この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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新宿よかったです。
二日間使って完走しました。これを投稿できなかったのはそういう理由です。
………ほら、仁慈君もそうだけど、私もマスターだから……(震え声)


Assassin(マスター)

 

 

 

 緑の人ことロビンフッドについて行きながら歩くこと数時間。ようやく目的地と思わしき街が俺たちの視界に入って来た。流石アメリカとても広い。エジソンたちが持ってた乗り物がとてつもなく欲しくなってきたわ。……逃げるときに一つくらいパクっておけばよかったと今更ながら若干後悔している。

 

 それはともかく。

 

 街に近づくにつれて先程ロビンとビリーに合流した時のように、ケルトの兵が街を襲っている様を見ることができた。……もしかしたら、ロビンたちのように既に襲われており、交戦しているのかもしれない。

 と、普通であれば考えるのだろう。だがしかし、俺のシックスセンス(笑)が囁いている。あの街に近づいてはいけないと。なんと説明すればいいのだろうか。師匠とは別ベクトルで背筋が凍るような感覚に襲われるというか……耳に来るというか……頭痛が痛いというか……。

 

「?……先輩、どうしたんですか?」

「なんというか……急に行きたくなくなってきたというか……上手く表現できないんだけどね」

「なに?もしかしておたく既に知っている感じ?」

「ただの勘だけど……」

「そう?なら、いい勘してるぜアンタ。きっと長生きするタイプだな……やべっ、マジで行きたくなくなってきた。……戦力とか暗殺とか色々もう俺が頑張るから帰らねぇ?」

「……一昔前に流行ったやれやれ系主人公ばりに捻くれてやる気がないグリーンがそこまで言うだなんて……」

「あんた俺の何を知っているんですかねぇ……ま、ここまで来て引き返そうっていうのは流石に冗談ですけど……ホント、覚悟はしておいた方がいいと思うぜ」

 

 そこまでトラウマ級の何かが居るのだろうか。ぶっちゃけ、俺のトラウマと言えるようなものは師匠と与えられた地獄のデスマッチ&サバイバルくらいだけど……、

 

 

 なんて、思っていた時期もありました。

 

 街に近づくだけで耳に届いてくる聞いたことのある声。そして何故か街に近づく度に顔色が悪い状態で襲い掛かってくるケルトの兵士たち。さらにさらに近づけば、もう間違えようがないし無視することもできないレベルのものが俺の耳に届いた。というか、もはやテロレベルで俺の耳を襲撃してきた。

 その音は、とても美しかった。いや、決して上手いというわけではない。歌声というより声質は悪くないのだ。むしろ可愛らしいと言ってもいい。どこぞの男の子なのにヒロインしている子のような声をしているのだ。只、その恵まれた声質からは想像できないレベルの……はっきり言えばゴミ屑としか思えない音程と歌詞が全て壊すんだ!していくのである。

 

「………マスター。一体我々はいつの間にカルデアに帰って来たのかね」

「弓兵。現実逃避もそこまでにしておくんだな。周り見てみろ。まるっきりアメリカじゃねえか。……まぁ、多少アメリカではありえない服装の兵隊共が寝っ転がってはいるが」

「あれは気絶というのでは……」

 

 ハロウィン仕様と特別な感じの彼女がうちのカルデアにはいる。クラス、恰好は違うものの、その中身は紛れもなく彼女であり、当然歌の腕前が上がっているなんていう奇跡はクラスチェンジ如きで起こる……なんてことはない。

 天は二物を与えず、まさにその通りである。あんまりな物言いだと思うかもしれないが、彼女の歌は実際ヒドイ。一日侘びとして付き合った俺が言うのだからまず間違いない。

 

「~~~~♪」

「―――――ッ……!?」

「――――!――――!?!?」

「―――――………」

 

 これは酷い。

 街の中、道の中央で歌うのはもはや言わずと知れたエリザベート。その恰好はオルレアンで会った時のモノとは違い、ハロウィンの時の恰好を思わせるフリフリしたドレスだったが、クラスチェンジと同様衣装が変わったくらいで歌の実力は変わらない。本人は気づかずに歌い続けているが、その音波兵器とも呼べる歌によって、ケルト兵たちも皆地面に伏せてしまっていた。何度も言うがこれは酷い。下手に殺すよりひどい。

 

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「………な?」

 

 だから言ったじゃん、と言わんばかりの表情で俺達に振り返るロビン。わかるわ。俺もエリザベートとかだったら積極的にOKなどは出さない。まぁ、戦力になるならもちろん声はかけますけどね!

