ロキ・ファミリアに入ってダンジョンに潜るのは間違っているだろうか 作:戦犯
アイズ・ヴァレンシュタインはその日、 いつものようにダンジョンに行く前に鍛錬をしようと城壁の上へと来ていた。ベルとは違って階段を登り、上がりきった時にいつもは誰もいないはずの場所に一人、白髪の少年が倒れているのを見つける。
「・・・大丈夫ですか?」
その言葉に反応はなかったが、息はしっかりしているので寝ているだけと分かったアイズはどうしようかと悩む。
(・・・確か、リヴェリアがこうするといいって言ってたっけ)
と、彼女の所属している【ファミリア】の副団長であるリヴェリア・リヨス・アールヴに言われたように自分の膝を寝ている少年の頭の下に入れる。俗に言う、膝枕であった。
普段のアイズであったならばいくらリヴェリアにやれと言われてもしないと断言できるアイズだったが、不思議と抵抗はなかった。初めてあったはずの少年に、なにか暖かいものを感じているのだった。
(・・・少しくらいなら、撫でてもいいかな?)
そう思ったアイズは自分の膝の上にいる少年の白い髪を撫でる。
そこには、第一級冒険者であり、圧倒的な剣技で敵を屠る【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインの姿はなく、どこか幸せそうに、少し赤く染まった顔で少年の頭をなでている少女の姿があった。と、そこに
「アイズた~ん、ダンジョン行く前にちょいと『ステイタス』を・・・ってなにしてんのやアイズたあああああん!」
短い赤い髪を後ろで束ね、薄く開かれた目。全くないと言ってもいい
・・・しかし、その見た目も彼女のおっさん臭い言動で台無しになっていた。
「・・・リヴェリアがこうするといいって前言ってたから」
「あんの
「嫌です」
・・・そう、ロキはいつもセクハラ紛いのことをしてはアイズに吹っ飛ばされていたのだ。
「ん・・・?」
そうやって騒いでいたからだろうか、少年がうっすらと目を開ける。
綺麗な深紅の瞳だった。
(・・・なんだか、兎みたい)
「お母さん・・・?」
その声に、ロキも起きたと気づいたのか視線を少年へ向ける。
「あ、起きた」
「・・・ごめんね、私は君のお母さんじゃないよ」
「へっ・・・?」
「・・・?」
アイズは膝元で撫でられ続けている少年を見る。するとその顔が赤く染まったかと思うと、
「う、うわああああああああ!?」と、声を上げて膝から飛び上がるのだった。
ベルは混乱していた。起きたら少女の膝の上で頭を撫でられていたのだ。
ーーー綺麗だった。その金色の瞳を見た瞬間、顔が熱くなって胸が高鳴る。自分が目の前の少女に一目惚れしたと気づくまでそう時間はかからなかった。
(まだダンジョンじゃないけど・・・出会いを求めるのは間違ってなかったよ、おじいちゃん!)
とりあえず、現状を把握するために話しかけようとするが、上手く言葉が紡げない。
「えっと・・・あの・・・」
「・・・私がここに来たら、君がここに倒れてたんだよ」
「え・・・?」
そう言われて周りを見る。そして自分が宿ではなく、城壁の上にいることに気づく。
(そっか、昨日鍛錬しててそのまま・・・)
「その、すいませんでした・・・えっと・・・」
「・・・私はアイズ、アイズ・ヴァレンシュタイン」
「す、すいませんでした!ヴァレンシュタインさん」
「・・・アイズ」
「え?」
ベルの言葉に少しむっとした顔でアイズは言う。
「・・・アイズって呼んで欲しいな」
(か、かわいい・・・!)
既にベルの心臓は限界に近かった。
「は、はい!アイズ・・・さん」と、顔を真っ赤にしているとアイズではなく、その隣にいた朱色の髪をした女性に話しかけられる。
「なあ、自分ここで何しとったん?」
「え!あ、その、強くなりたいので鍛錬を・・・」
「ふ~ん・・・そんで疲れてぶっ倒れてアイズたんの膝の上で爆睡っちゅーわけか!」
かっかっか、と笑いながら女性が言ったその言葉に先ほどのふとももの感触を思い出し、顔を赤くするベルだったが慌てて立ち上がり頭を下げる。
「その、本当にすいませんでした!」
「・・・気にしないで、私がしたかっただけだから」
その言葉にまた顔を赤くしていると、女性から声がかかる。
「しっかし綺麗なロザリオやな~、ちょっと見せてくれへんか?」
「あ、はい!どうぞ・・・」
そう言われ、首からかかったロザリオを渡す。
「誰かからもらったんか?」
「祖父の・・・形見なんです」
「・・・そうか、悪いこと聞いたな。スマン」
そう言った言った女性は頭の後ろをかきながらバツの悪そうな顔をしていた。大丈夫です、と返されるロザリオを受け取ると、
「鍛錬してたってことは冒険者なんやろ?どこの【ファミリア】や?」
「うぐっ・・・それがオラリオに三日前に来たんですけどどこの【ファミリア】にも入れてもらえなくて・・・」
「まだどこにも所属してないと?」
「・・・はい、今日も回るつもりだったんです、あはは・・・」
「ふ~ん・・・」と、何が考えるような素振りを見せた後にこう言い放す。
「じゃあ、ウチの【ファミリア】来るか?」
一瞬言葉の意味を理解出来なかったベルであったがすぐに
「・・・!?神様だったんですか!?」
「気づいてなかったんかいな・・・せやで、ウチは神や!ほんで、どうする?」
三日間探していた【ファミリア】に入れるのだ、驚きながらも嬉々として返事をする。
「ぜ、ぜひおねがいします!」
「よっしゃ!ほんならとりあえずうちらのホーム行こか!アイズたんも一回帰ることになるけどええな?」
「・・・わかった」
そしてベルは朱髪の女神とアイズに連れられ、これから自分の入る【ファミリア】のホームへと向かう。その道中、ふと気になったことを尋ねる。
「そういえば、神様のお名前ってなんて言うんですか?」
その言葉に先程よりも呆れたような表情をして、
「それもわかってなかったんかい・・・。結構有名やと自負しててんけどなあ・・・ウチの名前はロキ!やから自分が入ることになるのは【ロキ・ファミリア】っちゅーわけや。そういや自分こそなんて名前なんや?・・・おーい?聞いとるかー?」
ベルは固まっていた。
(・・・【ロキ・ファミリア】?)
