ロキ・ファミリアに入ってダンジョンに潜るのは間違っているだろうか 作:戦犯
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「エイナさーーーん!」
ある日の朝、いつものように受付業をしていたエイナは、自分を呼ぶ声にそちらを向くと、四日前に担当になった少年、ベル・クラネルを見つける。
「ベル君?」
入口から全速力で走ってきてゼエゼエと肩で息をしているベルに初めは若干困惑していたがすぐ気を取り直して話しかける。
「どうしたの?」
「僕、【ファミリア】に所属できました!」
まだ息も整っていないのにそう言うベルにどこか微笑ましいものを感じながらもおめでとう、と祝福の言葉を告げる。
「それで、どこの【ファミリア】に所属したの?」
「はい、【ロキ・ファミリア】です!」
「・・・えっと、ベル君?もう一回言ってくれるかな?」
「?【ロキ・ファミリア】です!」
エイナは自分の耳を疑った。そしてもしかするとベルが嘘をついているのではないかという結論にたどり着く。
(でも・・・ベル君に限ってそんなことするなんて到底思えないし・・・うーん)
と、頭を悩ませていたからだろうか、入口の方が騒がしくなって、人だかりができているのにエイナは気づけなかった。
「全く・・・そんなに焦っても何も変わらないだろう・・・。久しいな、エイナよ」
「リ、リヴェリア様!?」
人ゴミの中から出てきたのは今まさに話題となっている【ロキ・ファミリア】の副団長であり、エルフならば誰もが知っているリヴェリア・リヨス・アールヴだった。
「いきなり押しかけて済まないな、と言っても大した用事がある訳では無い。今日はただのベルの付き添いだ」
「付き添い・・・?」
よくよく見ると、リヴェリアだけでなくアイズまでいることに気がついたエイナは、ようやく状況を理解したのか、ベル、アイズ、リヴェリアの顔を順に見た後に
「・・・えええええええ!?」
と、声を荒げるのであった。
「えっと、じゃあここに必要事項を書いてくれるかな?」
「はい、わかりました!」
そう言って書き始めるベルを横目にエイナは少し離れたところで先程の非礼を詫びるべくリヴェリアへと向き直る。
「その、いきなり大声を上げたりして申し訳ありません」
「いきなり押しかけたこちらにも非はある、気にするな」
「でも・・・驚きました、【ロキ・ファミリア】は今は団員を募集していなかったのでは?」
「
【ロキ・ファミリア】の副団長でありオラリオ屈指の実力者であるリヴェリアがそう言ってるのを聞いて驚いたような、少し寂しそうな顔を浮かべたエイナだったが真面目な顔になったかと思うと
「その・・・私が言うことではないのかもしれないのですが、ベル君の事、どうかよろしくお願いします」
と、そんなエイナの様子に苦笑を浮かべながらリヴェリアは、
「お前の心配性も相変わらずだな・・・家族になったからにはしっかりと面倒を見ていくつもりさ、安心しろ」
「エイナさん、書けました!」
「書けたみたいですね。では・・・失礼します、リヴェリア様」
「ああ、母親によろしくと伝えておいてくれ。また今度食事でも、とも言っておいてくれるか?」
「わかりました、しっかりと伝えておきます」
「エーイーナーさーん!」
「はーい!今行くー!」
こうして、ベル・クラネルは【ロキ・ファミリア】所属、Lv.1冒険者となったのであった・・・
「・・・そういえばベルは戦い方、知ってる?」
ギルドからの帰り道、アイズがそうベルに言う。
もちろん今まで田舎で育ち農業ばかりしてきたベルに戦闘経験など皆無であり、何らかの武術の心得があるわけでも無かった。
「いえ・・・全く知りません・・・」と、気落ちするように言うベル。
(こんな有様で『英雄』だなんて・・・ダメだな、僕は)
そんなベルにアイズは提案する
「じゃあ、私が教えてあげようか?」とーーー
場所は移り、黄昏の館の中庭。
昼下がりにさしかかろうとするくらいの時刻に、ベルとアイズの姿があった。
「ベルの武器は、ナイフでよかった?」
「は、はい!」
「・・・体術とかは使うの?」
「い、いえ・・・その、ナイフの方も全くの初心者で・・・」
その言葉にしばし考えるそぶりを見せるアイズ。やっぱり自分なんかじゃ、とベルが思ったところでアイズが再び口を開く。
「じゃあ、闘おう」
「えっ?」
突拍子もない言葉にベルが腑抜けた声を上げるがそれに構わず自らの腰に刺さった剣を引き抜くアイズ。それを見たベルが慌ててナイフを引き抜き、バックステップで距離を取る。アイズはその引き抜いた剣を壁に立てかけ、鞘を構えながら言う
「それでいいよ」
「・・・?」
「ベルが今感じたみたいに、これから闘う中でいろいろなことを感じて。そうすれば闘い方は嫌でも身につくから。・・・じゃあ、行くよ」
その言葉が開始の合図であったかのように、その構えた鞘を上段から振り抜くアイズ。慌ててナイフで防ごうとするベルだが、
(まともに受けたらさっきみたいに吹き飛ばされる・・・だったら!)
