墓守達に幸福を   作:虎馬

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明らかな過剰戦力ですがあくまでネクロロリコンを守るための予備兵力です。
そのため出番はあまりありません。



7.軍狼の檻

 貧しくも幸せな生活をするカルネ村は今無数の兵達に蹂躙されていた。

 いつもと同じ、そしてかけがえのない今日を過ごすはずだった人々は次々と襲われ彼方此方で悲鳴や怒声が響く。そんな中、両親の決死の奮闘により兵士の攻撃を辛くも掻い潜り村のすぐそばに広がる森林へと逃げ込んでいく姉妹がいた。しかしそのまま無事に逃げられる訳もなく、追いついた兵達の凶刃が迫りくる。

 両親に託された妹を守るため、姉は歯を食いしばり果敢に抵抗するも力及ばず殴り倒されてしまう。

 少しでも幼い妹が逃げる時間を稼ごうと立ち上がる姉、そんな姉を助けようと駆け寄る妹、そして下卑た顔を浮かべて剣を振りかぶる兵士。

 

 妹を守ろうと決死の覚悟を決めた姉、エンリ・エモットは眼前に迫る白刃に己の最期を悟る。何事もなければこれで死ぬ事だろう、ならばせめてネムだけでも助けて下さいと天に祈るしかなかった。

 

「GAAAaaahhh!!」

「ぐあっ、なんだこいつら!?」

 

 突如視界の端から襲いかかる灰白色の何かに兵士が吹き飛ばされる。そしてエンリを守るかのように灰白色の狼達が並び立つ。

 

「GRRRuuhhh!」

「狼? なんでこんなところに!」

「クソ! 森から出てきやがったのか」

 

 幼い姉妹を斬り伏せるだけの簡単な仕事から精悍な体躯を誇る狼との戦いに変化してしまった事に思わず愚痴をこぼす兵士達。しかし異変はこれだけでは終わらない。

 

「間一髪、と言ったところか。やれやれ間に合ってよかった」

 

 上質な仕立ての服を着込み片眼鏡をかけた老紳士が不快気な面持ちで歩み寄ってくる。

 オールバックにセットされた頭髪と丁寧に揃えられた口髭には白髪が交じっていたが、その眼光は鋭く全身には生気が満ち溢れている。何より全身に纏うオーラは怒気に満ちていた。そんな老紳士に騎士の如く付き従う灰白色の狼達もまた彼の怒りに呼応しているのか牙を剥き出しにして低い唸り声を上げる。

 

「な、なんだお前ら! どこのどいつだ」

「礼儀も知らぬか。もはやかけてやる情けは無いな。『これ以上悪さが出来ないようにしてやれ』」

 

 弾かれたように駆けだす狼達に反応する兵士達だったが野生の身でありながらも巧みな連携やフェイントを織り交ぜた攻撃に為す術無く剣を持つ手を食い千切られていく。

 

 痛みと恐怖に我を忘れ仲間のもとに逃げ帰っていく兵士達を見ていくらか溜飲を下げたのだろうか、老紳士はエンリに向き直り、

 

「危ないところだったね。御怪我は、無いはずがないな。幼い妹を守るその雄姿、感服した」

 

 と懐から赤い薬液の入った小瓶を取り出し「傷薬だ、飲みたまえ」と差し出した。

 

 エンリは死の危機を脱した事で抜けかけた気を張り直し、命を助けて貰った事の御礼を言い更に村を助けてほしいと必死に嘆願する。

 

「どうかお願いします御貴族様!」

「おっ!? 貴族。……私が貴族に、見えたのかね?」

「え? ええ、まあ」

 

 上品で高そうな仕立ての服を着込んで農民や冒険者という事は無いだろうと、それ以上に纏うオーラが自分達平民とは違いすぎるため思わず口にしたが不味かったかと焦るエンリだったが。

 

「うむ。ああいや、今の私は御忍びなのでね? ただの旅好きな老人という事にしておいてくれたまえ」

「は、はあ」

 

 ここでは深く突っ込まない方がいいだろうと曖昧な笑みを浮かべるエンリだったが、すぐさま村の危機を思い出し再び嘆願する。

 

