ロキ・ファミリアに入ってダンジョンに潜るのは間違っているだろうか   作:戦犯

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難産でした


初遠征

時刻は正午、黄昏の館前にて

 

「さて、各々準備はいいね?じゃあ、出発だ」

 

ーー少し前までは、この光景を外で見る側だったなと内心で思う。

周りを見渡せば、まだ参加すること許されていない他の団員たちや、訳あって参加出来ない居残り組の見送りを受ける。

その視線の中に羨望以外の負の感情があったかは別として、そんな状況は少し落ち着かなかった。

 

「どうしたの?」

 

妙にそわそわしているのを見抜かれたのか、()()()立つアイズに心配そうに声をかけられる。

いつもはフィンやリヴェリアなど幹部組と固まっているはずだったが、今日は当然のようにベルの隣に立っている。

僅かではあるが周りの団員から驚いたような視線が飛んできたが、今声をかけられた瞬間から一箇所から殺意のような物が飛んできているのを感じてベルは身体を震わせる。

 

「いえ・・・少し、緊張して」

 

殺気の出どころを探すためきょろきょろと当たりを見回しながらそう返す。勿論、緊張しているという言葉に嘘はないがそれ以上のものを感じた。

そして見つける。リヴェリアの近くの当たりから負のオーラが漂い、怨嗟の声が聞こえてきているのを。

ひぃっ、と情けない声を出してしまったのは仕方の無いことだろう。

そんな様子を見て勘違いしたのか、微笑んで頭を撫でるアイズ。

 

「緊張しなくても大丈夫。初めてでも、皆がいるから」

 

今のは、少し違うんです・・・と、内心で思っている間に出発式は素早く終わり、他の団員に見送られながら出発する。

今回、遠征に参加している団員は百人をゆうに越える。

そんな集団が街の中を歩いているとなればとても目立つ。

住人や同業者たちの視線を集めながらダンジョンの奥へと、まだベルが見ぬ中層以下へと潜るべく歩みを進めていったのだった。

 

 

▽ ▽ ▽

 

 

「さて、今日はここまでにしようか。全員、野営の準備を!」

 

フィンのよく通る声が響き、サポーターから受け取ったテントを各々好きな場所で張り始める。

一日目の夜、辿り着いた十八階層で一度休息を取ることが決まった。

現在ベルが潜っている最深階層はなんと()()()()()

それを日帰りで潜っていると考えると少し遅く感じたベルがアイズに尋ねてみれば、人が多いから、と考えれば当然の答えが帰ってきた。

様々な職の団員が入り交じるこの遠征では、一番遅い人に合わせる他ない。

とは言っても、厳しい選考を抜けてきた者達なので著しく進む速度が落ちることは無かった。

 

それでもここで休息を取るには理由がある。

五日かけて臨む深層への侵攻は、層を降りる事に危険性は上がり休める所が少なくなってくる。

安全地帯(セーフティーポイント)以外の場所ではもちろんモンスターも湧くし、休みたいときに休めるとは限らない。

苛烈になっていくダンジョン攻略。行き帰り合わせて十日に渡る遠征では個々の強さはもちろん、団員の体調管理も大切である。

そういった点からまだ浅い十八階層での一時の休息が与えられた。

 

「・・・美味しくないな」

 

「これでも美味しい方なんだけど、もっと美味しいもの食べたいよね〜」

 

キャンプとして焚き木が数カ所に焚いてあるうちの一つ。

強烈な味と栄養だけが取り柄の携帯食を一人でチビチビと食べていると、珍しい人物から声をかけられた。

 

「ティオナ、さん?」

 

「覚えててくれたんだ!遠征はどう?」

 

覚えているも何もティオナのことを知らない人はそれこそオラリオに来たての人間ぐらいだろう。

ヒリュテ姉妹、二人揃って【ロキ・ファミリア】の幹部であることは多くの人を驚かせ、また名を覚えるきっかけとなっている。

 

「こんな人数で動くの初めてなので・・・新鮮と言うか、やっぱり慣れないです」

 

「そうだよね〜、自分のペースで進めないとイライラしちゃったりとかは私はあったな〜」

 

これまで数度会話をする機会があったとはいえ、幹部である彼女がこうしてベルと話していることはかなり稀である。

驚くベルとは対照的に、懐かしむようにそう語っていたティオナは一転、顔をにやけさせた。

 

「私、ずっと気になってたことがあるんだ〜」

 

「はい?」

 

