もし見にくいというのであれば、次回から戻します。これがいいのであれば続けてこれで書いていきます。
「あー……すごい、移動が楽だ」
「確かにそうですね。結局ロンドンでは馬車に乗ることはできませんでしたし、こういった乗り物を利用するのはここが初めてかもしれませんね」
「まぁ、体力を温存できるならそれに越したことはねえよ」
「………四方八方、何処を見ても敵に成り得る連中が居るというのに……旅行に来たわけではないのだがね」
「……心音安定。いい傾向ですね。その調子でリラックスなさい。それが治療の第一歩となるでしょう」
仁慈達は現在、エレナと交わした約束により彼女たちの言う王様と邂逅するために彼女たちが乗って来た輸送車のようなものに乗り込み同行していた。一応、話し合いで解決した手前今すぐに攻撃されるとはないだろうと考えているようだが敵がわんさかいる状態での緊張感のない態度にエミヤは若干呆れ顔である。カルナは特になんとも思ってなさそうだが、エレナはそんな仁慈達を愉快そうにまた興味深そうに眺めていた。
「会話からなんとなくわかっていたけど、やっぱりいくつもの特異点を乗り越えて来たマスターだけあるわね。実に興味深いわ。私たちの時代ですら神秘が薄れてきていたのに、貴方のような存在が生まれていることも同じようにね」
『……ブラヴァツキー夫人の言いたいことも分かる。仁慈君は人類史が燃え尽きた現在ではそこまで問題ではないけれど、通常時なら魔術師が喉から手が出るほど欲しい実験体であり、封印指定待ったなしの存在だからね』
「軽薄そうだけど常識を持っているのは好ましいわ、あなた」
『何でみんな初対面で僕のことをディスるんだい?何か悪いことしたかなぁ、僕……』
スケルトンやその時代の兵士たち、果てはワイバーンを始めとする竜種そしてサーヴァントと一騎打ちを行い生還をするということは現代で言うところの執行者がギリギリ当てはまるかと言ったようなところだろう。こんな人材が一般枠で入ってくることに改めてロマニはエレナの言葉にへこみつつ、この世界は間違っていると確信した。
「……ところでレディ・ブラヴァツキー。貴女が王様という方に肩入れをする理由を聞いてもよろしいですか?先ほどのような状況に陥ってまで私たちを引き入れようとするには何かしらの理由があるとは思いますが……」
「まぁ、レディ!いいわね。あなた、とてもいい。礼節っていうのをわかってるわ!マシュちゃんって言ったっけ?あなたに免じて答えてあげる」
彼女の語った理由は単純なものだった。王様に肩入れする理由は生前に因縁があったから。どうやらそれなりに関係の相手だったために肩入れしているらしかった。それ以外の理由としてはケルト勢が自分たちケルトの人以外を認めようとしないからということだった。彼女曰く、自分が降参したところで殺されるか、生贄にされるかの二択だろうと言った。
「………」
「兄貴、なんかすっごく見られているんだけど?」
「すまんな。否定はできないんだ」
「俺の出身日本だからね?なんか最近ケルトでひとくくりにされているけど、出身地日本だからね?」
「あら、あなたやっぱケルト神話出身の英霊だったのね。……もしかして、あなたたちは向こうのスパイか何かなのかしら?」
「そういった冗談は言わない方がいいぞ。ミス・ブラヴァツキー。こちらには狂犬が二匹ほど居るからな。時折、考えられないようなことをしでかすこともある」
「ふふっ、冗談よ。貴方たちが特異点となっている時代を修正していることも、ここに来たばかりということも理解しているから」
くすくすと笑うエレナに対してエミヤは黙って肩を竦めながら、彼女はどうやら聡明であはあるが、何処か子どもっぽいところがあるのかもしれないと分析をした。
「それでも、私としてはどちらかの陣営に所属することをお勧めするわ。二つの勢力にちょっかいを駆けたらあなたたちは真っ先に潰されることにもなるし」
「それはこっちで決める。王様というその人の話を聞いてからね」
「そう。なら覚悟しておくことね。……彼のインパクトはすごいわよ。あとかなり面白いわ。顎とか脱臼しないようにね」
