この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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執念タリテルー

 

 

 

 

 

「な、なんと凄まじい……」

 

 仁慈の治療を受けていた百貌のハサンは思わずという風に言葉を溢す。その言葉はこの場に居る全員の心境を代弁でもあった。

 目の前に広がるのはもはや騎士同士の戦いではない。自然災害と化したヒロインXが一方的にモードレッドを攻撃している―――蹂躙劇なのだから。

 

 なんだかんだで第一特異点から行動を共にしている仁慈達ですら見たことのない剣戟。左右交互に振り下ろし、モードレッドの鎧を抉りながらも加速するそれは、彼女自身が放出している魔力も含めてまるで台風のようだった。モードレッドも己の持つクラレントを振るいヒロインXの剣戟に対応していくが、手数が、技術が、力が明らかに違っていた。

 ……それもそのはず。モードレッドの授かったギフトは暴走。使い捨てを前提としたそのギフトは彼女の魔力を含めた全てを暴走させる代わりに爆発力に置いて、右に出る者はないほどの破壊力を発揮することができるのだ。しかし、デメリットは当然存在する。暴走しているが故に細かい調整は当然効かないし、それ以外の戦いにも暴走の影響が出てしまうのだ。

 そんな状態の彼女にとってヒロインXは相性の悪い……いや、最悪と言ってもいい相手だろう。生半可な攻撃では魔力放出を加味したヒロインXの筋力に押し返され、手数も二刀流であるが故にどうあがいても劣る。モードレッドの持ち味であるなんでも利用する戦法も何より目の前のXが同じようなことをしてくるため、不意打ち効果なんて狙えるわけもなく意味がない。

 

「――ハッ!まだまだぁ!」

「■ ■ ■ ■ ■ ■ ■―――――!!」

 

 鎧をボロボロにして、血反吐を吐きながらもモードレッドは屈することなくヒロインXの剣戟を剣で、身体で受け止めていく。その様子を見てヒロインXは今まで以上に剣戟の速度を上げ、モードレッドを血祭りにあげようと狂ったように聖剣を振るう。その様子に反応したのは外野である。

 

「ぬぅ……あれは少々まずいのではないか……?」

「冷静さを無くしている。あれでは隙を突かれるぞ」

 

 百貌のハサンと呪腕のハサンはヒロインXの姿を見て感想を溢す。戦場でも暗殺においても精神を乱したものが失敗もしくは死んでいく。彼らの言葉は正しく真理だった。だが、付き合いの長い仁慈とマシュは彼女の目を見て彼女の理性が死んでいないことに気が付いた。

 

「……もしかしてXさん」

「多分誘ってるんじゃないかな。さっきまで理性のある攻撃だったのに、今は露骨に大振りだし」

 

 そう。付き合いの長い仁慈とマシュはそもそもヒロインXが理性を飛ばすとは思っていなかった。いや、確かに彼女はある意味で常時狂化されているようなものではあるのだが、仁慈はこう確信していた。彼女が食を除いて異常なこだわりと執着を見せる彼女が、アルトリア顔セイバーを殺すときに限って《《理性を無くすはずがない》》のだ。何故か?勿体ないからである。殺すのであれば自分の意思で、引導を渡すはずだと彼らは確信していた。一体彼女のことを普段からどういう目で見ているのだろうか。

 

「―――!そこだ……!」

 

 仁慈が見抜いた隙をモードレッドが突く。

 冷静に考えてみれば、何処か誘っているものだと理解することができたであろう。しかし暴風のような攻撃に見舞われ、ギフトを授かった円卓として反撃にも出ることができないという焦りと見るからに理性を失っているであろうそのしぐさに彼女も反射的に攻め込んでしまう。

 

 大振りの剣戟の間を縫って懐に入ったモードレッドが、ヒロインXの華奢な胴体に己の愛剣クラレントを横薙ぎに振るう。確実に入ったと思われる一撃。彼女は犬歯を向きだにして笑みを浮かべた。―――と、同時にヒロインXも今まで行っていた狂化の演技をかなぐり捨ててとてもイイ笑顔を浮かべる。

 

