この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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後もう少しで五章も終わることでしょう。きっと、多分。メイビー。


乱戦

 

 

 

 

 

「ねえ、王様。死んだわ。フィン・マックールとディルムッド。やはりサーヴァントは侮れないわね」

「向こうにはオレともう一人師匠の弟子がいるんだろ。本人も合わせればそれくらいはできるだろうよ。まあ、死んだ奴の事なんてどうでもいい。問題は今生きている奴らのだ」

 

 いつかスカサハが侵入し、クー・フーリン【オルタ】と交戦した場所。彼らがアメリカから奪ったワシントンにて、そこの主の座に収まっているクー・フーリン【オルタ】と彼に付き添う女王メイヴはマイペースにも現状の把握に取り掛かっていた。

 するとそこに図ったかのようなタイミングで一人のケルト兵が彼らの前に現れる。

 

「ご報告いたします」

「おう、話せ」

「はっ、アメリカ軍は南北二部隊に分かれております。現在南の軍勢がこちらに進行中です」

「あら?最終決戦がお好み?」

「背後に控えさせていたサーヴァントも率いております。まず、間違いないかと。そしてその軍を率いているのはエジソンやブラヴァツキーではありません」

「成程な。師匠が言っていた連中か」

「……その中には、その……」

 

 ここまでスムーズに報告をしていた兵士の言葉が途切れる。その様子はまさに報告していいものかと迷っているものだった。しかし、王たるクー・フーリン【オルタ】にとってはそんなことはどうでもよく、さっさと報告の先を促した。

 

「ハッ!クランの猛犬と呼ばれた英霊が……」

「回りくどい。要するに俺が現れたってことだろ。他には?」

「軍を率いている少年のサーヴァント、看護師のサーヴァント、盾を持ったサーヴァント、そのマスターと思わしき少年……そして先行している者が輝ける槍を持った細身の槍兵カルナです」

「……ちなみに北側の主な戦力はどうなの?」

「エジソン、ブラヴァツキー、緑色のアーチャー、金髪のアーチャー、褐色の肌を持ったサーヴァント、白いドレスを着たサーヴァント、ピンクのドレスを着たサーヴァント、赤い外套のサーヴァント、最後にスカサハです」

「………物凄い増えてるじゃない!!」

 

 兵士が上げていく戦力を確認したメイヴが思わず叫ぶ。それはそうだろう。三人のサーヴァントを相手にしていたと思ったら、いきなりその3、4倍のサーヴァントに増えていたというのだから。

 そして彼女が何より厄介だと感じたことはどちらが本命だかわからないことだ。戦力的に鑑みればどちらも本命のようにも感じる。今は南側が先行しているが、北も十分に自分たちを攻めることができる戦力だと考えていた。

 

「連中、手を組んだと見て間違いないな」

「うそ!あのエジソンが組んだの?……もしかして、諦めることを諦めた……?」

「だろうな。アイツらはアメリカを守ることを諦め、世界を奪うことにしたわけだ」

「んー……ちょっとまずいわね。総力戦となれば万が一があるかもしれないし」

 

 総力戦、その不確定さを理解しているのかメイヴが考えるように顎に手を添える。だが、クー・フーリン【オルタ】はもう既に結論を下していたようだった。彼はすぐに報告しに来た兵士に出陣する旨を伝える。

 兵士はそれを聴き、すぐさま彼らの前を後にした。

 

「ちょっ!?討って出るつもりなの!?」

「当たり前だ。このまま放置するつもりかお前」

「いいえ、いいえ!狂王の名に懸けてそんなことはしない。私の全軍を以て叩き潰す。彼らは進軍することで王を侮辱し、挑発した。でもそれは彼らがそれほどまでに必死だだということ。……必死な人間は好ましいわ。だって、私たちを怒り、憎んでいる人間の絶望は、凡庸なものよりよっぽど色が濃いのだもの。……いいわ。北はベオウルフに、南はアルジュナに任せましょう」

「……斥候部隊の情報から見て恐らく本命は南側だな。本命の方にサーヴァントの能力を十全に発揮させることができる世界最後のマスターを置くだろうからな。……メイヴ、全力を投入するぞ」

 

