この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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 そろそろ五章が終わりそうなので一つ報告を。

 イベントの扱いなんですけど、前に書いた時は七章終わった後にまとめて書こうと思ったんですが、七章から終章はノンストップの方がいいのではと意見を頂き確かにと思ったので、六章が終わったら入れます。
 結構短めになってしまうと思いますけれども。
 で、イベント配布鯖の扱いは基本的にこれから入れないようにします。既に入ってしまっているハロエリとノッブ、ストーリーないけど出してしまったサンタオルタ、そして式はいますけれども他の鯖については少なくとも七章までで起用することはありません。もし期待していた方がいらしたら申し訳ありません。

一応、もし終章まで終えましたら色々と鯖は出す気ではいます(そこまで続くかは未定)


ゲイ・ボルク

 

 

 

 

 

 

 

「チィ……!」

 

 クー・フーリン【オルタ】の肩でハンドスプリングをしているために、その光景がありありと見ることができた。ガンドで行動不能は流石に無理があったらしい。兄貴の槍がクー・フーリン【オルタ】を穿つ直前、向こうは恐らく切り札を切って来た。全身に纏ったのは禍々しい鎧。いや、それを鎧と表現していいのかわからないな。鎧のようにも見え、何かの獣の骨格のようにも思える。特に一度見たことがある気がする。

 

 とりあえずその鎧を装備したクー・フーリン【オルタ】は腕の部分に装着されたかぎ爪のような部分で槍を受け止め、別の腕で兄貴の身体を穿っていたのだ。彼の立っている地面には夥しい量の血が広がっており、何処からどう見ても致命傷と見ていいだろう。

 

噛み砕く死牙の獣(クリードコインヘン)

 

 真名開放と思われる名前をクー・フーリン【オルタ】が口にする。すると兄貴の背中から無数のゲイボルクが突き出し更に傷を広げていた。これはやばい。

 そう感じた俺はすぐさまマシュに念話で指示を出す。その内容は俺が兄貴を回収するまでこのクー・フーリン【オルタ】を引き付けておいてくれという我ながら無茶苦茶極まりない指示であった。しかし、この状況はそうでもしないといけない。俺があれの目の前に立ったら速攻で殺される可能性大だ。

 

「やぁ!」

 

 クー・フーリン【オルタ】の背後からマシュがシールドで殴りかかる。少なくとも相当な質量の攻撃と英霊の筋力を加えた攻撃になっている。バーサーカーとして現界しており、防御性能が今一な彼には効果があるだろう。そう、思っていたのだが。

 

「!?あぁ……ァ!?」

 

 どうやらあの鎧。見た目通り鎧の役割も補っているらしくマシュの攻撃を受けてもびくともしていなかった。そのことに対して驚愕している彼女の隙を突き、右手のかぎ爪でマシュのことを殴り飛ばした。抵抗もできずに彼女は後方に吹き飛ばされる。最悪だ、いくらシールダーとはいえ、サーヴァントの攻撃を受けてびくともしない状態なんて。

 一応、マシュに攻撃する隙を突いて兄貴を救出してさらに距離を取ったはいいものの、状況は好転しているとはいいがたい。クー・フーリン【オルタ】のあの形態。少なくとも筋力と耐久は今までとは比較にならないくらい上がっているだろう。敏捷はよくわからないが、それらのステータスは軒並みアップしていると考えよう。

 クー・フーリン【オルタ】の能力、その解析と予測を行いながら俺はマシュに念話を飛ばす。すると一応返事が返ってきたことから少なくとも再起不能になったわけではないことに安心した。しかし、今抱えている兄貴が致命的すぎる。回復魔術を使いたいけどそんな隙を与えてくれるような相手ではないし、かといってこのまま兄貴を抱え続けたまま戦うというのも無理だ。確実にどっちも死ぬ。

 

「患者はここですか!」

「キタ、婦長来た。これで勝つる」

 

