墓守達に幸福を   作:虎馬

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???「悪いなザイトルクワエ。私の慈悲は信者と人間限定なのだよ!」
????「さらばだ。せめて美しく散るがいい」

タイトルに特に深い意味はありませんよ? 本当です。
ネクロさんの本気を少しくらい書いてみたかったのです。
折角大量に設定を書きだしたのに一切使わずに終わるのは悲しいので。

そしてどのような道を歩もうとザイトルクワエに生存の可能性は皆無という事実。
哀れ半端な強者。


36.べりー くるします!

「御報告申し上げます。アウラより、世界を喰らう魔樹が復活の予兆を見せているとの報告が入りました」

 

 その報告はエ・ランテルの統治をセバスと血族のブラドに任せ、対帝国の戦略を練っている最中に上がってきた。

 とあるドライアードをナザリックの新たなる仲魔として迎え入れる際に聞いた魔樹の存在、万に一つの危険性を考えてアウラには定期的に付近を捜索して予兆を見逃さないようにと言っておいたが、遂に復活の兆候が出たという。

 

 この報告を受けて即座に対応会議が開かれた。そして相手のレベルが90にも満たないと解った時点で、守護者達が集団戦闘を行う訓練の一環として討伐する事が決まった。

 同時にあえて派手に戦い周囲に強者が現れないかを待ちかまえるという方針も。

 

「今回の戦闘は、諸君に集団戦の経験を積んでもらう事がある意味最大の目的だ。その為火力を抑え、あえて長引くよう制限を設ける」

 

 今後の対ギルド戦闘を見据えて集団戦闘の経験を積ませる。これは非常に大切だ。

 ソロとパーティーでは戦いというものが全く違う。そのあたりの事を身を以て知ってもらう良い機会になってほしいところだ。

 

「勿論この私が指揮を執れば魔樹とやらはテンカウント以内にキャンプファイヤーにしてみせるとも。しかしそれではダメだ。私のいないときに守護者同士で連携を取れる事こそが広大な領地を手に入れたこれからのナザリックに必要な事なのだからな」

 

 地下大墳墓に籠って迎撃戦を行うこれまでとは違うと強調することで年少組にも理解して貰う事が出来た。さすがモモンガさんの説明術は解りやすい。もういっそ自分で話せばいいのに。まあ個人的に楽しんではいるし、何より現状だと俺はかなりの嫌われ役だから重要ポジションみたいな扱いをしてくれるのは助かる。

 ……そろそろ後ろから刺される危険があるし、エントマとかセバスとかから。

 

「まずはコキュートス君。君は敵に張り付いてダメージソースになってもらう。ひたすら近距離で殴り続けてもらおう」

「承知イタシマシタ!」

「ただし君が本気で斬ってはすぐに終わってしまうので幾らか縛りを設ける。まずスキルや魔法は使用しない事。そして武器は二戦級のものを使用する事。以上だ」

「時間ヲカケル事ガ重要ナノデショウカ?」

「今回は、だ。本来の戦闘では勿論高火力の攻撃を打ち込み速やかに終了する事が望ましい」

「その本来の戦闘で必殺の一撃を放つ事が出来るよう、今回連携の確認を行うという事だ。勿論何も考えずひたすら強力な攻撃を打ち込めばいいという訳では断じてないのだが」

「理解イタシマシタ。御教授有難ク存ジマス」

 

 強敵との戦闘ではそもそも近づけないという事もある。そんなときにどうやって近付くのかが前衛火力職のテーマの一つと言える。そして近付いてからの技の選択もかなり大切だ。この辺りはAIで設定するのは少し難しい。敵が固定されてきた末期では相手の種族等に応じてピンポイントで対処していたものだが。

 

「次にアルベド君」

「はい。コキュートスの護衛でございますね」

「その通りだ。こちらは特に制限を設けないが、スキルの使用回数を減らし自身や仲間の動きで何処まで被害を減らせるかを考えながら戦ってみてもらいたい」

「タンク職は地味だがよく周りを見ていないと務まらない重要な立ち位置だ。意外と工夫できる点も多い。創意工夫に期待する」

「畏まりました」

 

 その後も二人がかりでポジション毎の役割や目的を説明していく。

 揃って偉そうに語っているが、全てかつての仲間達の受け売りである。右も左もわからないゲーム初心者だったくせに色々考えなくてはならない支援職だった俺と、ややバフよりの魔法詠唱者だったモモンガさんはそれはもうたっぷりと御勉強会をしたものだった。

 

「遊撃というのは隙を見て突っ込めばいいという訳ではない。相手のパターンを把握し、仲間の連携の合間を狙って動く敵の攻撃を邪魔し、またターゲットを分散させ――」

「バフ職は戦いを左右する重要なポジションだと言っていい。如何に強化を切らさず、かつ相手を効率的に弱体化させ続けるかを――」

 

