この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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次回、円卓の騎士の一人が……。


返って来た()

 

 

 

 

 

 

 樫原仁慈の反応が消えてから数時間。

 カルデアのサーヴァント達と騒ぎを聞きつけたベディヴィエール、そして彼らを引き留めた呪腕のハサンは焦っていた。未だサーヴァントの現界が維持されている以上生きてはいる。しかし、それは魔力が供給されているということだけであり、無事であるという保証ではない。さらに言えば、あの後冷静になった皆の前でロマニが言った言葉も悪かった。

 

『……令呪取られてたらどうするのさ!』

 

 彼も不安で一杯一杯だったのだろう。思わず口にしてしまった言葉なのだろう。致し方ないとはいえ、その不安は全体に伝搬する結果に終わった。マシュは特に心配しているためか、先程から両手を握りしめて俯いてしまっている。いつの間にか姿を現していたフォウが彼女に寄り添っていた。

 

 ……一方、仁慈がどこに向かって何をしているのか、大体の見当がついている呪腕のハサンも焦っていた。マシュ達から話を聞いたところ、この村に来て初めて会った時から彼は鐘の音を聴いていたという。それはつまり、仁慈が彼ら山の翁の初代である人物の何かに触れるものがあったということだ。それが絶つべき存在であるのか、またそれ以外であるのかどうかはわからない。しかし、並大抵のものでないことは呪腕のハサンが―――歴代のハサンが全て理解していた。

 初代山の翁は広い心の持ち主である。異教徒も過剰な毛嫌いをすることなく誰にでも晩鐘の名のもとに平等である。……が、そんな彼にも例外が存在する。その例外に仁慈が触れてしまっていたら――――

 

「(マズイ……非常にまずいですぞ……!)」

 

――――もしかしたら、この村だけでなく人類全体の危機であるかもしれない。己らが恐れ敬う初代山の翁がそのことを知らないとは思うものの、彼は不安で仕方がなかった。

 

「(―――最悪の場合、我等の首も献上しなければならない事態になるやも―――)」

 

 様々な人の憶測(首出せ案件等)が飛び交い、最終的に全員が不安になるという悪循環を作り出していた嫌な空間に再びロマニの声が響き渡った。

 だが、それは先程のような切羽詰まった声音ではない。むしろ抑えきれない歓喜の色が見て取れた。

 

『―――!やった!仁慈君の反応が復活した!』

『距離はそこそこ離れているけど、生きてはいるようね。―――何故か魔力とバイタル反応が不安定だけど』

 

 その報告にカルデアのサーヴァント達は皆そっと胸をなでおろした。仁慈が生きている。であれば、彼は如何なる手段を使ってでも生きて帰ってくるだろう。生身でサーヴァントと戦おうとすらする頭のおかしさを持っている彼であれば、そのくらい軽くこなすと彼らは確信を持っていた。

 

「よかったです」

「これで一安心ですね。ふー……」

「………いや、いやいやいや。魔力とバイタルが不安定とおっしゃられてましたし、この時間は夜行性の獣が多く闊歩しています。安心するのはまだ早いのではないですか?」

 

 この場で唯一無二の常識枠を獲得している円卓の騎士が良心、ベディヴィエールがその空気に意義を唱えた。

 ……それこそが常識的に正しい反応ではある。現代の魔術師擬きが、この時代に一人で放浪(本調子ではない)しているのだ。普段であればこちらから急いで迎えにいく事態だ。例え、彼がサーヴァントやそれに追随する実力のある粛清騎士をゴミのように処理する力を持っていようとも。

 

「その心配は無用のものだ。ベディヴィエール卿」

「しかし……仁慈殿は人間で……」

「生前の円卓の騎士を思い起こしてみるがいい。――――我がトナカイはあれらと同類だぞ?」

「…………………」

 

 想像に難くなかった。

 どちら等とも自分の目で確かに見ているのだ。よくよく考えてみれば、ランスロットを撒く際に行ったのはマスターによる弓矢の狙撃であり、彼は見事それを完遂した。円卓の騎士最強のランスロット相手に。彼は馬を狙ったからと言っていたが、それでもである。

 結局ベディヴィエールは考えるのをやめた。彼が生前の円卓の騎士と同じような存在であれば内情のもつれさえなければ大丈夫だろうと思うことができた。内心複雑ではあるのだが。

 

『そうこう言っているうちに仁慈の反応がかなり近くまで来ているわ。もうそろそろ村に着くかもしれないし、出迎えてあげたら?』

 

