「――――その申し出を受けましょう。魔術師殿。アサシン教団歴代主導者が一人、ハサン・サッバーハ。あの方の試練を乗り越えたのであれば、もはや疑いの余地などありますまい。例え円卓に連なる騎士とその主人を従えて居ようとも、我等はあの御方の慧眼を、己の見たものを信じることにしましたがゆえ」
「……そこまで悲痛な覚悟をしなくても……ほら、嫌なら嫌ではっきり言ってくれた方がいいし」
「心配は無用です。…………貴殿の言う通りかなり頭を悩ませたことではありましたが、結論は出ました。しかし、他のハサンがなんと言うかはわかりません。こちらの方で説明は当然行いますが……」
「あー、その辺はこっちでも何とかするから大丈夫……多分」
悩みに悩みぬいた末に私はそう結論を出した。鐘の音が聞こえていた……それは即ち初代様が目の前の魔術師を自ら呼び寄せたということだ。そして、何かしらの理由で呼ばれたにも拘わらず、その首が繋がっているのは相応の理由があったに他ならない。
であれば、もはや疑うことはすまい。彼のお方が見定めた彼の隣に立ち見定めようではありませんか。
「え、もしかしてマシュも円卓の騎士だったのか!?」
「アーラシュ殿……」
大英雄、それもこの地には良く伝わり、アサシンの語源が我らが教団であるように中東においてはアーチャーの代名詞だと言ってもいい彼も何処か抜けているところがある。……だが、村の様子を見てみるとそれも悪くはないということがよくわかる。彼の性格は村の人を安心させることができる。説得力を持たせることができる。……それはこの小さく、閉鎖的な村では精神的不安の伝搬は致命傷となる可能性が高い。ある意味で村を犯す病と言ってもいいそれを防ぐことができるそれはとてもありがたいものだった。
しかし、少し空気を呼んで欲しいとも思ってしまうのだ。せっかく真面目な雰囲気を作り出していたというのに……。
「ははは、そう呆れるな呪腕の兄さん。にしても意外だったな……俺はてっきり一戦交えるのかと思っていたんだが」
「―――当然、その考えもありましたが。事情が変わりましてな」
初代様のことは言えるはずもない。故にこのように下手な誤魔化しを言うのだが、アーラシュ殿は感じるものがあったのか変わらぬ笑顔でそうかとだけ言った。助かりますぞ。
「では改めて、マシュ・キリエライトです。よろしくお願いします呪腕さん!」
「謎のヒロインXです。一応座にはこれで登録されているので、偽名とかではないので。そこの所よろしくお願いします。
「聖夜に夢と希望を与えるサンタクロースのお姉さん。サンタオルタだ。覚えているか知らんが、かつてひと時でも同じ陣営にいたもの同士。遠慮はいらんぞ?」
「レオナルド・ダ・ヴィンチ。ちょ~と万能すぎる天才さ」
「―――円卓の騎士、ベディヴィエールです。私のようなものも信じていただきありがとうございます。義に準ずる山の翁……」
「最後にマスターw」
『マスター兼サーヴァントの樫原仁慈です』
「なんで君たちが言うの」
誠に遺憾であるとその顔で示す魔術師殿ではあったのだが、私も彼らの言葉に賛同した。いったいどこのマスターに我々サーヴァントとの戦いに介入(物理)を行い、剰えあの御方から生き延びることができるというのだろうか。
和やかな空気が流れる――――願わくばこのまま数日は過ごしたいのだが……どうやらそうはいかないようだ。
斥候の任についている者が大慌てでこちらにやって来ており、私のことを呼んでいる。その表情からしてかなりの大事と見ていいだろう。
――――――――
「頭!西の村から連絡用の狼煙が上がっています!」
「……その狼煙の色は?」
「―――狼煙の色は黒。接近間近ってところだな。旗は赤い竜と、その竜の首を断ち切る赤い稲妻か……」
「王の首を狙うと公言する旗を掲げるのは唯一人、遊撃騎士モードレッド……!まずいですぞ、このままでは皆殺しにされてしまう」
モードレッドと、呪腕さんは確かにそういった。モードレッドと言えば四つ目の特異点で遭遇し、Xと無駄なバトルを繰り広げながらも最後まで共に戦った騎士の名前である。その彼女が召喚されていて、尚且つ皆殺しにされると言われるまでになっているとは想像しにくかった。マシュもそう思っているのだろう、彼女の表情には濃い動揺の色が見て取れる。
