この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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10連引いて爆死して、単発引いて新宿のアサシンが来ました。
……違う、君じゃないんだ。私が欲しいのは、ワンチャンという名のアヴェンジャーなんだ……!


つかの間の休息と語らいと

 

 

 本当に予想外の展開だった。

 この特異点であとどのくらい戦うかということを考えれば、ここで正面からフェルグスと事を構え消耗することだけはどうしても避けなければならないことだった。だからこそ、彼が潜ませていた伏兵の排除と、兄貴の話から弱体化が狙える可能性のある槍を確実に当てるために策を講じた。まあ、言ってしまえば兄貴を前面に出してフェルグスの注意を兄貴に集めてしまおうという単純で尚且つごり押し染みたものだけれども、生前から関わりがあり、そこ実力を具体的に想像できてしまうからフェルグスは兄貴に集中を割かざるを得なかっただろう。数でも負けている状態ならなおさらだ。

 で、俺の企みは確かに成功した。誘い込みでできればダメージを負ってくれればいいな程度の囮であるエミヤ師匠の攻撃を見事に避けたフェルグスは、槍に貫かれ大弱体を受けた。………のに、まさかあそこで一対一を行う羽目になるとは。想定外のタフさ。ケルト神話の英雄は化け物か。そういえば兄貴も何でその状態で死なないの?という重傷を負いながらも集団相手に暴れまくってた気がする。こいつらデフォでこれか。最初の方に戦ったフィンとディルムッドはもっと慎重に尚且つ確実に丁寧に倒した方がいいのかもしれない。

 

「……先輩、そろそろネロさんとエリザベートさんを止めないと」

「ですよね」

 

 現実逃避はそこまで。

 俺は頼りになる後輩マシュの言葉で思考を一端切る。そして、目の前のドル友にしてライバル的なことを言い合っているネロとエリザベートに視線を戻した。この二人どうやらそういうことらしい。キャラ的にというか、なんとなく突き抜け感がとても似ている。英霊になってから聖杯あたりに余計な知識でも吹き込まれたのだろうか。このまま行くと、せっかくシータの居場所が分かったにも拘らず因縁の対決が始まってしまい、行動が不能となってしまう可能性が出て来ているのだ。しかも、ロビンとロマン曰くネロの歌も酷いものだという情報がつい先程入って来た。彼女たちの対決がここで行われるのだとしたら、エリザベートと合流した時に居たケルト兵なんて目じゃないくらいの惨劇が広がること間違いなしである。いったいどうすれば……。

 

「フッ、お困りのようだな」

「エミヤ師匠……」

 

 不敵な笑みと共に隣へと降りて来たエミヤ師匠。その表情からは不敵な笑みとは別に溢れんばかりの絶対的な自信が見て取れた。何か策があるというのだろうか。

 

「その通りだとも。ここは私に一つ任せて欲しい」

「………頼みますわ」

 

 俺は彼に賭けることにした。

 嘗て俺に弓の絶技を見せてくれた彼を。なんだかんだで家事に戦闘に生産に……あらゆる面で俺を凌駕し、サポートしてくれるエミヤ師匠を……!彼なら、彼ならきっとやってくれる!一流シェフ百人とメル友ということは伊達ではないということを見せてくれ……!

 

「ちょっといいかね」

「む?」

「何よ?」

 

 お互いに盛り上がっていたところを第三者に介入され少し不機嫌そうな顔をする二人。しかし、数々の修羅場(意味深)を越えて来た彼にとって女性二人が不機嫌そうな顔をしたところで怯むなんてことは在り得ない……!俺は、知っている。ここ最近、彼がオペレーターのお姉さんと結構いい感じになっていることを!少なくとも、お姉さんの方は割とガチで入れ込みそうになっていることを……!

