ロキ・ファミリアに入ってダンジョンに潜るのは間違っているだろうか   作:戦犯

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少女との出会い

「ここがオラリオかあ・・・!」

 

眼前に広がる大きな街を見ながらベルは呟く。

 

「あの奥にでっかい塔が見えるだろう?あれはバベルって言ってね、この街のシンボルみたいなもんさ。なんでもあの塔の最上階には、たいそう美しい女神様がいるそうだよ。」

 

後ろで、ベルをここまで連れてきてくれた行商人のアイシャがそう説明していた。

それを聞きながらベルは周りを見回す。

狼人、猫人、エルフなど、全然違ういろんな種族が楽しく談笑しながら歩いている。

商店街の方では、冒険者が店主に向かって「もう一声!」と、値切りを求める声が響いていた。

 

「ここが、これから僕が暮らす街か・・・。あ!ここまで連れてきてくれてほんとにありがとうございました!アイシャさん!」

 

「なあに、気にすることはないさ。私も話し相手ができて楽しかったからさ。さあ、行った行った!早く行きたくてウズウズしてますって顔してるよ!」

 

「あはは・・・それじゃあ、行ってきます!」

 

そう言って、僕は走り出した。

 

「スリには気をつけるんだよ~」

 

「はーい!」

 

ベルは、アイシャの忠告を背に受けながら、これからのことに思いを馳せる。

どんな冒険が待っているのか、心を踊らせながら・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーその三日後。

「お願いします!僕を【ファミリア】に入れてください!」

 

「断る。貴様のような田舎者を入れてこの【アポロン・ファミリア】の名に傷がつきでもしたらどうするつもりだ?」

 

・・・ベルの冒険はまだ始まってさえいなかった。

 

 

 

「なんでどこの【ファミリア】にも入れてもらえないんだろう・・・」

 

そう言いながら店の窓に映る自分を見る。

160C少しの身長、初雪のように白い肌と髪。それなりに整っている顔立ちに映える深紅の瞳。

いささか「少年」といったイメージが拭えないベルの容姿を見て、屈強で強そうか、と聞かれると、多くの人が否と答えるだろう。

 

「畑耕してたりしてたから、筋肉はついてるはずなんだけどなあ・・・。肌・・・は焼けないし、髪の毛でも染めようかな?」

 

と、本気で髪を染めようかと間の抜けたことをベルは考えていた。そこでふと思いつく。

 

「・・・エイナさんに相談してみよう。」

 

 

 

 

 

その数十分後、ギルド本部にベルはいた。

 

「髪の毛?どうして?」

 

「それが・・・この三日間でいろんな【ファミリア】に加入させて欲しいって回ってたんですけど、どの【ファミリア】も相手にしてくれなくて・・・見た目が悪いんじゃないかと思ったんです。」

 

「あはは・・・さすがに髪の毛を染めたくらいで反応は変わらないんじゃないかな・・・?それに、ベル君はそのままの方がかっこいいと私は思うよ?」

 

ベルの冒険担当アドバイザーであるエイナ・チュールは微笑みながらそう言った。

彼女は所謂、ハーフエルフと呼ばれる種族であった。

肩口あたりで綺麗に切りそろえられた茶髪、整った顔立ち、そして何より目を引くのはエルフ特有の尖った耳であった。そんな見た目麗しい彼女に「かっこいい」と褒められた年頃の男の子であるベルは、それだけで顔を真っ赤にしていた。

 

「ま、まあそれはともかくっ!見た目だけで判断しない【ファミリア】もきっとあるから大丈夫だよ!本当は私も手伝ってあげたいんだけど・・・こればっかりはベル君の意思が大事だからね」

 

「そうですよね・・・。わかりました、もっとほかの【ファミリア】もあたってみることにします!」

 

「頑張って!応援してるよ、ベル君」

 

「はい!今日はいろいろありがとうございました、エイナさん!」

 

 

 

 

 

 

 

「そうは言っても、やっぱり弱いままじゃ相手にしてくれる人が少ないのは変わらないよね・・・」

 

日も沈み、暗くなった宿への帰り道、ベルは一人考えていた。この三日間【ファミリア】に入れて欲しいと言う自分を嘲笑ったり、話すら聞いてくれなかったりと反応は様々だったが、すべてに共通するのは弱者を馬鹿にするよような視線。

ーーー悔しかった。情けなくなった。「英雄」なんて大それたものを目指していながら、夢見ていながら、これまで何もしてこなかった自分が。

自分は、弱い。おそらくこのオラリオの最底辺に位置しているだろう。

なら、どうする?冒険者になるのを諦めてどこかでは働く?