「かかったなアホがッ!」

「!?」

 

 反射的に反応したモードレッドだが時すでに遅し。投げられた賽を止めることは叶わない。いつの間にか、普段から来ているジャージ姿ではなくどこか宇宙チックなバトルスーツに着替えたヒロインXは待ってましたと言わんばかりに掬い上げるようにしてクラレントを弾く。

 魔力放出によって多大なる筋力詐欺が行われた結果、反射的に振るわれているクラレントは虚しく宙に浮くことになる。ヒロインXはその隙を逃すことなく、間髪入れずにモードレッドの腹に蹴りを放って後方に吹き飛ばす。それと同時に彼女は二本の聖剣を後ろに向けると聖剣から魔力を爆発させて驚異的な推進力を生みだし、自ら吹き飛ばしたモードレッドを追った。

 

「――――サー・モードレッド。己の発言をあの世で悔いなさい!」

「えっ」

「―――星光の剣よ。目の前の反逆の騎士を消し去るべし!目の前の不届き物を座に還してやります無名勝利剣(えっくすカリバー)!イヤー!」

「っ!あぁぁっぁぁあああ!!」

 

 滅多切り。状況は唯この言葉に尽きるものだ。先程まで振るっていた剣戟とは比べ物にならない速度。モードレッドの身体を斬りつけるたびに振るわれる聖剣は加速していく。普段よりも遥か長い時間維持された宝具を受けたモードレッドは体中をボロボロにされ自らの血だまりに沈むことになってしまう。

 

「ぁ…ぅ……ぐ、そ……!」

 

 致死量の出血をしてもなお、彼女の身体が消えることはなかった。血だまりの中にその身体を沈めていても、エメラルドの瞳には未だ強い意志が宿り偏にヒロインXを睨みつけている。一方力強い瞳を向けられているヒロインXは唯々モードレッドを見下ろすだけである。

 

「…………」

「こ……の……ま、ま……死、ねるか…ってん、だ」

 

 ここまで来れば、さっさと座に還った方が確実に楽であろう状態に置いてもモードレッドは目の前の敵を倒すことを諦めてはいない。最後の力を振り絞り、彼女が授かったギフト―――暴走の力を利用し己に残っている魔力をその名の通り暴走させる。どうせこのままくたばるのであれば、彼らを巻き添えにしてやろうという魂胆だ。だが、

 

「何しようとしてるんですか」

「ゴッ……!?」

 

 心臓の位置から少ししたところに黒い聖剣を刺し、奇妙な魔力を断ち切るヒロインX。ギフトとのつながりを切ったわけではないのだが、ギフトに力を回そうとすることすらさせないようにするためだ。

 

「さて、貴女を殺す前に一つだけ聞きたいことがあります」

「………こふっ」

 

 傷口を抉るようなことこそしないモノの、胸を抉っている剣を支えとして身体を倒してモードレッドの顔を直接覗き込んだヒロインXはそのまま彼女に問いかける。

 

「―――円卓の騎士は、何人いますか?」

「―――誰が、教え……ぅか……ばーか……」

「そうですか」

 

 短く返事をした彼女にヒロインXはもう用はないと、いたぶることもなく胸に突き刺していた黒い聖剣を引き抜いてそのまま首を刈り取った。

 

 

 

――――――――――――

 

 

『うわぁ……』

 

 一通り、ヒロインXの戦いを見ていた俺達であったが誰もがその様子にドン引きしていた。容赦の欠片もない一方的な蹂躙劇。血だまりで倒れ伏すモードレッドを剣を刺しながら問い詰める姿なんてどっちが敵だかわからない様子だ。

 

『サーヴァントはマスターに似る……いや、マスターがサーヴァントに似るのかな?』

「犬猫ペットじゃないだから……というか、その理屈で行ったらマシュもこっち側に……」

『じゃあ何かの間違いだね!―――でもマシュはその場で契約したからノーカンなんじゃ……いや、よそう。これ以上ツッコムのは良くない。もしこの仮説が正しければカルデアのサーヴァントはキチガイだらけということに……!』

 

 英霊は皆キチガイだと思うんですけど(名推理)