 

「直接対決をするにしても人理焼却なんていう土壇場ですることはないだろう。それにすぐに決着を付けようとしても割と発揮できないものだ。そこで……あそこに居る彼に一先ず歌を聴いてもらうというのはどうだろう?」

「ほう」

「へぇ……」

 

 そこに居る彼。

 エミヤ師匠はそう言い、指をさした。その指が示す方向は――――俺である。

 

「なんと彼はカルデアにて、キャスターのエリザベートの歌に半日間付き合ったという実績を持っている。そんな彼ならば適切なアドバイスができると思うが?」

「―――!」

「―――!」

 

 まさに天啓、と言わんばかりに瞳を輝かした二人。そのまま視線はエミヤ師匠からスライドされ当然審査員(暫定)に選ばれてしまった俺へと注がれることとなる。その視線は純粋で、とても耳を壊す音痴攻撃を繰り出す人とは思えない。俺はその視線から逃げるように目線をずらし、エミヤ師匠の方を見る。彼はやり遂げてやったぜ的な笑顔を浮かべていた。

 

「その案は良いな!」

「そうね!それに確かにこのままここで決着っていうのは相応しくないわ。もっと万全の状態にして100%……いいえ、120%の力を発揮できるようにしなくちゃね!」

贋作者(フェイカー)ァァァァァァァアアアア!!!」

 

 俺を裏切ったのか!

 

「私は救ったさ。1を切り捨て、それ以外をな」

「ちくしょう」

 

 しかしもはや賽は投げられた。自称歌姫二人組は止まることはないだろう。ジェロニモたちは巻き添えを喰らってはたまらないと言わんばかりに先に西の方へと歩き出していて道連れは望めない。マシュだけは少し心配そうに見ていたものの、兄貴に引っ張ってもらった。彼女は巻き込めない。

 

『あ、そういえば仁慈君。今から西に向かうならその道中に召喚サークルを作れる場所があるから作っておいて。物資を支給するk―――ってどうしたの?』

「いや、ちょっとライブチケットを二枚貰いまして……」

『あっ(察し)』

 

 それだけでロマンは察してくれたらしい。訝しげな表情から同情しか見ることのできない顔を一瞬だけ現しそこから先は何も言うことはなかった。サンキューロマン。帰ったらまた特製のお菓子で茶会をやろうぜ。

 

 

――――――――

 

 

 再び森に入り、原住民と思われる獣人たちを蹴散らし召喚サークルを作成したところで丁度日も降りてきたために一夜を越えるための準備をする。一応俺も貫徹くらいは余裕でこなせるが、ここは特異点で相手にするのはケルトのサーヴァント。万全に越したことはない。こういった時自分がサーヴァントだったらという念に駆られるのだが、人理復元完了したら俺も英霊の座に登録とかされたりするのだろうか。

 

「~~~~♪」

「La――――♪」

 

 いや、されるだろう。うん。この音波攻撃を双方から受けてもまだまともな聴覚と意識を保っているのだから、もう偉業って言ってもいいんじゃないかな。

 

 未だ衰えることを知らない二人の歌に少しげんなりしつつも召喚サークルを通して送ってもらった食料と霊薬を整理する。一応俺は観客に甘んじなければならないために、今回のシェフは我等がおかんにして俺にとっての裏切り者であるエミヤ師匠である。早く作ってくれ。そうすれば俺は解放されるから。

 そんなことを思いながら俺は霊薬を飲み干す。すると今まで消費していた魔力が徐々に回復していくのを感じた。これでまたしばらくは持つだろう。

 

「さ、簡単なものだが食べないよりはマシだろう。サーヴァント達も食べたければ食べてもいい。我々に栄養摂取は無意味だが、精神的な安定を図る意味では有意義だ」

「~~~……その通りだな。そこのアーチャーは良くわかっておる。どれ、余もいただくとしよう」

 

 ネロが食べると宣言したことでハードルが下がったのか皆はエミヤ師匠が作ったご飯を突っつき始めた。

 するとそこでとても馴染み深い……というか馴染みすぎてやばいレベルの気配を感じ取った。兄貴もご飯から顔を上げて振り返ったことから俺は確信する。

 

