この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

130 / 149
―――言い訳など無粋、真の投稿者は字で謝る―――!

どうもすみませんでした!


晩鐘

 

 

 

 

 

「難民の受け入れに関しては納得した。しかし、貴様らは別だ。聖都の騎士のような恰好のサーヴァントがいる……これだけで既に我々にとって容認できぬ」

「大丈夫です!ベディヴィエールさんはガウェイン卿みたいに強くはありませんし、これと言った逸話も存在しません!」

「…………………………えぇ、そうですね」

「(ベディ君ェ……)」

「(あの柔らかい身体から出たとは思えない刺々しい言葉だ……)」

 

 円卓の騎士。皆さんが言うにはランスロット卿を撒いた後、山岳地帯を歩きました。初めての山岳に少々足を取られたりもしましたが、案内を頼りに一晩を再び明かして、何とか目的の村まで無事誰一人かけることなく来ることができました。

 

 しかし、村に入る直前アサシンのサーヴァントに呼び止められました。難民の皆さんは山の翁と彼のことを表しました。髑髏の仮面に骨と皮しかないのではないかと疑うほどに細い身体。そして、その細い体とは裏腹に何重にも巻かれた布に包まれた腕。正直、今まで対峙したサーヴァントたちと比べればそこまで強くはないと思います。けれど彼らはアサシンの語源となった暗殺集団の首領たち。油断はできません。

 

「―――では、貴様らには悪いがここで死んでもらおう。彼らを助けた、それは事実。が、こちらとて譲れないものも―――」

 

 布を巻いていない……仮面をつけているからか本当に骨のように細い左腕に短刀のようなものを指の間に備えている。戦闘は避けられないのでしょう。私たちもこのままここで死ぬわけにはいきません。あの……聖都の、様子を見てしまっては―――。

 

「―――おい。そこのマスター……と思わしき者。どこを見ている」

 

 アサシンのサーヴァントの言葉で全員が先輩の方に視線を向ける。すると、そこには普段の先輩では考えられないことをしていた。その意外性はXさんとサンタオルタさん、果てはダ・ヴィンチちゃんまで絶句するようなことでした。

 なんとそこには戦闘態勢を整えているアサシンのサーヴァントがいるにも拘わらず、戦闘態勢を整えるどころか、視線も向けていない先輩の姿があったのです。

 

「アサシンよ」

「……何だ?」

「―――作戦タイムを要求する」

「―――認める」

 

 アサシンのサーヴァント、絶対いい人ですよ……。アサシンなのにアサシンしてませんけど絶対いい人です。アサシンさんと呼ぶことにしましょう。

 そしてそのいい人ことアサシンさんの為にも早く先輩にはいつもの先輩に戻ってもらわないと。

 

 一度アサシンさんに頭を下げたのちに反応がどこか鈍い先輩の肩を叩きます。先輩、しっかりしてください。いつも平気で不意討ちとかしているんですから。本来なら、普段の付けの分しっぺ返しを受けたりする場面なのにあのアサシンさんのおかげでいまだに攻撃されていないんですよ?だから、あの人の為にもしっかりと意識を向けてください。

 

「アサシンさん、とは……それは私のことか?そこの少女よ」

「先輩、しっかりしてください」

「無視か……」

 

 ゆっさゆっさと声をかけながら肩を揺するとようやく意識を私たちの方に向けてくれたようでゆっくりと先輩の瞳が私の方へとむけられました。

 

「あ、マシュ」

「ようやく気付いたんですね。……ではまず、アサシンさんにお礼を言ってください。彼はアサシンというクラスの優位性を投げ捨てて、無防備な状態の先輩を攻撃しないでいてくれたんですから」

「え?本当に?……そこのアサシン。いや、アサシンさん。なんかすみませんね、気を遣わせたみたいで……」

「いや、別にそういうわけじゃないのだが……というかしばし待て。先程から妙になれ慣れしすぎやしないか貴様ら?――――体調がすぐれないのであれば、貴様のみ見逃してやってもよい。マスターということも加味してな」

 

 こっちの心配までしてくれています。どうしましょう。私、戦意という戦意を全て根こそぎ持っていかれた気がするんですけど。周りを見てみればダ・ヴィンチちゃんもあきれ果て、Xさんとサンタオルタさんもいつでも戦える準備だけはしていても戦意そのものは殆どないような状態です。