 

「あ、今の語尾を強調したほうがよかったかも!こう、振り返る感じで、尻尾も地面をたたいて……あぁ、この才能にこの練習量……我ながらメキメキと実力が上がっていくのを感じるわ!ふふっ、待ってなさいセイバー!次にまみえるときは、以前のアタシじゃないわよ!」

 

 気づかぬは本人ばかり。自分のことだから誰よりもわかっているみたいなセリフを聞くけど、あれは真っ赤な嘘だよね。自分の事なんて、自分自身より近くに居る人間の方がよっぽどわかっているものなのだ。古事記にもそう書いていてある。今のエリザベートを見ればさらにその考えは加速する。

 

「ちなみに俺は連れて来ただけで直接的な声掛けとかはやらないから」

「………マジで?」

「俺苦手なんだよ。アレ」

 

 何か特別なトラウマでもあるのだろうか。ロビンフッドとエリザベート……どこかの聖杯戦争とかで戦ったりしたんだろう。普通に考えてこの二人が因縁を持つならそういったことしかありえないし。 

 と、ロビンに対する考察もほどほどに、問題はどうやってエリザベートに声をかけるかということだ。ハロウィンの霊基を持っているエリザベートはうちに居るけど、此処に居るエリザベートが一体全体どのような一面を切り取ったものなのかということがわからない。オルレアンの記憶があれば話は早いんだけど……。

 

「先輩……ここは一つ的確な言葉をかけてあげると思うのですが」

「………俺かぁ」

「はい。言うべき言葉は唯一つ、先輩ならそれを言ってくれると信じています」

 

 妙に押しが強いマシュ。いったい何に背中を押されているのだろうか。周囲を見渡してみても、ロビンはもとより、彼女の歌を聴きそしてその呟きすら聞いたジェロニモとキッドは明後日の方向を向いていた。また別のところに視線を向けてもエミヤ師匠は黙って肩を竦めるのみ。兄貴も死んで来いなどと口にする始末。一日で令呪が回復することを知っておきながらその態度とは。よかろう、この特異点が終わったら覚えておくがいい。

 

「では、張り切ってどうぞ!」

 

 本当にどうしてしまったのだろう。マシュ、まさかそこまでいい笑顔でエリザベートを口撃させるなんて……。

 何かにとり憑かれたかのように俺の背中を押すマシュを心配しつつ、彼女に強く頼まれたら断れない俺は、言う通り自分の内心に思い浮かんだ言葉を言うのだった。

 

「何度も出てきて恥ずかしくないんですか?」

「ちょっ!?いきなり人に誹謗中傷を叩きつけるのはどこの誰よ!言っとくけど、この召喚は望んだわけじゃないから!世界ツアーみたいで素敵なんて思ってないから!」

 

 語るに落ちているんですがそれは……。

 まぁ、いい加減ふざけていないで真面目な話をしよう。彼女と話をしていて分かったことと言えば、どうやらこのエリザベートはオルレアンに居たときの彼女と同じかもしくは同一の記憶を所持しているらしく、俺のことを覚えていた。しかしハロウィンの記憶はなかったことから、今カルデアに居る彼女とはどっかで分離したのだろう。その内エリザベート(ランサー☆4)とエリザベート(キャスター☆4)でオーバーレイしそうだし別人でFAだと思われる。