 かつての初心者講座を思い出し少々熱が入ってしまったが、大事な事だから仕方ない。かつて仲間達から教わり、それを仲間達の忘れ形見に教えるこの状況は感慨深いものがあったが。

 

「長くなってしまったが、大切なのは周りをよく見るという事なのだよ」

「敵が何をして、仲間が何をしようとしているのか。そして自分に何ができるのか。それらを常に考える事が集団戦の基本だと心得よ」

 

 説明はこんなところだろうか? 結局やってみないと解らないからむしろ反省会の事を考えてよく見ておかなくては。

 俺は基本フィーリングだから主にモモンガさんが!

 

 

 

 

 

「ほう、確かに見た事の無いモンスターだ。未知のクエストのボスあたりかな?」

「レイドボスとしては中・下級プレイヤー用といったところですか。あるいは、この世界の固有モンスターといったところでしょうか?」

 

 周囲に索敵用のシモベや眷族・血族を配備しているため、守護者達の連携を眺める二人の緊張感は薄い。仮にここに敵襲があったとしても十分に返り討ちに出来るだけの戦力が揃っており、それ以前に超々遠距離狙撃でも受けない限り先手を取られる可能性もない。これほどの防衛線を張っているのだからどうしても気が緩むというもの。偶々片眼鏡で見つけた固有ドロップ品を回収するほどの余裕ぶりである。

 

 戦闘についても事前に割り振った役割をそれぞれが果たしている為非常に手堅く着実に推移している。コキュートスが二戦級の剣でひたすら殴り、アルベドがそれを護る。デミウルゴスの指示の下シャルティアが飛び回りつつ爪で攻撃して撹乱し、アウラが移動や攻撃のサポートをし、マーレが後方で補助を行う。

 それぞれが単独で倒せる実力を持ち、その上で得意分野を生かして連携を取っているのだから負ける要素など何処にもない。コキュートスが無傷で終了するという課題もあっさりクリアしてしまうだろう。護衛のアルベドが種子の弾丸を打ち返して別の種子に当てるなど器用に立ち回っている。

 将来的にも本来的にも単独で敵陣に切り込む事が役割であるシャルティアも事前のアドバイスを聞いて周りをよく見て動いている。自発的に触手部分に攻撃を集め出した辺り評価が高い。こっそりシャルティアの援護をしているアウラもさすがに指揮官型だけのことはあ―――!

 

「?!―――〈112-3000〉!」

「敵襲ですか?!」

「いや。索敵網に何かが引っかかったような気がしてニグレドに座標を送ったんだが、ちょっとわからん。一瞬だったし、気のせいかもしれん。クソッ、指揮官クラスのおまけ程度な情報魔法じゃ精度が足りん!」

「こちらの射程までは入っていないようですが、撤退したのでしょうか?」

「この距離で私達の気配を感じとったのだとすると恐ろしい探知能力だ。あるいは索敵網に勘付いたのか。周囲に伏せておいた奴らを急行させて囲んでは見たが……ダメだ。ニグレドの方も釣果無しだそうだ」

「かなり慎重な相手という事ですか。厄介ですね」

「不覚だ。魔法じゃ相手に気付かれるからと指示を出すか迷ってしまった」

「探知魔法に引っかかった事はそれなり程度の情報系魔法で察知できますからね。まあ悪手では無かったのですから一先ず良しとしましょう!」

 

 若干の薄気味悪さを残しつつも、その後は何事も無く戦闘は終局に向かっていく。

 六本あった触手部分は全て切り落とされ、体力も僅か。戦闘パターンもほぼ出しきったようだ。

 

「じゃあそろそろアレ、やりますか?」

「ですね。〈そこまでだ諸君! お楽しみの仕上げの時間だ〉!!」

 

 仕上げに入ると言った途端、守護者達が顔を輝かせる。二人のコンビネーションアタックを見せると予め言っておいたからだが、随分期待されているらしい。これは失敗できない。

 あえて広範囲に影響が出るだろうスキルを使って最後の餌をばら撒きつつ、久しぶりの全力を楽しむとしよう。

 

 

 

「そんじゃお先に、〈我は狂える月の愛し子にして宵闇の覇者! 哀れなる亡者達の導き手なり〉!」

 

 歌い上げるは《神祖》の設定を元にした〈名乗り〉口上。

 同時に全身が赤黒いオーラに包まれて普段用の老人形態から戦闘特化の第三形態へと移行していく。鋭い爪が伸び、乱喰い歯が飛び出し、マントは蝙蝠風の羽根へと変化していく。

 

