この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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この結果を予想できた人は……特に何もありません。


予想外デス

 

 

 

 

 ひとまず暗闇に紛れて砦の中に侵入することはできた。全員が音を立てず、尚且つ兵士たちに気づかれることもなかった。流石に四次元鞄と言えども元々入っていないものは取り出すことはできない。結果的にダンボールは今回お流れとなった。

 砦内に侵入と同時に呪腕のハサンの尽力あって、すぐさま地下牢への入り口を見つけることができた。彼曰く、人間の心理を突けばこの程度は造作もないらしい。こういった場合、仁慈はエコーロケーション擬きしかないため、若干羨ましそうにハサンを見ていた。

 

 しかし、すぐさま仁慈は顔を真剣なものへと変貌させた。同時に呪腕のハサンも同じように弾かれたように顔を上げる。これまで幾度となく見て来た仁慈の対応にマシュが気付き戦闘態勢に入る。

 

 ――仁慈と呪腕のハサンが感じた気配。それは彼らにとって感じ慣れた気配と言ってもいいものだ。呪腕のハサンは言わずもがな、仁慈に関してもこの手の気配は小川ハイムと監獄塔でそれこそ嫌になる程知り得たもの……それ即ち、この世ならざる者達のもの。生きている者たちを羨み、妬み、憎み……自分たちと同じ領域に引きずり堕とそうとする者達。すなわち怨霊である。

 

「ふぅむ……此処の地下牢、昔あったものをそのまま使っているようですな。どうにもよくない者たちが住み着いてしまっているようだ」

「数は十と少しってところか……」

『その通りだよ……。というわけで、ゴーストのエネミー反応が接近してきている。できるだけ、他の兵士たちに気づかれないようにしてくれ』

「え、何?怨霊?なら私に任せて!観自在菩薩、行深般若波羅蜜多時。照見五蘊皆空、度一切―――さぁ、みんなまとめてぶつけなさい!どんな未練を残そうとも、まとめて成仏させてあげる!」

 

 怨霊ということで名乗りを上げる。そう、いくら抜けていようともそれでも彼女は高僧である。こういったことはお手のもの……いや本業なのだ。しかし、そのまま戦闘に入ってしまっては兵士たちに気づかれてしまう可能性がある。そこで仁慈は三蔵と呪腕のハサンに耳打ちをした。

 

 仁慈が耳打ちしたこと。それは、呪腕のハサンが三蔵を抱え怨霊たちに音もなく気配もなく接近し、耳元で三蔵が経を唱えていくというものである。呪腕のハサンの気配遮断と足を以てすれば暗殺にも似た成仏をも可能としたのだ。……まぁ、周囲から見ればこれ以上シュールな光景もなかったと思われるが。

 

「骸骨の人!次はあっちお願い!」

「承知」

 

 山の翁として生きているためか粛々と仕事をこなしていく呪腕のハサン。彼は文句を言っていいと誰もが考えた。

 

 

 怨霊を全員まとめて成仏させた仁慈達は再び明かりが不十分な道を進み始めた。しかし、兵士の気配は愚か捕らえられているはずの人たちの気配すら感じ取れずにいた。そこで痺れを切らしたのが三蔵である。彼女は今にも泣きだしそうな顔で「トータ」と恐らく彼女がはぐれた仲間であろう人物の名前を呼んでいた。

 

 返事がない――――それがさらに三蔵の不安を煽りたてる。……もしかしたら、という畏怖を感じた彼女だったが、彼女の考えを否定するかのようにいつの間にか再び現れていたフォウが吠えながらどこかに走り去っていった。どうしたことかとマシュが先にフォウを追いかけ、さらにマシュに他の人たちが続いた。

 

 フォウが見つけたのは隠し通路だった。ご丁寧に結界を張り、気づかれにくくなるような加工が施されている。その結界はどうやら他人の盲点を突くようなものであったため、物理的な障害ではなかったようだった。

