この場を借りてお詫び申し上げます。
ちょっと今回は長いです。
ネクロロリコンのキャラや改変(?)されたあの方についても少しずつ出していきます。
では、ごゆっくりどうぞ。
「お待ちしておりました。愛しの支配者様方」
一旦第9階層の自室に戻り装備品の最終チェックを行ってから表層部中央霊廟に転移したモモンガとネクロロリコンは深紅の鎧を纏う一団の歓待を受けた。
中央には鮮やかな緋色の鎧を身に纏う銀髪の戦乙女、1階層から3階層の守護者シャルティア。
脇に控えるは血族としては最下級の下級吸血鬼とは言え上限一杯までレベルを上げられた上揃いの全身鎧「アカゾナエ」を与えられた吸血騎士団。
整然と隊列を組んだ騎士団は正しく転移してきた主達を待ちかまえていた。
「ご、御苦労シャルティア君。時間ぴったりだね」
「お褒めに与り光栄でありんす。しかしながら御方々の御命令とあらば万全を期すは当然のことでありんす!」
「うむ、シャルティア。お前の忠義に感謝する」
「感謝など! わたし達シモベは至高の御方々の御役に立つ事こそが喜びにして生きる意味でありんす。どうか感謝などと仰らないでおくんなまし」
「そうかね。ではシャルティア君、これより我々は変化した地表を直々に視察する。君は私の騎士団の半数を伴い先行し、我々の身の安全を確保して貰いたい」
「畏まりました。至高の御方々の先陣、見事務めて御覧に入れます!」
何故だろうか、シャルティアが拳を握り気合いを入れる様子を見ていると何かを思い出す。
「よっしゃあ! 俺のゲイ・ボウが火を吹くぜ! ひとっ走りして先に陣取ってるぜぃ!」
そうだ、みんなで狩りに行くとき率先して場を盛り上げてから狙撃に適したポイントに陣取るべく飛んでいく同志ペロロンチーノだ。ふざけているようで実際は位置取りで仲間を待たせないよう気遣う良い男であった。別に死んだわけではないが。
「どうかなんしんしたか、モモンガ様ネクロロリコン様?」
「いや、頼もしい姿をみて安心してしまったのだよ。君が警護についているなら安心だ」
「もっちろんでありんす! わたしの目の黒いうちは御方々に傷一つ付けさせたりしないでありんすよ」
「実に頼もしい、よろしく頼むぞシャルティア。では行くとしようか」
騎士団を伴い意気揚々と進むシャルティアを先行させ警戒しつつ進んでいく。ゲーム時代にはそれこそ見あきるほど通ったこの中央霊廟もリアルになった所為か目新しい気がする。
そんな益体も無い事を考えつつ霊廟を出ると。
「おお!」
目に飛び込んできたのは満天の星だった。
リアルでは汚染された大気に阻まれ、更に常夜灯の光が乱反射するためこれほどまでに明瞭な星空というものは地上から見る事が出来ない。
本来ナザリックがあった世界ヘルヘイムも常夜の世界ではあったが分厚い雲が覆う荒涼とした世界であったため星空というものは存在しなかった。
文字通り生まれて初めて見る満天の星をこうも突然見せつけられてしまっては思わず声の一つも洩れるというものだ。
今は星空を鑑賞している場合ではないと我に返った俺は隣のモモンガさんに振りむき、同じくこちらを向いたモモンガさんと顔を見合わせた。
どうやらそろってこの星空に心を奪われていたようだ。表情の無いはずの髑髏顔が何処となく気恥ずかしそうにしているように見える。俺だってそんな顔をしている事だろう。
立ち止まった俺達を見て異変かと周囲を見渡すシャルティアには悪い事をしてしまった。
「すまないシャルティア君。我々がいた世界にはこのような星空は広がっていなかったものでね。思わず見惚れてしまったのだよ」
「それは素晴らしい事でありんす。美を愛ずる心は誰にも抑えることなど出来ぬとペロロンチーノ様も熱く語っておられたでありんすから」
空を見上げて穏やかに語るシャルティアは正に貴族令嬢と言うべき雰囲気を身に纏っていた。
ただし、同志ペロロンチーノの言葉という点だけがどこか引っかかるような気もしたが。
外部の調査から戻ったセバス達と合流した俺達はそのまま開けた場所で広域索敵の準備に取り掛かる。
