墓守達に幸福を   作:虎馬

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一丁前にスランプと言う奴になってしまったのか、巧い事書けずにやきもきする日々が続きましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
きっと暑さのせいですね、あと仕事で忙しかったに違いない。

色気を出して巧く書こうとするからダメなんでしょうね。



29.悪魔降臨

「では、邪神像を起動する。皆異存は無いな?」

 

 最大戦力である「六腕」を失い、後ろ盾となる貴族との繋がりを失い、度重なる襲撃により財力すらも大半が失われた。

 更に六大貴族が主力となって作られた王都包囲網によって退路すらも断たれた彼等が取る事の出来る手段は、『偶然』手に入れた「邪神像」に縋る以外に無かった。

 

 彼等は、どうしようもなく詰んでいたのだ。

 

 ブラム・ストーカーと関わってしまった時点で。

 

「おお! これが悪魔か!!」

「ブラム・ストーカーめ、覚悟しろ! 目に物見せてくれる!!」

 

 捨て鉢になった彼等の前で「邪神像」がその力を発揮し、人の領域を遥かに逸脱した超級の魔法〈最終戦争・悪/アーマゲドン・イビル〉を連続で発動させていく。

 その光景を見て、人払いを済ませ大きめの倉庫を借り切った判断は正解だったと堪え切れずに嗤い始める者すらいた。

 それほどまでに圧巻の光景であった、上級の悪魔達が次々と出現するその光景は。

 

 続々と出現する強大な悪魔達を目に恍惚の表情を浮かべる八本指の幹部達(の生き残り)。

 

 

 しかし、その喜色も長くは続かなかった。

 

「ようやくでありんすか。待ち草臥れたでありんす、よ!」

 

 厳重に封鎖されていた筈の入り口から響く少女の声によって、そしてとりわけ強大な力を持つであろう巨腕の悪魔が神聖な輝きを放つ槍で討取られる様子を見せ付けられ、思考が凍りつく。

 進路上にいた悪魔達も纏めて粉砕されていた事に気づけた者もいたが、それを現実だと認識できるかは別問題である。

 

「あんたさぁ、スマートにしろって御命令を忘れてんじゃないでしょうね?」

「で、でも、壁には傷が付いていないんだからちゃんと言われた事は出来てると思うよ?」

 

 次々と複合弓を用いて悪魔を射抜いていくダークエルフの少年と、同じく漆黒の杖で出口から逃げ出す悪魔を撲殺するダークエルフの少女を見てもまだ正気に戻る事は出来なかった。

 強大な悪魔が幼さの残る少年少女に討取られていくという光景が、あまりにも非現実的であったのだ。

 

 彼等を正気に戻したのはその奥で指揮を執る人物、

 

「ブラム・ストーカー! 貴様ぁぁぁああああ!!!」

 

 八本指を壊滅に追い込んだ全ての元凶、ブラム・ストーカーの姿であった。

 

 

 その場にいた者の一人が激情に駆られ、思考を放棄して襲いかかるが、

 

「下等生物風情が、身の程を知りたまえよ? 〈跪きたまえ!〉」

 

 より強大な悪魔によって押し留められる。

 

 そして半ば強制的に冷静にさせられた彼は気付く、戦闘音が既に止まっている事に。

 

「ふむ、「邪神像」によって呼びだされた悪魔はこれで全部か」

 

 悠然と倉庫の内部へと歩を進める彼の姿を見て、もはや戦いを挑む者はいない。

 そもそも彼等は戦力が無くなったからこそ、「邪神像」などという怪しげな力に頼ったのだから。

 

「皆、見事な働きであった。命令に従わない者は敵と変わらんのでな? 速やかに、且つ痕跡を残さず排除する必要があったのだよ」

 

 そんな幹部達に一瞥もくれず、部下と思しき強者達に労いの言葉を送るブラム・ストーカーは、周囲を見渡し高らかに宣言する。

 

〈諸君! 大計「ゲヘナ」の最終段階に移行するゥッ!! 総員、速やかに行動に移りたまえィッ!!!〉

 

「「「ハイ!!!」」」

 