 全力……クー・フーリン【オルタ】のその言葉が何を指しているのか理解できているらしいメイヴは、困惑したように先程まで浮かべていた笑顔を曇らせた。

 

「それはいいけど……準備には時間がかかるわ。本命が南とすれば北側は問題ないけど……」

「南側は俺が抑える。アルジュナに兵を率いさせ、俺が片っ端からサーヴァントを片付ける。ついでに厄介なマスターとやらも潰しておくか」

「スカサハの方にはいかないの?」

「王である俺が我欲で戦うか。俺は国家を成立するための機構だ。敵対するものを殺戮する武器に徹する。であれば、一番殺しやすく尚且つ中核を担うやつを狙うのは当然だ」

「……わかったわ。行ってらっしゃい王様」

 

 メイヴの言葉を待たずにクー・フーリン【オルタ】は己が座っていた玉座から立ち上がり部屋を出た。残されたメイヴは唯その姿を見て笑い、自分たちには向かう者たちを倒す光景を夢想するのであった。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

「カルナやべぇな」

「そうですね」

「これは喜ばしいことだぞマスター。敵が敵なら一瞬でこちらの狙いが露見するからな」

 

 まあ、機械兵がよくわからない袋を抱えて俺達に追随するだけでもすごく怪しいからな。その中に入っているチーズも一応対策はしてあるけどどこでにおいが漏れるかわからないし。本人もしくはその側近、同郷ならピンとくる可能性もある。チーズを投擲する前にこのアメリカンバベッジを壊されたら困るし、カルナが片っ端からケルト兵を潰してくれることは物凄く助かるぜ。

 

 その後も魔術で視力の強化を行って自分でカルナが吹き飛ばしたケルト兵を見たり、本来ならアーチャーで呼ばれるのにその枠をシータに譲るためだけにセイバーに鞍替えした経緯を何気に持っているラーマの眼に頼り、遥か先の状況を知らせてもらったり、マシュと兄貴と一緒に自分の武器に細工を加えたりしていると順調に先行していたはずのカルナからの通信が入った。

 ちなみにサーヴァントには全員通信機が支給されている。もちろんエジソン製である、彼が一晩でやってくれました。既存の物を改良し、低コストで量産するのは自分の十八番、そのプライドというやつらしい。

 

 それはさておき、問題のカルナからの通信だが、彼の勘が当たったらしい。カルナ曰く自分と因縁のある相手、アルジュナが出貼って来たとのことだ。その実力は誰よりもわかっているからこそ任せてほしいとの事だった。

 詳しい話をラーマと行動を共にしているシータに聞いてみた。するとアルジュナとはカルナと出典を同じくする英霊であり、授かりの英雄ともよばれているらしい。彼はあのカルナと戦い勝利を収めたのだとか。要するにカルナやラーマ級の英霊(インド)が出てきたということだろう。

 

「もう故郷でやれよお前ら」

 

 規模のおかしいインド英霊たちの大惨事大戦に巻き込まれるアメリカ大陸が不憫でならない。

 

「返す言葉もないな……それはともかく、全軍に伝えろ!今のカルナと交戦しているサーヴァントには近づくなとな。巻き込まれるぞ」

「はい!」

 

 ラーマが機械化歩兵とは別に率いている人たちにそう指示を出す。その直後俺達の目の前で閃光が弾け、轟音と爆風が襲い掛かって来た。

 そして当然ケルト兵たちを蹴散らしていたカルナがアルジュナによって抑えられてしまっているために、アルジュナが率いていたと思わしき兵たちがこちらに流れてきた。

 

「来たな」

「まあ待てよラーマ。ここは俺達に任せろ、ちょっと準備運動がてら叩き潰してくるからよ。いいだろマスター」

「オッケー。こっちとしてもあの機械化歩兵たちを倒させるわけにはいかないし。マシュ、行くよ」

「了解です」

 

 というわけで追撃開始。

 雄たけびを上げてこちらに来るケルト兵。その獲物は千差万別。槍に弓に剣にナイフとバリエーションに富んでいる。

 だからと言って、こちらがやられるというわけではないけれど。確か、一度に6人だか7人だかを同時に相手できる人はどんな大人数とも戦えるらしい。それは一度に襲い掛かることができ、尚且つ連携が取れる人数の限界がその値だからという話があるが……遠距離はカウントに入るんですかね。