 マシュが、三蔵を呼び彼女が返事をする。その二人の会話に聞いたことのない声が割り込んできた。三蔵はその声に対して「トータ」と心底安心した声を上げる。どうやら、彼女の目的となっている人物を発見することができたようだ。ただ……。

 

「ぎゃー!みんな、敵よ!迎撃、げいげーき!」

 

 トータという人物を見張っていたらしい動く石像のようなエネミーに当然の如く気付かれ、応戦することになったのだった。

 

 

――――――

 

 

 

「ほほぅ、どうやらそろそろ働き時と見た。では動くとするかっと……」

 

 トータと呼ばれた人物は、外見からして日本のサーヴァントだと予想ができた。…だって着物っぽいの来てるし、米俵担いでるし、弓持ってるし……一つ一つならともかく特徴が三つ……来るぞ遊馬!されてしまってはそう考えてしまうのは何処もおかしくないな。

 

「えぇ!?今普通に出てきましたが……」

「いつでも出られたからな、寝て過ごしてた。時たま此処の兵士に飯を分けたりしながらな。だが、それも飽いた。三蔵をも仲間にするお人よしが此処に来た――――そろそろ動くときなのだろうよ」

「こらトータ!意味深なことを言うよりも先にまずいうべきことがあるでしょう!猿ですか貴方は!」

「おっと。確かに拙者は名乗ってなかったか。済まぬ、どうやら己で思っていたよりも舞い上がっていたようだ。――――――サーヴァント、アーチャー。真名は俵藤太と申す。そこに居る三蔵の世話をしていた者だ」

「お世話じゃなくて護衛でしょ!全く、弟子はお師匠を守る者なんだからね……だから、もう勝手にどこかに行っちゃだめよ」

 

 しおらしい三蔵ちゃんである。これには藤太というアーチャーも予想外だったようで若干たじろいていた。その後に聞いた話だと、この砦を面白そうと言って突撃した三蔵について行った挙句置いて行かれてこうなってしまったらしい。……何も言うまい。

 

 もっと詳しく話を聞くと彼は紫色の鎧を身に纏った騎士と遭遇し、自分の身体のコンディションと実力差から早々に降伏。こちらで捕虜として捕まっている間に睡眠などのことを行って回復を図っていたらしい。凄まじい度胸である。

 

「それよりもトータ。この骸骨の人と同じような人、知らない?」

「……?―――っ!?しゃれこうべとは面妖な……」

『文字通り?』

「ロマン、お黙る」

『はい……』

「―――ふぅむ、同じ仮面をつけているかどうか、ということは分からぬがこの奥に後一人、囚人がいるはずだ」

 

 藤太の言葉で全員が奥の方へと視線を向ける。この近くに罠なんて合っても驚かな――――そうだ。

 

「ごめん、ちょっと先に行ってて」

「……仁慈殿?」

 

 そこで俺は思い出す。

 この地下牢はまるで迷宮のようになっており、入るものを捕らえるようなつくりをしている。しかし、この隠し通路の中は比較的道が狭く作られており、奥に続く道も基本的には一本道だ。

 

「ロマン、地上の反応は?」

『……もうアグラヴェインたちは到着するだろうね。目と鼻の先だ。正直、脱出する前にこちらに来る可能性は決して低くない』

「了解。ありがとう」

 

 その言葉を聞いて、俺は実行することにした。

 一本道で、尚且つ俺達が脱出するまでに間に合わないというのであれば、ここに罠を仕掛ければいいのである。

 百貌さんを信じていないわけではないが……ほら、あの人どこか抜けているというか……うっかり属性というか……捨て駒にされた挙句再び捨て駒にされて愉悦されそうなオーラが出てるからさ。

 

「というわけで、先に行っといて」

「いやぁ、しかし……」

「では拙者が此処に残ろう。済まぬが、こやつを頼んだ」

 