 この瞬間、長らく王都の闇に君臨し続けた「八本指」は完全なる終焉を迎える事となったが、多くの者達がその事実に気付くのは暫く経ってからの事だった。

 

 

 

 王国のみならず、近隣諸国にまでその名を知られるアダマンタイト級冒険者チーム「蒼の薔薇」は、謎の悪魔によって壊滅の危機に陥っていた。

 

 きっかけは蟲の報せでじっとしていられなかった戦士ガガーランに付いていく形で王都の倉庫街を歩んでいたときの事、人肉を喰らうメイド服を着込んだ蟲使いに出会ってしまったことである。

 義に厚いガガーランは人間を喰らうメイド服の少女を見逃す事を良しとせず、メイド服の少女もまた挑まれた以上は受けて立つと戦意を漲らせ、こうして王都における最初の戦いが幕を上げることとなる。

 

 その戦い自体は、イビルアイの持つ〈蟲殺し/ヴァーミンペイン〉と4人の高度な連携によって優位に進める事が出来ていた。

 問題はその後である。

 

「それぐらいにしていただきましょうか」

 

 懐に潜ませていた蝙蝠を握りつぶした際に嫌な予感はあったが、メイド服を着ている以上は主人に当たる存在が居るのはある意味当然であろう。

 問題は、現れた奇妙な仮面の悪魔が予想を遥かに上回った力を持っていた事だ。

 

「……難しいですね。死なない程度の手加減というのは」

 

 速やかにメイドを後退させた悪魔を前に、あまりの実力差から仲間を逃がすべきと即断したイビルアイであったが、逃げた仲間が狙われてあっさり殺されてしまう。

 更にわざとらしく殺してしまったのは己の不手際であったと語る悪魔に神経を逆なでされたイビルアイは、それでも最善を目指して仲間の死体と距離を置くべく戦いを続行する。

 圧倒的な強者を前にしても、仲間を護る為ならば一歩も引かない彼女は正に英雄と言える精神を持ち合わせていた。

 

〈貪り喰らえ、我が爪牙よ!〉

 

 そして彼女の覚悟に応えるようにして戦場に新たな戦士が現れる。

 その名はブラム・ストーカー、八本指討伐の旗頭として王都にその名を轟かせる義将であった。

 

 圧倒的なステータスで襲いかかる悪魔を前に、巧みな用兵で狼達を指揮し迎え撃つブラム。

 押せば引き、下がれば攻め寄せる狼の群れに遣り辛さを覚えたのだろう、悪魔が攻撃の手を止める。

 

「実に見事な御手並み、感服いたします」

 

 未だ無傷な悪魔は最上位の礼を尽くしてブラムの手並みを褒め称える。

 

 ふと気付けばガガーランやティア、ティナの遺体は何処かに運び出されていた。

 あれ程の戦闘の指揮をとりつつ気付かれないように死体の搬送まで行う手際にイビルアイも舌を巻く。

 噂には聞いていたがこれ程とは、と。

 

「君は一体何者かね? そして何が目的なのか、聞かせて貰いたいものだよ」

 

 油断なく相手を見据えるブラム老は、しかし対話の余地があると見るや問いを投げかける。

 

「私はアルコーンと申します、勇敢なる司令官様。そして目的は、今のところは徴収でございますよ」

 

 徴収、これほどの大悪魔を召喚・使役する為には少なくない対価が必要となるだろうが、こいつを呼んだ何者かはろくな対価を用意せず呼びだしてしまったのだろうか? とイビルアイは思考を巡らせる。

 

「彼女達と戦っていたのも徴収の一環かね? 私の知る限り彼女達が悪魔召喚を行ったとは思えないのだがね」

「それは不幸な事故でございます。徴収を行う私の部下を襲っておりましたので、自ら出向いた次第でございます」

 

 人間を喰らう存在を見つけたら退治するのは当然だと声を荒げるイビルアイの言葉を聞き、僅かに顔を顰めるブラム。

 義に厚い彼の御仁であれば当然の反応であろうと思うが、悪魔の反応も苦虫を噛み潰したかのような雰囲気であった。

 

「……不幸な行き違いで戦端が開いてしまったようだが、矛を収める気はあるのかね?」

「申し訳ございませんが。既に願いを聞き、対価の一部を受け取っておりますので」

 