 

「・・・ふざけるな」

 

そんな軽い気持ちでなれるほど僕の「英雄(ゆめ)」は甘くない。

弱いならあがけ、強くなるために。自分の弱さから目を背けてはいけない。

 

「・・・鍛錬でもしてみようかな?」

 

 

そう考えたベルはあたりを見渡す。そこで目に入ったのはオラリオをぐるりと囲むようにそびえ立つ城壁、それを登るためについている梯子だった。

 

「城壁の上なら・・・誰にも迷惑かからないだろうし、大丈夫かな?さすがに宿でナイフを振り回すわけにもいかないしね」

 

手元にあるナイフをみつめながら、ベルはつぶやく。このナイフはアイシャに「冒険者になるんだってね、得物はなんだい?・・・何だって?武器を持っていないのかい!そんなんじゃモンスターと戦うどころの話じゃないよ、このナイフをあげるから、しばらくはそれで我慢してな!なあに、安物のナイフだから気にすることはないよ。」と言われて貰ったものだ。ベルにとってはこのナイフの値段でもかなり懐には厳しいので安物とは言い難かったが、好意は素直に受け取るもんだよ!と言われ、ありがたく頂戴したのだった。

 

「アイシャさんに振る練習くらいはしとけって言われたし、慣れるためにも素振りでもしてよう。ダンジョンに入って自分を切ったりしたら情けないしね・・・」

 

そう決めたベルの行動は早かった。高い城壁の上へ登り、誰もいないことを確認してからナイフを鞘から引き抜く。

 

「これが僕の初めての武器かあ・・・!扱いには気を付けなくちゃ。」

 

そう言って、ベルは素振りを始める。と言っても、技も型もなく、ただ振っているだけに等しいものだったが、それでも初めて武器を握った少年には新鮮なものであった。

そして数分ほど振り続けた頃、ベルの胸のあたりから不思議な光が漏れていることに気づく。

 

「・・・なんだこれ?」

 

胸元をまさぐりながら光源を探していく、すると光っていたのは・・・

 

「おじいちゃんのロザリオ?なんで光ってるんだろう・・・?」

 

ベルの祖父が孫に託したロザリオ、その中心部分に埋め込まれている空色の魔石が光っていた。

不思議に思ったベルが、その魔石を触った瞬間。目も開けていられないほどの光が溢れ出る。

 

「わっ!?何!?」

 

次の瞬間、ベルの意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

「うっ・・・ここは・・・?」

 

気がつくとベルは、真っ白な空間にいた。

何もなく、誰もいない。けれどどこか安心する場所。

・・・いや、誰もいないというのは間違いであった。

 

「起きた?おはよう!」

 

ーーーそこには、少女がいた。腰まで届く長い銀髪、慎ましくも主張しすぎてもいない美しい肢体。あどけなさを残す整った顔立ちにぱっちりと開き透き通った空色の瞳。

 

「やっと経路(パス)がつながったよ〜。君が『恩恵』を受けないままだから魔力をつなぐのに時間がかかっちゃった!もっと早くお話したかったんだけどね〜」

 

「へっ?」

 

急に知らない場所に居て、そこにいたとても可愛い少女が話すよくわからない内容。いろんなことが起こって混乱していたベルは素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

「えっと、あなたは誰ですか?あと、ここは?経路っていうのは?」

 

「そんなに一気に聞かれたら困っちゃうな〜あはは・・・」

 

「ごっ、ごめんなさい!」

 

「ううん、動揺するのもしかたないよね。でも、時間が限られてるから伝えないといけないことだけ言っちゃうね!」

 

そう言った少女の雰囲気が変わる。その空色の瞳でまっすぐベルをみつめながら、問う。

 

「君は、本当に英雄になりたいの?」

 

それまでの親しみやすいものとは違う、どこか厳かな声色。焦りながらも肯定しようとするベルを遮るように続ける。

 

「英雄っていうのは、君が思っているようなものばかりじゃないよ。人の闇の部分に触れたり、殺しを見ることもあるかもしれない。そして人を助けるためには犯罪を見逃したり、何より君自身が人を殺めないいといけないかもしれない。」

 

そこで一旦区切った後、さらに問う。

 

「この話を聞いても君は英雄になりたいと願い、その上でその覚悟はある?」

 

