墓守達に幸福を   作:虎馬

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気がつけばお気に入りに登録してくれてる人が500人を超えてしまいました。
ありがたい事です。500人から面白いと言って貰えたようなものですから。

これからも楽しんでもらえるように頑張りたいですね!

追記:誤字報告機能便利ですね。異形種、ありがとうございました。


9.王国の勇者達

 倒れた戦士達を背に満身創痍の戦士長は尚も気炎を上げる。

 国を守り民を守る、そのために剣を執った。無辜の民を蹂躙するお前達を断じて許す訳にはいかないのだと。

 

 それを見る陽光聖典の隊長ニグン・グリッド・ルーインは、そのような狭い視野で戦っているからこのような場所で骸を曝すのだと切って捨てる。己の価値を理解できない愚かな男であると。

 そして油断も容赦もなくとどめを指すべく指示を出そうとして、やめる。

 勿論ガゼフの声に感化された訳ではない。訝しげに視線を送る先は倒れ伏した戦士団より更に後方。精悍な獣たちを従えた正体不明の闖入者。

 

「そんな愚直さが人を惹き付け、廻り廻って窮地を救うのであろうよ」

 

 突如何処からか現れた貴族風な老紳士の発言は明らかにガゼフに与する者のそれだ。「来てくれたのか」と呟くガゼフの様子から間違いないだろう。本人の強さは兎も角ひきつれている灰白色の獣たちは脅威と判断したニグンはガゼフを包囲する天使の一部を下げさせて防備に充てる。

 

「貴様何者だ? ガゼフ・ストロノーフの仲間か?」

「礼儀を知らぬ小僧め、人に名を訊ねる時はまず自分が名乗るものだぞ」

 

 見下すような返答にややいらだちを覚えるニグンだったが、一応相手がどこのだれかは知っておくべきだろうと怒りをこらえる。

 

「これはこれは、大変失礼いたしました。私はスレイン法国の特殊部隊、陽光聖典の隊長を務めております、ニグン・グリッド・ルーインと申します。以後お見知りおき下さい。そしてよろしければ貴方様の御名前をお聞かせ願いますかな?」

「ふむ、私は偉大なるギルド、アインズ・ウール・ゴウンに属する者にして栄光の地ナザリックの支配者の一人! ネ、ブラム・ストーカー! 気軽に ブラム と呼んでくれたまえ」

 

 厭味ったらしく名前を訊ねてやったというのに平然と返してくるブラムとやら。アインズ・ウール・ゴウンにナザリックと聞かない名前ばかりだが、この場で出会った以上は生かして帰す訳にはいかない。ガゼフを助ける為にやってきたのならなおのことだ。

 ならばこれ以上の問答は時間の無駄だと切り上げたニグンは攻撃の指示を出す。

 

「ブラムとやら、愚かにもこの場に出てきた事をあの世で後悔するのだな! 天使達を一斉にけし掛けまずはそこの死に損ないに止めをさせ。狼共には牽制の魔法を放ち近寄らせるな、アレは危険だ!」

「『我々でガゼフ殿を助ける』、行けお前達!」

 

 魔法による援護を受けた天使の軍勢の猛威に曝されたガゼフだったが素早く駆けつけた狼達による防御陣形によって辛くも命をつなぐ。

 その後も素早く動き回る狼達がガゼフの周囲を駆け回り、時に天使に食らいついてガゼフに倒させ、時にガゼフを狙った攻撃から身を呈して防ぎ、また攻撃が緩んだと見るや襲撃を掛ける事で脅威を与える。徐々に狼達はその数を減らしながらも、天使もまた次々と討取られていく。

 恐ろしく高度な連携を取る狼達は間違いなく後方にいるブラムという老人の指示によって動いている。ならば彼さえ落とせばとも思うが、その立ち位置は後方の更に奥。魔法は届かず、天使達をけし掛けるにもその間に包囲を食い破られてこちらが壊滅させられてしまうだろう。そのためこの泥沼染みた消耗戦を続けなければならない。おそらくはあの老人の狙い通りに。

 歯噛みしつつもニグンは思考を巡らせる。先ほどから天使を仕留めているのはガゼフのみ、他の狼達はあくまでその補助を行っているにすぎない。囲みを強引に突破して隊員を仕留めに来ないのは目的がガゼフの救助であるためか。

 ならば好きなだけ守って貰おうではないか。

 

「包囲網を前後二重のものに構築し直せ、狼共の突破が出来ぬようになァ! 