 オルガマリーの一言に同意した彼らは一斉に腰を上げた。そして、ぞろぞろと自分たちに割り当てられた家から出ていく。ベディヴィエールもそれに続き、呪腕のハサンは自分の悪い予感が外れてくれたことにホッとしつつ、彼に対してどのような対応をすればいいのかという案件で再び頭を悩ませることになった。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 頑張った。今回ばかりは頑張ったと自信を持って言える。俺は超がんばった。

 

 あの後、アドバイス(?)のようなものを残して甲冑の大男はその姿を消した。それはもう見事な消しようで、はじめからその場に存在しなかったのではないかと思わせるほどに自然に、痕跡を残さずである。まあ、俺の身体には先程まで甲冑の大男がいたと言わしめる確固たる証拠があるので夢とは思わないし思えないけれど。

 

 それは別にいい。

 問題はここからの帰りにある。言った通り俺の身体はボドボドであり、残っている魔力もそれはもう搾りかすほどしかない。傷こそ最低限に塞がって入るものの激しく動けば再び開くことになりかねないし、何よりカルデア礼装がボロボロで血だらけである。傍から見れば歩く死体と見られても文句は言えなかった。

 

―――要するに、腹をすかせた夜行性の獣と自分たちのお仲間に一体加えようとする怨霊の群れに襲われまくったのだ。

 一体一体はそこまで強くはなかったが、問題は集団で現れたということと俺の身体がボドボドなことである。それはもう酷いくらいに苦戦した。一撃でも貰えばもれなくあの世行のスペランカー状態。それは割といつもの事なのでいいのだが、本調子じゃないのがとても辛かった(小並感)

 

 と、まあこんな感じで頑張って村まで帰って来たわけである。

 村の近くまで来れば流石にもう安心で、村を見張っている斥候の人(アーラシュさん)に挨拶をしたのちに、俺は割り当てられていた家を探すためにマシュ達の気配と地形を見回した。

 

 すると、マシュ達の気配が驚くほど近くに居ることが分かった。彼女達だけじゃない、何故かベディヴィエールと呪腕さんの気配もあるのだからさらに驚きである。どうかしたのだろうかと疑問に思いつつも彼女たちの方に行ってみれば、そこには実にわかりやすく怒りの表情を浮かべていた。ですよね。

 

「――――先輩」

「はい」

 

 後輩の一言に一瞬で正座をする俺情けない。だが、それも仕方がないのだ。これは勝てない(確信)いつの間にかいるフォウですら身体をぶるぶると震わせているくらいだ。マシュ:クラス、デンジャラス・ビーストである。

 

「おっと、マスター」

「我々を忘れてもらっては困るぞ?」

「ふっふっふー、災難だね。ま、諦めるんだね?」

 

 フォローの言葉はない。慈悲もない。が、こちらに圧倒的非がある。大人しく受け入れるほかない。そうして俺は治療と説教を同時に受けるという大変貴重な体験をすることになった。……何気に心配されて怒られるっていうのは貴重な体験だと思う。カルデアに来るまではそんなこと一回もなかったからな。

 ……ただ、この光景をとても羨ましそうに見ていたベディヴィエールと何度も俺に見えて尚且つマシュ達には見えないところで頭を下げ続ける呪腕のハサンがとても印象に残っていた。どうしたんだろうか。

 

 

 説教地獄から解放され、全員が一先ず就寝となった時、俺はマシュを呼び留めた。何故かと聞かれればそれは当然、お礼を言うためである。

 

「……どうかしましたか?先輩」

「いや、ちょっと話があるんだけど……大丈夫?」

「珍しいですね。先輩から話なんて」

「――――そうかな」

 

 自覚はないけれどこうして改まって話をするということは確かになかったかもしれない。いや、男性会議は例外としてね?

 とりあえず、マシュが話を聞いてくれる態勢を取ってくれたので、日ごろの感謝を込めてお礼を言おう。

 

「話って言っても大したことじゃないんだ。只、マシュにお礼が言いたくて」

「お礼……ですか……?急にどうしちゃったんです?こんな改まって」

「ちょっとね」

 

 改めて言うとなるとどこか照れくさいな。……なんて、キャラじゃないし男のテレ顔なんて誰得なんだって話だしね。

 

「まぁ、それはいいよ。とにかく、マシュ。いつもありがとう。いつ死ぬかもわからないこんな阿保みたいなマスターを守ってくれて」

「自覚あるんですか」

「すみません」

「………別に怒ってませんよ。正直、その行動に助けられたことはいくつかありますから……本音を言いますとあまり危ないことはしてほしくないですけど」

 

 助かった。終わったかと思ったよ。

 これで許さないとか言われたら、ショックでもう特異点に赴けなかったかもしれない。……この阿保過ぎる考え実は久しぶりなんじゃないかと思いながらも、重要なことを言えたけれどもこのまま寝るのは惜しいので、彼女に許可を取ったのちにもうしばらくこの会話を楽しむことにするのだった。怪我人だし、早く寝ろっというツッコミはこの際なしで。マシュと過ごすこと以上に重要なことはない(キリッ

