この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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今回は短めです。
あと、前にも報告したと思いますがもう休みが明けてしまうので週に一、二回あるかないかという更新速度になるかもしれません。ご了承ください。


逃走と迷走

 

 

 

 

 現在逃走中である。

 急かもしれないが、それが的確な言葉であった。とりあえず、元部下の醜態に我慢できなくなったWアルトリアとマシュの所為というかおかげというか、結果的に難民の人は少なからず助かった。ついでに相手の主要サーヴァントと思わしき人物二人にまとめてサンタオルタの宝具をぶつけることに成功した。いくらドーピング染みたことをしていたとしても、いくらそのクラスをライダーに変え、騎士王からサンタクロースにジョブチェンジしたとしても、黒き聖剣の力は冬木の時から劣ることはない。少なくとも「何なんだぁ今のはぁ……?」という最悪の事態にはなっていないと思う。派手に暴れたおかげでこれ以上の増援が来る前に、速やかに撤退をしている最中だ。ついでに助けた難民たちの殿を務めている。助けたのならできる限り責任は取るべきだからね。言い方は悪いけど、ペットと一緒だよ。

 

 背後から追いかけてくる無駄に頑丈な騎士たちを適当につぶしながら撤退していくと、西の方から別の集団を見つけることができた。それは俺達と同じく難民が避難している様であり、真っ直ぐこちらに向かって来ている。その周辺にはガウェインの効果が消え、本来の闇を取り戻した空間でも、色褪せることのない輝きを放つ腕を持っていた。あれが話に聞いたベディヴィエールだろう。どうやら彼もガウェイン達のやることに我慢ができずに助けに入ったと見える。俺が言うことではないのだろうが、騎士って本来こういう感じじゃないのかね。

 

 チラリと味方陣営の様子を窺ってみれば、もう既に救う気満々である。サンタオルタは子どもがいるかどうか目を細めて確認しているが、乗り気だった。ですよね。ダ・ヴィンチちゃんを見る。しょうがないなぁ……なんて呟きながらも彼女も乗り気であった。ここまで来れば意見は一致したも同然だろう。

 

 この場にダ・ヴィンチちゃんと俺を残して他のサーヴァント達が難民との合流口を創るために自ら食い破るように騎士たちを蹴散らし始めた。こちらも近づく騎士たちの防具が無いところを切り裂きながら、隙を突いては弓を射る。すごい久しぶりな気がする。何処かでエミヤ師匠が泣いている姿が見えるようだ。

 

『うわぁお、まるで吸い込まれるように飛んでくねー……。ほんと、君は戦うことに関しては天才と言ってもいいんじゃないか?』

「俺で天才なら他の英霊たちはどうなるよ?神?」

「比較対象がおかしいんだよなぁ……ん゛ん゛、そうじゃなくて、実際自信をもってもいいと思うけど」

「自信はあるよ。少なくとも、カルデアに来たときは自分でも頭おかしいんじゃないかという勘違いも正したし。只……下手に自信を付けると慢心するから。慢心したら、送られるから。地獄に」

 

 あっ(察し)という反応。そうでしょうそうでしょう。今の俺に妥協は許されず、停滞も死を意味する……つまり、飢え、探求し、追求し、求道しなければ俺はこの先生き残れないんだよ(集中線)

 

「反逆者め……!隙を見せたな!」

「なんで声を出すのかこれがワカラナイ」

 

 何度も言っているけれども、前口上・隙あり!の言葉と共に繰り出される攻撃……どうしてこうも敵に気配を気づかせてくれるようなことを言ってくれるのか。こんなことを師匠の前で、師匠の用意した獣の前でやってみろ。次の瞬間には自分の身体から赤い花が咲くことになる(実体験)

 

「呆れながらも容赦の欠片もない攻撃……最近さらに容赦がなくなったよね?」

「……?別にいつも通りじゃ……」

『自分で言っちゃうんだ……』

 

 自分を受け入れることで強くなる……古事記にもそう書いてある。くだらないことを言い合っているうちに騎士たちの追撃をしのぎ切り、無事ベディヴィエールが助けたと思われる集団と合流することができた。そこで、大地が死んでいるのはいただけないが少しだけ休憩を取るつもりで皆に休むように提案した。

 流石に人種も目的も分からない俺達を信用できないと考えている人たちが大半ではあったものの、ここまで守った甲斐もあり休憩の提案は受け入れてもらえた。

 

「すみません。助かりました」

「いえ、当然のことです!」

「やはりベディ君はまともだった!」

「………やっぱり、力だけではだめだな。うん」

「あ、あはは………そういっていただけたようで何よりです」

 

 なんだかベディヴィエールの顔色がすごい悪くなっているんだけど。褒められているはずなのに銀の右腕で自分のお腹をさすり始めたんだけど。どうしたのだろう。まるで自分はそんなことを言われる資格がないと言わんばかりの表情だけど。

 

「そうですよ。円卓に足りなかったのはこういう人ですよ。常識的というか、自分を持っているというか……はぁ。何でああなってしまったんでしょう。パッと思いつくだけで、碌な騎士が思い浮かびませんねぇ……」

「ロリ巨乳好きの三倍ゴリラ、起きてんのか寝ているのかわからない赤髪。ホモ疑惑持ちのコミュ障、下半身に脳みそがついているNTR騎士、ヤみ全開の反逆騎士………」

「アルトリアさん、いくら何でもそれはひどすぎるのでは……?」

『だが、事実だ』

「…………………」

 