 恭しい態度を取りつつも、返答自体は取りつく島も無い。

 

「願いとは一体何だ! そもそも何処の愚か者が貴様等を呼び出した!?」

「契約の内容を話す悪魔などおりませんよ、魔法詠唱者」

 

 思わず声を上げるイビルアイに、契約の内容は明かせないと返すアルコーン。

 これはある意味当たり前であろうと思考を切り替える。

 

「対価を徴収している、という事はこの建物の持ち主が召喚者という事だな」

「そう取っていただいても結構です」

「……他にも大規模な徴収を行っているようだね? 私が動いたのもその気配を狼達が感じ取ったからなのだが」

 

 そして私はこの建物にいる者達が如何なる組織に属しているか、よく知っていると続けるブラム。

 王都を拠点にした小さくない規模の組織で、今悪魔召喚等という外法を使いそうな連中等唯の一つしかないとイビルアイも思い至る。

 

「そうか、八本指か!」

 

 そうなると願いとやらも目星が付く、戦力の拡充か単純に敵対者の排除、あるいは破れかぶれに王国の破壊などだろう。

 違うか、と問うイビルアイに、アルコーンの返答は無い。

 

「……今この場で私を狙わないという事は、私への報復という可能性も低そうだね」

「……ええ、その通りです。私が受けた願いはこの王都に破壊と殺戮を齎す事。貴方がたと戦う必要は特に無いのですよ」

 

 ですので、ここまでに致しませんか? と問いかける悪魔の声は、おぞましいほどに優しげであった。

 悪魔の誘惑に歯を食いしばって耐えるイビルアイを余所に、

 

「舐めるなよ悪魔! 無辜の民を襲う怪物を前に見過ごす事等出来る筈があるまい!!」

 

 ブラムは断言してのけた。

 そんな彼に呼応するようにしてもう1人の男が戦場に馳せ参じる。

 

「然り! 王都に混迷を齎す者よ! 民に厄災を成す者よ! 天地が許そうと、このモモンが許さん!!」

 

 巨剣を手に、狼に連れられた漆黒の英雄が参戦した。

 

「遅かったな、英雄殿! 待ちわびたぞ」

「何、主役は遅れて現れるものと相場が決まっているのでね!」

 

 直感的に解る、噂で伝え聞く実力は誇張ではないと。

 全身に纏う豪奢な全身鎧が、手に持つ巨剣が、何より放たれるオーラが彼の実力を如実に示している。

 

「悪魔め、覚悟するが良ィッ!!」

 

 地面を踏み砕くほどの強烈な踏み込みで一気に近付き斬撃を放つその姿は到底人間に見切れるものではない。

 そしてその威力もまた、明確に人類の領域に無い。

 

 しかし対する悪魔アルコーンもまた人類の手が届く領域には居ない。

 

「〈悪魔の諸相・剛魔の巨腕〉!」

 

 即座に両腕を肥大化させ受け止めてみせる。

 受け止めるのみならず、反撃を繰り出し、更にそれをモモンが捌き、返す。

 そのまま人類の認識できる領域を遥かに超越した死闘が幕を上げる。

 

「……凄い」

 

 200年を超える時間を生き抜いてきたイビルアイと言えど、これほどまでに人間の領域を逸脱した戦いを見た事は無かった。

 かの13英雄と呼ばれた者達ですら、これほど苛烈な戦いをしてはいなかった。

 

 何よりモモンの戦いは熾烈な中にも華がある。

 思わず見惚れるイビルアイは、遥か昔に止まったはずの胸の鼓動が聞こえた気がした。

 

「……がんばれ、ももんさま」

 

 思わず漏れたその言葉を聞いた者は、その場にはただ1人しかいなかった。

 

 

 

 英雄と大悪魔の死闘は、意外なほど速く幕を下ろす事となる。

 

「クッ、新手か!」

 

 遠く離れた建物の屋上から奇妙な方法で狙撃をするメイドを始め、巨大なガントレットを嵌めた同じくメイドや血塗られた大斧を振りかぶる皮鎧の戦士、強固な兜で頭部を覆う重装騎士が次々と現れた為だ。