 

 前方と右方向から向かってくる槍と、後方から襲い来る剣、そして上から来る矢を見ながらそんなことを呆然と考える。とりあえず、槍を振り回して近くに居たケルト兵の得物を弾きつつ、その勢いのまま上から飛来する矢を撃墜する。その後跳躍をして周囲に群がるケルト兵の上を取り、いつもの四次元鞄を振りまいた。

 すると当然の如くその中に貯蔵されていた武器類が降り注ぐ。地球の重力を受けて勢いを増したその武器たちはケルト兵を次々と串刺しにしながら地面へと突き刺さっていった。

 ケルト兵が武器の雨から距離を取った隙に俺は地面に着地、手に持っている槍と地面に刺さっている武器を引き抜きながら、下がった軍勢に追い打ちを行った。

 

 兄貴も同じように追撃している。というか、今更だけど兄貴は師匠に稽古をつけてもらったおかげなのか、前と構えを含めた動作がまるで別人のように変わっている(モーション変更)

 かなり派手に動き、一件無駄が多いと思われる動作も行っていた。しかし、それは本人からしてみれば今の自分の身体の状態を確認しているのだろう。可動域、脳からの伝達速度、それらを改めて確認しこの戦いに終止符を打とうという気兼ねが見える。気の張り過ぎ……などと考えることはない。なんせ今回の相手は兄貴にとって自分自身であり、あの師匠を地につけた存在なのだから。少なくとも霊基は全盛期の兄貴に近いのではないかと思う。

 そしてマシュも大分戦い方がわかって来たらしい。はじめのころからは想像もできないくらい自由に盾を振り回し、峰打ちで相手をボッコボコにして言っている。改めて言おうマシュ。盾に峰打ちなどはない。

 婦長?もう、諦めたよ。

 

「ちっ、メイヴとかいう女王。こんなものまで呼び出して来たかッ!」

 

 背後の方からラーマの声が響いた。どうしたのか、という疑問を口に出す暇はなかった。何故なら彼が感じた異常をすぐに理解することになったからである。俺達の目の前にはファブニールとまではいかないがそれに迫るくらいの大きさの巨竜が現れたのである。ズシンと地面に着陸するだけで大きな揺れが感じられる。この時代では見ることができないであろう巨大な生物にラーマが率いていたアメリカの兵士たちも流石に恐怖を覚えたらしく、一歩だけ下がっていた。が、残念。俺達はもう慣れている。今頃巨大な竜が現れたところでなんとも思わない。

 

「おうおう、向こうさんも結構な戦力をぶつけてくるじゃねえか」

「こっちが本命と気づいたか」

「おそらくはそうだと思われます。……突出して先行しているのでそれは仕方のないことだとは思いますが」

「先輩」

「わかっている。兄貴、マシュ。ブレスを吐かれたら厄介だ。その前に仕留める」

「おう」

「はい」

 

 兄貴、マシュ、ナイチンゲール。奴にジェットストリームアタックをかけるぞ!というわけではないけれど、短く指示を出してその後三人で一息に突っ込む。ナイチンゲールも俺達の行動に合わせて地面を力強く蹴っていた。彼女、軍に居ただけあって色々思考が重なる部分があるのかもしれない。もしくはあれが目下一番の病原体と見たかどちらかかな。

 

「GAOOOOOO!!」

 

 こちらに気づいたらしく咆哮を上げる。だが、遅い。威嚇なんてしている暇があるのであれば攻撃やらなにやらをするべきだ。まあ、そういう小細工は人間の役割であり、生まれながら強者である竜とかはしないだろう。むしろ、不意打ちしてくる強者とか怖すぎる。

 

 大きく口を開けた瞬間に拾っていた武器を投擲。無防備にも弱点たる内部を覗かせたそこを突く。

 俺の放った槍は見事に刺さり、さらにその槍を基点として地面に刺さっていた武器たち……正確には刻まれているルーンを起動させ、基点となっている槍に向って放つ。

 