 

「あぁ、別に体調が悪いというわけじゃないんですよ。問題はないので、遠慮はいりません。認めてもらうために一戦交えるんでしたっけ?」

「違う。貴様らを此処で排除するために戦うのだ」

「……わかりました。こちらも死にたくないので全力で行きます」

 

 先輩のスイッチがようやく入ったことを私は感じることができました。この状況にもしスカサハさんが居合わせて居たら確実に強化合宿(ケルト式)待ったなしでしょうが、今彼女はいません。

 やる気になった先輩は魔力を自身に、私達サーヴァントに、回してアサシンさんと戦闘を開始するのでした。

 

――――ただ、戦う前に気になったことが一つあります。敵に集中していない時の先輩は、小さく震える声で「……が聞こえる」と呟いていました――――

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 アサシンさん(確定)を倒した。うん、倒した。そもそもアサシンである彼が正面から戦ってくれた時点でこちらの勝ちは確定したようなものなのだ。俺達はヴェディヴィエールを含めるとサーヴァントが五体。一方向こうは正面からの戦闘が得意とはお世辞にも言えないアサシンのサーヴァントが一人。結果など火を見るよりも明らかである。

 

 マシュのいい感じのシールドバッシュを受けたアサシンさん(いい人)はそれでも倒れようとはせずに俺達と戦おうとした。しかしその戦闘に待ったをかけた人物――いや

英霊がいた。

 

 彼は自分のことをアーラシュと名乗り、アサシンさん――――呪腕という単語が聞こえた―――を説得して村の中へと入れてくれた。説得されたアサシンさんはそのまま村の中へと引っ込んでしまったが、小さくつぶやいた難民の受け入れという言葉に俺の好感度は加速した。あの人は絶対いい人。

 そして、戦いを止めてくれたアーラシュさんも気さくないい人だった。彼は自分のことを三流サーヴァントだと名乗った。確かに俺は彼のことを知らないが、三流という言葉が偽りであることくらいは分かる。彼から感じる力が半端じゃないのだ。後でロマンに聞くと、西アジアでは絶対的な知名度を誇り、弓兵こそ彼と言っても過言ではないほどの人物だという。

 

 そんな感じで割と想像していたよりもあっさりと難民たちの受け入れと俺達の受け入れをしてもらった。もちろんただとは言わず、この村を襲いに来る心を失った人だったり、化け物だったり、魔獣だったりを狩り倒したりもしたのだが、この程度いくつもの特異点を越えて来た俺達にとってはもはや敵でも何でもないので問題はなかった。

 

 最初の方は当然、村の人から白い目で見られた。それはそうだろう。この村はパッと見てわかるほど裕福ではなく、ぎりぎりで食いつないでいるというところだ。そこに大量の難民と明らかに聖都を支配した騎士たちを想わせる格好の人までいるのだから。

 

 しかし、それもこの村にて何日か過ごすうちに次第に緩和されていった。俺達は先程も言った通り、アーラシュさんに引き連れられて村を守るために戦ったり、限られた食料を可能な限りおいしい状態で出して配ったり(宗教的にアウトな奴もしっかり除いて)、ルシュド君と他の子どもたちと遊んだりして何とか溶け込むこともできた。……時たまベディヴィエールが胃を抑えたりしているけれども大まかには平和と言っていいだろう。

 今日も村を守るために戦い、一足先にこの村で暮らす間お世話になっている家で一人で休んでいる。マシュはベディヴィエールが話があると連れて行った。

 

 このような生活を続けて一週間。すっかり村の人とも仲良しになることができた俺達。獅子王のこともそろそろ考えていかなければいけない時期ではあるのだが―――――――正直に言おう。俺は、今、そんなことを考えている暇がない。正確に言えばそんなことを考えている暇が()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 初めに違和感を感じたのは山岳地帯を上り、村が近づいてきた時だ。その時には、まるで師匠に後ろからじっと見つめられ、戦い方を観察されているような寒気を感じた。次に、村に入り、アサシンさん――――呪腕さんと初めて邂逅した時には遠くから直接頭に響くかのような()()()()()()()()()()()そしてそれは、今もなお頭に響いている。これが何を意味するのか俺にはさっぱりわからないが、いい予感はまるでしなかった。

 