 言って名乗りを上げたのは俵藤太。彼は背負っていた三蔵を呪腕さんに渡すと俺のすぐ近くまでやって来てどっしりと腰を下ろした。一応サーヴァントが近くに居ることと、それ以外にもそこまで距離が離れていないことから彼らは納得して先に行く。その間に俺は自分が持っている道具を鞄から取り出すと同時に、ルーンや魔術の発動に必要な紋章を書き記していく。

 えーっと、確かこれが悪夢を見せられる魔術。こっちはトラウマが再発するルーン……んでもってこれは……。

 

「ほう、これはこれは。摩訶不思議なものから原始的な物まで、千差万別よな」

「同じものばっかりだとすぐに対応されそうだし」

「道理だな。どれここは拙者も手伝うとするか。ほら、物を渡せ」

「ありがとう。これはこう取り付けてね」

 

 どうやら手伝ってくれるらしく、一度下ろした腰を彼は上げた。お礼をいってから俺は鞄の中に存在している武器と道具を取り出して彼に託す。……上の方が少しだけ騒がしくなってきたところを見るとどうやらアグラヴェインたちが到着し、百貌さんと戦いを始めたのだろう。

 

「……こんなものか?」

「そう。これで最後っと……。よし、行こうか」

 

 今仕掛けられることは全て仕掛けることができた。

 目的を終えた俺達は改めてこの通路の奥にある牢獄へと向かう。

 

 

 そして、俺達が見たものは。

 

 

 床にべったりと固まった血の跡。

 壁に並べられている明らかにR-18(Gの方)規制がかかりそうな器具の数々。

 そして、

 

「―――♪」

「えーっと、どうすればいいのでしょうか?」

『キマシタワー?』

 

 困惑するマシュ。その背後にくっついている褐色の肌を持った少女の姿だった。

 ……まるで意味が分からんぞ!?

 

 

 

――――――――――

 

 

 

『と、今までの状況はこんな感じかな』

「はぁ……」

 

 ロマンから説明されたのはマシュにくっついている少女の事。彼女はここに囚われていた山の翁の一人であり、先程発見した時はかなり衰弱しきっていたようだった。そんな彼女に優しくマシュが話しかけた結果ああなった……というわけではないらしい。

 何やらサーヴァント特攻がついている(呪腕さんの予想)らしい黒い鎖をベディヴィエールの銀の腕で切り裂いて解放した際に、少女―――静謐のハサンは体勢を崩してしまったらしい。それをマシュが受け止める―――どうやらこの行動が原因らしい。

 

 なんでも彼女の身体は蟲毒のようなものらしく、あらゆる毒物を含んでいるらしい。故に彼女に触れれば死ぬし、吐息を吸い込めば死ぬし、近づけば死ぬ。このことを本人は酷く気にしていたというのだ。が、ここで自分に触れても何ともない存在――つまりマシュが現れた。彼女の中に居るサーヴァントはあらゆる不浄を清める性質を持っていると予想されており、その効果は俺にまで及ぶほどに強力だ。当然それを使っている本人が毒にやられるわけもない。静謐も静謐で自分に触れて死ななかった人は初めてらしくその……えらく懐いてしまったのだという。

 

「ど、どうしたらよいのでしょうか……?」

「うーむ、それは俺よりも呪腕さんに聞いた方がいいと思うよ」

「これ静謐の。今は控えよ」

『そ、そうだね。百貌のハサンがどのくらいの時間持つのかわからない。合流も無事にできたことだし早く外へ……』

 

 

 

<な、なんだこの槍は!?

<ちっ、用意周到な。

<あ、頭の中から……トラウマが逆流する……!ギャァァァッァァァ!!??