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 翌日。

 寝不足は寝不足なのだが、身体の調子は悪くない。治療もしてもらったし、何よりあの絶対に死ぬと思った空間を生きて帰れたということが一番の要因だと思う。なんというか心が軽いこんなの初めてもう何も怖くない状態である。

 

 俺の現状はともかく、今はとりあえずこれからどうするのかということを考えているところだ。

 現状、聖杯を持っているのはエジプト領でピラミッドを建造したオジマンディアスである。それを手に入れることができればこの時代は修正され、召喚されたサーヴァントも全員消える。故に円卓の騎士と獅子王を相手にする必要は必ずしもない―――というのが今までの特異点の話だ。しかし、今回の人理定礎評価はEX。Aの上というわけではないが、良くも悪くも規格外ということ。正直、聖杯を手に入れてハイ、終わりで終わるとは思えない。どう考えてもこれ以上ないくらい目立っている円卓の騎士たちは相手にしなければならないだろう。むしろそういう想定で動く。

 

 となると俺達だけでは戦力が足りない。円卓の騎士たちがどいつもこいつもガウェインのようなギフトを持っているとなると、個々の戦力で押すというのではどうしても弱くなってしまう。できるだけ数を集めた方がいい。

 

「そうだな。戦いは基本的に数。いくら一騎当千の猛者と言えども一万人の雑兵には勝てないものだ」

「まぁ、万夫不当の英霊だって腐るほどいますけど。円卓は内情のもつれで粉々に砕け散るほど精神面は脆弱です。なのでそこから崩していけば一騎当千くらいで収まると思いますよ?ただ、消耗は避けられません。獅子王とか名乗ってるふざけた私をぶっ殺すには、少々荷が重くなるかもしれませんね」

 

 各個撃破できればその限りではありませんが、とXは付け加えた。

 確かに。精神面を攻撃できるというのはとても強い。一部の者、具体的にはトリスタンが該当するが、ガウェインにはWアルトリアが効いたこともある。その辺をうまく使えば何とかあの中に入ることができるかもしれない。が、やはり数をそろえる必要がある。

 

「……ハサン・サッバーハ殿に助力を乞うのは如何でしょうか?……この一週間近くこちらで生活して分かったのですが、彼らはどうやら戦力を整えているようです。恐らく聖都を支配する円卓の騎士たちに対抗する為に」

 

 ベディヴィエールの発言は同意できるものだった。

 ……多分、彼らは既に敵と認定されているのだろう。聖都に行く前、トリスタンがアサシンのサーヴァントを殺しているところを既に目撃している。それを見て彼らと円卓が同盟相手なんて考えられない。

 

「―――というわけなんだけど……どう?呪腕さん」

 

 そんなこんなでカカッとその話を切り出してみた。ここで断られたら?それはそれで仕方のないことだと割り切り、俺達は村を出ていくことになるだろう。いや、脅しとかじゃなくて本当に、純粋に好意で。

 円卓を相手取り、既に反逆者として扱われているであろう俺達がいつまでもここに居たらやばいだろうし。現状でもギリギリアウトと言ってもいいくらいだしね。別に強制ではないので今の段階でどう考えているのか教えてくださいと言ったはずなんだけど………。

 

 ―――呪腕さん物凄い悩み始めた。

 何を考えているのかというのは今一聞き取れなかったものの、なんかその場でうずくまって頭を抱えて必死に考え込み始めた。どうしてそこまで真剣に考えるのだろうか。さっきも言った通り気軽に堪えて欲しかったんだけど。

 

「ほら、呪腕君は私たちと違ってもの凄く真面目だからさ。世界を救う戦いを差し置くことはできないんじゃないかな」

「俺達が適当だと申すか」

 

 ダ・ヴィンチちゃん中々言うじゃないか。俺は全力で真面目に取り組んでるでしょいい加減にしろ!

 

「真面目に取り組んだ結果地獄が出来上がるということですね。分かります」

「少しは手を抜いたほうがいいんじゃないか貴様」

「もう俺にどうしろっていうんだ」

 

 全力で戦わないことを強いられている(集中線)んですかね。

 

「―――あの御方の試練を越えたお方を軽々と扱っていいものだろうか……いや、しかし……完全に疑念が晴れたわけでも………だが、この疑いはあの御方に対する――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――そんなに悩むならいっそ断ってくれてもいいんだけど……。

 

 

 

 

 

 




もう、自分たちにとって頭が上がらないどころじゃない人が認めた仁慈のことをどう扱っていいのかわからないハサンさんの図。

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