一方、Xとサンタオルタはそこまで驚いているようには見えなかった。逆にあの時Xが驚いていたことから本来はこのような性格なんだろうか。
「いえ、別にそこまで野蛮ではありませんでした。粗暴で、雑で、騎士道の欠片もない奴ではありましたが」
「大体想像は着く。大方獅子王とかふざけたことを名乗っている私の指示だろう。目に映るものを全て壊せだなんて、アレ好みの命令だろうしな。歪んだ感情もいいガソリンになっているのだろう」
冷静な分析ありがとうございます。……西の村に行かなければ、その場所に居るハサン諸共全滅しかねないと呪腕さんは言った。しかし、無常なことだが、この村から西の村までは二日間かかるらしい。アーラシュさんによると向こうにいるハサンは時間稼ぎが得意らしいが持って半日だという。正直、期待はできない。
そこで俺達―――カルデア組の視線は自然とダ・ヴィンチちゃんの方へと向いて行くことになる。この万能の天才なら何とかなるんじゃないかという淡い期待の所為だが、本人は申し訳なさそうに首を横に振った。
「私は万能だけど、全能じゃない。アーラシュ君、円卓の騎士――モードレッド卿が近づいているっていうけど、具体的にはあとどのくらいで着きそうなんだい?」
「―――半刻もないな、ありゃ」
「すまないけど、それなら無理かな。スピンクス号を作る時も言ったけど、あまり時代から逸脱したものを作成しても、それが成功する確率は伴わない技術の分だけ落ちるものだからね。せめて二時間あれば、空から強襲できるかっこいいものを創れたんだけどねぇ」
かっこいいとかは聞いてないけれど、とにかくダ・ヴィンチちゃんでもどうにもならないということが分かった。俺としては戦力が減るのは好ましくないし、見ず知らずの人間であろうとも《《見捨てたってわかったら気分が悪くなる》》。殺されるのは敵でも兵士でもない無辜の民らしいし。
「空から――――そうか、その手があったな」
頭を必死に回転させている皆を尻目にアーラシュさんは普段と変わらず何の気負いもなくそう言った。どうやら彼にはこの状況をどうにかする秘策があるらしい。自信満々に彼は言う。
この方法であれば確実に襲撃前に間に合わせることができると。その分リスクもあるが速さはお墨付きであると。
……もはや、迷うことはなかった。誰よりも先にマシュとベディヴィエールが返事を返した。分からなくもない。彼らにとって円卓の騎士及び獅子王の暴挙は耐えがたいことだろう。かつての仲間がとても認められないような行動を起こしている、無辜の民を殺して回っている……忠義の騎士としては当然の反応だと言えるだろう。
「この強襲にはそこまで多くの人数を連れていくことはできない。いくらか人数を厳選させてもらう。人選は俺は当然として道案内用に呪腕の兄さんを連れていく。あとは先に決めてくれ」
「俺とマシュはとりあえず確定ね」
マスターである俺と守ることに置いて右に出る者はいないマシュ。ぶっちゃけこれは固定メンバーである。あと一人、誰を連れて行こうかと俺は考える。―――が、この話が出てからそれはもう言葉に出さない猛アピールをしてくる奴がいる……当然というべきなのだろう。その人物とはXの事であった。
「マスター。相手はセイバーです。アルトリア顔です。霧の街で会った時のように味方としてではなく完全に敵としてのバカ息子です。これは私を連れていくしかないのでは?むしろ、私以外の誰を起用するというのでしょうか?」
「私欲しかないけれども正論中の正論なんだよな……」
彼女のスキルはセイバー(アルトリア)絶対殺す編成。そして今回の相手は彼女のスペックをフルで使うことができる。……ただでさえ、聖剣二刀流なんてふざけたことをする彼女がさらにエグイことになるのだ。……まぁ、サンタオルタとダ・ヴィンチちゃんには悪いけど今回も彼女を頼らせてもらおう。
「状況が状況だ。山の中で私の宝具を撃ったら二次被害も心配されるからな。賢明な判断だ」
「私も肉体派じゃないからね。大人しくこの場で留守番してるさ。それに―――こっちにも敵が来ないと決まったわけじゃないしね」
