ロキ・ファミリアに入ってダンジョンに潜るのは間違っているだろうか   作:戦犯

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※8/4改訂


プロローグ

「ベル、冒険者になりたいか?オラリオはいいぞ、ダンジョンでの冒険、旨い飯や酒。そして何より・・・女との出会いだ!そんな男の浪漫が何でも揃ってやがる。まあ・・・女は頑張り次第だがな、ベルよ」

 

そう、祖父が頭に手を置きながらいつも語っていた。

オラリオという、自身がまだ見ぬ土地がいかに素晴らしいところなのか何度も聞かされた。

そんな祖父の話の中で少年ーーベル・クラネルが特に興味を持ったのは所謂、「英雄」と呼ばれる者達の話だった。

 

ベルは今年で十四歳になる。

英雄などという存在に憧れるのはもっと小さな子供で、こんな歳になってまでそれを夢見ているのは時には笑われることなのかもしれない。

 

ーーーそれでも止められない。憧れは日に日に大きくなるばかりだった。

祖父が暇つぶしと言って綴ってくれる英雄達の物語。

自分の部屋に積み重なっていくそれらはなん度も読み返した。

そして自分もいつかそんな存在に・・・と、幾度となく思った。

強くなって、多くの人を救って・・・可愛い女の子と出会って楽しく過ごす。

そしていつか、「英雄」と呼ばれるようになりたい、と願い続ける。

それが、少年ーーーベル・クラネルの密かな「夢」であった。

 

そして、これはその少年が紡ぐ、新たなる英雄譚・・・

 

 

 

 

 

 

「ベル・・・ベルはいるか!」

 

朝早く、荒く家の扉が叩かれた。

上がりきらない瞼を擦り、あくびを手で押さえながらはーい、と返事を返しながら扉を開ける。

扉の前には、いかにも満身創痍といった風貌で片腕を押さえている初老の人物が立ち尽くしていた。

 

「村長さん!?大丈夫ですか!」

 

その人物は、ベルの住んでいる村の村長を務めている人物であった。

ちょうど数日前、ベルの祖父と一緒に離れた街まで用事で出かけていたはずである。

 

()()、なんとか大丈夫じゃ・・・」

 

「とりあえず上がってください!傷の手当てを!」

 

傷ついていない方の手を取り、あまり揺さぶらないように祖父と自身が住む家へと導く。

そこで、気付く。一緒にいたはずの祖父の姿がどこにも見えないことに。

 

「すまない・・・、本当にすまない・・・っ!」

 

導く手に抗い、その場で頭を下げ始める村長を見てぎょっとしたのも束の間、聞きたくなかった現実が告げられた。

 

「ベル、お前の祖父じゃが・・・恐らくは、死んだ」

 

「っ・・・!?そんな・・・どうして!」

 

「・・・帰り道、村のはずれにモンスターが出た」

 

「・・・!」

 

モンスター、それは人を脅かす驚異。

人を喰らい、村を襲い、人に厄災をもたらす存在。

祖父が書いてくれた本にも何度も英雄達を阻む者として記されていた。

 

「まさか、おじいちゃんは・・・」

 

「・・・ああ、モンスターと戦い、弱ったところで最後に残ったモンスターが道連れに・・・」

 

昔、モンスターが村を襲ったことがあった。

初めて見る異形の怪物に腰が抜け、殺されそうになっていたベルの前に鍬を持って祖父が助けに来てくれた。

英雄譚に出てきた英雄のように、強い武器や魔法を使って戦っていたわけではなかった。

それでもその時のおじいちゃんはベルの中でずっと英雄だった。

勇気を持ち、こんな風に人を守れたらなと心から憧れた。

 

涙が溢れた。

もう祖父に会えない。

その現実がひどく心を締め付けた。

泣きながら叫ぼうとも思った。

目の前にいる村長に、なぜ見捨てたのかと行き場のない悲しみをぶつけようともした。

 

だが、目の前の男も悔しさ、悲しさに涙をこぼしていた。

申し訳なさ、自分に力があれば、彼を救えたのではないかという自責の念。

内心でなにを抱いているのかベルにはわからなかったが、ここで彼を責めることが間違っているということぐらいは理解できた。

しばらくした後、村長が口を開く。

 

「・・・ベル、お前の爺さんから預かりものと伝言じゃ」

 

そう言って懐のポケットから取り出したのは祖父がいつも身につけていた白銀のロザリオだった。

 

「俺には無用の長物だったが、いつかお前の役に立つだろう、と言っていた。それと・・・」

 

村長は少し躊躇った後に伝言だ、と告げた。

 

『笑え。辛い時こそ笑え。何時までもメソメソ泣いてるんじゃねえぞ?俺に何があったとしても、それを乗り越えろ。男なら強く生きろよ、ベル』

 

涙は、止まらない。

だが、少年の決意は固まっていく。

 

「・・・これが、あいつの最後の言葉だ」

 

「・・・ありがとうございました、村長さん。しっかり、聞きました」

 

そして、その決意を口にする。

 

「僕、この村を出てオラリオに行きます!」


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