『え、なにその言い方。そんなに愉快なのかな、王様っていうのは……』
「究極の民主主義国家であるアメリカで王を名乗っているのです。面白いのは当然でしょう」
「……喋った……普通に会話に加わって来た……」
「………貴方は私を何だと思っているのですか。私とて会話はします。今現在近くに急患はいませんし、こうして語り合うこともいい刺激と気分転換になるでしょう」
ナイチンゲールの意外なところを見た仁慈は驚き、目をパチクリさせた。その反応を見たナイチンゲールは少しだけ不機嫌そうにその眼を鋭くして仁慈を睨む。睨まれた仁慈は何処か釈然としない風に彼女から視線を逸らし、王の本拠地とやらに思いをはせることで彼女のことを頭の中から追い出すことにしたのだった。
――――――――
エレナに案内された先はまさに城というつくりの建物だった。彼女曰くホワイトハウスは占拠されたそうなので新たに拠点として作り上げたらしい。俺はパッとその城の城壁の様子や、通路の有無、壁の高さなどを頭に叩き込む。交渉決裂のちに戦闘となった場合俺たちは十中八九逃走することになるだろう。カルナを相手にした場合無事でやり過ごすことはできないだろうことは容易に予想ができる。故に逃走経路を確保するためにこうしたことはしておいた方がいい。……退路の確保はサバイバルの基本。勝てる確証がなければ一時撤退も辞さない……これ鉄則。
「ブラヴァツキー夫人、カルナ様。大統王がお待ちかねです。直においで下さい」
『聞き間違いかな?いま、だいとうおうとか聞えた気がしたんだけど……』
「はい。私にも確かに聞こえました。大変言いずらいのですが、すごく短絡的というか……」
「でしょ?でもそこがいいのよ。私達にはない発想だし」
「この先に貴女の雇い主が居るのですね……」
そう誰に言い聞かせるわけでもなく呟いたナイチンゲールは自分の腰に潜ませている拳銃に手をかけてた。しかし、それに待ったをかけたのはカルナである。彼はナイチンゲールの言葉を受け止めつつ的確に直球に言葉を投げかけた。あわや激突かと思われたが、最終的にはカルナの言うことを聞き、ナイチンゲールはその拳銃をホルスターにしまう。なんだあの説得スキル、あの人すっごいこちらに欲しい。
「カルナさん。俺達と一緒に来ません?」
「すまないが、俺がここで仕えるべき者はもう決定している。……それに、お前のような存在であれば俺の助けなどなくても、この先を歩んでいけるだろう」
……断られたはずなのに励ましとも思える言葉を受け取ってしまった……。なんだこの人は、もしかして、彼はマシュに続く癒し枠となるのでは(錯乱)
そんなある意味で正解な気がすることを考えつつ、先行するエレナに続く。別に目隠しをされて移動しているわけではないので、遠慮なく俺はこの城の内装と入って来た場所までのルートを頭の中に入れるのであった。別にこれだけなら何の問題もないからな。
「連れて来たわよ、王様~」
「了解しました。大統王閣下が到着されるまで、後一分です」
エレナの言葉に恐らく警護の者と思われる機械化歩兵が答える。……エレナが王と仰ぐ人物だ。当然、このアメリカ西部連合国の中心人物であろう。王だし。その彼に対する護衛が機械化歩兵ということは本気で戦力が足りていないんだな。今のところサーヴァントの気配はカルナとエレナの二人、後は「王様」と思われるものが一つの三つだけだ。……そう考えるとよくこの戦力でケルトの猛攻を防いでいると感心する。
「……なんだか緊張してきましたね、先輩。一体どんな王さま何でしょうか……」
「実際に目にしてみればわかるさ。だから緊張しなくてもいいと思うよ」
「おう、そうだぞ。流石にマスター並みに……なんていわねえけどよ、あんまり気を張りすぎてもいいことはねえ」
「……緩めすぎるのも問題だがな。張りすぎるのもまた問題だ」
『―――どうせ気づいているとは思うけど、近づいているサーヴァント反応が一つある。十中八九、王様という奴だろう。……ただ、この反応が妙なんだ。具体的にはまだ言えないけど……なんかこう……うん、これは見てもらった方が早いな』