 ナイスタイミングで現れたナイチンゲール。思わず声を上げてしまったがそれはそれでいい。彼女は兄貴を見た瞬間、俺の腕から兄貴を奪い取るとそのまま治療に入った。ところで彼女が此処に居るということは魔獣は全て片付いたということでいいのだろうか。

 

「ナイチンゲールぅ!!どこ行ったのだ!?」

 

 あ、これちげえわ。患者の発生をいち早く察知して勝手に抜け出して来た奴だわこれ。

 とても深刻そうに声を荒げるのは当然ラーマである。彼は今、かなりの数の魔獣を一人で相手しているのだろう。しかもシータを守りながら。かといってこのままナイチンゲールを魔獣の露払いに充てると兄貴の霊基が保てなくなりこっちが終わる。

 

「(ごめんラーマ。そのまま一人で持ちこたえて)」

「(こいつ、直接脳内に……!)」

 

 余裕そうじゃねえかラーマ君よぉ。

 ということで、どこで拾ってきたのかわからないネタを披露するくらいの余裕はあったらしい彼のことは綺麗さっぱり忘れるとして、こちらは兄貴が復活するまでの時間稼ぎをしなければならない。俺としてもあそこまで頑丈な兄貴があっさり死ぬなんて信じていない。それはともに師匠との稽古を受けていることから十分に理解している。元々アルスターの戦士は死ににくいしな。

 では、俺がやるべきことは一つ。マスターという己の身分を囮として使い、全力で時間を稼ぐことだ。

 

 未だ、クー・フーリン【オルタ】の攻撃を受けて吹き飛ばされたままのマシュに念話を行い、飛び掛かるタイミングを指示する。了承の意思を確認した俺は早速行動に移すことにした。できればこんな死にに行くような真似はしたくないし、己が生き残るためなら割と何でもするが、今回はこれが一番生存率が高い方法という末期状態である。つまりは()()()()()ことなのだ。

 

 態勢を低くし、左手も地面につける。四つ這いのようなその恰好は獣のようにも見えた。仁慈はその態勢から己の肢体に一斉に力を加え、地面を抉る勢いで己の身体にすさまじい推進力を付けた。音の壁すらも超越するその移動は普通の人間であれば確実に肉体が削ぎ堕ちていくほどの速度である。しかし、彼はその問題を己の魔力で全身をコーティングするという脳筋方法で解決したのだ。

 

 音速で肉薄する最中、先程ばら撒き損なった四次元鞄の中身を地面に突き刺しながら、彼は真っ直ぐ鎧を着こんだクー・フーリン【オルタ】に向かって行く。それと同時に彼の背後から先程まで吹き飛ばされていたマシュも進撃を開始する。

 

 だが、クー・フーリン【オルタ】は迷わずこちらに追撃を加えようとして来ていた。そうだろう。マシュの攻撃が効かないのは既に把握している。であれば、カルナを倒した時に見せた俺の槍の方が厄介だと感じるだろう。俺が既に武器をばらまき戦闘準備を整えていることは向こうも当然把握していることだし。けれど―――

 

「やれ、マシュ!」

「はい先輩!」

『何?』

 

―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 俺の自信満々のトーンに反応したのか、クー・フーリン【オルタ】は鎧に隠れた顔を少しだけ背後に向けた。するとそこには右手に俺の槍、もはやこの場に居る誰もが見慣れている朱槍を持っているマシュの姿があった。

 

『チッ、あの時か!』

 

 そう。俺が盾に隠れ刀を取り出して特攻した時、俺はそれを渡していたのだ。師匠が暇潰しで量産した武器たち(オルタナティブ)ではない。その朱槍には己を宝具足らしめる雰囲気が、神秘がしっかりと纏わりついていたのだった。

 マシュが俺の朱槍を持っていると分かった瞬間、クー・フーリン【オルタ】は優先順位を変えた。致命傷を与えられる武器を持っていない貧弱なマスターよりも先に、サーヴァントであり致命的な傷を負わせる可能性のある武器を持っているマシュに狙いを引き絞ったようだ。完全にその身体は背後を剥き、俺のことを追撃するのは半ば自立しているようにも見える尻尾だけである。それを確認した俺はニヤリと笑った。