「……では、私も行きましょう。この銀の腕であれば彼らのギフトも切断できる筈です」
居残り組の許可を取った俺達はアーラシュさんについて行く。時間にして一分ほど、状況が切迫しているために急いでやって来た場所には、何やら板を粘土で固定しているようなものがあった。よく見てみると取っ手と思われる所もついており、とりあえず唯の板でないことは分かる。
「説明は後だ。全員そこに乗り込め。とりあえず振り落とされないようにしっかりと固定しておけよ?」
……縄を通したあたりで俺はこれから何をするのかということが分かった。これは確実に飛ぶ。特大の矢と思わしき部分にも繋がっていることからそれは明らかだ。凄まじい衝撃が身を襲うと考え、できる限り自分の身体を強化する。
「ま、待ってください。アーラシュさん。もしかして……」
「ハハハッ……まさか、そんな……」
「いえ。現実を受け入れてください。あれはどう考えてもヤる人の目をしてます」
「その通りだ。土台と矢を繋ぐ。つないだ矢を放つ。土台も飛んでいく。20キロ先まで届く。完璧だろ?」
「分かりやすくていいね」
「ふっ、仁慈は分かってるな。んじゃ、口開けるなよ!舌嚙むぞ!」
忠告はした。返事は聞いていない。そう言われている気がした。何故ならば、返事をする前に俺達を乗せた板は宙を舞っているのだから。
「あ、あああああぁぁあぁ―――――!」
マシュの絶叫が聞こえる。
だろうね。この移動方法、ジェットコースターを始めとする絶叫マシーンなんて目じゃないくらいのスリルがある。見ろ、Xだって。自分のアイデンティティである帽子を必死につかむことしかできていない。ベディヴィエールに関しては頬肉がブルブルしてイケメンが台無しになっていた。
「だだだだだだだ、だいじょーぶですかー……レレレレ、レディー!みなさーん!」
『ははは、見てごらん仁慈君。ベディヴィエールの頬が気流でぶるぶるしているぞ!』
「ののの呑気なことを―――言ってるんじゃ―――なーい!」
気流の所為でうまく話すことができない。これ以上口を開くことは得策ではないと悟り、口を閉ざす。
「おっ、そろそろ着陸か。総員衝撃に備えろよ!激突した瞬間土台はバラバラだからな。なんかいい感じで受け身を取れ」
「説明が雑です!アーラシュ!」
「―――2、1―――――」
ゼロ。
アーラシュのカウントに合わせて自分でも数字を数えると俺は乗っていた土台から跳躍。土台が弾ける音を聞き届けながら四次元鞄を宙で振り、中のものを適当に取り出す。刻んである術式とルーンを発動させ、それらを固定すると俺はそれに捕まって衝撃を受けることなく地面に着地した。
「――――我ながら正確な射撃だった……」
「うん。見事な射撃だと感心するがどこもおかしくはない―――っと」
「しまった。ここは獣の巣だったのか……いい感じに開けた場所だと思ったんだがなぁ」
周囲には巣を荒らされたことによって興奮状態になっている獣たちとアーラシュ式筋肉飛行術の所為で死屍累々となったサーヴァント。今すぐに動けるは仁慈とアーラシュという世紀末状態だ。
「時間がないんだ。悪いが、邪魔をするなら射殺すまでだ」
「とりあえず、皆はこれを片付けるまでに本調子に戻しておいて」
「援護は俺に任せて思う存分に暴れな!」
「お言葉に甘えて」
――――――――――――
『もうツッコミなんてしてあげないからね……サーヴァントですら気が滅入る飛行をして仁慈君だけが何故か無事でも全然驚かないからね。こんなのはいつもの事なんだ……』
「ドクター。その発言が既にツッコミに含まれると思います」
「そうですね」
「……あの、出来ればもう少し緊張感を持っていただいても?円卓の騎士の軍勢はもう目と鼻の先に居るのだが……」
注意を促す呪腕のハサン。流石できるサーヴァントは格が違った。彼には仁慈達も相応の恩があるため、普段の会話を断ち切り真面目に押し黙る。
何を隠そうもう彼らはモードレッドの旗を持っている軍勢の背後に既に到着しているのだ。ここから先は僅かな油断も許されないことになるだろう。彼女にはアルトリアに
劣るものの十分に脅威と言っていい直感があるのだから。
