二次制作者として非常に口惜しく思いますが、原作の設定に忠実な二次創作とは言えない物となる事を予めご了承ください。・・・ネクロロリコンとかいうキャラクターがそもそも「ありえない存在」ではありますが、これはモモンガさんを救済する為には入れるしか無かったので勘弁して下さい。
竜王国女王の親書を携えた使者に対し、ブラムは「竜王国の存亡は周辺国家の危機に直結する。リ・エスティーゼ王国の一員として支援は当然である」と返答した。
この発言に喜んだ使者であったが、続く「帝国が王国の領地を狙って侵略をもくろんでいるため、この問題を先に片づけなければ領主として迂闊に動くことはできない」という発言に頭を抱える事となった。帝国の領土的野心は周辺国家にも知れ渡っていたため、改革の最中である王国に出兵しない筈が無かったからだ。
また別に送った使者から竜王国の状況を聞いたリ・エスティーゼ王国新国王も、「竜王国の危機は、我等周辺国家及び領域内全ての『住民』に対する脅威であり、救援を送る事は当然の行いである。これを妨げるということは周辺諸国に対する敵対行為であると認めざるを得ない」との宣言を発表していた。国を挙げてブラム伯爵の発言を支持し、帝国に対する牽制を行った形だ。
王国に派遣された使者はこの返答をすぐさま竜王国に持ち帰り、帝国に停戦を宣言させる事が出来れば「狼王」ブラム・ストーカー・デイル・ランテア伯爵の救援が来ると報告した。
これを聞いた女王は即座に自ら外交交渉を行う事を決定。カッツェ平原の東端を僅かな供を従えて北上し、皇帝ジルクニフとの直接交渉に向かった。
交渉は難航する事と思われたが、ここで女王に思わぬ救援が現れる。
「我々法国は人類の救済を国是としており、人類領域の保護並びに繁栄を目的としている。そのため我が国は、教義により竜王国に対する救援を行う事は無いが、リ・エスティーゼ王国及びブラム伯爵の行いを高く評価し、その行いを支持するものである。またこれに対するあらゆる妨害は我が国を含む周辺国家全てに対する敵対行為であるとみなし、周辺国家国民全ての敵として断固排除する所存である」
国家間の争いに対して基本的に大きくは動かなかった法国が、突如として帝国に対して最終勧告ともとれる宣言を発表したのだ。
これには剛毅なジルクニフも慎重にならざるを得なかった。元より王国への宣戦布告は見送られる事が半ば決まっていたこともあるが、主席魔法使いであるフールーダが周辺国家全てを敵に回した上にビーストマンの侵攻が始まることの危険性を説いた事が決定的であった。
こうして帝国に乗り込んできたドラウディロン女王は、想像よりも遥かに早く停戦の宣言を引き出す事が出来たのだった。
皇帝から停戦の誓紙を預かった女王はすぐさま馬車を走らせ一路西へ、ブラム伯爵の治めるエ・ランテルへと疾走する。
既に国を出て帝国に辿りつくまでに4日、帝国で皇帝ジルクニフの誓紙を受け取るまでに更に2日が経過している。こうしている間にも自国の兵達はビーストマンの軍勢に食い荒らされているのだ、一秒でも早くブラム伯爵には救援に来てもらわなくてはならない。
帝都アーウィンタールを出発し馬を潰す覚悟で駆けに駆け、エ・ランテルに辿りついたのは僅か2日後の事であった。
必死の思いで辿りついた女王は即座にブラム伯爵との面会を求めるが、
「い、いない……? どういうこと?! どうしてブラム伯爵がエ・ランテルにいないの!!」
「申し訳無い。女王陛下が自らお越しになると知っておれば、父上とて……」
救援を表明していたブラム伯爵が不在であった。
後継者候補であるブラドが対応に出てはいるが、肝心の領主であるブラムは『このエ・ランテルにいない』という。
「なんでよ!? だって伯爵は、ブラム伯爵は帝国が停戦するならすぐに救援に来てくれるって……!」
「うむ、何分気の短い御方故、既に――」
「既に何よ!! ドラウのこと助けてくれるって信じてたのに!!!」
激昂しつつも女王は幼女形態の演技は崩さない。
涙を流し、感情的に捲し立てる幼女の姿は万民の心をとらえる。ここが正念場なのだ。ここで息子の心を鷲掴みにすれば、最悪次期領主が援軍を出してくれるかもしれないのだから。
「どうか御理解頂きたい、竜王国女王陛下。父上は――」
「言い訳なんか聞きたくない!! 今こうしてるあいだにも我が国の兵士たちが、皆が、死んじゃう……!!」
「? いや、それは問題あるまい」
「……あ゛ぁ?」
思わず素の声が零れる女王であったが、さすがは十年来の幼女。即座に化けの皮を被り直す。