ずい、とベルに身体を寄せて逃さないとでも言うようにベルの腕を胸元に抱え込むようにホールドする。

悲しいかな、腕に伝わってくる感触は薄かった。

 

「ティ、ティオナさん?」

 

「どうやったらアイズがあんなにデレるようになるのかな〜、って!」

 

近くで見てみると形のいい唇を耳元に寄せられて思わず緊張するベルにそう囁く。

このときベルは気づいていないが、周りで同様に食事をしていたり、体を休めるべく数人で共用のテントの中に入っていた者たちの関心はティオナがそう言った瞬間に二人の方へと向けられていた。

 

「いやいや!デレるなんてそんなことないですよ!」

 

「そうかなぁ〜?でも最近よく二人で一緒にいるよね?」

 

こくりこくり、ベルの死角で頷きを返す団員たち。

 

実際この三週間、ベルとアイズは行動を共にしていることが多かった。

もとよりその境遇にそぐわぬほどに会話をしていることもあったが、最近はベルが直接アイズやリヴェリアに請うた故にその二人と会う機会が多くなったのである。

つまり、アイズとばかり一緒にいたわけではない。とベルはティオナに伝えたのだが、あまり効果をなさなかった。

 

それでもと言うべきか、これまでのアイズを知っていた者達にとっては考えられなかったアイズのベルへの入れ込み具合だったのである。

 

そうしてしばらく本人の自覚のない問答を続けていると、話題の中心となっている人物が登場した。

 

「お、アイズ〜!ちょっと聞きたいことが「ああああああ!!!」むぐっ・・・」

 

同じような質問をするのかと顔を真っ赤にして止めに入るベル。

ここで考えてみて欲しい。いくらベルと一緒に居るとはいえ、アイズ自身のレベルに合った攻略ももちろんしている。

その時お互いに幹部である彼女らが会話をしていないという可能性は考えづらい。

つまり、からかわれているのである。

それが狙いだとも知らずに必死に止めに入る様子は、意図せず周りの団員達の一時の癒しになっていた。

 

「ベル・・・本とか持ってきてたり、する?」

 

「あ、一応持ってきてますよ!えっと・・・これでしたよね」

 

そう言って近くの鞄の中から本を一冊取り出す。

表紙に剣を掲げる男が描かれたそれはアイズが遠征前まで読んでいたものである。

アイズはベルの部屋で本を読むことが多い為、読んでいる本もそのままベルの部屋に置いてくる。

そのため今このような会話をするに至ったのである。

 

「ん、ありがと。ベルは今日はどうする?」

 

「はい!ちょっとリヴェリアさんに深層のことをもう少し教えてもらおうと思って・・・」

 

フィンに三週間前に遠征への参加を告げられて以来、先程も言っていたようにリヴェリアにダンジョンについての講義を受けていたがなんせダンジョンは深い。

それに加えてダンジョンは下へ進むごとに広くなってくる。

上層を短い期間で熟知している域まで持って行けたことからベルの記憶力は優れていることが窺えるが、それでもあまりにも広いダンジョンに勉強が追いついていなかったのである。

 

「わかった、じゃあ一人で読んでくるね。また明日」

 

「はい、おやすみなさい」

 

手を振り、名残惜しそうにしながらもアイズは自らのテントへと戻って行った。

それを尻目にティオナは思考する。

 

()()()一人で?あのアイズが二人でが当然のように・・・へ〜)

 

実際もう当然のように二人で居ることがあるということは、未だ知られていない。

リヴェリアのところへ行くと言い残し、ベルはその場を後にした。

 

 

▽ ▽ ▽

 

 

二日目の半ばになった頃、中層も終わりに近づく二十三階層。

かろうじてベルも見たことのある光景が目の前に映る。

 

「正面、来るよ。戦士は前線維持!」

 

フィンの号令で盾持ちの重戦士が前へ出てモンスターの気を引き、それに合わせて魔道士が後方でそれぞれの魔法の詠唱を始める。

 

だんだん強くなってくるモンスターに連携を組んで対処をするようになったのは少し前。

大人数での戦闘を初めて見るベルにとっては新鮮だったが、悲しいことにベルは待機する組であった。

普段のベルの戦い方の基本となってくるのは一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)

ベルとて決して耐久が低いわけでもなく、普通に打ち合うこともできる。

が、黒いコートとダブルナイフに呪剣、回避を主体とした戦い方をするベルは現在の戦闘にあまり向いているとは言えなかったのである。

 

(なんだか、守ってもらってばっかりで申し訳なくなるな・・・)

 

