ロキ・ファミリアに入ってダンジョンに潜るのは間違っているだろうか 作:戦犯
ロキは今悩んでいた。
原因となっているのは先程自らの眷属になった少年、ベル・クラネルのことだった。
(光加護は光精霊の加護のことやんな・・・やけど)
目線を下げ、もう一度自分が跨っている背中を見る。
ベル・クラネル
LV.1
力:I0 耐久:I0 器用:I0 敏捷:I0 魔力:B786
《魔法》
【ホーリー】
・付与魔法
・詠唱式【
《スキル》
【
・早熟する
・懸想が続く限り効果持続
・懸想の丈により効果向上
【
・戦闘中、魔力のアビリティ上昇
・ーーーーーーーー
・ーーーーーーーー
・ーーーーーーーー
(明らかに文字が隠れとる・・・未発達のスキル?そんなん聞いたことないで)
説明欄に線が引かれ、読めなくなっているスキルを見て、ロキは頭を悩ませる。そしてチラリ、とベルの首にかかっているロザリオに目を向ける。
(原因はやっぱアレか・・・ベルの爺さんも厄介なもん残しよって。・・・それもそうやけど)
ロキはその上、一つ目のスキル欄を見る。
(リアリス・フレーゼ、間違いなくレアスキルや)
想いが強いほど成長する。
ロキが下界に降りてきてからしばらく経つが、こんなスキルは見たことも聞いたこともなかった。未知のスキルに心躍ると同時に、底知れぬ不安を抱いていた。
(こんなレアスキル持ってるなんて知られたらほかの神にちょっかいかけられるんは目に見えとる・・・ベルは間違いなく嘘つくん下手そうやし・・・神ならともかく、ほかの【ファミリア】の子にも隠せなさそうやな・・・このスキルはまだ伝えんようにしよか)
と、【ステイタス】を紙へ写す時に、スキル欄からそれを消したものを伝えることにする。
(まあ、それなくても魔力とかだいぶおかしいことなってんねんけどな・・・不安や・・・)
天界では神と神をぶつけて戦争を引き起こすなど悪名高いロキであったが、 下界に降り、自分の【ファミリア】を持つうちに、眷属を心から愛する慈愛に満ちた神になっていたのである。
「・・ベル、初めに言っとくけどベルの【ステイタス】はちょっと、いや、だいぶおかしい。もしかしたら精霊って単語に聞き覚えあるんちゃうか?」
前半の言葉に不安そうな表情を浮かべたベルだったが、精霊という単語で昨日の事を思い出す。
何もない場所で出会った銀髪の少女。意識が途切れる直前、自らを精霊と名乗ったシェリアという少女の事を。
「その様子やとやっぱりあるみたいやな。今、そいつから何らかの加護を受けてて、その影響でスキルが発現しとるみたいなんや。わかってるとは思うけど、珍しいことやから人にはバラさんようにしいな!アイズたんも、わかったな?」
「わ、わかりました!」
「わかった」
忠告された後にロキから紙を受け取ったベルは目を見開く。
「・・・魔法」
「ん?どうしてん?」
「僕にも魔法が使えるようになったんですか!?」
目をキラキラさせながらロキに詰め寄るベル。その剣幕に若干気圧されつつもロキは答える。
「お、おう。書き間違えとかちゃうから安心せい。なんや、そんなに嬉しいか?」
「はい!とっても!」
間髪入れずにそう言うベルに素直やなあと苦笑を漏らしたロキだった。
「・・・どんな魔法なの?」
「えっと・・・付与魔法って書いてあります。・・・?神様、この説明の所にある【輝・・ムグッ!?」
「ベル、それは魔法の詠唱式や。今ウチが止めへんかったら今ここで魔法が発動してたかもしれへんねんで?」
ロキのその言葉にベルは顔を真っ青にしていた。
「いいか、ベル。ウチもまさか始めっから魔法発現してるなんて思ってなかったからなんの説明もしてなかったけど魔法の扱いには気をつけなあかん。魔法ってのは力や、どんなんかによるけど人だって簡単に殺せてまう。それだけはしっかり覚えとくようにしてな?」
「わ、わかりました!」
「んで、付与魔法ってことはアイズたんと同じ魔法か?」
「えっ、アイズさんも同じ魔法なんですか?」
「うん、私の魔法は風の付与魔法だよ」
(アイズさんと同じ魔法か・・・早く使ってみたいな・・・!)
