後、更新遅れて申し訳ありません。ちょっと風邪でぶっ倒れてました。
「でかっ」
実はニトクリスが去った後に再び発生した砂嵐の中を突き進んでいると、やがて砂嵐が自然と止んだ。そしてそれと変わるようにして巨大な建造物が出現する。エジプトと言えばこれと言っても過言ではない建物。奴隷たちが頑張って作ったとか、実は奴隷じゃなくて普通に仕事で作ってたとか、別に丸太を下に引いて石を運んでいたわけではなかったとか、遥か遠い未来で好き勝手に掘り返されていたりする建造物……そうピラミッドである。千年アイテムとかありそう(小並感)
「これはすごいです!まるで砂の海に浮かんだ海上都市のようです!一目で素晴らしい建築物だと分かります!」
「流石建築王の異名も持つ古代エジプト最大最強のファラオ、オジマンディアスの建造物だ。この造形は私を持っても見事としか言えないねぇ」
「こう大きい建物を見ると、ぶち壊したくなりますね」
「…………ここに煙突はないのか」
マイペース過ぎる。
ダ・ヴィンチちゃんの反応まではぎりぎり許容範囲内だけどWトリアの感想が……。ただ、ここで気になる単語が出てきた。オジマンディアスってどなただろうか。
「さっき言った通りだよ。太陽王オジマンディアス、正しくはラムセス二世。最大最強のファラオにして、色々と異名を持っている万能人さ。私ほどじゃないけどね?」
「へぇ」
「ところでカルデアとの通信は回復したかい?」
「いえ。カルデアとの通信は未だ不通のままです」
カルデアとの通信は未だ回復してはいない。原因と思わしき砂嵐は抜けた筈なんだけど。
俺には全く見当もつかぬ、な状況だが彼はそうではないらしい。自分の考えが正しいということを確信したように二、三回頷いた後に口を開く。
「うん、これで私の仮説は立証された」
「そんなこと言ってましたか?」
「やめろ。天才というやつは大体自分の中で結論を出すから、口にも出していないことをあたかも出したかのように言うんだ。だから私の袋の中にある
どっから仕入れて来たんだ。そんなもの。
「それ私が作った奴じゃん。別にいいけどさ。……ってそうじゃない。今までの失礼な発言を取り上げていると全く以って話が進まないから今は無視するけど、忘れたわけじゃないからね?」
と、前置きをしたのちにダ・ヴィンチちゃんは己の仮説とやらを語りだした。
俺達がレイシフトしたのは十三世紀の中東である。しかし、少なくともこの砂漠とこの建物のあるところはその時代ではなくもっと古代のものらしい。彼女が持っている杖には魔力計としても使え、その魔力計がそういう数値を示しているのだとか。どうやら先程説明してもらった最大最強の
「領地もまとめて召喚とか……」
「円卓を呼べない我等に対する当てつけだろうか」
「卑屈に受け取り過ぎでしょ」
それに今の恰好をみればそれも正当だと思う。少なくとも、宇宙で戦争もしくはバーチャルの世界で英雄になってそうな恰好をしているXと、まんまサンタクロースなサンタオルタには円卓勢呼べないだろうな。これで呼べたらすごいよ。
「……此処で話していても状況は好転しないし、流石に熱いし中にとりあえず中に入ろうか」
「はい!私、エジプトの建物に入るのは初めてです!」
俺もマシュも籠の鳥っぽかったしそれも致し方ないだろう。というか、エジプトの建物なんて早々入らない気がする。世界旅行しているなら話は別だけど。
そんな感じでとりあえず建物の中に入っていくのだった。……ただ、建物の中に入ってすぐに誰かに監視されている気がするんだけど気のせいだろうか。
「――ところで、ここはさっき言った通り古代エジプトの環境下なわけだけど……仁慈君、体調とか平気かい?」
「特に不調は感じてないかな。むしろ魔力が満ちている分調子がいいかも」
「………やっぱり、君は現代人じゃないよね」
―――――――
普通にピラミッド(神殿)の中に入っていったのだが、特に妨害や武器の取り上げなどをされることなくそのまま流れるようにオジマンディアスと思わしき者のところまで連れていかれた。
一段と広いその空間には壮大にして巨大な椅子が設置されておりそこにとても眠そうにしている褐色の男性と、近くにはエリちゃん風褐色エジプトのサーヴァントの姿も見られる。彼女が平伏するのです!と言っている当たり、あそこに座っている男性がオジマンディアスと見てまず間違いないだろう。