 後は全力の魔法をガゼフに撃ちこめ、奴さえ倒せばこちらの勝ちだ!」

 

 狼達による強行突破を封じつつ最大火力で一気に仕留めにかかる陽光聖典に思わず舌打ちしてしまうブラムだったが、気持ちを切り替えて次なるカードを切る。

 

〈勇者ガゼフに率いられし王国の戦士達よ、何時まで地に伏しているつもりだ! 君達には傷ついてもなお民を守らんと戦う彼の姿が見えないのか!!〉

 

 兵を操るクラス「将軍/ジェネラル」。そのスキルである〈激励〉は仲間の士気値を上昇させる事で接触系攻撃や被ダメージに有利な判定を出させる事が出来る。マスクデータである士気値は別名やる気ゲージやテンション値などとも呼ばれ、上げ続けると『高揚』『興奮』『熱狂』とステータスの上昇やクリティカル率や回避率へのボーナス等が増える状態へと移行させることも出来る。勿論良い事ばかりではない。『興奮』状態では魔法が使えず、『熱狂』まで上がるとスキルが使えなくなるというデメリットが出てくる上、上限近くまで上げた『狂乱』状態は筋力等に大きなボーナスが付くが操作不可能な上に一定時間経つとHPが削られ始めるという諸刃の剣だ。そのため指揮官型プレイヤーは士気値の管理が大きな仕事であるとされている。

 なおゲーム時代は〈激励〉を使うとその場で動かなくなるだけだったが、現実化した今では頑張って声を出さなければならなくなっている。ゲーム時代のネクロロリコンが黙っていたかはまた別だ。

 

〈立て、王国の勇者達よ! 君達はガゼフ・ストロノーフ討伐のついでに倒されようとしている。そんなおまけのような最期で満足か!!〉

 

 ブラムの〈激励〉により戦意を取り戻した戦士達は一人、また一人と得物を手に立ち上がる。

 

〈あの者達はガゼフ・ストロノーフ暗殺のために罪なき民草を平然と虐殺する悪漢共だ! 諸君! あのような卑劣な輩にガゼフ・ストロノーフの首を取らせるつもりかァッ?!〉

 

 言葉を聞く度に全身に活力が湧き上がる。王国戦士団の一員である誇りが、無辜の民を虐殺する卑劣漢達への怒りが、そして何よりガゼフを救いたいという思いが彼等を駆り立てる。

 

〈正義の剣をその手に、いざ断罪の一撃を振り下ろせ! 〈突撃〉ィッ!!!〉

 

 クラス「カリスマ」による精神コマンドへのボーナス、戦士団の精神耐性への脆弱さ、そして単純なレベル差によって一気に『熱狂』状態まで士気値を高められた戦士団は、機動力と物理攻撃力に補正のかかる〈突撃〉の号令の下ガゼフ包囲網へと襲いかかる。

 元々スキルなどほとんど持たない戦士達は事実上ノーリスクで能力だけが上昇した状態である。倒せないまでも倒されない程度の能力を得た戦士達の出現により一気に陽光聖典の包囲網が崩されていく。

 

 突如息を吹き返した戦士団によって独力でのガゼフ討伐はほぼ不可能な状態に持ち込まれたニグンは切り札を切る決意を固める。

 この作戦は人類の未来のためにも失敗することは許されないのだから。

 

