墓守達に幸福を   作:虎馬

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8.交渉

 村の救世主として村長宅に案内されたブラム・ストーカーことネクロロリコンは、ただのきまぐれで助けただけだと謝礼を受け取らず情報の収集に努めていた。やんごとなき身分の老人が世の見聞を広める為に旅をして回っているという設定で村の来歴などの当たり障りのない話に徹してボロを出さないように必死である。

 周辺の勢力やこの世界のあれこれについてはデミウルゴスが捕まえた兵士達からかき集めているだろうからむしろこの村とその周辺の情報の方が有用だろうと考えた結果でもある。

 これによりリ・エスティーゼ王国の開拓村である事、トブの大森林という危険地帯のそばだが森の賢王の縄張りだから森からのモンスターが出てくる事はないらしいという事、外貨獲得に森で採れる薬草を使っている等の情報を得る事が出来た。

 ついでにこの村で手に入る薬草などを幾つかサンプルとして持って帰る事も出来た。早速ナザリックに持ち帰って効能などを調べてみようと未知のアイテムにホクホク顔ですらあった。

 

 そんな異文化コミュニケーションの途中に死者の葬式のために中断させてほしいと申し訳なさそうに言われたため、関わった身であるので同席させて貰ったのだが。

 

 来るんじゃなかった。

 

 まさか最初に助けた姉妹の両親が初期に必死の抵抗で亡くなった数人の村人の一人であったとは!

 泣きじゃくる妹さん(ネムだったか?)を見ていると申し訳なさで胸が痛む。この子達の両親は村が襲われ始めた段階で直ぐに出ると決めていれば助かったはずだ。そしてこの姉妹が命の危機に陥る事も無かっただろう。

 しかし娘を守ろうと必死の抵抗をする両親を見て気が変わったのもまた事実。モモンガさんも気分が悪いだけで殺される村人達には特に思うところがなさそうだったが、俺も村人が殺される様子に何も思うところは無かった。ただ必死に娘達を逃がそうとする両親の姿と、おそらく無事を祈る心に動かされてしまったのだ。

 

 《神祖/ヴァンパイア ザ・ワン》。

 ユグドラシルにおける神の一柱であるカインアベルを倒した吸血鬼だけが至る事の出来る吸血鬼系統の最上位種。カインアベルの後継となる存在。そのため低級ではあるものの神の一柱として(設定上は)扱われている。

 そのあたりの設定が機能したため普通のアンデッドと違って生者の声にも反応してしまうのだろうか?

 泣きじゃくる妹を相手に気丈に振舞う姉(確かエンリだったはず)を見ながらそんな事を考えてしまう。

 こんな事を考えられる時点でまともな人間ではないだろうと思うが、このあたりの考察も後でモモンガさんと共有しておこうと記憶に刻みつける。

 

「すまない、私がもっと早く来ていたら君の両親も」

「いえ! ブラム様の御蔭で私達は生き残る事が出来ました。両親は私達を生かすために必死になり、わたしたち、も……」

 

 いたたまれなくなった俺は頭を撫でてみたが、堰を切ったように泣き始めたエンリに戸惑ってしまう。イケボで「俺がいるだろ?」とでも言う事が出来れば良いのだろうが、そんなスキルは無い。

 

「この笛を吹くと小鬼達が君に従うべく現れるだろう。困った時に使いたまえ」

 

 なので物で釣る事にする。

 大層な名前が付いている癖に効果がしょっぱいアイテム「ゴブリン将軍の角笛」。何か隠されているのではないかと大量に集めて様々な方法を試してみたが結局最後までその効果が解らなかった所謂ゴミアイテムだ。レベル一桁ばかりの村ではそれなりに役に立つだろうととりあえず二つ渡しておく。

 