「……さて、おまえたちが異邦からの旅人か。我が名はオジマンディアス。神であり、太陽王であり、地上を支配するファラオである」
意外にも自己紹介から入ったオジマンディアス。しかし彼の口から語られる事実は驚愕の連続であった。
最初に、俺達のことを知っていた。今まで何をしていたか事細かにというわけではないが大まかに把握しているようであった。理由を尋ねるとファラオだかららしい。ファラオぱねぇ。そして次にこの時代の聖杯は彼、オジマンディアスが己の手にしてしまっているらしい。実際に証拠としてそれを見せてもらっているのでまず間違いない。なんでも十字軍から奪い取ったのだとか。
その話を元にダ・ヴィンチちゃんがこの特異点はオジマンディアスなのか?と本人に問いかけてみるもそれは違うと返された。一体それは誰なのか……それを言おうとしたところで――――オジマンディアスの首が《《横にずれた》》。
「ドフォーーーーウ!?」
『――――――――』
フォウ君絶叫、他のカルデア勢は絶句である。それも仕方ないだろう。いきなり目の前の人の首がずれこみ、さらに何事もなく戻ったのだから二重の意味で驚きを隠せない。もはやマジックの類ではないかと疑ってしまうくらいだ。
……ただ、首がずれ込んだあの時わずかにオジマンディアスの瞳孔が開いた。このことから少なくとも彼自身がそれを行ったことではないことが伺える。もしや何かがこの中に居るのではないか?と疑問に思い、周囲を警戒してみるも俺が感じ取ることができる気配は何もなかった。……ただ言いようのない悪寒を気のせいかとわずかに感じるくらいである。
まぁ、何度周囲を見渡してもこの部屋に隠れる場所なんてものはなく、感じ取れる気配もこの場に居る全員の物のみ。正直あれが俺達に起きたら何の抵抗もできずにさよならだ。……どうにかしたいけど、どうにもできないような気もする。
「―――どうしたのだ」
「あ、あのですね!オジマンディアス王!」
「く、首が……スッパリと」
「まるでマジックのようだったな……マジック……マジック、道具……ハッ!」
「旅の疲れであろう。不敬だが、一度のみ許す。……そして話を戻すが、ここを異例の特異点とし、人理を完膚なきまでに蹂躙したのは余ではない。それを行ったものは、エルサレムの残骸。絶望の聖都に座している。通り名を獅子王。純白の獅子王と謳ってな」
獅子王。
オジマンディアス曰くその人物がこの特異点を異例のものに変化させた原因であるらしい。……十中八九アルトリアの中の誰かだろうなー。丁度Xのセンサーが指示した位置も聖都だったし。
情報を吟味しながらついでに聖杯は貰えるのかダメもとで聞いてみる。すると、意外な返答が帰って来た。
「―――それは時が来ればいずれ持つべき者の所へと収まる。いずれ貴様らはこの時代に暴君として君臨する余と矛を交える時が来るだろう。だが、今ではない。その時が来るまでこの世界を巡り、その真実を、残酷な現実を見聞してくるがいい。―――よって、貴様らを今からこのエジプト領より追放する」
えっ。
唐突に告げられた追放宣言。その発言に間違いなんてなかった。あれよあれよと俺達は運ばれ、結構な量の水と食料を持たされてピラミッド(神殿)の外まで追い出されてしまったのである。何故かニトクリスまで一緒に来てくれたけど。
「………嵐のような展開でした……。もっと建築の事とか聞きたかったです……」
「何の不満があるというのです!王は貴方たちに水と食料まで分けてくださったというのに」
エジプトの領内で死なれては面子が立たぬ―――そういう理由ではあったけれども本人が言っていた通りこの砂漠を越えるのは並大抵のことではないということが分かっているんだろうな。暴君と言っていたけれども、あれは自分の領地の民からは名君と言われるタイプだろう。流石最大最強のファラオ。さすファラ。
「うんうん。しかも、神殿にあった資材も使わせてくれたしね」
「……当然です。王は無慈悲な方ですが、勇者には寛大な方です。……ただそれも一度きり、ファラオ・オジマンディアスは恐ろしい方です。次に会う時があなた方の死の運命。……それを決して忘れないように」