「遅かったですね。師匠」

「なに、少しばかり寄り道をな……。それにしても……まさか呑気に飯にありついているとは。お主少しは心配とかしたりしないのか」

「師匠に心配……?ハハッ(失笑)」

 

 俺が師匠に心配とかおこがましすぎる。というか貴方死なないじゃないですかやだー。何より師匠の心配をする前に俺は自分の心配をしないと流れ弾とかでぽっくり死にかねないんですよ。

 

「フン、屁理屈を……。エミヤ、こちらにも一杯寄越せ」

「了解した」

 

 流れるようにご飯を要求する師匠に対して同じく流れるようにご飯を支給するエミヤ師匠。流石すぎる。

 しかし、サーヴァントが一体増えたとなれば当然ほかのサーヴァントたちは驚くわけで、俺達が親し気にしているのを見て戦闘態勢に入りはしなかったものの、説明を要求する声が届いたのでパパッと説明をする。その真名に驚いていたものが大半だったが、何故かラーマだけは納得したようにうんうんと数回頷いていた。

 

「ところで師匠。東側どうでした?」

「ん?ああ、敵の大将くらいは分かった。敵はクー・フーリンにメイヴ……気配からして聖杯を持っているのはメイヴだろうな。……よかったなセタンタ。自分と戦えるいい機会だぞ?」

「ニヤニヤすんな。確かに楽しみじゃないと言えば噓になるが、時と場合によってはマスターの言い分に従うさ」

 

茶化すような言葉に鬱陶し気に答える兄貴。この辺りは何となく生前からの知り合いという気兼ねなさを感じる。

 

『女王メイヴか……。ケルト神話、アルスター伝説に登場するコノートの女王で数多くの王や勇士と婚約し、結婚し、時には肉体関係のみを築いた恋多き少女、もしくは永久の貴婦人とも呼ばれているね。……なるほど、彼女ならフェルグスが下についていても不思議じゃないし、何より女王という、彼らのワードにも引っかかるね』

 

 ロマンの解説を聴き終えた師匠はその言葉を肯定しつつもさらに言葉を紡いだ。

 

「ああ、その通りだ。そして、クー・フーリンの方だが……一戦交えた結果、あれは相当に拗らせていると見える。実際私も逃げ帰ってきたようなものだ」

 

 この時俺達の受けた衝撃は計り知れないものだった。何故ならあの師匠が己から逃げ帰って来たと言ったのだ。……俺にとって師匠とは理不尽の塊だった。しかし、それと同時に絶対に負けることがない、自分の中では最強の代名詞と言ってもよかった。その彼女が負けを認め、帰って来たということは、少なくとも今のままでは向こう側のクー・フーリンには勝てないということである。

 

「珍しいじゃねえか。そこまで言うなんてよ」

「事実を言ったまで。お主たちには少々厳しい相手やもしれぬ。もし暗殺等を考えていたのであればやめておけ。無駄死にだ」

 

 影の国の女王。技術だけで神殺しにまで上り詰め、人間を超越した女戦士。その話を知っている、もしくは聖杯から与えられていたジェロニモたちもその言葉を聞いて暗殺は不可能であることを悟った。

 

「……やはり重要なのは戦力か」

「そういえば、師匠はラーマの心臓にかかっている呪いとかどうにかできたりしませんか?」

「消すことは無理だ。少なくとも今の状態では不可能だろう。そやつの妻、シータ……其奴に会えばあるいは……というところだろう」

 