「最上位天使を召喚するゥ! 皆、時間を稼げェッ!」

 

 ガゼフの戦士としての直感があのマジックアイテムは危険だと警鐘を鳴らす。これまではどこか余裕の感じられたブラムが険しい顔で片眼鏡の位置を直している事からもやはり危険な代物に違いない。

 

『大丈夫だ、何も問題ない』

 

 思わず振り返ったガゼフに敢然と言い放つブラムだったが、覚悟を決めた者特有の気配が見える。

 

「勝負どころだストロノーフ殿、覚悟を決めて貰おう!」

「元よりここを死地とする覚悟を決めている! どうすれば良いッ!?」

 

〈英雄足らんとするならば越さねばならぬ窮地だ、ガゼフ・ストロノーフ! そして勇猛なる戦士達よ!!〉

〈悪逆非道の輩に今こそ正義の鉄槌を振り下ろすのだ!!〉

「〈最終突撃命令〉ェェエエエエエ!!!」

 

 〈激励〉の重ね掛けから思考停止で全力攻撃させる最上位の攻撃指示による突貫。既に限界ギリギリまで士気を高めた戦士達は『狂乱』状態でニグン目掛けて突撃する。

 攻撃をものともせず死に物狂いとなって襲い来る戦士達を目にした陽光聖典の隊員達は士気の低下により『恐怖』状態になり行動が制限されていく。

 法国の至宝を使うことに幾許かの葛藤があったニグンもまた『恐怖』状態にはならずとも萎縮して発動を数瞬遅らせてしまう。

 

 そしてその僅かな時間が明暗を分ける事となった。

 

 戦士の直感がガゼフを突き動かす。ここで、この刹那に勝負を決さねばならないと。

 残る体力を振り絞り全身に気力を行き渡らせる。

 今必要な武技は未だ習得していないもの。しかし、今この瞬間であれば必ず使える。

 

 否、使ってみせる! 

 

「武技〈疾風走破〉アアアアアアアアア!!!」

「なぁにぃぃぃぃぃいい!?」

 

 すれ違いざまにマジックアイテムを持つニグンの右腕を斬り飛ばす。

 僅かに光が漏れ出していたが、ギリギリ発動に間に合ったのだろう。何も起こらない事を確認し安堵するも、突如激痛が全身を襲う。

 

 無理に無理を重ねた影響で血を吐き激しくせき込むその体を支えるものは、もはや戦士の意地と大地に突き立てた一振りの剣のみだった。

 

「惜しかったな、ガゼフ・ストロノーフ。やはりお前は人類の剣となれる男だった」

 

 土壇場で限界を超えてみせたガゼフを前に、切り落とされた右腕の傷口を押さえるニグンは称賛の念すら感じていた。

 そして同時に何を言っても無駄である事も理解してしまった彼は、背後に控えさせていた【監視の権天使】に攻撃を命ずる。

 

「【監視の権天使】よ、その男に止めを「〈入城/キャスリング〉!」 な、何ィ!?」

 

 ガゼフがいたその場所に突然現れたのは後方で指揮を執っていたはずの老紳士ブラム。あわててブラムがいた場所に視線をやると崩れ落ちるガゼフの姿があった。

 

 その隙にブラムの下へ狼が駆け寄って水晶を差し出す。予め魔封じの水晶を回収させておいたのだろう、その抜け目なさに思わず唸るニグン。

 

「切り札というものは、最後の最後まで取っておくべきものだよ。高くついたが良い授業だったろう?」

 

 発動の準備が整い光を放つ魔封じの水晶を掲げるブラムの様子から使い方と効果を知っているのだと悟るニグンは屈辱に顔を歪ませながらもジリジリと後退する。

 

「そして、チェックメイトだ。この第7位階魔法を使われたくなければ速やかに兵を纏めて去りたまえ。『私は追わない、後はお好きにどうぞ』」

 

 ニグンは屈辱と痛みに顔を歪ませつつ現状把握に努めるも、もはや勝敗は覆せないと悟る。

 あと一息だった。戦士団は無理がたたって既に倒れている。ガゼフも最後の力を使い切った。狼達も無傷なものは無くほぼ壊滅している。だというのに!