 エクシーズの話は置いといてどうしてここで歌っているのかと言えば、彼女はここを自分のブロードウェイとすべく何やら歌を聴きに来てくれていると思っていたらしいケルト兵に向けて一生懸命歌を披露していたのだとか。その涙ぐましい努力は報われる気配を全く見せない当たり、彼女の業の深さを感じる。しかし、その妄想を語る本人の眼は爛々と輝き、その表情だけは本業アイドルに負けないくらいの輝かしい笑顔だった。

 

「……誰か止めてあげなよ」

「なんで俺を見るの。嫌だよ俺。というか、別に放っておいてもいいじゃないの?ホラ、夢を見るのは個人の自由だし」

 

 酷い言い草だ……。人の事言えないけど。

 

 

――――――

 

 

 その後、紆余曲折あったもののエリザベートは巧みなマシュの交渉術により仲間になってくれることを了承した。うちの後輩が優秀過ぎてやることがない。ロビン曰く次に仲間になってくれそうなサーヴァント・クラスセイバーはさらに東に行った街に居るとのこと。そのサーヴァントもこのエリザベートに負けないくらいのものらしい。どういった意味で彼女に負けないくらいのサーヴァントなのだろうかと疑問に思うところだけど、深くは考えないでおこう。

 

 東に行く途中に置いてかなり巨大な木々が生い茂る森の中に入ることとなった。エリザベートがその森を怖いと言っていたけれども気持ちはよくわかる。ここまで巨大な森だとサバイバルの時の記憶が想起されて若干泣きそうなのだ。

 

「どうした?スカサハがまた魔力でも使ったか?顔色悪ぃけど」

「ちょっとトラウマが……」

「…………」

 

 トラウマならしょうがねえなと俺から目を話す兄貴。流石、わかっていらっしゃる。只、そんな俺の方を何やら悲し気な目で見ているマシュが少しだけ気にかかった。故に彼女にどうしたのか話を聴こうとすると、俺のシックスセンス(トラウマ)が俺達以外の生き物の気配を感じ取った。それと同時にエリザベートもとある方角を指差して口を開く。

 

「あんな所にゴリラがいるわ。棒をもって手を振ってる……サイリウムでも降っているのかしら?」

「どこだ…………エリザベート。あれはゴリラではなくこの森に棲む獣人であり、手に持っているのは棍棒だ。つまり奇襲だな」

「呑気に言ってる場合じゃありません!奇襲ならすぐさま応戦しないと……」

「……大丈夫じゃないかな?ほら」

 

 奇襲ということで少しだけ慌てるマシュだったが、ビリーが彼女を落ち着かせた。それもその筈、なんせこっちには奇襲のエキスパートたちが居るのだから。既にロビンは近くの木の上を陣取っており、己の得物を構えている。同じくアーチャーであり、比較的俺達にゲリラ戦が得意なエミヤ師匠も同じくだ。そして俺だって、過去の経験から既にほかの連中の後ろを取って武器を構えている。攻撃をする前に合図を出し、俺達は他の人と獲物が被らないように奇襲を仕掛けようとしていた獣人たちを先制して攻撃、そのまま殲滅を行った。

 

「いやー、いつ見てもひっでえなコレ。戦うマスターっていうのは割と見たことあるけどよ。ほんと、スカサハに目を付けられたのはいいことなんだか悪いことなんだか」

「今の時代ってあんなのがゴロゴロいるんだ……」

「……本当に凄まじいな。この特異点……いや、今起きている人類史焼却という事態を想定していたのではないかとも思えてしまうな」

「…………」

「実はどこぞの神話出身だったりするのではないか、アレ」

「患者がしゃべるのはあまりいいこととは言えません」

「余には発言の自由すらないというか……」

 

 ラーマの悲痛な呟きが聞こえた気がしなくもないけれど、敵を処理している俺は気のせいだと思うことにしたのだった。……というか、黙ってないで助けにとかは来てくれないんですね。

 

 

 

 

 