 と、このような感想を言い合っていると、返り血を所々に浴びたヒロインXがとてもすっきりした顔で帰って来ていた。そしてこちらに向かってきて頭をずずっと突き出して来た。何のつもりだろうか。

 

「マスター。私はあの空気読めない赤セイバーの所為で深く傷つきました」

「無傷に見えるんだけど」

「体じゃなくて心ですよ。精神的ダメージです」

「清々しい笑顔がさっき見えたんだけど」

「―――――何か?」

「すみません」

 

 ヒロインXの笑顔()には勝てなかったよ……。仕方がないので彼女の頭をなでることにした。この対応であっていたらしく薄く笑みを浮かべた。隣でマシュが複雑そうな顔をしているが彼女もしてほしいのだろうか…………ないない。

 

「で?唐突にこんなことを強要する意味は?」

「いや、私が最も優れた剣であることを再確認してもらおうと思いまして」

「撫でる意味は果たしてあるのだろうか……」

「―――――…………」

「気を落としてはなりません。レディ……」

 

 あ、ベディヴィエールがとても複雑そうにマシュを励ました。

 

「ありますよ。私の殺る気ゲージが満タンになります。円卓の騎士の人数は聞き出すことができませんでしたけど、大体はセイバーで召喚されるような人材ばかりです。私、役立ちますよ?」

 

 そう言われては撫でざるを得ない。

 ぐりぐりとXの頭を撫でまわしつつ、俺は呪腕さんと百貌のハサンの方へと視線を移した。何やら呪腕さんが俺達の手伝いをしてくれるのかどうかということを交渉してくれているらしい。

 

「(……その話は本当なんだろうな?)」

「(脳内に直接晩鐘を鳴らすお方を他に知ってはいまい?ましてやここはあの霊廟がある場所……これだけ揃えば疑う気にもならぬ)」

「(その通りだが……これは、このまま協力したほうがいいのか?食料の借りもあるが………いや、やはり信用できん)」

「(そうか)」

 

 ……話が終わったようで呪腕さんから離れた百貌のハサンは静かにこちらへと近づいて、口を開いた。

 

「……我々はこのままお前たちを信頼することなどできない。この村には備蓄すらも残されていない状態だからな。だが……それなりの証拠を用意すれば、信用してやらんこともない」

「その条件は?」

 

 真面目な話し合いが始まろうとしているためXの頭に当てている手をどかしながら百貌のハサンに向きなおる。

 仲間になるのに手順が必要なのか……などと文句は垂れない。呪腕さんと同じく長たるもの体裁などは必ず必要になるのだろう。そのくらいの手間くらいなら負っても大丈夫だとは思うし。

 

「……聖都の騎士共が占領しているある砦。そこに我々と同じ山の翁の一人が囚われている。その翁を救出する……それだけだ」

 

 付け加えるならば、俺たちの仲間内一人を此処に人質としてXをこの村に置いて行ってくれと言われた。……まあ、理由は理解できる。人質というのは建前でこの村の防衛に一人サーヴァントを当てたいのだろう。特に、円卓の騎士であるモードレッドを一人で血祭(誇張なし)を行った彼女がいれば問題ないと思っているに違いない。

 実際はXとの相性が極端によすぎた結果あのようなことになったのだが、そのことを知らない百貌のハサンには是非とも残ってもらいたいだろう。

 

「意外と数がいたなー。おっ、どうしたそっちはもう終わったのか?」

 

 ここで後方で粛清騎士を牽制もしくは制圧していたアーラシュさんがやって来た。相変わらず見ていて安心する笑みを携えている彼は特に疲れた様子を見せてはいない。まだまだ余裕がありそうだった。流石です。

 状況が飲み込めずに首を傾げているアーラシュさんに俺達は今までの経緯を話す。すると彼は笑って自分も残ると言い出した。……どうやら彼はXの力をよくわかっているらしい。というより、彼は彼でちょくちょく自慢の視力でモードレッドとXの戦いをチラ見していたようだ。もうアーラシュさんだけでいいんじゃないかな(適当)

 