やる事は簡単、〈眷族招来【吸血蝙蝠・群体】〉を使い最上位吸血鬼である《神祖》故に無駄に大量に呼び出す事の出来る吸血蝙蝠達を呼び出し群体操作に適したクラスである「将軍」のスキル〈散開〉と〈広域索敵〉によって一気に周囲の様子を探ってやるだけだ。これは元々一日数回使える〈眷族招来〉を緊急時に使う目くらまし以外で何かに使えないものかとぷにっと萌えさんに相談したところ、フィールドにばらまいて索敵させればいいと「将軍」スキルの使い方などを教えて貰って完成した代物だ。魔力を用いることなく地形の把握と敵の所在を纏めて調べ上げる事が出来る為意外と重宝している。更にばらまく眷族たちに〈視力強化〉〈看破〉〈敵感知〉〈感知増幅〉〈超常直感〉〈上位幸運〉〈加速〉と索敵に有用な魔法をたっぷりかけてやれば上位の情報系魔法詠唱者にも負けない索敵能力を発揮する事が出来る。
「行け、我が眷族達よ!」
大げさに手を振り必要な魔法をかけた吸血蝙蝠達にとりあえず飛べるだけ飛んでいくように命令を出し全方位に出発させる。そういえば今一時を過ぎた頃だったと思うがこの世界では何時になるんだろうか? 草が生えるのなら日も昇るだろうけど。
「盟主殿、周囲の警戒網も私が構築してしまって構わんかね?」
「そうだな、眷族の数にまだ余裕があるなら頼む」
「承知した」
全周索敵は自分を起点に一定角度ずつにまっすぐ進ませるだけで良いから簡単だが警戒網となると多少細かい指定がいる。このあたりは司令官型プレイヤーの腕の見せ所だ。
「〈眷族招来【吸血蝙蝠・群体】〉〈編隊・三分割〉! 第一『円周警戒陣形』! 第二『索敵陣形』! 第三『全周埋伏』!」
新たに呼び出した吸血蝙蝠達を「将軍」のスキルで3チームに分割する。《神祖》の無駄に多い召喚数だから出来る荒技だ。これらにそれぞれ異なる命令を出す事でローコストハイリターンな警戒網を構築する。まず基点となる地点から一定距離を飛行させ続ける円周警戒陣形、次に基点から一定距離内をランダムに飛び回る索敵陣形、最後に基点から一定距離内に〈潜伏〉させて敵を待ちかまえる全周埋伏。空を飛びまわる吸血蝙蝠に気を取られているうちに伏兵として隠密能力にボーナスがかかった第3隊に引っかける事が出来るという草原地帯専用の中々いやらしい陣形だ。これを考えたぷにっと萌えさんはやはり天才だと思う。後はこれ見よがしに影狼をばら撒いておけば完成だ。
ゲーム時代ではマクロで指定していた命令も頭に思い浮かべるだけで大体通じるのだから実に便利だ。それともずっとやっていたから出来るだけなのだろうか? このあたりは追々調べておいた方がよさそうだ。
「お待たせした盟主殿。全周索敵並びに周辺の警戒網の構築全て恙無く」
「うむ、流石は我が盟友ネクロロリコン。見事な仕事だ」
「なに、この程度雑作も無い」
最後にドヤ顔で支配者ロールも欠かさない。
俺達に守護者達が従っているのがゲームの仕様による強制的な作用なのか、あるいはこれまでナザリックを作り上げ維持し続けた実績によるものか解らないのでとりあえず凄そうなふりをしておくことで意見が一致している。今回やり過ぎなまでに各種スキルやプレイヤーズスキルを使いまくったのは勿論見栄を張るためだ。
特に俺達アンデッドと致命的に相性の悪いシャルティアの反応はと見てみると、
「御見事でございます。あれほどの群体を縦横無尽に操作するとは流石は至高の御方」
「わたしも吸血鬼として見習わせていただくでありんす!」
目を輝かせていた。
見た目少女のシャルティアは年相応に、見た目老年のセバスもやや興奮した面持ちで称賛の言葉を贈ってくる。
一先ず落胆されなかったようで何よりだ。
「ありがとう二人とも。だがこの程度の事、私からすれば児戯にも等しい事だよ?」
「流石ネクロロリコン様! この程度では称賛に値しないと仰るのでありんすね!」
「ナザリック1の将帥の御力。その片鱗、しかと拝見させていただきました。今後の糧とさせていただきます」
ヤバ、さすがに調子に乗りすぎた。これ以上高度な操作技術はもう持ってないよ。
モモンガさん助けて!
「うむ、何といっても群体の制御にかけては我等ギルメンの中でもトップの腕前だったからな。この程度雑作も無いとも」
違うから! そっち向いたのはもっと褒めてって意味じゃないから!
「俺良い事言ったろ?」みたいなドヤ顔いらないから!