 という風に後から考えたら住居として使っていた森を守るために奇襲をしに来たのではないかという獣人たちを蹂躙した後に辿り着いたのは、これまたエリザベートを仲間にした時と同じような風景の街。それに近づこうとした時、俺達が目的地としている街の方角から銃を持った兵隊が現れた。銃器を持っていることからケルトの兵ではないようだ。その兵士はジェロニモに話しかけ何かを報告していくと、彼から引き続き調査を頼むと言われ、再び去っていった。彼曰く、どうやらケルト兵たちがどこから来ているのかということを探らせているらしい。……未だに帰ってこない師匠だけどもいったいどこで何をしているのだろうか。

 

「―――――――ッ!」

「……どうかしたのか、ランサー」

 

 ジェロニモから説明を受けた直後、兄貴が何かを感じ取ったようで、今までのリラックスした雰囲気から一転し、戦いの……それも結構な強敵が相手の時、もしくは師匠を相手にする時と同じピリピリと肌を刺すような威圧を纏った雰囲気になった。それに気づいたエミヤ師匠がいち早く声をかける。

 

「あそこに、フェルグスがいるな」

「なんだと?」

 

 兄貴の言葉に俺達に緊張が走る。

 フェルグスもクー・フーリンと同じく並の英霊ではない。虹霓剣という非常に強力な武器を持っているし、師匠を以てして少しやばいと思わせたあの白髪のサーヴァントの足止めもこなせる戦士である。出身、時期を同じくしている兄貴はよくわかっているのだろう。マシュも初めて師匠と会ったあの夢の中での出来事を思い出しているのか、顔を青くしていた。

 

「……それ、ぶっちゃけここで対抗できるのはアンタしかいないってことじゃね?」

「まぁ、な。だが、確実に勝てるってわけでもねえ」

「じゃあ、勝てる手段を使おう。……兄貴、フェルグスに関する情報頂戴」

「あん?いいけどよ………何する気だよ……」

「まぁまぁまぁ………エミヤ師匠、魔力を全力で回すからこれ作って。あと、ロビン。確か姿を隠す宝具あったでしょ。それ使って先に行ってて。他の人も、エミヤ師匠を除いてついて行ってね」

 

 全員が首を傾げているようだがコレデヨイ。実際に通じるか否かはわからないが、やらないよりはマシだろう。

 ぶっちゃけ、特異点での戦いは唯の聖杯戦争ではなく、文字通りの戦争だと道中でラーマは言った。その通り、この戦いは戦争だ。どれだけ強い将を倒しても、大将が生き残っていればいくらでも再建の機会はあり、数に負ける可能性だってある。ゲームじゃないんだから、戦闘を終了すれば負ったダメージを回復するというわけでもない。……なら、なるべく負担が少ない道を選ぶべきだ。

 

『あ、これはいけないやつだ』

「ドクター。もう手遅れです」

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「ふんふんふ~~ん♪」

 

 一人の女性がとても機嫌がよさそうに鼻歌を歌いながら土台を作り上げていく。そう、彼女こそロビンが会ったもう一人のサーヴァントであり、クラス・セイバーで現界したサーヴァント、ネロ・クラウディウスである。本来であれば本人が男装と譲らない赤い衣装を纏っているのだが、今回の彼女が身に纏っているのは全身が白く、まるで花嫁が着る様な衣装であった。まあ、実際に花嫁が着るにはチャックに南京錠と少々倒錯的なデザインであるのだが、本人は気にしている様子はない。

 自画自賛しながら彼女は準備を進めていった。どうやらこの街を舞台に自分が主役の何かを撮ろうとしているらしい。しかし、準備を進めていくうちにカメラマンがいないことに気づき、彼女は嘆いた。脚本も音楽もディレクターもプロデューサーも主演も彼女の皇帝特権で何とかなるかもしれないが、画像に残すにはカメラを撮る存在が必要だ。一応カメラを固定すれば撮れないこともないが、彼女がそんな妥協を許すわけもない。

 途方に暮れる若干アホの子なネロの元に、一人の男が話しかけた。

 