エリちゃん風褐色エジプトなんて表現をしていたけれどもとてもいい人じゃないか。これもマシュ達が助けたおかげなのだろう。
今彼女は、そのマシュとどこか楽しそうに話している。それを眺めながら俺は考える。恐らくあの建物の中で感じていた見られているという感覚はオジマンディアスのものだ。本人に邂逅するときに視線と同じものを感じたし、ダ・ヴィンチちゃん曰く、あの建物も彼の宝具である可能性があるらしい。建築王と言われていることから十分に考えられる。そして、あれ全てが宝具なら内部をどこでも監視することができるだろうから。その後、ニトクリスはスフィンクスに乗って帰っていった。改めてみるとすごいなこの光景。
「いいなぁ、私も一度乗ってみたかったなぁ……スフィンクス」
ガチャガチャと何かをいじりながらうらやましがるのは当然ダ・ヴィンチちゃんである。こういうのは聞いておくのがお約束というものだろう。
「というわけで、何やってんのさ。さっきから」
「ん~、こういう時だけ空気読めるね仁慈君。よくぞ聞いてくれました!どうやら今回は長時間の肉体労働になりそうだからね。――――このように砂漠移動用車などを作ってみましたー!名付けて、万能車両オーニソプタースピンクスさ!」
ててーん!と見せてきたのはバギーのような車。というかバギーそのもの。
オジマンディアスから分けてもらった資材ということで全て木材で作られておりその外見はスフィンクスをモチーフにしていることが伺えた。
「フォウ、フォォォーーーーーーーーーウ!!(ダ・ヴィンチちゃんって馬鹿だよねーーー!!)」
「これは……何処からどう見てもバギーです!十三世紀にあってはもはやオーパーツかと!」
「いやー。この時代からあまりにも離れすぎた技術を使うと成功しにくいからさー。この時代で何とかなりそうな範囲でちょちょーっと作ってみたのさ」
ダ・ヴィンチちゃん曰く基本的にバギーなので免許はいらないということではあるのだが、エンジンとして魔力を消費するために60キロほど出るらしい。やっぱ免許必要だろそれ。
「私の騎乗スキルに任せろ」
そういえばライダーいたわ。
「60キロと言わず、120でも180でも出してやる」
魔力放出やめろ。やっぱり俺が運転するわ。
「先輩、先輩!えぇっと、後で私にも運転させてくれませんか?」
「むしろ今からやってもいいよ」
「では、お任せください!このマシュ・キリエライト。必ずや首位で先輩につないでみせます!」
――――――――――
「………本当によかったのですか?連れてきてしまった私が言うにはあまりも差し出がましいかもしれませんが……」
「よい。それはお前に何も教えていなかったことが原因である。……それよりニトクリス。余の決定に異論でもあるのか?」
「いえ!そのようなことは……ただ、どうして態々あのようなことをおっしゃったのか……」
それでも疑問を浮かべるニトクリスに仕方がないという風にオジマンディアスは口を開く。
「――――言ってしまえば、恐らく今の奴らでも解決できるだろう。この余からも勝利はともかく聖杯を持ち帰ることくらいは可能だろうな」
その言葉にニトクリスは驚愕する。
だが、オジマンディアスにとってそれは当然ともいえる結論であった。何故ならかつてここではないどこかの聖杯戦争において彼が認めたアーサー王……それに限りなくよく似た別人とも言えるアルトリア達に加え、
「だがそれでは足らん」
オジマンディアスは己の王としての目を持ってその発言をした。故にニトクリスは本当にそれが可能であることを悟る。
「この特異点は超えることができようとも、必ず何処かで綻び生じる」
彼は断じる。
ただ人理修復することだけが解決につながるわけではないことを。彼らには何が必要なのかを。しかし、最も重要視する理由があるのだ。
「―――そして、それこそが真の勇者になる道筋となるのだ」
彼は王だ。このエジプト領を統べ、民を導く義務がある。彼はファラオだ。王にして神を名乗る太陽王は、己に歯向かう愚か者を態々生かして返すことなどしない。しかし、彼は人を統べる王であり神であると同時に建築王でもあった。
より機能美にあふれ、より美しい外装にできるものがあるのであればデザインしてみようと思うものである。只、それがこの場合は仁慈達だったということだけだ。
「この余が携わったのだ。