 エモット家の墓前で手を合わせた俺はそろそろ話の続きを聞かせて貰おうと村長宅に向かおうとしたが、ここでモモンガさんから連絡が入る。

 またしてもこの村に兵士の集団が向かってきているという。それも複数。

 アウラの見立てでは、近くにいる方は先ほどまでいた兵士達と大差ない集団だが一人だけ少し強い者がいると言う。デミウルゴスが得た情報と合わせるとこれらがリ・エスティーゼ王国の戦士長ガゼフ・ストロノーフが率いる戦士団の可能性が高いという。

 面倒事に巻き込まれる可能性が高いが、ここで逃げると黒幕扱いされるのではないかと考え残って会うことにし、その旨をモモンガさんにも伝えておく。

 

「村長! 村の近くに騎兵の集団が!」

「ブ、ブラム様……?」

「報復にしては早すぎる気もするが……村人達を村長宅周辺に集めておきたまえ。君は私と応対に」

「解りました! よろしくお願いします」

 

 そんなにビビらなくても危害を加えてくる事は無いから安心しなよ、と言ってやれないのが少しばかり心苦しい。あくまで一人で動いてる事にしておかないと面倒事になったとき困るから仕方ないが。

 

 不揃いの鎧や武器を身に付けた戦士の集団、先ほどの画一的な装備の兵士達と比べるとアウトローな雰囲気がするが、これが王国の戦士団のスタイルなのだろう。各々が使いやすいように改造して使うスタイルは中々悪くない。

 帝国の兵士達が付近の村々を襲っているという情報でやってきたという戦士団。彼等は村であった事を話す村長の言葉に驚き、続く俺の「ギルド:アインズ・ウール・ゴウンの理念の下、虐げられる弱者を見過ごせなかったのだ!」と言う決め台詞に感動したらしく戦士長殿から握手を求められてしまった。

 この人も苦労しているのだろう。村人を守りたいという気持ちは間違いないが、それを存分に出来ないのだという無念の思いを感じた。

 クラス「エンペラー」のスキルに読心などは無かったはずなのだが、どういう訳かガゼフ殿の言葉からは真意が伝わってくる。村の人々からも凄いとかカッコいいとか守ってほしいとかの思いがひしひしと伝わってくる。

 

 これは、もしかすると俺はこの世界で神になったのではなかろうか!

 正確には神の一柱である神祖でしかないのだが。

 

 などと馬鹿な事を考えている内にもう1つの兵団が到着してしまう。

 

「ブラム殿、あの集団に心当たりは?」

「私は白ずくめの集団に知り合いはおりませんが、ガゼフ殿は?」

「ならばやはり私でしょうな。よほどこの私が邪魔らしい」

 

 やるせない顔で呟くも直ぐに気を取り直したように助力を要請してくるガゼフ殿に。

 

「国家間の諍いにまで首を突っ込む気はありませんな。ましてや戦う対価に給金を受け取る将兵達の命の取り合い、おまけに政争とあってはなおのこと」

「報酬は望まれるだけ御約束するが?」

「ならばこの付近一帯の土地を全て頂けますかな?」

「そ、それは私の一存では……」

「……ただの冗談ですとも。しかし出来もしない口約束をするのは頂けませんな?」

「ぐ、それは、不用意な発言をしました」

「まあなんにせよ、貴方に協力する気はありません。そろそろ帰ろうかと思っていたところですし」

「連れている狼達だけでも構いませんが?」

「私の言う事しか聞かないので、手を咬まれるかもしれませんぞ?」

 

 戦えば負ける事は確実である以上どうにか戦力として引き込みたいのだろうが、いい加減その気がないと解りあきらめてくれたらしい。口約束でこの付近の土地を贈ると言わないあたりやはり誠実さを旨とする男なのだろう。少しだけ気に入った。

 

「ならば、どうかこの村の住人達だけでも」

「それについては御約束しましょう。折角手ずから助けたのですから『あの連中に殺させたりしません』よ」

 

 俺の返答を受け満足そうに別れを告げる戦士長とその配下達。

 決死の覚悟で突っ込んでいく姿からは悲壮なまでの覚悟が見て取れた。

 

 

 