 

 既に己の射程圏内まで肉薄していたマシュはそのまま握っていた槍を―――クー・フーリン【オルタ】に振るうことなく左手に持っている盾をそのまま叩きつけたのだった。

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

「えぇい!ナイチンゲールが帰ってこない!マスターも返事を寄越さない!こんなんじゃ余、戦いたくなくなってしまうぞ!」

「ラーマ様ラーマ様。ナイチンゲールさんどうやら重傷を負ったクー・フーリンさんを治療しているようです」

「なら(何を言っても)しょうがないな!」

 

 諦観の言葉と共に目の前で己に襲い掛かろうとして来た魔獣を切り伏せる。これで彼が倒した魔獣は二桁にも上る数になったのだが、それでも未だにわらわらと湧いて出て来ている。ナイチンゲールと減らした分があるために囲まれるようなことはないが、それでも圧倒的な数の差がそこにはあった。サーヴァント一歩手前の魔獣たちと戦って今も尚この戦線が持っているのは、偏に完全体ラーマの強力さ故のことである。この状況で彼がいなかったらほぼ完全に詰んでいたと言ってもいい。

 

「それにしても……この魔獣の強さをマスターが知ってるのは聊かおかしくないか?」

「スカサハさんの弟子ですから不思議ではないかと」

「ことはそれで片付けてはいけないような気がするんだが……」

 

 左下から上に上げるように剣を切り上げ、そのまま身体を回転させると側面に居る魔獣の頭蓋を切り裂く。切り裂いた魔獣の頭蓋を左手に持ち、魔獣が屯している場所に投擲する。その死骸に態勢を崩された魔獣たちにラーマはすかさず己の宝具たる気円斬を放ち、更にシータから借り受けた弓で剣では届かないところに居る魔獣たちを蹂躙する。もはや、作業ゲーと化していると言われても納得するほどの手際の良さと緊張感のなさであった。

 

 だが、その油断が致命的な()()を招く。

 

 音もなく忍び寄って来ていた魔獣がラーマではなく、シータを狙っていたのである。シータが気づいた時にはもう遅かった。魔獣はその鋭い牙と爪を彼女に向けて構えており、ついでに言えば飛び掛かっても居たのだから。普段の彼女、それこそラーマとして召喚された彼女であればそのような失態は犯さない。しかし、今の彼女はその力をラーマに与え、本人は魔力タンクであるはずのマスターよりも非力な存在となってしまっている。その牙を()()で逃れる術はなかった。

 

「GURUOOOO!!」

「……ぁ……」

 

 小さく、言葉を漏らすシータ。

 それは近くに居る者ですら聞き逃すような音量であり、本当に漏れ出ただけのものに過ぎない。これを聞き逃したものを攻めることなどできないだろう。そう万人が答えるほどに小さかった。

 

 が、どんな小さな声でもそれがシータの物であれば聞き逃すはずのないシータ狂い(ラーマ)がここに居る。

 

「何をしている」

 

 言葉が魔獣の耳に届くころには既にその魔獣の額には矢が刺さっていた。それ以上言葉を紡いでいるようだが、もうシータを襲おうとした魔獣に続きを聴くことはできない。聴覚どころか生命の鼓動すらも失った魔獣にはどうあがいても不可能なのだから。

 

「この獣畜生供、今、余のシータを狙ったな?」

 

 尋常ならざる怒気がラーマを中心に展開される。それに当てられた魔獣たちは己の本能からか、意識せずとも足が数歩後ろに下がってしまっていた。

 

「狙ったな。確かに狙った……。余とシータを再び引き裂こうとしたな?」

 

 一歩、ラーマが前に出た。

 右手にはセイバーとして召喚される要因となった剣。左手には神の腕。己の神性に応じて神の武器を引き出す破格の宝具。

 呼び出されるは多種多様な神具とも言えるべき武器たち。それを一瞥したラーマは堂々と獣たちに宣告した。

 