と、ウキウキしているベルにロキは告げる。
「あ、少なくとも今日は使ったらあかんで?」
「えっ・・・どうしてですか?」
「さっきも言ったけど、魔法ってのは力や。それもとびきり強大な。そんな力にデメリットがない訳ないやろ?
「い、今から行ってきてもいいですか?」
「ダメや、先に団員への挨拶!はあ・・・興奮するんはわかるけどもうちょい落ち着きいな」
早く魔法が使いたいという一心で話をしていたベルは己の礼儀をわきまえない行動に気づき、申し訳なさそうな顔をしていた。
「その、すいませんでした・・・」
「そんなに急がんでも魔法は逃げへんわ。せや、ギルドにも言いに行かなあかんな・・・アイズたん、ベルにここの案内も兼ねて・・ってダンジョン行きたいよな、ほかの人に頼むか」
「やります」
「・・・へっ?」
「私がベルを案内します」
「い、いやでもアイズたん、ここ結構広いし今いるみんなに挨拶しようと思ったら一日はかかると思うで?」
「大丈夫、やらせて下さい」
そんなアイズの言葉を聞いて一瞬驚いたような顔を浮かべたロキであったが、「じゃあ、よろしく頼むわ」と、確かな
ーーーそうしてベルが団員全員に挨拶をし終えた頃にはロキの言う通り、すっかり日も暮れてしまっていた。
「もう遅いからギルドに行くのは明日だね」
「はい!あ、あの。わざわざ付き合ってくれてありがとうございました、アイズさん!」
「ううん、またわからないことがあったら聞いてね」
「はい!じゃあ、僕神様の所に行ってきます!」
「わかった。またね、ベル」
アイズと別れたベルはロキの部屋へと向かう。挨拶が終わった後に来るようにと朝言われたためである。そしてロキの部屋の前に立ち、扉を数回ノックする。
「神様、ベル・クラネルです」
「おー!丁度良かった、はいってきー!」
と、中から声がしたのでそれに従って入ってみるとそこにはリヴェリアの姿があった。
「終わったか?」
「はい!でも今日は遅いのでギルドには明日行くことにします」
「そうか!ならそん時職員にこれ見せるようにし~」
そう行って渡されたのはロキのシンボルである道化師のエンブレムが入った金色のメダルであった。
なんだろう、と思いながらも受け取るとリヴェリアが口を開く。
「そうだ、確かベルの担当はエイナだったか?」
「はい!」
「そうか・・・なら明日、私も一緒に行くことにしよう。その方が都合もいいだろうしな」
「おお!助かるわ~、ありがとうな!」
「なに、少し話をしたいと思っていたところだ、問題ない」
「ってことでベル、明日ギルド行く時リヴェリアのとこ寄っていってな~!」
トントン拍子に話を進めていく二人に取り残されたベルはの頭の中に浮かんだのは疑問ばかりであった。
「えっと・・・どうしてですか?」
「なんだ、私と一緒では嫌か?」
「いやいや!そんなことないです!ただ、お忙しいのにどうしてかと思って・・・」
「フフ、冗談だ。何故か、と言われるとベルのような新人が自らを【ロキ・ファミリア】だと偽って冒険者登録する輩が増えているからだ」
「やから新しく入って来た子にはメダル渡すようにしてんねんけど、リヴェリアおるならその心配もなさそうやな!」
その話を聞いてベルはなるほど、と納得する。
「リヴェリアさん、ありがとうございます!」
「気にするな。とは言っても、私と二人きりではベルも心苦しいだろう、アイズでも誘うとするか」
ボンッとベルの顔が赤く染まる。そして少しニヤニヤしているベルを見て
(リアリス・フレーゼの憧憬はアイズか?わかり易い奴やな・・・)
と、それ以上にニヤニヤしたロキがいた事に気づく者はいなかった。
「では明日の朝、用意ができたら私の部屋へ来てくれ。部屋の場所はわかるか?」
「その前にベル、なんか言いたいことあったんちゃうか?」
「あっ、はい!リヴェリアさん、僕に魔法のことを教えてもらえませんか?」
