぞやのように俺の死角に彼が蒼い炎と同時に出現した。けれど前回よりも気配の隠し方が巧妙になっている当たり、今の俺であればこの程度いけると捕らえられたのだろうか。少しだけ複雑である。だって死にそうな気持になるんだもの。

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

 

「ははっ、全くあいつらは面白いなぁ」

 

 月も空の上に現れて輝いているような時間。独り、村の外にでて斥候を行っていたアーラシュは一人でそう呟いた。

 彼が思い返すのは昼間行っていた作戦会議の様子である。もはや会議というのではなくただの雑談に近いものだったが、それでも緊張に緊張を重ねたような空気を打ち壊すことくらいはできたであろうと彼はそう思っていた。

 

「呪腕殿は責任感強いからな。近々動き出すってこともあって気づかないうちに自分を追い込んでいることもあるから……そういう時に限って人間ってもんは失敗するしな!」

 

 思い返すのはガリガリの身体に自分の顔に縫い付けるような面を付けた呪腕のハサン。この特異点に召喚されてから結構な時間一緒に居るのだから似たような場面も見て来た。真面目すぎるが故に責任感が強い彼に緊張感を完全になくせとは言えない。しかし溜め込みすぎてもよくはないのだ。

 その点を踏まえればカルデア勢はいい仕事をしていると言える。天然ものの漫才は見ているだけで緊張をほぐしてくれるようであったらだ。

 

「…………」

 

 そこまで考えて、アーラシュは視線をある一点に向ける。そこには何もないただ普通の山道が続いているだけではあるが、どうにも彼はその一点が気になった。そこに確かな確証や証拠はなくしいて言えば勘としか答えられない。けれども、そういった獣染みた勘は時として奇跡をもたらすことがあるのだ。そう、例えば――――

 

「―――――っ!?」

 

 唐突に繰り出された認識外からの攻撃を回避するといった具合に。

 

 アーラシュが反射でその場から飛退いた直後、彼がいた地点に物体が通過していった。空を鋭く裂く音が響き、刃に触れずとも斬られてしまうのではないかと思わせるほどの剣戟。故に反射的に回避行動を取ったアーラシュは完全に翻しきれずにその身体に浅くはない傷を負った。

 常人よりもはるかに頑丈な身体を誇る自分を傷つけた事から彼は遂に円卓の騎士たちが攻めてきたことを悟った。そして、自分が対峙しているのは恐らく何らかの形で気配を消すことができるスキルないし宝具を持っているのだと。

 

「……今の一撃で終わらせるつもりだったのだが。やはり一筋縄ではいかないか。成程、アグラヴェインが警戒するだけのことはある」

 

 現れたのは紫の甲冑を着込んだ騎士。その瞳と髪の色は鎧と同じ紫色をしており、女性を何人も虜にできそうな甘いマスクであった。その情報からアーラシュは今日の会議にて手に入れた情報と照らし合わせていく。

 

「成程、お前さんが藤太殿が言ってたランスロットだな」

「私を知ってもらっているのか。光栄だな」

 

 アーラシュの指摘に動揺することもなく答えるランスロット。どうやら彼は自分の一撃をやり過ごすほどの相手に名前を覚えてもらっていることが嬉しいようである。しかし、その感情も次の瞬間には霧散することとなった。

 

「あぁ。うちでは最大級の警戒対象だ。通称、女殺しのランスロット。半径十メートル以内の女は視線だけで孕ませるってな」

「いったいどこの誰だそんなこと言った奴は!?」

 

 嫌な覚えられ方だった。これなら無銘状態の方がまだましであるとランスロットは切に思った。そして必ずやこのような謂れの無いことを広めた人物を粛清すると心に決めた。

 が、現実は非常である。彼のこの呼び名を広めたのは何を隠そう彼が敬愛してやまないアーサー王その人なのだから。

 

 

 

 

 

 こうして今一締まらないまま、静かに初戦は始まった。

 

 

 

 

 

 

 


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