 とりあえず結論として、俺達はその話を了承した。山の翁救出作戦の結構は明日。向かうメンバーは呪腕さんと百貌、俺、マシュ、ベディヴィエールとなった。……ま、救出作戦なら何とかなるでしょう。本職のアサシンがいるしね(慢心)

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 朝。

 カカッと時は過ぎて次の日。早速俺達は西の村を出ていた。途中砂嵐に見舞われたが、ハサンたちが言うにはこの方が聖都の騎士に見つかりにくいという。砂嵐に慣れているんだろうか。俺達もぶっちゃけ聖都の騎士と変わらない視界になると思うんだが…もしもの時は頼ろうと思う。

 

 しばらく順調に進んでいたのだけれども、そのまま平和に砦へと向かうことができたかと言えばそんなことはない。もう、なんなら何か起こるところまでテンプレである。お馴染みとなったロマンの緊急事態通信が耳に届いた。なんでもこの近くにAランクのド級サーヴァントがいるらしい。

 円卓の騎士かもしれないと身構えた全員ではあるが、円卓の反応ではないという。もう何なのかよくわからないが、考えるよりも先に女性の悲鳴が砂と風に紛れて運ばれてきた。

 

「―――っ!さっきこちらで観測したサーヴァント反応があったところだ!キラキラして、ふわふわしていて、がっしりしている……そんなカラー豊かな反応の所だ!」

「えっ、初耳なんですけど?」

 

 というかそれって色物……これ以上増えるんですか。

 

「きゃ――――!助けて――――!誰か何とかしてぇ―――!」

「先輩。これはかなり切羽詰まっている感じではないのでしょうか?」

「考えるまでもないと思いますよ!行きましょう!」

「………ま、しょうがないか」

 

 なんというか無視できなくなったし向かってみるだけ向かってみてもいいかもしれない。先行してしまった騎士(?)二人の後を追いかける前に呪腕さんと百貌に視線を向ける。百貌は呆れたように額へと手を当て、呪碗さんは苦笑をしているようだった(仮面で見えないため予想である)

 

 

 そして、俺達が見たものとは……!

 

 

 巨大な石像に襲われるとんでもなく露出度の高い服……服?に身を包んだ女性の姿だった。

 

 

「やめて―――!あっ、そうだ。私、実は食べるとおいしいって専らの噂なの!だから乱暴しーなーいーでー!」

 

 服装についてはもうツッコムことはしないけれどもある意味でツッコミどころ満載の絵面ではある。普通に考えれば女性が化け物に襲われているという一見不自然そうでどこも不自然ではない光景なのだが―――あの女性。どう考えてもサーヴァントなのである。恐らくロマンが言っていた色物サーヴァントだろう。そのサーヴァントである彼女がああやって逃げ回っているのは少しおかしいのではないかと思う。戦いが苦手なサーヴァント、もしくはロンドンで会ったアンデルセンのようにそういう逸話がないサーヴァントであれば納得もできるが、ロマンからAランクと言われていた以上並み以上であることは確実。であればあの程度の奴に後れを取ることは考えにくい……。

 

「あ、食べられるー!?いや―――!もう誰でもいいから助けて―――!後、お腹減った!トータのバーカ!」

 

 実は余裕なんじゃなかろうか。

 

「くっ、目の前で女子どもが襲われているのであれば、無視することはできぬか……。今の私が薄情なザイードでないことが恨めしいわ!」

「とまあ、色々言ってますけれども。どうぞお気になさらずに。先にあの方の救出を行いましょうか」

「ありがとう」

 

 百貌もなんだかんだ言って見捨てられないようだ。やはりハサンはいい人たちじゃないか(歓喜)これからは彼女もさん付けで呼ぼう。

 ―――しっかし、あの格好何処かで見た気がするんだけど気のせいか?なんというのだろうか記憶にもないのだけれども後々追加されるようなそんな気がする。

 

 

 マシュに襲われていた女性を守ってもらうように指示を出し、ベディヴィエールと共に彼女たちの安全の為、化け物(動く石像)の注意を引きつけつつそのようなことを考えた。

 

 

 

 




……イベントは後々追加するからね。仕方ないね(ボソリ

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