 その結果、半分は竜の鱗に阻まれたがそれ以外は竜の首を串刺しにした。普通の生物であればこれで確殺なのだが、相手は竜。やったか!?なんて不確定なことで放置など決め込まない。

 

「殺菌!」

「やあ!」

 

 マシュとナイチンゲールの打撃が竜の腹部に突き刺さる。そして、鱗が少し剥がれ薄く皮膚もしくは内臓が見えたあたりで心臓を穿つ死槍を持った兄貴が獰猛な笑みを浮かべて腕を引き絞った。

 

突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)!!」

 

 彼の真名開放と共に一斉に竜から距離を取る。投げる方の槍は爆発するのだ。近くに居たら巻き込まれる。兄貴の放った槍は寸分足りとも狂うことなくマシュとナイチンゲールが露見させた場所へと飛来しそのまま内部へと侵入した。さらに爆発。

 流石の巨竜もこれには耐えきることができなかったらしい。呻き声を上げながら地面に横たわった。俺と兄貴はその竜の首を落として進軍を再開する。

 

「巨竜が出落ちとは」

「わかってはいましたが、凄まじいものですね。……本当に」

 

 ラーマとシータが何か言っているようだけど気にしない。

 と、そこまで思ったところでソロモンと対面した時……とまではいかないがそれに迫るくらいの悪寒が脳裏を横切った。

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 おそらく、この光景を見たものは口をそろえてこういうだろう。

 

 ―――――それは神々の怒りであると。

 

 それほどまでに……そうとしか表現できないほどにカルナとアルジュナの戦いは苛烈だった。しかし、それは当然と言える。なんせ二人とも神の子どもであり、尚且つ神から直々に武器を授かった超弩級の英霊。権能にも迫るのではないかと思われるほど強大な力を振るえる存在だからだ。

 アルジュナがその矢を構え、放てば荒野にある数十メートルは下らないであろう規模の岩が一瞬にして瓦解する。カルナがそれを受け止めるために槍を払えば瓦解した岩と無事だった部分がまとめて灰と化す。まさに全力の戦い。行動一つ一つが大地に傷跡を残す、まさに神話の大戦であった。仁慈は言うだろう。自重せよインドと。

 

「武具など無粋。真の英雄は眼で殺す……!」

「なっ!ビームだと!?」

 

 流石のアルジュナもカルナの眼からビームが出たことには驚きを隠せないようで、咄嗟に回避行動を取る。想定外の出来事故に今まで距離、行動を計算しながら矢を放っていた彼の行動に狂いが生じた。その隙をカルナは当然の如く突く。これ幸いと距離を詰めるとそのまま今度は槍兵の距離でアルジュナを追い詰めていった。

 

 やはり、弓兵では距離を詰められると辛いものがあるのか思う様に反撃ができないアルジュナ。それでもなお、唯でやられているわけではないのは流石授かりの英雄ということだろう。

 

 このまま戦いが続けばカルナが勝つだろう。そう、誰もが思った。しかし、実際そうなることはなかった。

 

「―――抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)

 

 冷徹な男の声が響く。それと同時にカルナの身体から朱槍が顔を覗かせていた。それはゲイボルク。ケルト神話に置いてかなり有名な呪いの朱槍である。そしてそれを使ってくる英霊は数少ない。そのうちの二人はカルナと同じく世界を救うために今も戦っている。ということは自然と答えは出てくる。

 

「………クー・フーリン……」

「クー・フーリン……!貴様!」

「おっと悪く思うなよ施しの英雄。何せこれはルール無用の殺し合いでね。……そしてお前。俺が何時一騎打ちを命じた。お前の望みを叶えるのは余裕のある時だけだと言っただろうが」

 

 クー・フーリン【オルタ】がアルジュナを睨む。そして彼に殺さなかっただけありがたいと思えと吐き捨てた後、クー・フーリン【オルタ】は巨竜を倒し先行しているラーマの軍……正確には仁慈に標準を合わせた。

 

「あれが、例のマスターか」

 

 唇の端を僅かに吊り上げ、彼はたった今カルナに致命傷を与えた槍を構えて仁慈に向って投擲した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




………五章から急に文章量増えましたよね。本家。
完結させられるかなぁ、これ。

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