身体を右へずらしアイズの振り下ろしを避けることに成功する。よし!と内心でガッツポーズをとりながら反撃に移ろうとするが、次の瞬間には右側から迫る蹴りによって吹き飛ばされていた。
「あっ」
遠のく意識の中でベルは、アイズの焦ったような声を聞いた気がした。
「うっ・・・」
「・・・ごめんね」
「アイズ・・・さん?」
上からかかった声にベルが目を開けると、目の前にアイズの顔があった。
「うわああああ!?すいません!僕、気絶して・・・」
「私こそ・・・少し力を入れすぎたかも」
「いやいや!アイズさんは悪くなくて!悪いのは避けきれなかった僕で!あの、その」
そんなベルの様子がおかしかったのか少し笑みを浮かべたアイズだったが、すぐに真面目な顔になってベルに告げる。
「ベルには、戦闘のセンスがあると思う」
「えっ?」
そう言われて先程の戦闘のことを思い返すベル。
空振りして、蹴られて、気絶した。散々たる結果である。想い人にボコボコにされていることに軽く鬱になっているベルだったがアイズは続ける。
「二回目の振り下ろし。私は普通に当てるつもりで振ったけどベルの姿がぶれて当てれなかった。それはすごい事だと思う」
実際、二人のレベル差では打ち合うことはおろか、剣閃を見ることさえかなわないと言っても過言ではないだろう。無論アイズとて本気で振るったわけでは無かった。それでも力を抑えることがはっきり言って下手くそなアイズの斬撃はLV.4冒険者並の力で振るわれていた。続けようか、と言われ剣を交わしながら話す。
「ベルの回避技術はすごいと思う。でも、今のベルには他の技とか駆け引きとかそういうものが足りない、だから」
レベル差をもろともせず、次々とアイズの斬撃を躱していたベルだったが、回し蹴りを放ったアイズがその勢いのまま鞘を振り下ろすと
「いだっ!」
「・・・こうやってすぐに捉えられる」
振り下ろした鞘はそのままベルの頭に落ちるのだった。
頭を押さえながら唸るベルにアイズはただ一言、これから何度もいうことになる言葉を告げる。
「立てる?」とーーー
その後みっちりと日が暮れるまで特訓を続け、終わる頃にはベルはボロボロになっていた。
ロキの部屋に向かっている途中、一方的にボコボコにされているだけに見えるアイズとの特訓を見ていた団員たちに頑張れ、と応援されたのだが、ベルにとってアイズとの特訓は得られるものが多く、苦とは思っていなかったため、わけがわからないと言った顔をしていた。
ロキの部屋にたどり着き、部屋に入る許可をもらったベルが中に入るとすごいものを見た、と言った感じの目を向けてくるロキだった。
「べ、ベル?それどうしたん?」
「ちょっと鍛錬を・・・あはは・・・」
「ちょっと・・・?ま、まあええわ。昨日そのままリヴェリアのとこ行ってもうたからな、ベルの部屋案内しよ思ってな!」
「あ、ありがとうございます!」
「じゃあ・・・ってその前に、ステイタス更新しとくか?すんごい経験してきたみたいやし・・・」
「えっ、いいんですか?」
「お~う、むしろ言われるんちゃうかと思ってたで!」
「えっと、じゃあ・・・お願いします!」
ーーー「んで、それ誰にやられたんや?」
ベルの背に跨りながらロキはベルに問いかける。
流石にないとは思っているがほか【ファミリア】と問題を起こしていたとなると無視出来なくなってしまうからだった。
「えっと・・・アイズさんに中庭で稽古つけてもらってました!」
「アイズた~ん・・・」
もうちょい手加減くらいしたってえな、と内心で思いながらステイタス更新を終えたロキの動きがピタリと止まる。
そこに記されていたのはまたしても予想の上を行くものであったーーー
ベル・クラネル
LV.1
力:I0 →E489
耐久:I0 →D532