「ほほう、ハリウッド、か。面白いことを考えるサーヴァントも居たものよ」

「む、何者だ?カメラマンでなければ用はない」

「失礼。我が名はフェルグス。かつては赤枝騎士団で禄を食んでいた者よ。本来ならカメラマンを自称し、そのままお前を口説くのも吝かではないのだが、今は込み入った事情があってな、」

 

 フェルグスはここで一度言葉を切った。その直後、今まで隠していた殺気を前面に押し出して言葉を紡ぐ。その様はかつて仁慈達のピンチを救うために現れた彼の面影は存在しない。只の騎士。己に課せられた勅命を果たすために殺生を行う者の眼であった。

 

「―――問答無用でお前を殺す。恨むなら、俺だけを恨むがいい。何せよ我欲だ。お前を殺すのは唯の我欲でしかないのだからな」

「ふむ。確かに込み入った事情がありそうだな。しかし、この余を、ネロ・クラウディウス。そう易々と殺されるほど、安いサーヴァントではないぞ?」

「……あのローマ帝国の暴君ネロか!これはまた希有なサーヴァントと遭遇したものだ。成程、他の凡庸な奴らとは輝きが違う筈だ」

「凡庸な連中?」

「然様。実はこれまで3騎のサーヴァントを屠っていてな。お前で4騎目ということだ」

 

 それはサーヴァントを3騎殺して来たという宣言。直接戦うネロにとっては、フェルグスというだけでも厳しい相手だということが理解できる。そんな相手からお前が4騎目であると言われたのだ。普通であれば恐怖に心が震えるだろう。が、彼女はそうならない。

 

「そうか。だが、残念ながらそれはハズレだ。偉大なる騎士の一人。フェルグス・マック・ロイよ。―――――()()()4()()()()

 

 ネロの堂々とした返しにフェルグスも騎士としての仮面を一瞬だけ脱ぎ、本来の顔を見せて豪快に笑った。どうやら彼にとって彼女の返しは予想外のモノだったらしい。そして彼はネロに対する考えを改めた。彼女は唯玉座から兵に指示を出すだけの存在ではないのだと。

 

「面白い。いいだろう。セイバー。フェルグス。女王の騎士として相手をしよう」

「だが、何より見誤っているのは貴様自身の命運だろうな。貴様は本当に運がない」

「何?」

「居るのだろう?顔の無い王よ!」

「―――ッ!?」

 

 ネロの言葉に反応したフェルグスは反射的にその場から飛退く。すると先程まで居た場所に一本の矢が飛来していた。彼に落ち度はないはずだ。姿などは見ることはできず、気配も感じない。それもその筈、歴戦の戦士の彼が気づけないのは偏にもここに現れたサーヴァントの宝具が発動していたからだ。

 

「よ、ちんまい皇帝陛下。よく気づいたな、あんた」

「第六感というやつだ。余は観客の気配には敏感な故な」

「相変わらず自分が大好きなようで何より。ま、駆け付けたのはオレだけじゃないけどね」

 

 ロビンが姿を現したのと同時にロビンと行動を共にしていたサーヴァント達も現れた。ナイチンゲールに、その背に背負われているラーマ。ビリーやジェロニモなどの現地サーヴァントだけでなく、マシュやクー・フーリンと言ったカルデアのサーヴァント達まで合流した。

 

「ネロさん!?」

「む?どこかで会ったことがあったか?……いや、何処か懐かしいような……」

「あ、そういえばこの前のネロさんは生前でした……。コホン、失礼しました。ネロ・クラウディウス皇帝陛下。マシュ・キリエライトと申します。微力ながら私たちも協力させてください」

「むぅ、やはりどこかで会ったことがあったか?会ったことがあるなら信用に足りる。というか貴様は好みだ!余と肩を並べて戦う栄誉を与えよう!」

 