「太陽が地平線の彼方へと向かう黄昏時。

 輪郭が定かでなくなる事から誰そ彼という言葉からなったと言われるように、この時間帯は人と魔が巡り合う魔性の時間帯であるとされる。

 そのため人はこの黄昏時を逢魔ヶ時とも呼ぶ。

 人が魔と出逢ってしまうときであると。

 ッハァアアアたしてェ! 『魔』と出会ってしまうぬぅぉはッ! 誰なのクァァアアッ!!!」

 

「パンドラ、少し静かに」

「ハッ! 失礼いたしました、我が造物主様」

 

 悲壮な覚悟を胸に駆けていく戦士達だが、その光景をモニター越しに眺めるモモンガ達は完全に他人事である。

 それもそのはず、既にネクロロリコンは王国に恩を売るつもりだと宣言しており、アウラ達スタッフも準備は万端。後は戦士団が消耗したあたりでネクロロリコンが颯爽と駆けつけ共闘、そのままスキルマシマシで当然の勝利を飾るだけである。

 

「シカシコレホド回リクドイ行動ヲ取ル必要ガアルノデショウカ?」

「始めから共闘すればよい、と。そういうことかな? コキュートス」

「ソウダ。破軍ノ将ネクロロリコン様デアレバ御一人デ殲滅スル事モ容易イ筈」

「勿論その通りだとも。あの程度の軍勢では至高の御方々に傷一つ付ける事も叶わないだろうね。更に現場にはアウラとシャルティア、吸血騎士団の正規軍までいるのだから」

「ナラバ何故?」

「それは……」

 

 話しても構わないかと主の顔をうかがうデミウルゴスに鷹揚と頷くモモンガ。畏まりましたと一礼して、

 

「共闘した、という実績作りの為だよコキュートス。それも報酬のためではなく、善意で行ったと釘を刺すおつもりなのだよ」

 

 襲われる村人を助ける為に降臨した善意の救世主ブラム・ストーカー。そんな彼が血生臭い政争に首を突っ込むのは憚られる。しかし国民を守りたいと願う戦士長が姦計に嵌り命の危機に直面したのなら? 志を同じくする彼は居ても立ってもおれずに飛び出してしまう。

 そんなシナリオで王国戦士長という国家元首に直通な存在とのパイプを作るおつもりなのだ、と簡潔に説明する。

 更に、共通の敵との戦いを経る事で絆をより強固なものにする事が出来ると付け加えるパンドラズ・アクター(無駄なアクション付き)によって支配者達の思慮深さが一層際立つ。

 

 誰よりその思慮深さに驚愕しているのはモモンガであったが、あの設定好きで陰謀論マニアなネクロロリコンであればやりかねんと納得してしまう。

 

「流石はデミウルゴス、我が盟友ネクロロリコンさんの計画を全て言い当てるとは」

「いえ、私もここまで至って漸く全容が見えてまいりました。いえ、このカルネ村における計略、その一部でしかないのでしょうが」

「ネクロロリコンさんなら王国での立ち回りも既に考えている事だろう。一人で抱え込みすぎないようよく支えてあげてくれ、デミウルゴス」

「ハッ! 不肖の身ではありますが、全力で御方々の御手伝いをさせていただきます」

 

 モニターの中では既に壊滅状態の戦士団が映っていた。

 




現地勢はガチシリアスしつつナザリックはギャグで進む、大体こんな作りで行きます。
そして次回は現地勢で唯一アインズ様に手傷を負わせたあのニグンさんの登場です。
ネクロロリコンの運命や如何に!

こんな扱いですが現地勢の中ではトップレベルにガゼフの事好きですよ?
特に1巻の無双シーンは完全に主人公でした。不器用な生きざまが実に良いです。

そして全力でハードルを上げにかかるナザリックの愉快な仲間達。
ダメージレース的には一緒に勘違いするモモンガさん(こっちは素)はパンドラをモモンガさんに押しつけるネクロロリコン(わざと)と割と良い勝負しています。

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