 怒りと悲しみがないまぜとなった奇妙なその仮面はアルコーンが被る物と同一のもの、現れたタイミングと良い仲間と見る以外無いだろう。

 

 悪魔アルコーンと比べれば幾らかマシな強さではあるが、メイド達はそれぞれがイビルアイと互角程度、戦士2人はそれをやや上回る気配を纏っている。

 

「少々肝が冷えましたが、ここまでのようですね」

「フッ、この程度の戦力で私を討取るつもりかな? 背中の2本目は飾りでは無いぞ!」

 

 周囲を見渡しつつ背中からもう一振りの巨剣を取り出し2刀流の体勢に移行するモモン。

 敵の増加に対し、手数を倍にすることで対応するつもりか。

 

「漆黒の英雄モモンの首を獲りたくば、この3倍は持ってくる事だッ!!」

 

 羽を広げた猛禽の如き構えで迎え撃つモモンの後ろ姿に、イビルアイの目が釘付けとなる。

 己の力への絶対の自負と、何より洗練されたその所作に目が離せない。

 

「確かに、貴方を討取るには心もとないと言わざるを得ませんね」

 

 言いつつ背中から翼を伸ばすアルコーン。

 その羽根は一つ一つが異様な鋭利さを備える。

 

「しかし後ろの御二人、特にその魔法詠唱者はどうでしょうね?」

 

 ナイフの如き羽根達が射出される。

 狙いは、魔力をほぼ使い果たしたイビルアイ。

 

「チィッ!!」

 

 咄嗟に割って入るモモンであったが、2人の戦士からの追撃によって鎧の一部を砕かれ後退を余儀なくされる。

 

「ああ、モモン様! モモン様の鎧が!」

「大丈夫だ、この程度なんの問題も無い。それより君が無事で良かった」

 

 トクン、と。

 再び胸の鼓動が聞こえた気がした。

 

「よもやこの私をお荷物扱いしてくれる者がいるとは……! 随分と久しい感覚だよ、アルコーン!!」

 

 腰を落とした前傾姿勢で、周囲に配下の狼達を控えさせたブラム老が口角を釣り上げ忌々しげに呟く。彼の感情に引きずられているのだろう、狼達も牙を剥き出しにして唸り声を上げる。

 

〈このゥ私をォ! ただ護られるだけのォ! か弱い老人と侮るなよォッ!! アルコオオオォォォォンッッ!!!〉

 

 後退させられたモモンと入れ替わるようにして、弓で撃ち出される矢の如く狼達が一斉に駆け出す。

 狙いは均衡を崩した2人の戦士達。

 

「侮るなどとんでもない! 〈獄炎の壁/ヘルファイヤーウォール〉!」

「! いかん、〈止まれ〉!」

 

 命令に従い急停止する狼達の眼前に自然界では有り得ない黒い炎が上がる。先ほどイビルアイの仲間達を一掃した必殺の魔法だ。

 狼達の突撃を読んでいたかのように必殺のカウンターで迎え撃つアルコーンも恐ろしいが、そのカウンターを咄嗟の判断で回避してのけるブラムの手腕もまた凄まじい。

 

「逃げるか、アルコーン!」

「元より貴方がたと戦う必要もありませんので、名残惜しいですがこの辺りで失礼させていただきます」

 

 優雅に一礼するアルコーンに従うようにして戦士やメイドも素早く撤退していく。

 

「後ほど王都の一部を炎で包みます。煉獄の炎に焼かれる覚悟がおありでしたら、再びお会いしましょう! 強大なる勇者達よ!!」

 

 アルコーンも最後に言い残しこの場を後にする。

 獄炎の壁に阻まれて追撃もままならず、みすみす取り逃がしてしまうとは、と拳を握りしめるモモンの後ろ姿が少女の心に焼けついていた。

 




何時もの原作であったシーンは大体吹っ飛ばすスタイルですが、原作より戦力がお互い強力です。
ブラムも居ますし、漆黒の英雄は中身がガチ戦士ですし。

しかしこいつらノリノリである。
誰かさんも良い感じに毒されてきています。

次回は待望の「ゲヘナ」、早めに上げたいですね。

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