――――で、どうしてこんなことを考えているのかと言えば、当然それが現実のものとなったからである。

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

「あ、ベディ君とマシュさんがいますね……」

「――――あの様子、どうやらベディヴィエールも気づいたようだな。気づいていたが確かめに行ったというべきか」

 

 時刻は夜。

 一週間、アーラシュと共に村を守るために戦っていたカルデアのサーヴァント達。その中のヒロインXとサンタオルタは二人っきりで話し合っているマシュとベディヴィエールの姿を発見した。

 彼らの顔は至って真剣である。傍から見たらとてもお似合いの二人かもしれない。と言っても二人からすればマスターという壁が彼女には立ちはだかるため、もしそっち系の話だったとしても困難極まるだろうが。

 

「ベディヴィエールはマシュに力を貸した英霊のことを聞きだした、と。君たちはそう見るのかな?」

 

 彼女たちの予想を聴きながら作業をしていたダ・ヴィンチが会話に加わる。万能者として会話をしながら開発など余裕なのだ。ちなみに彼女が今作っているのはあの閃光玉である。あれがあれば少なくとも厄介なトリスタンの行動を制限することができるのだから、大量生産できるならしておいてくれと仁慈に頼まれたのだ。頼む方も頼む方だが、作る方も又大概である。

 

「彼も円卓(笑)の騎士の一人。彼女に力を貸している英霊が誰なのか、一週間も居れば察することは容易い。私は初見で気づいた」

「ドヤ顔しないでくれます?私だって気づいてましたー」

「ふむ……気づいていたのに何故言わなかったのか、と聞いてもいいかな?」

 

 彼女の言葉にヒロインXとサンタオルタは分かり切っていることを聞くなという表情を浮かべる。ダ・ヴィンチとてそれは分かっていた。本気で調べればマシュに力を貸したのが誰なのか、解明しようと思えば解明できたかもしれない彼女は、恐らくこの二人のアーサー王と同じなのだから。

 

「ロマンですよ、ロマン。こう、覚醒させるべき場所で覚醒させるという感じです」

「要するに、無駄に初めから強い力を覚えてしまっては後に響くということだ。それに巨大な力を扱うのであれば、それ相応の精神が必要になる。()()()()()()()()()()な」

 

 その説明にダ・ヴィンチは静かに頷く。

 まさにその通りだ。強大な力を使うにはそれ相応の精神力が必要となる。そうでなければ自分自身の力に自分が飲み込まれて終了だ。そのような結末をたどる物語などそれこそ無数に存在する。同じ結末をたどらないようにするには、月並みだが己を越えていくことが重要になるのだ。

 

「ロマン、ロマンねぇ……。うん、まあそうだね」

「……まぁ、今の理屈で行ったら真っ先に出てくるのはマスターなんですけどね」

「パッと見は弱者が強者を倒す王道を言っているからなトナカイは」

 

 サンタオルタの言葉を聞いて三人は一斉に想像する。人類の破滅が約束された世界で、救うことができるのはランダムで選ばれた一般枠の魔術師未満の人間。けれども彼は数々の英霊たちと縁を結び、神話に名を連ねる者達をなぎ倒していずれは世界を救う――――――確かに王道の物語。絆と努力の物語と言えるだろう。そこまで想像した二人は続いてそれを実際に見た光景に当てはめてみた。

 

 人類の破滅が約束された世界、救うことができるのはランダムで選ばれたはずの一般枠……の皮を被った逸般人枠で来た人間(?)数々の英霊たちと縁を結び、神話に名を吊られる者達を不意打ち、袋叩き、外付け装備でなぎ倒して、いずれは世界を救う――――。

 

「―――戦争だな」

「―――戦争ですね」

「―――戦争だねぇ」

 

 ―――戦争だった。想像してみたらもう唯の戦争だった。もはや物語ではなく戦記とかそんなものになっていた。三人は改まって彼の物騒さを自覚する。いったい何を間違えたらこうなるのだろうと。

 

 そんな時、不意にロマニの焦った声が通信機越しに聞えて来た。別に彼が焦っているのはいつもの事なので、三人は至って冷静に聞いていた。

 

「どうしたロマニ。そんなに慌てて」

『レオナルド!君は……いや、君だけじゃない、君たちは何をしていたんだ!』

 