ベルが三日、いや四日前にエイナから受けた【ファミリア】についての説明。その中で二つの【ファミリア】が現在のオラリオの二強と言われている、と聞かされていた。
一つが美の女神フレイヤ率いる【フレイヤ・ファミリア】。そしてもうひとつこそが【ロキ・ファミリア】だったのである。
「あ、あの、【ロキ・ファミリア】って、あの【ロキ・ファミリア】ですか? 」
「・・・?何が言いたいんかわからんけどオラリオにロキはウチしかおらんで?」
「・・・ええええええええええ!?」
高い城壁の上、朝早くに兎の叫び声が木霊した。
「さて、ようこそ!ウチらのホーム!」
落ち着いた後、軽い自己紹介を遅まきながら済ませ、最北端にあるメインストリートをしばらく歩いて見えてきたのは、【ロキ・ファミリア】のホームである黄昏の館だった。
「ここが、黄昏の館・・・」
メインストリートからひとつひとつ外れた街路の脇、佇むようにそびえ立つ大きな館にベルは圧倒されていた。
「じゃあ、とりあえず入団試験でも受けてもらおか!」
「・・・えっ!?」
その言葉にベルは焦った。オラリオ最強の【ファミリア】の試験だ、きっと厳しいのだろう。これまでの三日間、断られ続けた記憶が蘇る。
「って言っても、面接みたいなもんやから安心せい、ほな行こかー!アイズたん、フィンとリヴェリア呼んできてくれへんか?」
「・・・わかりました」
ここに来るまでほとんど話していなかったアイズは館の奥へと姿を消した。
そして連れてこられたのは館の中央あたりにある、広い中庭であった。そこでベルとロキがしばらく待っていると、アイズを含めた三人がこちらへ向かってきているのを見つける。そしてベルの真正面に来ると足を止めた。
「君がロキが連れてきた新人かな?」
「は、はい!ベル・クラネルといいます!」
そう話しかけてきたのは小人族の男性だった。少年のような見た目でありながら実は四十をも超えていると言われている。
「僕はフィン・ディムナ。この【ロキ・ファミリア】の団長を務めている。世間では【
そう言ったフィンは自身の隣にいる女性に目を流す。その女性の姿を見たベルは息を呑む。
百人いれば全員が綺麗というであろう美しい顔立ち。翡翠の髪にハーフエルフであるエイナよりも長く尖った耳。それは彼女がエルフの王族、ハイエルフであることを示していた。
「私はリヴェリア・リヨス・アールヴ。この【ロキ・ファミリア】の副団長で二つ名は【
【勇者】に【九魔姫】。もちろんベルも知っていた。オラリオを代表する第一級冒険者。数少ないレベル6。そんな二人を前にしてベルが緊張でガチガチになっていると
「まあ、この三人が試験官っちゅーわけや。ほんまはガレスも呼びたかってんけどあいつ朝から酒飲んどったな・・・。じゃあはじめよか!」
「さて、じゃあひとつ質問をしよう。」
と、フィンが口を開いた。
「【ファミリア】に属する以上、僕らはみんな家族だ、互いに競い合い、助け合い共に成長していく仲間となるだろう。そこまでは大丈夫かな?」
「はい」
「ならその仲間が死にそうな時、命をかけて守りに行けると誓えるかい?自分の命と仲間の命。それを同等のものとして扱い、自分の命を仲間に託し、仲間の命を自分が背負う。そんな覚悟が君にはあるかな?」
それは、重い質問だった。誰しも、自分の命が一番大事である。その命を背負い、託すとなれば普通は少しでもためらうものである。だが、その問いにベルは
「はい、あります」
と、何の迷いもなしに答えたのだった。
流石に即答されるとは思っていなかったのか、フィンはロキへと視線を向ける。ロキはただ頷くだけだったが それはつまり、ベルの言葉が嘘偽りのない本心であることを示していた。
「・・・なぜ、そんなに迷いがないのか聞かせてもらえるかい?」
「えっと・・・夢、だからです」
「夢?」
「はい。僕の夢は、『英雄』になることなんです」
「ぷっ・・・」
ロキが堪えきれないといったように笑いを漏らしていた。おかしなことではない、それが普通の反応なのだ。シェリアの反応が特殊だったに過ぎない。わかっていても、自分の夢を笑われると顔が下を向く。
「気にしないで、続けて」
はっ、と前を見る。そこには先ほどと変わらず真面目な顔をこちらに向けるフィンの姿があった。