器用:I0 →D511
敏捷:I0 →C689
魔力:B786 →A814
《魔法》
【ホーリー】
・付与魔法
・詠唱式【輝け】
《スキル》
【
・早熟する
・懸想が続く限り効果持続
・懸想の丈により効果向上
【
・戦闘中、魔力のアビリティ上昇
・ーーーーーーーー
・ーーーーーーーー
・ーーーーーーーー
「ぶっ!?」
「うわっ!か、神様?」
「す、すまんすまん・・・え~、えっと、ベル?アイズたんとどんな鍛錬してたんや?」
「えっと、普通に相手をしてもらっただけですけど・・・」
嘘は言っていないベルに驚愕しながらもこの結果について考えを巡らす。
(トータル上昇値2200オーバー・・・!?そんだけでこんなに上がるか・・・?いや、これがリアリス・フレーゼの効果か・・・とんでもないな)
もちろんスキルの効果で補正がかかっていることに間違いはないのだが、ベルが普通と言い切った鍛錬の中で何度も吹っ飛ばされ、ゆうに十を超える回数気絶をしていたということをロキはまだ知らなかった。
「ベル、良かったな!今ベルは成長期みたいなんや。普通はこんなに伸びへんねんで?」
苦しいか、とおもいながらとっさに出た嘘だったがそんな嘘にもベルは目を輝かせて
「へえ・・・!じゃあ今のうちに頑張っておきます!あ、明日ダンジョンに行ってきます!」
「お~了解や!指導係は・・・アイズたんか?」
「はい!・・・あ、神様。ダンジョンの中なら魔法使ってもいいですか?」
「そうやな・・・どんな魔法かもはっきりさせとかなあかんし、どんなもんか試してき!アイズたんと一緒なら学べることも多いと思うしな」
「ありがとうございます!」
「よし、じゃあベルの部屋やねんけどな・・・っと、ここや、憶えたか?」
館内の地図を見せながらそう言うロキに少し不安を感じさせる態度で頷くベル。そんなベルに苦笑しながらもロキは
「まあ、わからんかったら誰かに聞いたらええわ。まだ聞いときたいこととかあるか?」
「いえ、大丈夫です!ありがとうございました、神様!」
「明日は気をつけるんやで~!」
「は~い!」
そう言って駆け出すベルの背中が見えなくなったところでロキはハッと何かに気付き、手元の羊毛紙に目を落とす。
「・・・なんで魔法使ってないのに魔力上がっとるんや?」
そんなロキの問いに答える者は誰もいなかったーーー
ーーーーーーーーー
翌日、バベルの前にベルとアイズは来ていた。しかし、これまでのような服装ではなくベルは【ファミリア】の倉庫から自由に使っていいと言われた装備の中から軽めのレザーアーマーと一振りのショートソード。そしてアイシャから貰ったナイフという装備で。対してアイズはベルと同じく軽装の戦闘服に加えて腰から下げるのは彼女の愛剣である«デスペレート»。オラリオでも珍しい
「近くで見ると大きいですね・・・」
ベルが目の前にそびえ立つ白亜の塔を見上げながらそう言葉を漏らす。
「うん、私もはじめて見た時はすごく驚いたよ」
周りを流れる冒険者の中を二人が歩いていると、周りの視線が自分たちに向けられていることに気付く。よく耳をすませばチラホラと聞こえてくるのは
「おい、【剣姫】が男と歩いてるぜ」「出来てるのか?」「ないだろ、あんなひょろっちい野郎。俺様の方がはるかにかっこいいぜ!」「じゃあアタックしてこいよ」「まだ死にたくねえ」
(アイズさんって、有名なんだな・・・それに比べて・・・)
ギリッ、とベルが歯噛みしていると、いきなり悪寒が体中を駆け巡る。
「ッ!?」
誰かに見られているような、そんな感覚。急に周りを見回し始めたベルを不審に思ったのかアイズが「どうしたの?」と声をかけてくるが、その頃にはその不快な視線も消え去っていた。
(気のせい・・・だったのかな?)