「疾く失せよ。己の所業を後悔しながら、天上の者たちの礎となるがいい」

 

 これは酷い。

 油断したのはラーマだが、致命的な失敗を犯したのは魔獣の方という理不尽。この場を仁慈が見ていれば、責任転嫁もいいところだとツッコミを入れつつ敵が減るのでいいぞもっとやれと言っていることだろう。

 ………どちらにせよ、彼のことを止める人間などいなかった。彼は己の神性と腕をもって宣言通り魔獣たちを後悔させるような蹂躙劇を始めたのだった。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 ズゴン、とあたりに鈍い音が響き渡る。マシュの盾による攻撃はオルタによって完璧に防がれてしまっていたのだ。

 だが、オルタの表情は優れることはなかった。それはそうだろう。彼女の手には己にとって致命的な傷を負わせることが可能であろう最後のマスター、樫原仁慈が持っていた槍なのだから。それを使った方が早いに決まっている。では何故それを使わなかったのか。……答えは簡単だ。そもそも、仁慈が致命的な攻撃を()()()()()()()()()()()()()()()。彼が声を荒げる理由はたった一つ。フェイクに用いる時のみである。

 

『――――――この小僧!』

「遅い」

 

 振り返ったオルタが目にしたものはマシュも持っていた朱槍ではある。だが、ここまで接近すれば彼には嫌でもその正体が分かった。この槍こそが、あの戦闘で己に傷を付けた真の槍――――突き崩す神葬の槍である。そもそも、この槍は仁慈と共にあり、仁慈の人外殺しを近くで見守り続けていたが故にここまでのものになった宝具擬きである。その槍を彼以外の者に使わせようとしても槍は反応しない。真実の意味でこの槍は仁慈専用となっているのだ。

 それを使用者である仁慈は当然知っているが、オルタは知らない。なまじ量産型のゲイボルクを見て、それを散々仁慈が使っているのを見て誰でも使い込めると思い込んでも仕方がないと言える。仕方がないが、それが致命的になることもあるのだ。

 

「――――突き崩す、神葬の槍」

 

 真名開放された仁慈の槍は真の力を遺憾なく発揮しながらオルタへと突き進んでいく。オルタもただでやられる気は更々無いらしく、生えている尻尾を槍に巻き付けてその勢いを殺し始めた。

 これをされてしまうと困るのは仁慈である。筋力を始めとするステータス面で半端ではないデメリットを背負っている彼からすれば、この態勢は非常にまずいものだ。故に、彼はすぐに槍を手放し後退することを選らんだ。

 そしてその判断は実を結ぶことになる。彼が突き出した神葬の槍はオルタの尾に捕まれそのまま両手の鉤爪でぽっきりと折られてしまったのだ。

 

「」

「」

 

 それを見て、完全にアドバンテージが無くなったと判断した仁慈はアイコンタクトでマシュを招集。そのまま己の隣といういつもの定位置に着かせた。だがマシュの身体は僅かに震えていたのである。

 それは何を隠そう先程の光景が原因だった。これまで幾度となくその強敵を屠って来た仁慈の切り札。……その槍が砕かれた光景は彼女の精神を揺らがすには十分なものだ。……これはあまりに強力な武器を持ったが故の弊害とも言える。頼りのもの、支えとなるものがなくなれば後は崩れ去るのを待つのみ。今のマシュは無意識ながらにそう思ってしまっているのだろう。表情には一切出ていないが、身体の震えからそれが想像できる。

 

 仁慈もこんな戦場でなければ励ましの言葉の送りたかった。しかし、生憎状況がそれを許さない。クー・フーリンが復活する兆しも見せないため、まだまだ自分は時間稼ぎをしなければならないのだから。

 

 一方オルタの方である。向こうは今まで煩わしかった槍を砕いた――――のまでは良かったが、それでもアレに正面から対抗したのがいけなかったのだろう。己の身体に変化が訪れてた。