「狂乱の紅き月よ! この地に来りて我が同胞達に祝福を与えよ!! 〈狂月招来〉!!」

 

 夜と月の子である《神祖》カインアベル。その力を受け継いだ《吸血鬼 神祖/ヴァンパイア ザ・ワン》。その種族固有のスキルによって膨大なMPを消費して夜空に深紅の満月を召喚する。

 

 元々アンデッドは日中常にペナルティがかかる代わりに夜間にはその分ボーナスを得るようになっている。吸血鬼はそのペナルティが特に重いかわりに、ゲーム時間で30日に一度ある満月の夜に圧倒的なボーナスを得る事が出来る種族である。満月の吸血鬼とまともに殴り合えるのは最強種族たるドラゴン種だけと言われるほどにそのスペックは凄まじい。

 

「彷徨える者たちよ、我が呼び声を聞け! 我が下へ集い、襲えッ! 〈亡霊達の狂宴/ワイルドハント〉ォォオオ!!!」

 

 そして撃ち放つはネクロロリコンの最大火力。支配者系クラスを取った上位アンデッド専用の特殊クラス「不死者の王/ノスフェラトゥ」のスキルによって無数の【鬼火/ウィル・オ・ウィスプ】を召喚し、ザイトルクワエを取り囲む。

 

 襲いかかる鬼火に反応して迎撃に移るザイトルクワエであったが、

 

「〈魔法三重最強化〉〈炎の鎖/フレイムチェイン〉!」

 

 モモンガの放った拘束魔法によってその動きを止められる。

 

 その巨体故止められる時間は僅かしかないが、モモンガからすれば僅か1F(フレーム)もあれば事足りる。

 

「―――〈時間停止/タイムストップ〉」

 

 

 

 青白い鬼火の光に照らし出された巨木は幽玄の美とでも言うべき神々しさを醸し出し、そこに煌々と燃え上がる鎖が巻き付く事で赤と青のコントラストが映える。時間停止によって押しとどめられたザイトルクワエは一幅の絵画のようですらあった。

 

「これは、何と美しい!」

 

 口々に称えるシモベ達に対し、時間停止の性質やクリスマスツリーについての講義を行うモモンガは三重最強化した〈浮遊散弾機雷/ドリフティング スターマイン〉を設置する。

 

 そして講義の終わりを待っていたかのようなタイミングで再び時は動き出す。

 

「〈串刺し処刑/カズィクルベイ〉!」

「〈隕石落下/メテオフォール〉!」

 

 時間停止が解除された瞬間、鎖を引き千切らんと鬼火を迎撃するザイトルクワエの足元に赤黒い杭が乱立、同時に頭上には巨大な隕石が生じて襲いかかる。周囲に設置された浮遊機雷もまた敵を察知し星弾を撒き散らしていく。

 

 ここで隕石が着弾する瞬間を見計らい、

 

「――〈起爆〉!」

「―――〈時間停止〉!」

 

 鬼火達が縮小し、また隕石が着弾してその威を解放した最も輝く瞬間を切り取る。

 

 巨木の周囲に綺羅星の如く輝く無数の光点、周囲に散らされた星弾、足元も薄っすらと赤く照らされ、引き千切られた鎖すらも彩となり、何より樹上の極光が目を引く。全ての光源が最も輝く瞬間で時が止まっている。

 

 その圧倒的な光景にシモベ達は感動し、それ以上に戦慄していた。連携の何たるかを思い知っていたのだ。

 そしてなにより恥じ入っていた。自らが行っていた拙い連携を。

 

 支配者達は腕を組み、ただその背をシモベ達に魅せるのみ。

 

 シモベ達はその雄大な後ろ姿を羨望の眼差しで見続けるのだった。

 

 

 

 決まったァ! 完っ璧じゃね?!

 どーよ、コレがユグドラシル末期に局所的ブームを巻き起こしたモテない漢達のクルシマスツリーver.5 名付けてベリークルシマスツリーだ!!

 

 毎年二人で練習し、徐々にクォリティを上げ続けた結果できあがった最高傑作。この動画を投稿したら凄まじい再生数とコメントが入って内心ビビったモンだ。やはりアンデッドの二人組がツリーを炎上させているという光景がウケたんだろう。中には高度なプレイヤーズスキルを使っている事を指摘するユグドラシルプレイヤーのコメントもあったが。

 

 横目で最後のアレをやる事を確認する。

 

 2.1―――

 

「「べりーくるしまーす!!」」

 

 ハイタッチと共に轟音炸裂!