「……見えたぜ。奴さんの部隊のケツがな」
いち早く気が付いたのはアーラシュ。アーチャーの代名詞ともいわれる彼の視力をもってすればいち早く敵に気づくことなど容易い。そして、全員がその姿を確かに確認できる位置まで移動した。彼らは正々堂々後ろから不意打ちをかますことにしたのである。
残念ながら、この場には騎士道を投げ捨てた宇宙セイバー(自称)と弓兵、アサシンにキチガイしか居ないのだ。ベディヴィエールは自ら割り切りマシュもいつものことと受け入れている。要するに不意打ちを止める人物はいないということで……結果的には、
「なっ、何処から現r――――」
部隊の誰もが気づく間もなくその身体を淡い光へと変えていくこととなる。だが、一番後ろにいるというだけであり、まだまだ部隊は存在していた。仁慈はその人数に若干億劫になりつつも再び気配を殺して接近。暗殺もプロであるアサシンと、一応アサシンのクラスに位置しているヒロインXを伴って奇襲をかける。
混乱に陥った部隊にマシュとベディヴィエールが突撃し、他の粛清騎士たちをアーラシュの矢で牽制もしくは無力化していく。流石大英雄と言ったところだろう。知り合ってまだ一週間、共闘した時間はそれほど短い時間なれどもそれぞれの動きを把握し、邪魔にならないように、そして相手の行動を阻害するように矢を射っていた。
「アーラシュさんが居ると楽でいい」
「おう。じゃんじゃん頼ってくれ。俺は矢を射る位しかできないからな」
その矢を射るという行為をアーラシュ・カマンガーが行うこと自体がとてつもないことであるということをこの会話をしている仁慈とアーラシュ本人は知らず、理解している周囲のサーヴァント達とロマニは苦笑を浮かべる。
と、ここで気配に鋭いアサシンと仁慈が同時に自分たちが潰した部隊の向かう先を見据えた。その顔は強張っており、いい知らせを受けたというわけではなさそうだった。
「呪腕さん」
「……うむ。どうやら急がねばならないようです」
「そろそろ百貌の姉さんが限界を迎えてるってところか。よっし、ならみんなここから先の部隊は俺に任せて先に行きな。普通に姿を現して素通りしてって構わないから」
「感謝しますアーラシュ殿」
「いいってことよ」
呪腕のハサンはお礼を述べるといち早くその場から駆け出した。仁慈もアーラシュに頭を下げて他のサーヴァント達を引き連れてその場を離れる。
一人残されたアーラシュは、仁慈達の姿を捕らえ殺そうとする騎士たちの姿を捕らえる。
「さて、自分で言ったことには責任を持たないと、な」
一方先に言った仁慈達はその速度を速めた結果、西の村に居るハサン―――百貌のハサンが倒される前に増援として加勢することができていた。奇襲を仕掛けようと当然の如く考えていたものの、その行動はモードレッドのスキル直感によって見事に防がれることとなり、仁慈としては業腹であった。……しかし、彼も実際第六感と称して数々の不意打ちを回避してきたので人のことは言えなかった。
「おっ、お前らもしかしてあのランスロットが逃がしたっていう反逆者か?こいつはラッキーだ、まさか獲物の方からきてくれるなんてな」
「モードレッドさん……」
姿も声も、仁慈達がロンドンで遭遇したモードレッドと同じではある。が、彼らは頭ではない部分で理解していた。あれは自分たちと共に戦ったモードレッドではない。座に居る彼女から切り離された別のモードレッドであると。
そんな彼女は愉しそうに仁慈達の様子を見ていたのだが、ある人物でその視線が止まることになった。と言ってもその人物とは決まりきったようなものである。そう、ヒロインXだ。初期のころからカルデアにて二振りの聖剣を振るい、仁慈の助けとなって来た宇宙的騎士王型サーヴァントだ。
当然父上大好きっ子であるモードレッドはその存在に歓喜した。マシュに力を貸している円卓の騎士の事や、王の最期を看取ったベディヴィエール……ヒロインXがいなければ注目したであろうそれらの事には目もくれず、モードレッドは先程までいたぶっていた百貌の存在すら忘れてヒロインXに斬りかかった。
「オレは運がいいぜ!まさか、ここまで来て父上と戦えるなんてなァ!」