 普通であれば自分の知らない人間が親し気にしてきたら怪しむだろうが、ネロは持ち前の気質でそれをあっさりと流してマシュを隣に置くことを行う。マシュも彼女は英霊になっても生きている時でも変わらないと改めて認識した。

 この盛り上がって来た状況でピンチを迎えているのは、当然これらのサーヴァント達と対峙することになる英霊フェルグスである。流石の彼と言えども、総勢6騎のサーヴァントそのうちの1騎は戦える状態ではないとはいえ、クー・フーリンも居ることから明らかに戦況は不利であろう。

 

「……まさかそちらにもクー・フーリンがいるとはな。お前、何時の間にそこまで増殖するに至ったんだ」

「うるせえよ。……あんたが敵なのは惜しいが、この数でも容赦はしねえ。今のマスターの方針がそういうもんでね」

「それについて恨みは抱かん。俺達は戦場で会えば笑顔で戦う。そういった連中だからな。……だが、この人数差で戦うのは無謀。かといって俺に撤退は選べん。で、あるならば――――――こちらも女王の力を借りるとしよう。出て来い、誇り高きケルトの兵たちよ!」

 

 状況を正しく理解できるものならそうするであろう。フェルグスは指揮もこなしていた為にそういった手段を使うことに躊躇いなどはない。彼は己の女王であるメイヴから借り受けた兵士を呼び出すために声を張り上げる。だが、何時まで経っても彼が呼ぶ兵士たちが現れないのだ。

 

「いったい何が――――ッ!!??」

 

 おかしいと思った瞬間、ロビンの攻撃を回避した時と同じように彼はその場から横に転がるようにして移動した。すると、まるで先程の焼きまわしをするようにその場に矢が刺さっていたのだ。フェルグスがすかさずその方向に視線を向けると、赤い外套を羽織った褐色の男性、エミヤが矢を放ったような態勢で静止していた。彼が放ったのは偽・カラドボルグ。自身の投影し、矢として放たれたその宝具はランクAに匹敵する威力を持っている。回避できたことは幸運と言えよう。

 

 だが、その幸運をあざ笑うかのように、一人の死神ともよべる存在が上からフェルグスのことを狙っていた。

 

「ぬっ!?がぁ……!?……いつの、間に……」

「―――――」

 

 現れたのは、クー・フーリンが持っている朱槍とは違う赤い槍を持った少年。白い礼装に身を包み、色からも目立つはずなのに一切の気配を悟らせることなく、音もなくフェルグスの肩に持っている槍を突きたてた彼は、当然の如く先程の援軍の中に姿が見えなかったカルデアのマスター、樫原仁慈である。

 

「気配はない……ということ、は、アサシン、か……?」

「………いや、マスター」

 

 短く答えた仁慈はそのまま背後まで跳んだ。彼がフェルグスに突き立てたのは、彼のオリジナル概念礼装と言ってもいい突き崩す神葬の槍。人外……特に神性を帯びた存在に対しては、ヒュドラとまではいかないものの、それに差し迫るような猛毒にもなり得るものである。

 フェルグスは七百余人分もの神の力を宿したと言われている大戦士。彼の身にその槍はものの見事に刺さっていた。彼のヘラクレスとまではいかないものの、今のフェルグスは自身の最大の力を振るうことはできず、その実力も十分の一以下にまで落とされていた。

 

「は、ははは……。まさか、アサシンまがいのマスターがいるなんて予想外にも程がある!」

「……そいつはスカサハの最も新しい弟子だ。えげつないことも平気でやる。仕方ねえよ」

「なんと、スカサハ姐の弟子だと!?ハッハッハ!!……本当か?」

「おう。マジもマジだ」

 

 豪快に笑っていたフェルグスだったがクー・フーリンのマジ顔に思わず素で訊き返してしまっていた。それに対する答えは当然肯定である。フェルグスはその後まるで錆び付いた機械のように仁慈の方を二度見して再び笑った。

 

「そうかそうか。で、あるなら……これは俺もこのまま無様に敗れるわけにはいかんなぁ……」

 