「盟主殿! 警戒網の構築も終えた事だしそろそろ内部に戻るとしよう、うんそれが良い」
「え? うむ、そうだな。シャルティアとセバスは本来の業務に戻るが良い」
「我々は一足先に第9階層の自室に戻り今後の方針について検討するので、御先に失礼するよ」
「ネクロさん? 二人とも、更なる忠勤に期待する」
モモンガさんが言葉を終えるなり逃げるようにして転移する。
いやあえて言おう、正しく逃げ帰った。
そして転移した自室で思わず地面に突っ伏し「やっちまったああああああ! いきなり鬼札斬るとか初心者じゃねえかああああああああああ!!」と頭を抱えて悶える。
恥ずかしすぎる。「この程度児戯にも等しい」ってその児戯が出来るようになるために何時間ソースコードと格闘したと思ってんだ俺は! これ以上のスゴ技要求されても正直思いつかん。
ふぅ。
まあ今のところは上位者としてメンツは保てたと思っておこうか。最近パニックになると妙に頭が冴える気がするけど「カリスマ」とか「エンペラー」とかのクラスが影響してるのかなぁ?
暫く地面に座り込み頭を抱えてうんうん唸っていると、
「どうぞ、花茶です。御気が静まります」
「ああ、ありがとう」
差し出されたティーカップを何も考えず受け取り口に含む。
ああ、落ち着く香りだ。口の中に広がる香りと旨味。心が安らぐ。
このティーカップも金縁にバラの意匠が実に俺好みだ。というより俺が気に入って買ったティーセットだ。
「・・・アルベド、君は何時からここに?」
「御命令に従い第9階層の点検を行っておりましたところ、丁度ネクロロリコン様のお部屋の点検中に」
もう一口お茶を飲む。旨い。
「御代りをお注ぎします」
「ありがとう」
床に胡坐をかいて座りお茶を飲む貴族風の装いの老人とティーポットを持ち脇に控える傾城の美女というシュールな光景がそこにあった。
「・・・先ほどの醜態は「世界の崩壊に伴う異変に襲われたこのナザリックを背負う至高の御方々の御心労は察して余りあるものがございます、どうか御自身のお部屋の中では御心安らかに」」
そっかー、その設定まだ生きてるんだー。
ちらりと顔を横眼で見るとにこりと微笑み返される。
何という破壊力。これが守護者統括、同士タブラ・スマラグディナの最高傑作か。
「気遣い感謝する。ここで見た事は――」
「私はお疲れになったネクロロリコン様に備え付けのティーセットをお出しした、それだけでございます」
皆まで言わせず微笑むその姿は正に女神。種族はサキュバスだが。
「私は眷族の操作に戻るのでモモンガさんの下に行っておくれ。集中する必要があるので暫く部屋には誰も入れないように」
「畏まりました。ではモモンガ様にもそのように御伝えしておきます」
去り際に「どうか御自愛くださいますよう。我等シモベ達全員に代わりお願い申し上げます」と丁寧に頭を下げて退室していった。
おそらく拠点のNPC達には多少情けない姿を見せても見損なわれたりしないだろう。少なくとも現状が落ち着くまでは。
それにしても設定魔の同志タブラが書き上げたあの長大な設定文をおそらく忠実に再現しているだろうアルベドは正に理想的な女性にしてこれ以上ないほどに有能な存在と言っても過言ではない。
ショックで頭を抱える俺に余計な声をかけず、それでいて素早く立ち直るようにアシストする様は素晴らしい。
「でも、」
ビッチなんだよなぁ・・・
という訳で漸くお外に出ました第4話です。
あのお方は基本的に完璧に振舞ってもらいます。そのためネクロもモモンガさんも高評価です。
ただしビッチである。
誤字の修正と並行して魔法やスキルは〈〉で、種族は《》で、マクロ等を使って特殊な動作をしているときは『』にしてみました。
会話の「」以外はそれぞれ技を使ってるんだな~程度に認識してもらえればと思います。
なんとかの群体ってバラけさせて索敵させたら便利そうだなって考えから妄想した全周索敵でした。
流石に「ジェネラル/将軍」のクラスがないと出来ない、というオリ設定です。
覇王炎莉将軍閣下は「サージェント/軍曹」のクラスでゴブリンを動かしてそれっきりですが、新たに得た「コマンダー/司令官」や「ジェネラル/将軍」のスキルも見てみたいものです。
何が出来るようになるのでしょうか・・・ただでさえ過剰戦力なのに。
最後に、評価をしてくださった皆様、コメントを下さる皆様いつもありがとうございます。
何というか気合いが乗りますね、高低どちらも励みになります。
また次話も楽しんでもらえるよう頑張ります。