 しかしその様子は焦りと同じほどに怒りを含んだものだった。首を傾げる彼ら、するとロマニは怒鳴り散らすかのように声を張り上げた。

 

『仁慈君の反応が消えた!カルデアの観測では死亡だぞ!?何があったんだ!?』

 

 死亡―――その言葉に全員は弾かれたかのように飛び起き、仁慈が寝ているはずの部屋まで上がり、ドアを蹴り破った。するとそこには、仁慈の姿がなく、唯々空っぽになった寝床がぽつんと置いてあるのみだった。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 呼ばれた気がした。

 いや、確実に呼ばれていた。そう、確信できる、何かが俺の身体を動かした。普段の俺であれば考えることもできない行動。仲間を呼ばず、人間である俺がただ一人で行動するなんて、自殺行為もいいところである。実際、数多の怨霊に襲われる始末。普段であればこのようなことはせずに踵を翻して帰るところであるが、まるでその方向に引っ張られるかのように、身体は依然と村の方に向かうことはなかった。

 立ちふさがる数多の怨霊をなぎ倒し、山を全力で超え、一刻程走り続けると俺は一つの建物に辿り着いた。いや、建物ではない。近づくだけでまるで死そのものが襲い来るような感覚を覚える。であればこれは決してただの建物ではない。どちらかと言えば霊廟に近いものだと直感で感じ取った。

 

 これ以上進んではいけない、と俺の本能が訴える。ケルト式ブートキャンプで鍛え上げられた第六感が。生きるために身につけて来た技術が、それを覚えた身体が、全てが訴えかけるのだ。これより先に進むなと。

 だが、やはり俺の意思とは反対に体はこの霊廟の奥へ奥へと進んでいく。本能が警告をするほど強くひきつけられるように。

 

 

 中へと足を進める。

 それは外で感じるよりもより濃い死の気配を漂わせていた。もう、自分に内蔵された警告はレットゾーンを通り越してぶっ壊れたかのように静かになってしまった。こんなことは今までで一度もない。ぶっちゃけ俺はここで死ぬんじゃないかとすら感じた。

 

――――その時、

 

 

 

「――――――ッ!?」

 

 

 

 風を切る音が聞こえた―――いや、わざと()()()()と言った方がいいだろう。なんせ、攻撃する気配も、そもそも存在自体を悟らせないような人物が、武器の音を消せないはずはないからだ。

 俺は、わざと耳に届かされた音を頼りに回避行動を行う。しかし、それでも未だ足りないのかカルデアの礼装を断ち切り、左肩を切り裂かれてしまった。決して深くはないが、それでも行動に支障をきたすレベルではある。

 

「recover()!」

 

 瞬時に魔力を回して魔術を発動させて傷口を塞ぐ。もちろん精密に発動している暇などないので魔力に物を言わせた術の発動であり、その分ムラも魔力の消費も大きいがそんなことは言っていられない。

 攻撃を仕掛けた何かは未だ姿も気配も悟らせない。何処に居るかもわからない。くまなくあたりを見回すが、どうしようもない。

 

 けれど、これだけは分かる。

 ―――――俺はここに存在しているモノには絶対に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。こんなこと、あのソロモンと対峙した時ですら感じることはなかったものだ。足はすくまない。身体も震えることはない。汗も吹き出ない。身体はいつも通りなのに、それでも――――

 

『―――魔術の徒……否、万人の隷属者か』

 

 声が響く。

 それは地獄から直接聞こえてくるのではないかと思わせるほど濃密な死の気配を漂わせたものでありながら、同時に祝福を告げる鐘の音であるかのように思わせる。意味が分からない印象を抱く声だった。

 

『我が剣は時代を救わんとする汝の意義を認めている』

 

 その声は、許さなかった。

 抵抗を、知覚を、抵抗を、認識を――――生存を。

 

『が、この廟に足を踏み入る者は悉く死なねばならない』

 

 しかし、それでも一つだけ許されたことがあった。

 

『――――――それは不要。その首は晩鐘に選ばれた――――』

 

 それは、

 

『――――――――』

 

 このまま、黙って斬られることだった―――。

 

  

 

 










この世界の片隅で


                                 BAD END










というわけで、完結です。
いやー、長引きましたね。しかし、完結できたのは皆さまが応援してくださったおかげです!本当にありがとうございました!





















まぁ、嘘ですけどね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。