「魔法?ダンジョンのことではなくか?」
「ここだけの話やけどな、ベルはもう魔法が発現しとるんや」
その事実にさすがのリヴェリアも目を見開く
「何も知らん状態で使わせるんはまずい思てなー、みっちり教えたって欲しいんや!」
「なるほど・・・承知した。では夕食の後、食堂に残っておいてくれるか?」
「食堂・・・ですか?」
「ウチでは館の中にいる奴はできるだけ同じ時間帯に集まって食べるようにしとるんや。もうそろそろやし、行こか!」
「ベル、私の指導は厳しいぞ?覚悟しておけ」
と、誰もが見惚れるような美しい微笑みを浮かべながらそう言うリヴェリアにベルは
「はい!お願いします!」
と、顔を輝かせて言うのであった。
「さて、まず魔法とは大きく二つに分類することが出来る」
夕食を終え、部屋へ着くとリヴェリアはそう口を開く。
「一つは先天性、もう一つは後天性だ。前者は元から持っている素質であるのに対して後者は魔道書などの魔法具によるものだ」
「へー・・・」
「ベルのものは少し珍しい形だが・・・おそらくは後天的なものの部類に入るだろう。魔法が発現しやすいのはエルフだが、ヒューマンであれば誰しも一つは魔法が使えるようになる。さて、ここまでが基本的な魔法についての説明だが、何が質問はあるか?」
「あの、その魔道書?とかを使えば何個でも魔法を使えるようになるんですか?」
「いや、魔法が発現するのは多くても一人三つまでだ。だが・・・そうだな、レフィーヤは知っているか?」
「あ、はい!なんでかすごく睨まれましたけど・・・」
睨まれた理由が憧れの人が見知らぬ男と歩いていたから、というアイズ大好きっ子エルフの嫉妬によるものだったのだがベルにそれを知る由はなかったが、リヴェリアはなんとなく察したのか眉間をつまみながら「悪い子ではないんだがな・・・」と声を漏らしていた。
「まあそのレフィーヤだが【エルフ・リング】という少々特殊な魔法を使う。エルフの魔法であれば仕組みを理解すれば何でも使えるといった強力なものだ。そういった場合に限っては三つ以上の魔法を使うことが出来る。レフィーヤの魔法については他【ファミリア】には言ってはならんぞ?」
「なるほど・・・ありがとうございます!」
「なに、知識を求めるのはいいことだ。では次に、魔法のデメリットについてだ。危険性、と言い換えてもいい」
「精神疲弊・・・ですか?」
「うむ、これは何も知らない冒険者が陥りやすいものなのだが、魔法とて無限に使える訳では無い。普通、魔法とは己の精神力を消費して発動するものなのだが、それが空になることを精神疲弊と言う。激しい眩暈や疲労感に襲われ、この状態になったら全く動けないと考えてもいい。それ故に、一人でダンジョンに潜ってこの状態に陥ればほぼ確実に死ぬ」
そういったリヴェリアの目はどこか遠い所を見ているかのようだった。
「まあ、魔法特化の魔術師でもない限りは魔法無しで戦えるようにしておいた方がいいだろう。つまり、体を鍛えろということだな。さて、魔法に関することはこんなところだが、ダンジョンについても学んでいくか?」
「え、いいんですか?」
そう言ったベルが壁にかかった時計を見てみると、既に十一時を回っていた。流石にこんな時間からは悪いのではない心配していると
「なに、知識は将来的に自分の力となる。それを求めるというならいくらでも手を貸そう」
「じゃ、じゃあ・・・お願いします!」
「うむ、ではまず1階層についてだが・・・」
「あちゃ~・・・始まってもうたか・・・」
丁度その時リヴェリアの部屋の前を通ったロキはそう声を漏らす。
「流石にリヴェリアでも手加減くらい・・・いや、ないか。頑張るんや、ベル。無力なウチを許してくれ・・・」
そんなロキの言葉の通り、翌日の朝早く、リヴェリアの部屋からふらふらと出てくるベルが見られたのだった。