そう結論づけたベルはアイズに何でもないです、と伝えてダンジョンへと足を進めるのだった。
ーーー第一階層 『始まりの道』
ゴブリン、コボルトなどの弱いモンスターしか生み出されない最上層とも呼ばれる階層に二人の姿はあった。
「じゃあ、まずあれと闘ってみようか」
そう言ってアイズが指で指した先にいたのは群れからはぐれたのか一匹だけでいるゴブリンだった。
こちらを視認したからか鳴き声を上げながら突撃してくるが対するベルは冷静だった。
(アイズさんに比べたらこんなの・・・!)
軽く身を躱し返す一撃でゴブリンを屠る。グエェッ!?と不快な断末魔を上げながら灰になるゴブリンを尻目に、ベルは自身の変化に驚いていた。
(体が・・・軽い?さっきのゴブリンの動きもちゃんと見えてた。これが、『恩恵』・・・)
そんなことを考えているとアイズから声がかかる。
「おめでとう、どうだった?」
「あ、はい!思ってたよりもうまくいきました!アイズさんのおかげです、ありがとうございます!」
「・・・役に立てたなら良かった。・・・前、また来たよ」
そんなアイズの言葉のとおり、前に再び現れたのは五匹のゴブリンだった。次は気づかれる前に、と自ら群れの中に突撃するベル。そのおかげか、二匹のゴブリンを早々に仕留めることに成功する。
「ギャッ!?」
仲間の死に苛立ったような声を上げながら囲んで攻撃を仕掛ける残りの三匹にベルは少し対処できなかったのかナイフで受け止める。
交互に繰り出される攻撃をナイフで流したり回避したりしながらも確実に反撃を加え、残りの三匹を倒すのにそう時間はかからなかった。
「余裕だね」
「は、はい!まだなんとか・・・」
「・・・じゃあ魔法、使ってみる?」
「・・・!はい!」
「あんまり魔力を使いすぎるとすぐに倒れちゃうから気を付けてね」
「わかりました!じゃ、じゃあ・・・【
そして、ベルの初めての魔法が発動する。
「【ホーリー】」
瞬間、ベルの体に光が宿る。
(・・・暖かい。それに・・・懐かしい?)
そんなベルの光を見たアイズはそんな感想を抱く。
「あ・・・」
目の前に再びモンスターが現れる。ゴブリンとコボルトが入り混じった群れ。その数はおよそ二十。気づいたアイズはその数に驚きながらもこれは少し厳しいと判断したのか
「・・・少し多いかも、私が倒してくるね」
と、ベルに告げる。しかし
「大丈夫です」
「え・・・?」
何が、と言うよりも早く目の前を光が通り過ぎる。
それは、英雄になりたいと願った少年に与えられた初めての『力』
皆を護りたいと願い、その願いを聞き入れた精霊との『絆』
通り過ぎたその光の先、モンスターの群れの方向に向けたアイズの目に写ったのは
斬撃の軌道に残る仄かな残光、灰になっていくモンスター。
そしてその中央でナイフを振り抜いた体勢で立っているベルの姿だったーーー