「どうか村を御救いください! お願いします!」

 

 もとよりそのつもりだったのだろう、自称旅好きな老紳士は深く頷き、

 

「うむ、承知した。偉大なるギルド、アインズ・ウール・ゴウンが一人にして栄光あるナザリックの支配者の一人であるこの、……ブラム・ストーカーが! 微力を尽くさせて貰おう」

 

 言うなり彼に従う『軍勢』へと指示を飛ばす。

 

〈敵は無辜の民を襲う悪逆非道の輩、情けも容赦も不要! アインズ・ウール・ゴウンの理念の下、今ここに義の旗を掲げん!〉

 

〈下卑た笑いを浮かべた狩人気取りの悪漢共に誰が追われる獲物なのかを教えてやれ。そして村の中央に追い立てるのだ。奴等がやろうとしている事を、逆に味わわせてやれ。細かな誘導と住民の避難、そして死なない程度の攻撃の差配はお前に任せる〉

「Won!」

〈さあ、狩りの時間だ! 行動開始!〉

 

 指令を受けてリーダーと思しき狼は遠吠えを以て号令をかける。これに応えるようにして一回り小さい狼の群は一斉に村に目掛けて駆け出していく。

 しかしエンリは更に多くの、それこそトブの大森林そのものが動くかのような気配すら感じていた。

 

 

 

 その変化は徐々に、しかし確実に村全体を呑み込んでいく。

 

 まずは襲う兵士達。

 彼等はまず付近で聞く事の無い大型の獣の声を聞き任務に支障が出る可能性が頭によぎる。そして死臭につられて出張ってきた獣に襲われるのではという漠然とした不安に襲わることとなる。

 

 次に襲われる村人達。

 彼らもまた聞きなれない獣の声を聞き更なる異変が村を襲っている事を悟る。しかしただ襲われ、追い立てられ、殺されるだけの状況を変えうる何かがあるとも、何故かはわからないが感じていた。そんな僅かな希望の光が胸に灯り、結果熱が全身を駆け巡っていく。

 

 そして劇的な変化が起こる。

 片腕を引き千切られた兵士が逃げ戻ってきた事で兵士達にとっての脅威が迫ってきたのだと判明してしまう。見えざる獣の恐怖が徐々に兵士達に蔓延し士気の低下を引き起こし何より焦りが見え始める。

 同時に強者の優位性が崩れ始めた事を見てとった村人たちは農具を手に逆襲を開始、襲われるばかりであった状況を押し戻すことに成功する。

 元々村の中央に追い立てた後にそこで纏めて殺す算段を立てていた兵士達はけが人こそ多く出したものの死者はほとんど出していなかった。その事実がここにきて重くのしかかる。

 原因不明の恐怖に襲われ、息を吹き返した上に異常なまでに高度な連携を取って襲ってくる村人たちの逆襲にあい、更に獰猛な獣達までもが見え隠れしている。

 見える脅威と見えざる恐怖に駆られ、追い立てられていく兵士達。

 

 そして気がつけば兵士達は本来追い立てる筈であった中央広場に追い詰められていた。

 

 有り得ない、何が起こったというのか、何故この獣たちは村人を襲おうとしない、農民ごときがどうして自分達兵士に立ち向かえる。次々と疑問が浮かんでは消えていくが焦燥に駆られた精神状態ではまともな判断など下せない。

 腕をへし折られた者がいた。手首から先が無くなった者がいた。剣を咬み砕かれた者すらいた。それらの惨状が目に入る度に恐怖が足元より這い上がってくる。

 周囲を取り囲み唸り声を上げる統率された狼達に恐怖し、ついには泣き始め喚きだす者すら出始めた時だった。

 

「追い立てられ、一方的に狩られる気分を味わってどうだったかね?」

 

 他の狼より一回り大柄な見事な狼を引き連れた老紳士が現れる。

 その目には情けの欠片も無く、哀れな罪人が処刑される様を見下ろすかのような気配すら漂わせていた。

 事実この場を処刑場として考えていた兵士達からすればついに処刑人が現れたようにしか思えない。

 現に商人の息子であるという隊長が金を以て解決を図った際に放たれた殺意が凝縮したかのような視線はそれだけで隊長の口上を押しとどめ死を覚悟させたほどだった。

 