「それってどういう意味なの?」
「何、父上であればとっくに――」
―――ビーストマンを駆逐しておるよ。
〈諸君! 長く苦しい忍耐の時は終わった!! 私の策を以て! 諸君等の槍を以て! ビーストマンの脅威に怯える日々に、終止符を打つのだァッ!!!〉
「「「「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!」」」」
竜王国女王ドラウディロンがエ・ランテルに到着した頃。
竜王国東端において南北に連なる3つの城塞群の内、やや東よりに突き出た中央の要塞都市「テルモ」の高台に、既にブラム伯爵はいた。
女王が帝都アーウィンタールに到着し、法国の宣言が届いたその瞬間に伯爵は動いていたのだ。聡明なる皇帝ジルクニフは停戦を宣言すると見越して。
兵を纏め、軍備をかき集め、アンデッドが跋扈するカッツェ平原を縦断した彼は、既にビーストマンとの戦線を開き、勝利を奪っていたのだ。
〈侵略者は殺せ! 奴等は傷が癒えれば何度でも襲ってくる! ならば、一匹残らず殺しつくすしかないのだ!!〉
「「「「殺せ! 殺せ! 殺せ!!」」」」
ブラム伯爵は砦に迫りくるビーストマンの一氏族、ジャガー族600余りを狼の群による奇襲で皆殺しにしてみせるという鮮烈な登場をしてみせた。ビーストマンという種族の中ではやや貧弱な氏族であったとはいえ、これは長らくビーストマンの脅威に凝り固まった竜王国軍の認識を塗り替える出来事であった。
彼等にとってビーストマンとは倒すものではなく、あくまで追い払うものであった。硬く門を閉じ、城壁の上から矢を射かけ岩を落として負傷させ、ひたすら撤退を待つ。これこそがビーストマンとの戦であったのだ。倒そうという気概など、もはや彼等には無かったのだ。
〈野蛮なる蛮族どもには! 無知なるけだものどもには! 苦痛と、恐怖を以て知らしめなくてはならないのだ!!〉
「「「「然り! 然り! 然り!!」」」」
その認識を激変させたのがブラムである。
城砦に迎え入れられた伯爵は挨拶もそこそこに高台へ登り、兵士たちへの〈激励〉を開始した。
曰く、これは生存競争であると。
曰く、侵略者は死ぬまで止まらないと。
曰く、屍山血河の先にこそ平穏の明日はあると。
〈諸君、この戦いは我々の生きる領域を護る戦いである! 我々の勝利の先に、我々が築き上げた屍の先に! 輝かしい未来があるのだ!! 諸君の絶望は諸君等だけのものではない、将来に存在する子子孫孫全ての者達の絶望であると知るがいい!! 故に、私は諸君にこの言葉を贈る。ネバーギブアップ、ネバーギブアップだ!! 不屈の精神のその先に、勝利が! 光り輝く明日が待っているのだァッ!!!〉
「伯爵様、ねばあぎばっぷとは?!」
「諦めんことだァッ!!」
「「「「うおおおおおおおおおおおおおお!! ねばぎば!! ねばぎば!! ねばぎばあああああああああああああああああああああ!!!!!」」」」
テルモ城砦をかつてないほどの熱気が包み込む。
勝てるのだと、ビーストマンの脅威に怯える日々は終わりであると。
この男に付いていきさえすれば、明るい未来が待っているのだと。
〈私は諸君等に勝利を与えよう! 敵を討取る武器を!! 身を護る盾を!! そして、彼奴等を皆殺しにする必殺の戦術を!!! 見るがいい!!〉
ブラムが引き連れてきた荷駄隊、その覆いが一斉に取り払われる。
そこにあったのは、膨大な軍需物資であった。
「槍だ! それも、この輝きはオリハルコン製か?!」
「一体何本あるんだ? こんなに大量の槍を用意するのに一体いくらかかるってんだ!」
「見ろ、あっちには水薬もたくさんだ!」
何と言っても600からなるビーストマンの軍勢を虐殺してのけたブラム伯爵が用意した戦備である。兵達の興奮はいやが上にも高まっていく。
〈諸君等の中から槍の扱いに長けたもの、5000を選抜せよ! 勝利の美酒、このブラム・ストーカーが馳走しよう!!〉
こうして、狼王・竜王連合軍重装歩兵隊5000が誕生した。
これは帝国が停戦を決定した僅か2日後の出来事であり、ビーストマン軍3000が消滅する前日の出来事であり、そして女王が帰国して目の当たりにする戦勝報告の山、その極一部を占める出来事であった。
切りが良いので今回はここまでです。前回からすこしあいてますし。
ビーストマンの情勢等(オリ設定)も書いていこうかと思いましたが、蛇足感が凄まじかったのでバッサリカットです。
一応言っておくと、法国はまだ使者を出せていません。ブラムが動くと聞いて必死にゴマすりをしただけです。