 あ、ベディヴィエールが全力で目を逸らした。そして再び胃を抑え始めた。……サンタオルタとヒロインXはよほど円卓に恨みでもあるのだろうか。あるんだろうなぁ……。

 

「このまま時間を無駄にすることは効率的ではないし、私は先に彼らに水と簡単な食料を配ってくるよ。……ただ、足りるかどうかわからないけど」

「じゃあこれ持ってって」

 

 俺は鞄の中から食料をダ・ヴィンチちゃんに受け渡す。Wアルトリアを連れていくならこのくらいに備えは万全である。

 

「……君もおおよそ万能だよね」

「考えられる状況に対する手立てを用意しているだけだよ」

 

 溜息つかれた。なんだよ。準備がいいだけっていかにも心配性の凡人ポイじゃん。

 

 

――――――――――

 

 

 

 一方、Wアルトリアにいいようにやられてしまったガウェインとトリスタンは一度キャメロットの内部へと戻り、円卓が一堂に会する場所へと帰還していた。当然、彼らに向けられたのは白い目である。彼らにとって獅子王の指示は絶対であり、それを破った者は円卓の騎士であっても死の懲罰は免れないからである。本来であれば。

 

「――――――――」

 

 だが、この場合は例外である。

 何故なら帰還してきたガウェインとトリスタンの恰好が異常にボロボロだったのだ。……獅子王からギフトを受け取った彼らがこのようなことになったということは、即ち自分たちを―――獅子王を脅かす存在が現れたことを意味するからである。

 

「……何があった。ガウェイン卿、トリスタン卿」

「おいおい、まさか油断しすぎて難民にボコられたわけじゃねーよな?」

「トリスタン卿が出ていったのだ。ガウェイン卿の甘さはここまでになる要因とはなり得ない。もう少し考えてからものを言え。モードレッド卿」

「ヘイヘイ、悪かったよ」

 

 茶々を入れるモードレッドに深いしわを持つ黒い騎士が言い放つ。モードレッドは渋々とその言葉に従い大人しくした。それを確認した黒い騎士はその鋭い眼光をガウェイン……ではなくトリスタンに向けた。

 今の彼は獅子王のギフトによりその性質が反転している。故に冷徹であり、ある意味で残虐。余計な私情を挟むことなくありのままに報告をしてくれると考えたためだ。トリスタンは黒い騎士の期待通り、ありのまま自分たちの身に降りかかったことを報告した。

 

「単純な話ですよ。アグラヴェイン、聖罰を妨害したサーヴァントがいた。ただそれだけです」

「言葉が足りん。全てを話せ。この程度のことで陛下の手を煩わせるわけにはいかん」

「……人理の守り手ですよ。彼らが率いたサーヴァント……それが私たちを邪魔した存在の正体です」

 

 ガウェインが紡いだ言葉にその場にいる円卓の騎士たちの表情が強張る。何故なら、彼らは知らされているのだ。人理の守り手が訪れたとき、最果ての塔が崩れ去ると。最果ての塔……この言葉に心当たりがある彼ら、というか心当たりしかない彼らは何があってもそれを起こさせるわけにはいかなかった。

 

「そうか。……だが、まだ語っていないことがあるだろう。それを報告せよ」

「我等が王……アーサー王が二人、人理の守り手側についていた……ただそれだけですよ」

 

 表情が強張る―――なんて生易しいものではなかった。その場に居る人物は誰しもがその表情で動揺を語っている。

 自分たちの王であるアーサーが二人もカルデア側に着くという意味。そして何より、彼ら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……このことに彼らは何より動揺した。

 自分たちを召喚した獅子王。彼女は確かにアーサー王だった。しかし、長き時を聖槍ロンゴミニアドと過ごす間に()()()()()()()()()()()()()()。反転していないトリスタンは召喚されていた当初、後悔に後悔を重ねた。自分たちを呼んだアーサー王。獅子王となったアーサー王を見て見れば、自分たちと共に生き抜いた彼女がどれほど人間味あふれていたか理解したからである。真に人ではないということを、彼はその瞬間にむざむざと知ることになったのだ。彼が反転のギフトを賜った理由もこのことが関係している。

 

「なん……だと……」

「父上が……二人……!」

 

 アグラヴェインは頭を抱えた。文字通り抱えた。生前あれ程の無様を晒し、見事に円卓を叩き割った自分たちが、再び割れる……そう思わせる爆弾が向こうからやって来たのだ。頭を抱えても仕方がないだろう。そもそも、この世界に召喚された瞬間に円卓は獅子王の手によって真っ二つに割られているのだが、そこは気にしないことにした。

 モードレッドは驚愕から歓喜を現した。自分が焦がれた王。それが二人も敵として出現したのだ。反逆のし甲斐があると、賜ったギフトの名に恥じぬ暴走っぷりだった。

 

「―――――しまった。策として予めランスロット卿に賊の捕縛を命じていたのだった」

 

 この時、円卓勢は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……我等が王が二人。

 最悪あの騎士裏切るな、と。

 




褒められているはずなのに、胃が痛くなるベディ君。
この特異点に来るベディ君は聖剣返せなかったからね……仕方ないね。

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