 もうほとんど力も入らないだろう肢体を己の意思で無理矢理に動かす。その動きだけでも大地にひびが入った。彼は己の愛剣である虹霓剣を肩に乗せると仁慈を真っ直ぐと見据える。

 

「弟弟子というのであれば、兄弟子としての意地を見せなければなるまい。クー・フーリンだけでなく、他にもこういう男が居るのだとな!」

「―――マジか」

 

 唐突に始まった戦い。

 正直あの一撃で弱体化させて全員で袋叩きにしようとしていた仁慈にとっては予想外の展開だった。何故なら、最早この場の空気は戦争ではなく同じ者を師と仰ぐ者同士の稽古場のような雰囲気になってしまっていて、誰も助けに入ろうとしていないのである。

 これは彼にとって予想外だったが、すぐに諦めた。これも彼がサバイバルで得た経験則である。どうしようもないなら現状の問題を一つずつ解決する案を練った方が効果的であるという。

 

 仁慈は諦観が色濃く残る表情を浮かべながらフェルグスに対峙したのだった。今さらながらマスターをサーヴァントと戦わせるとかどうなのだろうか。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 決着は早々についた。普段であれば、たとえ十分の一の実力しか出せないフェルグスでも、魔術師一人捻りあげることは赤子の手を捻ることと同義である。が、相手は頭のおかしい師匠に見定められてしまったある意味で存在自体が神秘みたいな存在だ。紆余曲折あったものの、何とか仁慈は勝利を収めたのだった。

 

「ここまでやられたか……。ハッハッハ!これは言い訳の仕様がないな!」

「豪快過ぎる……」

 

 しかし、力が十分の一になっていようとフェルグスの攻撃が仁慈にとって致命的なのは変わることの無い事実だったために、彼の疲労は結構なものだった。

 

「さて、想定よりも気持ちのいい最期を迎えることができた。……死人は満足してさっさと消えるとするかな」

「ま、待てフェルグス!余の后を知らないか?ラーマという男の、妻シータを知らぬか!」

「………そうさな。お前の妻かは知らぬが、お前にそっくりの見た目をした少女は見たことがある」

「―――!それはどこでだ!?シータは今何処に居る!?」

「……ふむ、いいだろう。あれは女王の立てた計画の中でも特に気に入らないモノであったし、弟弟子が俺を打ち倒した褒美としても申し分ないだろう」

 

 うんうんと己を納得させるように数回頷いたフェルグスは、今までの笑顔を引っ込めて真剣な表情で、ラーマを見据えた。その瞳からは確かに真実を語ろうとする真摯な気持ちが見て取れた。

 

「西へ迎えラーマ。アルカトラス島、そこにお前の后がいるかもしれん」

「アルカトラス島だと!?」

『ちょ、脱獄不可能と謳われたあの島!?』

「そうだ。まぁ、お前たちなら問題はないだろう。では、クー・フーリン、そして俺達の弟弟子樫原仁慈よ。願わくば、お前らが勝利を収めることを」

 

 言い残しフェルグスは消えていった。

 そして、それと同時に仁慈達の次の行き先が決まったのである。次の行き先は今までとは逆の西。脱出不可能のアルトカラス島。ラーマの本来の力を取り戻すために、仁慈達は今まで来た道を逆走して西へと向かうことにしたのであった。

 

 

 ちなみにネロ・クラウディウスの説得は頼りになる後輩マシュが担当し、ほとんどエリザベートと同じ手段で口説き落としたのだった。この光景を見ていた某赤い弓兵はマスターとサーヴァントの役割を入れ替えた方が絶対にうまくいくのではないか、世界はいつもこんなはずじゃなかったということばかりだと肩を竦めながらつぶやき、その様を見て、緑の弓兵がお前が言うなと内心で突っ込んだらしいが仁慈にそのことが伝わることはなかった。

 

 

 

 

 

 




……ボブミヤのデザインはもう少し何とかならなかったんですかね……いや、文句を言っているわけではないのですが……。

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