 

『――――ぐっ、グ、グgg』

『これはっ!?―――仁慈君、マシュ!まずいぞ、そのクー・フーリン霊基がもはや彼の物ではなくなっている!!』

「は?」

 

 唐突なロマニの言葉に仁慈も素で返した。

 流石に今ので伝わるとは思っていなかったらしい。短いながらもロマニは言った。仁慈の槍を破壊したことにより、オルタの中に入っていた神の因子が弱まり逆にオルタをオルタ足らしめている因子の侵食が急激に進んだという。つまり、今のオルタは先程よりもさらに獣然としているというわけだ。

 

「判断に迷う」

『理性を失ったことはいいことだけど、ほぼ例外なくすべてのステータスにかなりの補正がかかる。二ランク上昇が最小値だと思ってくれ!』

 

 仁慈は一瞬だけ意識が遠退いて行ったがすぐに意識を自分の身体へと叩き戻す。性能は上がったが理性無き獣であればまだ勝算はあると考えたためである。

 

『――――――シね』

「――――――ッ!?」

 

 しかしその考えは甘すぎると言わざるを得ない。仁慈が無駄に意識を飛ばしている間にもオルタは迫ってきているのだから。彼が気づいた時にはもう遅い。ほぼ回避は不可能と言ってもいい位置まで距離を詰められていた。

 

「宝具、展開します!」

 

 当然マシュがそこで守りに入る。ロマンの言葉を受けて宝具を展開し、何としてでも受け止めようとするのだが―――

 

 

「なっ!」

『ドけ』

 

 彼女の宝具に罅が入る。普段の状態の彼女であればそれこそ完全に防ぐこともできたかもしれない。しかし、今の彼女には迷いがあり、不安があった。それを見た仁慈がやばいと感じ、すぐさま令呪を切った。

 

「令呪を以て命ずる!シールダー、全力で防げ!」

「はい!そのオーダーを遂行します!」

 

 令呪によって強化されたマシュの宝具はオルタの攻撃を防ぐことはできたが、それでも彼は止まることはなかった。一度盾にはじき返されても再びこちらに突進をしてくる。

 

 けれども、その分時間は出来た。仁慈がその時間を無駄にするわけではない。彼は、すぐさま横に転がると、その過程でいくつかの武器を拝借しそのままマシュと並走して駆ける。

 突然得物たる仁慈が方向転換したにも関わらず、オルタは勢いを殺すことなく直角に曲がり仁慈の追跡を行う。

 ステータスの差が露骨に表れているのかすぐに追いつかれた仁慈は、スカサハから教わったルーンを使って周辺にある武器たちを浮かせ、自分の周囲に漂わせそのまま射出した。

 オルタは迫り来る武器を二つの鉤爪で次々と粉砕しながら命を奪おうと肉薄する。そこでこのままでは逃げ切れないことを悟った仁慈は跳躍すると同時に、自分の周囲に浮かばせていた武器をその場に固定することで足場として宙に逃走する。マシュはその前で構えてオルタの攻撃の妨害に入るが、当然オルタは逃がすことなく仁慈に倣い跳躍、そのまま空中戦と相成ったのである。

 

 

 

――――――

 

 

 

 ぼんやりと、外の景色が見える。

 そこにはまだまだガキの癖に、いっちょ前に人の前に立って、俺達の時代とは違う筈なのに馬鹿みたいにぶっ飛んだ弟弟子が暴走した自分と戦っている。盾の嬢ちゃんはそんな弟弟子を庇って今も懸命に攻撃を受け止めている。全く以って情けねえ。唯でさえ、黒歴史みたいな俺の相手をさせてるっていうのにそれに重ねてここまでズタボロにされる姿も見られちまった。師匠がいたらさぞブチギレるだろうよ。

 