 

「貴様、ブラム・ストーカーと言ったな? 覚えておくぞ。その顔、この屈辱! 忘れんぞ!」

 

 この怪人物の情報を持ちかえる事を優先したニグンは屈辱を噛み殺して隊員達に撤収の命令を下す。戦えばガゼフを討取る事までは出来るだろうが、陽光聖典が最高位天使たる【威光の主天使】によって皆殺しになるのは間違いない。生き残った狼達によって逃げ切る事も難しいだろう。そして皆殺しにされればブラムの情報を本国に知らせる事が出来ない。あるいはガゼフより危険かもしれないこの底知れぬ男の情報を。

 

 

 

 撤収する陽光聖典の監視に数頭の狼を付け『その姿が見えなくなる』と急いでガゼフの下に向かうブラム。頑張って助けたのにこれで死なれては骨折り損のくたびれ儲けだ。まあ情報収集という意味ではたっぷり収穫があった訳だが。

 

 大急ぎで効果がある事を確認したマイナーヒーリングポーションをかけて一先ず死なない程度の状態に持ち直す事が出来たので、このままカルネ村まで担いでいく事にする。

 

『恩着せがましく手ずから運んでやるとしよう、この私がね』

 

 一人虚空に向けて呟くと狼達を兵士達の護衛に残し、カルネ村に向かう。

 その背中はどこか満足気だったそうだ。

 




そんなわけでカルネ村の戦いは終結。
これにて無事にオーバーロードのチュートリアルは終了です。

ところで相手が悪すぎて序盤の雑魚敵扱いされるニグンさんですが、真面目にかなり強いと思っています(現地勢としては)。なんといってもあのアインズ様にダメージを与えた唯一の現地勢ですからね!特殊部隊の隊長と言う事もあってそれなりに頭も良いでしょうし。
ニグンさんの強さが少しでも伝われば幸いです。出番はもうありませんが・・・。



以下作中設定の解説など

〈伝言〉
二次創作だと脳内でやり取りしている設定が多い気がしますが、普通に声に出しているんじゃないかと個人的に思っています。そのため周りに人がいない時に使うか、発言に違和感を持たれないように注意する必要があると言う縛りです。その方が背後の関係者が透けて見えて面白いかな、とか。ちなみに最近出ている『』での発言は〈伝言〉でナザリックに送られている台詞です。

〈入城/キャスリング〉
チェスにおいて特定の状況下のルークとキングの位置を入れ替える事が出来ると言うルール。作中ではキングでは無く「エンペラー」のスキルで、同一フィールド上の仲間と位置を入れ替えると言うオリジナルスキルです。今回はガゼフの救助に使いましたが、普段は眷族と位置変えを行って攻撃から逃げる為に使います。

士気値
勿論オリジナル設定ですが、一応作った理由の様なものはあります。魔獣にビビって恐怖状態になった仲間に〈勇敢な心〉をかけて立ち直らせるようなシーンからビビらせるタイプの攻撃があるのは確実ですので、それで上下するパラメーターがあるのでは?と考えた訳です。低レベル版〈絶望のオーラ〉も士気低下系能力じゃないかと。
ついでに精神作用が完全に無効化されるはずの吸血鬼に〈血の狂乱〉が起こるのは士気値がアンデッドで唯一設定されているというオリ設定というか独自解釈です。シャルティアは喜怒哀楽激しいのにアインズ様は興奮できないあたりの説明にも使えるかな?と。
そのためネクロロリコンも興奮はしますが混乱は沈静化してくれます。一応そう言う風に書いている筈ですが、「ここ興奮が静まってるんじゃね?」というシーンがありましたらご指摘お願いします。

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