「ちっ、相変わらずの年中反抗期ですか……ロンドンでは見逃しましたけど、今回ばかりは見逃しませんからね。セイバー云々、その他諸々を含めてさっさとあの
二人の少女は同時に地面を抉った。モードレッドは鎧を被り、赤稲妻を放つ剣を持って正面から斬りかかる。ヒロインXは右手に持った聖剣でそれを受けとめすぐに左手に堕ちた聖剣を召喚、腹を掻っ捌こうと横薙ぎに振るった。
己の腹を掻っ捌こうと迫る剣を前にして彼女は冷静であった。地面を蹴り上げ身体を宙へと浮かせる。そしてそのままヒロインXの頭上を飛び越え、蹴りを彼女の脊髄に叩き込もうとする。が、ヒロインXは直感を持っている。コスモパワーに染まった所為か本来よりも性能が落ちているそれはしっかりと仕事をし、彼女に危機を伝えていた。
蹴りが己に入る瞬間に彼女は身体を半回転させて先程空振った聖剣を蹴りを放っている足にぶつける。鎧の所為で完全に切り裂くとまではいかなかったが、蹴りを防ぐと同時に足を潰すことに成功した。
「ははっ、流石だ父上!」
「斬られて喜ぶとか本気で勘弁してほしいんですけど」
決して軽い怪我とは言えない傷を負ったモードレッドだが、その猛攻は衰えることがなかった。獰猛な笑みを浮かべ、犬歯をむき出しにして狂ったようにヒロインXに斬りかかる。一方、攻撃を受けている彼女は、唯々冷静に己が葬り去らなければならないアルトリア顔のセイバーを具体的にどんな方法で行うかということに思考を回していた。
「そらそらそらぁ!」
剣を振るい、時に投擲し、蹴りを混ぜ、意識外からの攻撃をも行う。それは騎士道の精神から外れた剣術であり円卓の騎士から煙たがられる要因の一つでもあった。本来の騎士王たるアルトリアも清廉潔白であり、この戦法にいい顔をすることはなかった。故にモードレッドはこれを目の前のヒロインXにも使う。それが目の前の騎士王(擬き)の意識をさらに自分に向けることができると思って。
だが、残念なことに彼女が相手しているのはヒロインX。外道とも思える戦法も平気で行いセイバーを殺すためには手段を選ぶことのないサーヴァントなのだ。彼女は先程怪我を負った足を中心に攻撃を行い、時に宇宙からの支援として相手にスタンを発生させるスキルを使って攻撃を行ったり、あえて息子と呼んで動揺させたのちに斬りかかったりとこちらもこちらでやりたい放題であった。
それ故にモードレッドがこの言葉を言ってしまうのも必然であったのかもしれない。
「……おい」
「なんですか」
「お前、父上じゃないな」
「―――――――――――」
モードレッドの言葉に固まるヒロインX。
その様子を図星と取ったのかモードレッドは言葉を続ける。
「オレの知ってるアーサー王はそんなことは絶対にしなかった。むしろ、オレみたいな戦法を嫌ってた……」
「――――――――――――」
「もしかして、父上の
決定的な一言を放つ。それはヒロインXにとって最も触れてはならないことであった。彼女の怒気を感知した仁慈は思わず百貌のハサンに施していた治療の手を止めるほどである。
「フ、フフフフフフフ。……この私が、パチモンですと?よりにもよって貴方にそれを言われるなんて―――――」
ヒロインX、昨今急激に増え始めたセイバー顔のヒロインの所為で色々と被害を被っているドル箱(自分)の名誉を回復し、唯一のヒロインとして返り咲くためにセイバー殺しを誓った彼女。
その彼女にアルトリア顔でセイバーで微妙に赤っぽい(重要)が偽物と言ったことにより、ついにヒロインXは今までたまっていたストレス諸共己の魔力と殺気を爆発させた。
爆音が響き渡り、彼女の立っている地面には見事なクレーターが出来上がる。手にしている二本の聖剣は怒りに呼応するかのように眩しいほどに輝いていた。もはや彼女を止めることなんてマスターである仁慈にも不可能であろう。
「……な、なんだ、こりゃ……」
状況が飲み込めていないのかヒロインXの逆鱗を逆撫でしたモードレッドが呆然と呟く。
「―――――コロス」
しかし、この場に居るのは彼女に懇切丁寧に状況を教えてくれる人物ではなく自分のことを絶対に殺すという意思を持った殺戮者がエントリーしているだけだった。