嘘は一切許されない。目の前にいる少女から放たれている無言の圧力が、ベルにそう伝えていた。

その問いに対してベルは少し考えたあとに答える。

 

「僕は・・・僕には、あなたが言うような覚悟はないのかもしれません。人を殺すなんて絶対にしたくないし、人が悪いことをしてたら許せないと思います。それでも、僕を助けてくれたおじいちゃんのような・・・護りたいと思った人を護れるような、そんな英雄に僕はなりたいんです!」

 

ベルは、全力で自分の「夢」を語る。さっき会ったばかりの少女に熱弁を振るっていた。普通ならそんなものは理想に過ぎない、と一蹴されるだろう。だが、その少女は違った。

満面の笑みを浮かべて、満足そうにしていた。

 

「うん、うん!それでこそベルだね!その気持ちを忘れちゃダメだよ?」

 

「は、はい!・・・あれ?どうして僕の名前を?」

 

「ふふふ〜・・・それはずっとベルのそばにいたからだよ

!」

 

「そばに・・・?あなたとは初対面だと思うんですけど・・・」

 

何より、こんなに可愛い少女を一度見て忘れるわけがない。

 

「まあ、それはそのうちわかると思うよ!あ、ちょっと顔こっちに寄せてくれない?」

 

「え?こ、こうですか?」

 

ベルは自分より少し背の低い少女に目線を合わせるように腰を落としていく。

 

「・・・ちょっとだけ目、つむってくれる?」

 

少し顔を赤くしながらそういう少女を不思議に思いながらも言われた通りにすると、

ーーーーちゅっ 、と額に柔らかいものが押し付けられた。

 

「!?!?!?」

 

自分が少女にキスをされたとわかったベルが顔を真っ赤にしながら前を見ると、ベルに負けないくらい顔を赤くした少女の姿があった。

 

「え・・・?あの、ふぇ・・?」

 

もちろん女の子に額とはいえキスなんてされたことのないベルがなんとも情けない声を出していると少女はふふっ、と声を漏らした。

 

「ベルは本当に初心だね〜!い、今のは私からのプレゼント!これからベルの助けになると思うよ!」

 

そんなベルをに見て少し落ち着いたのか、自分のことを棚に上げて少女はベルを茶化す。

その時ベルは、キスされた額から何が暖かいものが自身の中に入ってくるのを感じていた。一切の曇りのない明るい光。そんなイメージが頭をよぎる。

そしてその瞬間、急にベルの意識が遠のく。

 

「あ、れ・・?」

 

「時間切れかあ・・・もうちょっと話したいことあったんだけどなあ~。でもベルが頑張り続けてくれればまた会えるから、がんばってね!」

 

それはつまり、しばらくは会えないということ、と悟ったベルは、必死に意識をとどめる。聞かなければ、と

 

「あなたの・・・名前は・・・?」

 

その言葉にキョトンとし、驚いたような顔をした少女は、ニコリと笑い、言う。

 

「私はシェリア。ベル達が精霊って呼んでる存在だよ!」

 

「シェリア・・さん・・・」

 

「シェリアでいいよ〜!これから長い付き合いだと思うから、よろしくね!ベル!」

 

その言葉を最後に、ベルの意識は再び暗転した。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

「何してるんやアイズたああああん!」

 

「・・・こうすればいいって前にリヴェリアが言ってたから」

 

「あんの母親(ママ)め・・・!な、なあアイズたん?うちにはやってくれへんのか?」

 

「嫌です」

 

 

「ん・・・?」

 

意識が戻ったベルは、自分の上あたりで誰かが言い争う声を聞いた。そして感じたのは、頭を撫でる優しい手のぬくもり。

 

「お母さん・・・?」

 

「あ、起きた」

 

「・・・ごめんね、私はきみのお母さんじゃないよ」

 

ぼやける視界が次第にはっきりしてくる。

初めに目に入ったのは金色の髪。

いつの間にか上がっていた太陽の光を受けて輝いている。

 

ーーーそして、視線が交差する。

深紅の瞳と金色の瞳。

これが、少年ベル・クラネルと、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインの出会いだった。




…小説書くのって難しいですね。
どうも、戦犯です。
1話、若干震えながら投稿してみました。多分変なところもあると思うので、注意、感想などいただけると嬉しいです。

…プロローグをこの前に投稿したんですけど、始め間違ってエピローグってタイトルで出しちゃったんですよね。
始まる前に終わりかよって言われずに直せたので良かったですが、気をつけます。

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