 

 

「………思ったよりも早かったな。もう少し余裕があると思ったけど」

『そんなことよりも、君は一体何を仕掛けたのかな!?』

 

 今あるもので最大級に凶悪なものを数個ほど。

 

「よっと……」

 

 悲鳴が聞こえてきたということは少なくとも隠し通路まで進行して生きているということ。そして、ここまでは一本道で遮るものも少ない。つまりここから飛ばすものを遮るものは何も無いということだ。それは向こうにも言えることだが、叫び声を聞くにそんな余裕はないろう。

 

「―――投擲!」

「成程、そうするか。では拙者も―――疾っ!」

「シャッ!」

 

 状況と俺の行動でやりたいことが分かったのかここぞとばかりに遠距離攻撃をぶちまける。

 ベディヴィエールからの視線が痛い。しかし、これが俺達のやり方だ。正々堂々?フハハ!そんなものは知らん。勝てばよかろうななのだァ――――!!

 

「これは酷い……」

「慣れてくださいベディヴィエールさん。これが常なので」

「………」

 

 ひたすら撃つ、撃つ、撃つ。

 弓矢のストックがなくなるまで撃ちまくる。……数分間撃ち続け、俺の矢のストックがなくなった段階で攻撃を中断する。とりあえず気配の方を探ってみると、残っているのはサーヴァントの反応が一つと、粛清騎士に()()何かの気配が三つ。どうやらその三体がアグラヴェインと思わしき存在のことを守ったのだろう。俺達が放った矢のいくつかは弾かれていたようだ。

 

「………随分な挨拶だな。そうは思わないかね?時すらも越えた展望台の魔術師殿」

「聖都ではあれよりも熱烈な歓迎を受けたし、こっちの時代の文化はこんなのだと思ったんだけど、違った?」

「フン、食えん奴だ」

 

 アグラヴェインは俺から視線を外し、そして三蔵に視線を向けていた。あっくんだのなんだのと三蔵は三蔵で緊張感に欠けるやり取りをしていたが、その会話の内容は一聴の価値がある。この世界には既に果てがあり、オジマンディアスですら自軍を守るという方針を取っている。それは何処の勢力も変わらないという。そして尚且つアグラヴェインは言う。難民たちを聖罰するのは無用な混乱を避けるため。聖都という場所に対しての恨みを残さないようにするためだという。……ただ生きることが困難なこの荒野で野垂れ死にするくらいなら―――という慈悲でもあるとも言っていた。

 

 結局会話はアグラヴェインが打ち切る形で終了したのだが、三蔵が彼に問いかけたこと。獅子王はもはや人の心を持っていないという言葉が妙に気になる。

 

「―――自らの足であの砂漠を越えたか。どうやら私は貴女を侮っていたようだ。……交渉は決裂だ。粛清を開始する」

「ちょっと、シツモンに答えなさいよー!そんなことだとあたし本気出すわよ!」

「………嘗て宮廷で逆上し、多くの同胞を切り殺した挙句、自国に逃げた愚か者がいる。この粛清騎士たちはその男を参考にして強化してある。あさましい狂犬の剣だが、反逆者には相応しいだろう」

 

 そうして前に出てきたのは先程俺達の矢を弾いたと思われる粛清騎士。姿形から理性は感じられずクラスで表すとしたらバーサーカーというところだろう。

 

「先輩。どうしてでしょうか……あの騎士たちを見ているとどこか胸がムカムカすると言いますか……」

「えっ」

「宮廷で暴れた愚か者……あぁ……納得です」

「えっ」

 

 ベディヴィエールも納得するとかどういうことなの……。その辺のことは気になるが、とりあえずやるべきことは――――

 

 

「粛清開始―――対象は、そこのマスターだ」

「えっ」

 

 アグラヴェインの号令と共に粛清騎士はその場にいるサーヴァント達を全て無視して俺の方へと向かってきた。足運び、剣の振り上げ速度、そして狙い。強化したということは嘘ではないらしい。

 そしてここまで頭脳戦というかまっとうな戦い方をする相手は初めて出会った気がする。そうだよな。戦いを行うなら中心人物を狙うのは当然のことだよな。

 

 

 妙な感動を覚えつつ、俺達はこの特異点に来てから何度目かわからない粛清騎士たちとの戦いを開始した。

 

 

 

 

 

 

 




遅くなって申し訳ないのですが、さらにこれから更新速度は遅くなると思います(CCCコラボ)

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