「……私は無辜の民が襲われている事が我慢ならなかった。そしてなにより我等偉大なるギルド、アインズ・ウール・ゴウンは虐げられる弱者の救済こそを是としている。だからこそ私は推参した。しかしながら命令の下で来ている君達を殺してしまうのもまた我等の理念から外れる行いだ。故に、装備を外し速やかに立ち去ると言うならば、これ以上私は君達と関わる気は無い。速やかに村を去りたまえ」

 

 もっとも村人たちの報復を止める事もしないのだが? と周囲を見渡すが、慣れない闘争に疲労しきった村人達は若干悔しそうに首を振る。

 

「では君達、『村が見えない場所まで御案内してあげなさい、二度とこの村に来ないように』」

 

 装備を解いた男達を狼達が村の外に追い立てるようにして駆けていく。その恐怖にひきつった顔を見て村人達は僅かに溜飲を下げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 村長に村を助けた御礼をと家の中に招かれるネクロロリコンをモニター越しに見て作戦の成功を安堵するモモンガは一旦〈伝言〉を切りデミウルゴスに捕虜の尋問の指示を出す。

 事の重大さを理解するデミウルゴスも即座に捕虜たちのもとへ駆けていく。

 

 この世界への進出、その第一作戦は今のところ大成功と言える状況だった。

 所属不明の兵団を発見したとアウラから連絡が上がった際は作戦の延期を視野に入れて静観の構えを取ったが村を襲う様子を見るや即座に救援を決意、疫病による間引きや犯罪者への粛清という雰囲気ではなかったことも一因としてあるが何より村人達との有利な接触を図る事が出来るとの判断があったためだ。

 なにより一方的な虐殺を見てアインズ・ウール・ゴウンのかつてのありかたを訴え救助すべしと声を上げたネクロロリコンとそれに応えたモモンガの発言が決定打となった。

 弱者が一方的に蹂躙される姿に心を痛めたネクロロリコンの言葉に従いデミウルゴス主導のもとアウラのスキルとシモベ達の協力により最初期に抵抗した一部の者以外は怪我こそすれど命に別状のない程度で済んでいる。

 

 至高の御方々の慈悲深さを称えるセバス達を残し部屋を出るデミウルゴスは一人別の事を考えていた。即ち至高の御方々の真の狙いとは何か、である。

 一人残らず捕えた兵士達、村に残された武器の数々、そして未だ解かれぬナザリックによる包囲網。

 

「やはりそういう事でしたか、ならば私も急がなくてはなりませんね」

 

 もし捕虜たちから不利な情報を聞けば即座に村を「兵士達」によって皆殺しにする事で事件そのものを握りつぶすおつもりなのだ。そしてとくに問題がなければそのまま村を救った英雄としての名声を得る。殺しを良しとしない慈悲深き英雄として。

 先々の事を見越して即座にこの判断を下したネクロロリコン様、そしてその考えを正確に読み取り出撃を命じられたモモンガ様。なんという智謀、そしてそれを即座に決行する胆力、やはり至高の御方々は我等のはるか上を行かれている。

 この素晴らしき主達にお仕えする事が出来る幸福をかみしめながら足早に捕虜たちのもとへ向かう。

 

 ご期待に添えられないシモベに存在意義など無いという覚悟を持って。

 




「カルネ村の戦い」

主演:ネクロロリコン
演出:デミウルゴス
協力:アウラ・ベラ・フィオーラ

スポンサーはギルドアインズ・ウール・ゴウンでお送りしました。

本編ではデスナイトさんによって無残な死を遂げる隊長さんもまさかの生還です、ちゃんと「村が見えない場所」に無傷で辿り着きましたよ!

明らかに過剰戦力でしたが本編のアインズ様はあくまで突発的に動いたから一人だっただけで情報を得てから動けばこんな感じで動いていたのではないかと思っています。
あの尋常ならざる用心深さは後の事を知っている二次創作であっても追い付くのが難しいレベルです。そこがオーバーロードの面白さですが。

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