 完璧だ、完璧すぎる! しかし支配者たるものここではしゃいではならない。ここはドヤ顔で、

 

「とまあ、私達くらいにもなるとこれぐらいのアソビも出来るようになる訳だ」

「お互いのスキルや魔法のタイミングなどを熟知すれば、こういった事も出来るという実演だな」

 

 これは中々驚いてもらえたらしい。目を見開き、震える手で拍手を贈られている。

 いや、これはドン引きされているのか? さすがにちょっとやりすぎたかもしれん。

 

「ま、まあアレだ。ここまでやれとは言わんさ。明らかに無駄も多いからね」

「そ、そうだぞ。ちょっとした遊び心という奴だ。普段はここまでしない」

 

 何と言っても周囲に浮遊する無数の鬼火達の自爆によるダメージとメテオの衝突及び爆風を全く同じタイミングで叩き込んだのだ。表示されるダメージ量は毎回凄まじい数字が出ていたものだ。ベリークルシマス(即死)だのベリークルシマス(オーバーキル)だのとコメントも付いていた事を思い出す。

 

 若干の気まずさを覚えつつ、全員でセカンドナザリックへ移動して一応の偽装工作を行った後、反省会の為にナザリックへと帰還する。

 全体的に連携の大切さを理解してくれていたようだし、今回は一先ずこれで良しとしよう。

 結局誰からも接触が無かったし。

 

 

 

 

 

 ―――某所、

 

「報告します。魔樹の竜王が活動を再開しました」

「そうか、それでは待機させていた漆黒聖典を――」

「お待ちを、もう一つ御報告が」

「む、どうした? 新たな脅威が迫っていて動かせないのか?」

「魔樹の竜王が消滅しました」

「……は?」

「何者かによって討伐されたものと思われます」

「なん……だと……?!」

 




折角の季節ネタ、書かねばなるまい! 等と思いド派手にやって貰いました。
早漏なのは許しておくれ。

二人ともそれなりに楽しんで末期のユグドラシルを遊んでいたんですよ、というちょっとだけ優しい世界。
原作アインズさんは救いが無さ過ぎます・・・。



以下、オリ設定についての解説など。興味のある方はどうぞ。



指揮官型クラスの魔法
前衛職や魔法職と違って直接的な攻撃手段の無い指揮官型、さすがに補助魔法位は貰えるだろうというオリ設定。勿論ガチ魔法職と比べて射程や効果、持続時間等で劣る。

ネクロロリコンの魔法位階
上位吸血鬼(真祖・始祖・神祖)で20レベルと指揮官クラスで45レベルの合計65レベルが魔法職扱いのレベルとして計算されている。そして7レベルごとに位階が上がるという説を採用して、第10位階の魔法を6つ習得。あくまで情報系魔法を固めて取っているため攻撃力は低い。

情報魔法に対する感知
情報系の魔法を極めて行くと情報魔法で姿を見られただけで逆探知してカウンター魔法を叩き込めるという修羅の巷がユグドラシルです。少なくとも魔法を使われたという事程度は低位の対策で感知できるものと思われる。だからこそ術者の現在地を偽装する必要がある訳で。

狂月招来
文中にある通り《吸血鬼 神祖》が習得可能なオリスキル。
イベントボスであるカインアベルは吸血鬼が信仰する神という設定であり、その力を受け継いだプレイヤー用の種族も同族を強化するスキルがあるのではという独自解釈。
隠し要素として、昼間に使うと余計にMPを使う代わりに皆既日食の状態になってエリアエフェクトが昼から月夜に変化する。

串刺し処刑
吸血鬼と言えばなオリスキル。《吸血鬼 始祖》が習得可能。
移動阻害効果が付いた範囲攻撃スキルであり、巨体が相手であれば合計ダメージはそれなりに出る。
予め設置しておくことで射撃手を騎兵の突撃から護る馬防柵のような使い方も可能。

不死者の王/ノスフェラトゥ
モモンガのエクリプスの様な隠しクラスではあるものの、遥かに制限が緩いクラス。
条件は、上位アンデッドである事と指揮官型クラスを多く取っている事、レベル90以上であること。そのためゾンビやゴーストでも所得は可能。
主に集団を召喚してバッドステータスをばら撒くクラスであり、鼠やムカデ、蝙蝠、悪霊を呼び出す。

亡霊達の狂宴/ワイルドハント
《不死者の王》が習得可能なオリスキルで、大量の幽霊系モンスターを召喚する。
今回呼んだのは鬼火で、火属性の接触ダメージと火傷の追加効果が発生し、起爆させればそれなりのダメージが出る。見栄えも勿論だが対樹木モンスター用の選択でもあった。他にもゴースト系を呼べば接触により能力値ダメージと呪い等でデバフをかける事も可能。
魔法使いとしてのレベルを所得しただけ自爆の威力に、呪術師系はゴーストの追加効果に、召喚士系なら呼出す数にボーナスがある。

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