人のいいと言うべきか、そんなことを内心で考えているベル。

この遠征では団員全員が戦うようになるように指揮官ーーつまりフィンが適材適所になるように休憩と戦闘を見極めるのでそんな考えを持っている人は少ない。

もちろん、適材適所と言ってもずっと前に出ている者もいる。

 

「ぬうん!」

 

大盾を使いモンスターの吐いたブレスを止めるガレス。

盾越しとは言え直撃して居るのに全く堪えた様子は見られない。

彼にとってこの程度のモンスターは脅威になり得ないのであろう。

それを信頼し仲間の限界を見極めれるフィンの技量は経験と努力あってこそなのだろう。

 

「きゃあ!」

 

「もっと仲間を信じろ、必ず守ってくれる」

 

そんな中、後方からそんな会話がかすかにベルの耳に入った。

 

 

 

そうして進むこと数十分。

ついに中層も終わり、『新世界』と呼ばれる下層に足を踏み入れることとなる。

 

「う・・・わあ・・・!」

 

目の前に映るのはどこまでも落ちる大瀑布。

どこから流れてきてどこに流れて行くのか、未だに謎とされているその滝は階層を越え流れ続けてる。

ここには小さめの川も流れているが、それらは最終的に全て一つにまとまるように流れるとされている。

圧倒的なその光景に口が開いたままになる。

 

「ベルは驚いてばっかりだね」

 

そう言うのはベルと同じように軽戦士として扱われて重戦士と魔術師に挟まれて待機していたアイズ。

このやり取りも二回目である、お互い目を合わせた後小さく笑う。

 

二十五階層に広がるこの光景は美しくもあり、また危険でもある。

階層を貫く滝、もちろんわかるように落ちれば下の階層に行くことは可能である。

しかし、下層で水の中に入ることは死の危険がつきまとう。

と言うよりも殆どの者は生き残ることはできない。

圧倒的な水量から成る水圧は落下し終えた時、その者の四肢をバラバラにしてしまうのである。

それだけでなくもちろん水棲モンスターもいるので、川に入るのも厳禁である。

 

それは下層に来る際、リヴェリアに耳にタコができるほど聞かされた要注意事項であった。

 

「朝も言ったけど、今日はここで一旦交代で休憩を取ろうと思う」

 

二十五階層の少しひらけた場所でそうフィンは告げた。

 

「休憩は六時間。事前に決めたグループ内で警戒する者とに分かれてくれ、時間はしっかり見ておくように」

 

そうしてそれぞれのグループに分かれはじめる。

そんな中ベルはと言うと・・・

 

「何で私がこんな男と・・・」

 

「はは・・・」

 

()()()毛嫌いされているエルフの少女。

エルフは異性と触れ合うことを極端に嫌うとはいえベルだけ異常に嫌われているのは

もともとアイズからの提案で二人で組むことになっていたのだが、それを聞きつけたのか自分も混ざると言われたのである。

そして、

 

「こら、レフィーヤ。家族にそんなことを言うんじゃない」

 

年頃の男女が三人では何かとまずいと感じたのか保護者のようなものとしてリヴェリアが参加した。

二人ならいいのかと問いたくなるがそこはもう今更だろう。

 

結果的にベルのいるグループは女三人男一人のハーレムのような形になったが、内情はそんなに甘い物ではなかった。

 

「ベル、本読も」

 

足を伸ばし、膝をポンポンと叩きながらそう促すアイズにこちらを凄まじい形相で睨むレフィーヤ。

さすがにその睨みが何に対するものなのかはわかったベルはやんわりと断りを入れて明日以降に備えて交代で睡眠を取る。

五日かけて五十階層の安全地帯までたどり着く旅路はどんどん過酷なものとなってゆく。

 

 

▽ ▽ ▽

 

 

「アーイーズっ!」

 

「?」

 

「最近あの新人君とよく一緒に居るけど・・・どんな関係なの?」

 

遠征より数日前のダンジョン攻略中、背中に抱きつくティオナにそう尋ねられたアイズはしばし思考する。

どんな関係かと聞かれると・・・わからない。

他の人よりもよく話すのは間違い無いだろう。

あの尋常では無い成長速度が気になった、と言うこともあるが・・・

 

なにか自分でもよくわからない思いが胸中を巡っていた。

 

ふと、昨日の夜にベルの部屋にお邪魔してベルを膝の上に乗せて本を読んでいたことが頭をよぎる。

 

「ん・・・なんだろね?」

 

その時を思い出して思わず笑みが漏れる。

そんな自分を見てティオナがポカンとしていたが、何故なのかはわからなかった。


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