ロマンの言葉と同時に機械化歩兵がやって来た。どうやら大統王閣下とやらが到着したようだ。
「お待たせいたしました。大統王閣下、御到着です」
「おおおおおおおおお!ついにあの天使と対面することができる時が来たのだな!この時をどれほど待ち焦がれたことか!ケルト共を駆逐した後に招こうと思っていたが、時期が早まるのであればそれもまたよし!うむ、予定が早まることはいいことだ。納期を延長するより余程良い!」
「……はあ、相変わらず歩きながらの独り言は治らないのね。せめて独り言ならもう少し小さい声でやってくれないかしら」
「独り言なんですか!?」
マシュが驚くのも無理はない。王様と思わしきものの声はこの城内によく響き渡り、離れている俺達の耳を程よく攻撃してきている。どう考えても独り言の声量ではない。いや最悪人間の声量ですらないかと思えるくらいだ。
そんなことを思っているとついにその王様という存在がその姿を俺たちの前に現した。
「―――率直に言って大儀である!みんな、初めまして、おめでとう!」
なんともよくわからない一言を伴って現れたそいつに俺たちは揃いも揃って驚愕した。それはマシュや俺はもちろん兄貴、エミヤ師匠、そしてナイチンゲールですら驚きで言葉を失っている。ロマンなんて驚きすぎてモニターの故障を疑うレベルだ。しかし、その気持ちはわかる。痛いくらいにわかる。何故なら目の前に現れたその王様とやらはまるでアメコミヒーローを思わせるような風貌をしていたのだから。
全身は兄貴のような青いタイツもどきのようなものを着込み、手の部分は赤くなっている。そのカラーはアメリカとスーパー〇ンを思わせるカラーリングだ。また、両肩からは電球のようなものを生やしており大変目に優しくない。極め付けには頭部のパーツだ。まるで合体事故のように獅子の顔が今言った胴体に鎮座していた。身体はいくらかツッコミどころがあるが確かに人間のものだ。しかし頭部が致命的に違う。確かに王だ。あれは世間一般から王と認識されている存在だ。だがそれは百獣の王ということであり、人間でいうところの国王とかではない。
「もう一度言おう!諸君、大儀である、と!」
「ね、驚いたでしょ?ね、ね、ね?」
「…………それはまあ、驚くだろうな」
悪戯が成功したような無邪気な笑顔を見せるエレナと俺達に心底同意するかのように頷くカルナ。どうやらこの反応は織り込み済みだったらしい。まぁ、想像は容易だろう。言った誰が王様と聞いてアメコミヒーローのコスプレをした百獣の王がやってくると思うのだ。
「確かに王様だけども……これは、いいのか?大丈夫なのだろうか。こう、著作権的に」
「…………でも先輩。こういった状況に慣れ始めている自分が居ます。どうしましょう」
……まぁ、アーサー王の性転換から思えばこの手の変化は見慣れていると言ってもいいかもしれないからなぁ。耐性、出来ちゃったかー。黒髭も内面的には酷い変化を伴ってたし。なんというか、そこまで成長しなくてもいい部分まで成長しちゃったか……。
マシュの成長に複雑な感情を抱きつつ、俺は彼(?)に問いかけた。
「それで、貴方が大統王?」
「いかにも。我こそは野蛮なるケルトを粉砕する役割を担ったこのアメリカを統べる王―――サーヴァントにしてサーヴァントを養うジェントルマン!大統王、トーマス・アルバ・エジソンである!」
俺達二度目の絶句である。兄貴はピンと来なかったようだが、現代にも精通するエミヤ師匠や生前に知り得ていたであろうナイチンゲール、そして俺たちにとっては正直魔術王がラスボスということが分かった時よりも驚きの情報だ。
俺ですら知っている発明王エジソンがまさかの人外疑惑浮上中なのだから、今まで見て来た写真もどきはどうなんだという話になる。
まぁ、本人の口からこれは本来の姿ではないと説明がその後すぐに入ったけれども。本人的には頭脳はなんも変わらないのでOKとのこと。見た目に囚われないその発想は素晴らしいと思うよ。うん。
さてここで話が終わっていればギャグ漫画のような感じで終わったのだろうがそうはいかない。こちらとしても、真面目な話をしなければならないのだから。