 ―――いや、そんなことを考えている場合じゃねえ。自分の落とし前くらいは自分でつけなきゃなんない。厳密に言えばあれは()ではねえ。かなり多く余分なものが混ざってはいるがクー・フーリン()であることには確定だ。自分の尻拭いを弟弟子にさせるなんて、ケルトのいい嗤いもんだぜ。

 

 おそらくこの特異点で会った看護師、そのおかげで幾分かマシになった身体を起こす。そしてすぐに身体の調子を確かめてみた。

 痛みはあるが、この程度は問題なし。すべての肢体はくっついているし、動かないというわけでもない。つまり戦うには問題ねえってことだ。

 

 確認を終え、握っていた朱槍を肩から担いで立ち上がる。

 看護師がなんか言っているが俺の眼を見ると諦めたのか黙って首を振った。へえ、こいつでも諦めることはあるんだな。意外だ。

 

「本来ならその身体で動くことは絶対に推奨できません。……ですが……」

「ハッ、この程度なら怪我のうちにも入りゃしねえよ。アンタのおかげでな」

 

 そう。身体が痛む。血が出ている。その程度で戦えないなんて根性なしはケルトに存在しねえ。そんな奴がいたらまず生き残れない。それに生前はもっと厳しい条件下で戦ったことがある。五体満足、マスターも居て味方も居るならそれはとんでもない好条件だ。

 さて、今の今まで……積もり積もった負債を一気に返却するとしよう。そろそろ本気で当てないと必中(笑)。因果(笑)とか思われそうだし、何より……王、クリード……外から受けた要因が悉く気に入らねえ。

 

 

 

――――――――

 

 

「マシュ、さっき渡した槍は!?」

「この盾の中です」

「そんな便利な機能が!?」

「先輩の鞄もいい勝負だと思うんですけど」

 

 マシュの緊張を溶かすためか、激しい戦闘中にも拘わらずいつも通りのやり取りを行う仁慈。しかし行うべきことはちゃっかりと実行するのが彼である。彼はマシュに預けていた槍を握った。

 ―――――そう、オルタが間違えたこの朱槍は、ある意味で本当で本物だ。これはゲイボルク。仁慈が持っていた専用のものではない。この特異点に行く前、スカサハに倒してこいと言われて倒した海獣クリードの頭蓋骨から作り上げた正真正銘のゲイボルク。これこそ、オルタを倒す手段としてスカサハが推奨したものだ。

 

 彼女は既にオルタがクリードと深い部分で繋がっていることに気づいていた。それはそうだろう。彼女は一度彼に宝具を向けられていたのだ。自らが倒したこともあり気づくのは容易だっただろう。

 そして、ここからが重要な部分である。ゲイボルクとは先程も言った通り海獣クリードの頭蓋骨から作られる武器。それは即ちゲイボルクが存在するということは、()()()()()()()()()()()()ということと同義なのだ。

 彼女はそれに着目した。すなわち、ゲイボルクを持っているものこそオルタを倒すべきことができる存在であると。英霊は生前の縛りには逆らえない。死因は英霊となった今でも覆すことの難しい呪いだ。その法則を当てはめればクリードと繋がっているオルタにもある程度適応される。

 今までは彼の神性のおかげで助かってはいたものの、突き崩す神葬の槍によってそれは失われてクリードの面が肥大化している。この状態であれば十分葬れる可能性はあると言わけである。

 

「と、いうわけ」

「もう疑問に思いませんけど、サラッと何個も宝具持たないでくださいよ……」

『仁慈君はほら……一人で神話作ってるから……あ、後クー・フーリンが復活したようだよ』

 

 マシュに盾を使いオルタの攻撃を受け流してもらっている間に言うべきことを伝えた仁慈。それに対するマシュの反応は正論ど真ん中であった。一方のロマニは既に諦めているのか、若干投げやりになりつつクー・フーリンの復活を告げた。

 

「マジでか」

「おう。マジもマジだ。待たせて悪かったな」

 