 妻に会ってようやくワンチャンというところか。まあ、普通は死んでいるし確率が存在するだけでも儲けものだろう。とりあえず、今日は寝た方がいいかもしれない。一日中歩き疲れたし、フェルグスと戦ったしそれに……双方からダブル音痴攻撃を受け続けたしね。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 仁慈と一応デミ・サーヴァントのマシュが寝入った頃、サーヴァントであり睡眠を必要としない者たちは、周囲の様子を探りながらお互いに軽く話し合っていた。まあ単に語りたくない者は聞きに徹していたし、語りたい者は勝手に語るというかなり大雑把なものだったが、戦闘で役に立つ意味でも意味のあるものだったと言えよう。この話の中でエリザベートやネロからラーマがその出典の伝説の内容が故に顰蹙を買うことがあったものの、それでもあまりギスギスした雰囲気はなかった。これは殆どのサーヴァントが現状を理解したうえで協力が必要と感じ、実行に移せる者達だったというのが大きい。

 支給された食料の余り物をつまみに話していると、話題は自然にカルデアのマスター仁慈のことに移る。

 

「そういえば、スカサハとエミヤはマスターの師なんだよね?いったいどうやって出会ったの?」

 

 ビリーがエミヤとスカサハを見ながらそう尋ねる。本来であれば、英霊たる彼らを師にするというのはカルデアで召喚された後に弟子にしてもらったとみるべきだろう。しかし、ビリーや他のサーヴァント達も、彼らの関係がもう少し昔から作られているというのを薄々感じていた。

 

「………私は生前に一度、彼の家を訪ねたんだ。彼の家は特殊でね。私は彼らの協力を得るための交換条件として、彼に弓を教えたんだ」

 

 当時のエミヤは世界で活動するための前準備を行っていた。それに目を付けた樫原家は彼のことを調べ上げ、望むものを与える代わりに仁慈に弓を教えてほしいと条件を付けて呼んだのである。

 

「へえ。でも、それだけで教えたの?」

「それだけが理由ではないがね。強いて言えば彼は私が知っている誰かに似すぎていたのだ。これは後から気づいたことだがね」

「ほう。どんな者に似ているか聞いてもよいか?」

「そうだな……。強いて言えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「歪んでいた……とは?」

「人として持ってて当たり前のものを持っていなかった。ただそれだけだ。どこぞの誰かのように破綻した願いを抱いていないだけまだマシだったが……それでも自分と重ね合わせてしまったのだろうな。今の私であれば教えはしなかっただろうが、当時の私はそういった理由で教えてしまったのさ」

 

 そこまで語り、彼は最後に「最も、彼が今よく使っているのは槍で私の教えはあまり意味がなかったがね」と付け加えた。その瞳には嬉しいような悲しいような視線が複雑な思いが見て取れた。

 エミヤの話を聞き終えたのち、今度はラーマがスカサハに問いかける。

 

「では、スカサハはどうだったのだ?確かスカサハと言えば……」

「そうだ。私は影の国から出ることはできない。存在から外れたが故に、あの国へと追いやられたのだからな。――――だが、そうだな。ここで語ってもいいか」

 

 スカサハは少しだけ考えるよう目を瞑り口を結んだが、直に目を見開き言葉をつづけた。その言葉は周囲に驚愕を与えるには十分すぎたようで、誰もが言葉を失っている。特にエミヤの反応が一番大きかったと言えた。

 

「お主らは仁慈がああなったのは私の所為だと言うがな。こちらとて巻き込まれた側だ」

「ノリノリで鍛え上げた段階でもう加害者だけどな」

 

 クー・フーリンのツッコミに素早い手刀で応えたスカサハ。ケルトパワーを多分に含んだ手刀をうけた彼は悶絶しその場で転げまわった。

 

「はぁー……子ジカも難儀なものね……」

「………成程。そういうことだったのか」

 

 エリザベートはオルレアンのことも仕方ないかと諦めを含んだ視線で仁慈を見て、驚愕から脱したエミヤは納得がいったとばかりに天を見上げる。

 

 そして、誰しもが思った。

 樫原仁慈というマスターの行く先に幸が多く訪れることを。

 

 

 

 




さーて、そろそろシータが出てくるぞぉ!彼女はどうしようかな。

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