「えっ・・と、英雄になるのもそうなんですけど何よりみんなを護ることができるような、そんな存在になりたいんです。
だからーー仲間も護れないようじゃそんな事言ってられないかなって・・・そう思ったからです」
「・・・なるほどね」
「す、すいません!何も出来ないのにこんなこと・・・」
「いや、いい夢だ、大切にするといい」
いつの間にかロキも笑っていなかった。ベルの深紅の目に宿った決意の光、それを感じたロキはその薄い目を開く。
(この子は本気で英雄を目指そうとしとる。さあどうなるか・・・)
と、考えていると声がかかった。
「ロキ、どうだい?僕達三人としては問題ないと思ってるんだけど」
さも当然、といった様子でにっと笑いながらロキは答える。
「・・・合格!これからベルは【ロキ・ファミリア】の一員や、よろしくな!」
「団長として、僕個人としても君の入団を嬉しく思うよ。【ロキ・ファミリア】へようこそ」
三日間途方暮れながらも探した【ファミリア】、それもオラリオ最強と言われる所に入団を許可されたベルは
「よろしくお願いします!」
と、顔を輝かせながら言うのであった。
ーーこうしてベル・クラネルは【ロキ・ファミリア】の一員となったのである。
「じゃあ、『
『神の恩恵』とは、その名の通り神が下界の子に与える「力」。
『
その【ステイタス】によってその人の身体能力が向上する、といったものである。
上昇させる方法は二つ。一つ目はダンジョンに潜り、【
そしてもう一つは器の昇華。つまりはレベルアップである。
試練を乗り越えることで起こる器の昇華、そのレベルがひとつ上がるだけでも大きな成長になる。
そうして嬉々としてロキが指を刺す針を探していると、フィンとリヴェリアが帰った後も、一人残っていたアイズが口を開く。
「・・・ロキ、私は?」
「おっと、忘れっとったわ。すまんなベル、先にアイズたんの済ましてもええか?」
「はい!大丈夫です!」
「じゃあ、部屋の外で待っといてな~」
「・・・?わかりました」
何故だろうと思いつつもおとなしく部屋の外で待つベル。しばらくすると中から「ええで~」と声がかかる。
失礼します、といいながらも入ったその部屋は、酒瓶が少し転がって入るものの、綺麗にされた部屋だった。
・・・後にこの部屋はリヴェリアによって毎日掃除されていると聞かされることになるのだがそれはまだまだ先の話である。
「じゃあ、次はベルの番やな。アイズたん、もうダンジョン行ってええで~」
「・・・ベルの、見ててもいい?」
「お?そりゃベルがいいならいいけど・・・どうや?」
ベルとて、神の恩恵について何も勉強してなかった訳では無い。他人二見せるのはご法度。だがベルは仲間になら、そしてそれ以上に
「はい、大丈夫です!」
「そうか・・・アイズたん、ぜったい人に言いふらしたらあかんで?」
「・・・わかってる」
「よし!じゃあベル、とりあえず上脱いでくれるか?」
「・・・えっ?」
「神の恩恵は背中に刻むから、上脱がないとできへんのや!」
「わ、わかりました!」
(ううう・・・恥ずかしいよ・・・)
羞恥に顔を赤くしながらも大人しく脱ぐベル。そしてその背中にまたがるロキ。
「か、神様?なんでまたがるんですか?」
「やりやすいからな。言っとくけどどの神もこうやってるで?」
その言葉を聞いて、ロキが女神でよかった、と心の中で安堵するベルであった。
「一応ロック掛けて見られないようにはするけど、無理やりロック外す薬とかあるから気いつけなあかんで!まあ、今回は初めての更新やから全部0やねんけどな!」
と、笑いながら言う。その言葉に、気づいていなかったのかはっ、と息を漏らすアイズであった。
(アイズさんって、天然なんだ・・・)
そして、それをわかっていながらいじるロキの笑いは、このあとすぐに壊されることになる。
「よ~し、これで終い・・・や・・・?」
ベル・クラネル
LV.1
力:I0 耐久:I0 器用:I0 敏捷:I0 魔力:B786
《魔法》
【ホーリー】
・付与魔法
・詠唱式【
《スキル》
【
・早熟する
・懸想が続く限り効果持続
・懸想の丈により効果向上
【
・戦闘中、魔力のアビリティ上昇
・ーーーーーーーー
・ーーーーーーーー
・ーーーーーーーー
これが、ベル・クラネルの初めての【ステイタス】だった。