……どうやら彼は、国民すべてをあの機械化歩兵にしてケルトの軍勢と対抗するらしい。そうしてケルトを下した後は自分が手にした聖杯を使ってこのアメリカを正規の歴史から切り離し、独自の発展を遂げていくのだという。他の国など知ったことではない。人類の未来など知ったことはない。只、アメリカという国があればいいと、彼は言った。
それに対してナイチンゲールは抗った。例えカルナが目の前で彼女を抑えようとも、彼女は言う。こういう目をした人間は必ず破滅を呼び、最後には無責任にもこんな筈ではなかったということを口にするのだと。
「人類最後のマスター、樫原仁慈よ。お前はどう思う?私と共にケルトと戦い、聖杯を取るべきではないか?三分間時間を与えよう。それまで選ぶがいい」
こちらにも話が回って来たので彼の言う三分を使いカルデア陣営で作戦会議を行う。ロマンは一応この話に乗る気らしい。結託してケルトから聖杯を奪い取った後、彼らの考えを正せばいいと。あと、彼もナイチンゲールの考えに同意しているらしくこの手のタイプは絶対に後で手痛いしっぺ返しを受けると歴史的にも証明されているからということらしい。エミヤ師匠もそれに同意している。俺もそう思うんだけれども………一応、交渉が決裂したとしてもある程度の安全は保障されている(0.5%くらい)
ここでこの話を断り二つの勢力で潰しあってもらい聖杯を掻っ攫うという方法の方が苦労は少ない気がする。それに……
俺はここでナイチンゲールを見る。
半分くらい成り行きとは言え、彼女を味方に引き入れた。そしてその彼女はエジソンに好意的ではない。……この二人を同じ陣営に入れておくのは双方にとって利益にはなり得ないしな。と、いうわけで
「悪いけど、そちらの陣営にはつかないことにした。アメコミヒーロー」
「……意外といえば意外だ。君はどちらかと言えば私と同じ人間……合理主義者だと思っていたが……」
「こと戦闘に置いては多分そうだろうね。でもほら、俺は若者だから感情を優先することだってあるんだよ」
第二の特異点でマシュを取り返そうとした時なんてそれが如実に表れているからね。それにこの結論だって非現実的ではあるけれど、実現したときの利益は図りれない。今回はたまたま別の案を取ったという、ただそれだけのことである。
「そうか。その応え、トーマス・アルバ・エジソンとしての私は尊重したい。――――しかし、大統王としての我々はお前たちをここで断罪せねばならん」
「思ったより短気だな」
機械化歩兵を呼び出し、攻撃準備をさせているエジソン。その数はかなり増えており、ぱっと見総数は数えきれないほどにまで膨れ上がっている。そんな状況の中俺はエレナに視線を投げかけた。
「(で、こうなったわけだけど?)」
「(やっぱりこうなったわね……悪いんだけど、一度捕まってくれないかしら?逃げられるようにはしっかりと手配するし、この特異点の情報を補足してあげるから)」
「(…………)」
「(信用ならない?なら、マハトマに誓ってあげる)」
「(マハトマってなんだよ………けど、その話には乗った。虎穴に入らずんば虎子を得ず、だ)」
以上のことを一瞬のアイコンタクトで済ませた俺は、マシュ達に念話を使ってそれを知らせると適当に機械化歩兵を蹴散らし、大人しく彼らに捕まることにするのだった。
――――一方そのころ。
「下がってろ、メイヴ。お前が居たら、邪魔で仕方がねえ」
「………はぁ、これはあれか。あやつや仁慈を無茶させたツケが回って来たとでも言うつもりか……」
ここに血のように赤黒い魔槍を持ちし者が対峙していた。一人は言わずと知れたクー・フーリンとキチガイ仁慈の師匠であるスカサハ。
そして、もう一人は……
「じゃ、殺り合うか」
「啓示、かの。……あまり無理をさせ過ぎるとグレるという」
今仁慈達と共に行動しているクー・フーリン。それと全く同じ顔をしつつも、彼とは似ても似つかない禍々しい気配を持ち、獣然としたクー・フーリンだった。
こうして仁慈達が捕まっている傍らで、ある意味でクライマックスというに相応しい戦いが始まろうとしていた。