 言葉通り復活したクー・フーリン。その身体にはいくつもの傷がついており、特にゲイボルクが内側から生えてきた背中は完全に傷が塞がっている訳では無いらしく夥しい量の血液が流れ出ていた。マシュが心配そうに尋ねるも彼は笑って問題ないと答える。

 

「俺が寝てる間に随分と追い詰めたみてえじゃねえか」

「多分これで射程圏内だと思う。当てれば恐らく一発」

「んじゃ、まあ」

「うん」

 

『いっちょブチかますか』

 

「ごめんマシュ。いつもいつも露払い的なものをやってもらって……」

「いえいえ。私は先輩の盾、先輩のサーヴァントですから。いかなる場合も、好きなように使ってください」

 

 マシュの言葉に歓喜極まった仁慈は思わず彼女を抱きしめそうになったが状況が状況なので鋼の意思でそれを堪えると、一目散にオルタへと向かった。

 何を隠そうこのオルタ。クリードに侵食された影響か判断力が鈍っている。先程から必要以上に仁慈を追いかけ、仁慈しか見ていないのがその証拠だ。それは捉えようによってはピンチだ。先程のように火力に長けた者がいなければ、こちらの体力が消費される一方で利点はない。

 しかし、クー・フーリンがいる現在は違う。弱点たる武器を持ち、技量も十分。幸運値はちょっと足りないがそれは仁慈が補うから問題なし。この最大戦力が攻撃を当てやすいという利点が発生する。

 

「―――疾ッ!」

『―――――ッ!!!!』

 

 誘導を行うために積極的に攻撃を仕掛ける仁慈。オルタは彼の握る朱槍を適切に回避しながら反撃を行う。だが、仁慈も獣に堕ちたオルタに負けていない。防御が必要なもの、必要のないものを瞬時に見分けて最小限の動きでそれに対処し、カウンター気味に槍を振るう。所々に傷が増え、出血も見られるようになってきたが、仁慈はそれでも攻撃をやめない。 

 

 このままでは埒が明かないと感じたのか一端後方に引こうとするオルタであったが―――彼が行こうとした方向には既にマシュが待ち構えていた。

 仁慈にしか目が向かないためにそのことに気づくことができなかったオルタは、その無防備な首筋にマシュの盾を受けて地面に思いっきり陥没する。ダメージこそ無さそうではあったが衝撃までは吸収できなかったらしい。また不意打ちということも大きかっただろう。受け身も取ることができなかったのだから。

 ……オルタがオルタのままで居ればこんなことはなかった。けれど今ここに居るのはもはやオルタの皮を被っただけの獣に過ぎない。

 

「今です!」

 

 マシュの掛け声とともに跳び上がるは二つの影。

 眩い太陽の元でもよく見える、朱色の軌道を描きながらもその二つの影は真っ直ぐ、自分たちの得物を捕らえていた。

 

「今度は外さねえ。――――因果を操る必死の槍、その身でとくと味わえ」

「……いざ」

 

 仁慈は身体にある魔術回路をフル活動させて手に握る正真正銘の宝具に力を注ぐ。クー・フーリンも幾度となく扱ってきた己の槍を握りしめ、その真名を開放した。もはやこれより先に失敗の文字はない。あるのは必死という結果のみ。

 

刺し穿つ(ゲイ)――――死棘の槍(ボルク)!!」

突き開く(ゲイ)――――死獄の槍(ボルク)!」

 

 もはや真名は解放され、因果は決定した。これから先は覆すことなどできぬ。

 地面に埋まりつつも視線を仁慈達に向けたオルタは自分に近づいてくる二人に向って宝具を発動しようと両腕を前に突き出そうとした。

 だが、その腕が前に突き出るよりも早く二人の槍はオルタを貫いていたのである。ビクンと、一度だけ撥ねたオルタだったが、それまでのようで、前に出そうとしていた腕はだらりと地面に倒れることとなった。




バサクレスの時も思ったけどこれで完!って感じが半端じゃない。敵のバーサーカーはラスボス補正でもかかるのだろうか。

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