今まで謎だったプレイアデスの情報がかなり出た事が二次作家にとっては最大のエールかもしれないですね。
取敢えずやまいこさんに作られたユリ姉さんは脳筋、まあ大方の予想通りでしたが。
あとあの子があのお方に作られたって言う話がシレっと出て来るとか、先生その辺の情報だけで良いので全体に公開しましょうよ。
そしてもっとお願いします。
後はフレンドリー・ファイアの仕様が軽く出てきていた辺り今後の二次の設定に関わってきそうですね。
王都のとある路地裏に、王国屈指の実力者達が打倒八本指の呼びかけに応えて集結していた。
発起人、義の老将:ブラム・ストーカーとその執事セバス。
恩人であるブラムの呼びかけだからと、仔細を聞くまでも無く参上した王国最強の戦士:ガゼフ・ストロノーフ。
ブラムの動きを察して送り込まれたラナーの忠実なる剣:クライム。
そして、王国の忠臣レエブン侯が手配した新進気鋭のアダマンタイト級冒険者『漆黒』のメンバー達。
後に『救国の7英雄』と呼ばれる彼等は、八本指傘下の裏娼館を襲撃するべく作戦会議を行っていた。
「正面の扉から突入するのは漆黒の皆さんに行っていただき、我々とクライム君が裏口を押さえる。そして突入により混乱した頃に突入する事にします。ガゼフ殿はある程度片が付いた頃合いに戦士団を率いてこちらに向かってください」
「本当に私が突入組に編入しなくても良いのか?」
「構わない。むしろチームに部外者が混ざる方がお互いにとって危険だ」
「私が率いればある程度は回せるでしょうが、裏口を押さえる役割がいなくなります。おそらくこちらから重要な顧客等は逃げ出すでしょうから人員を割いておきたいのですよ」
「ならばせめて私がそちらに付くべきなのでは? 制圧した後で戦士団を呼んでくれば」
「それではダメなのですよ、ガゼフ殿。陛下直属の戦士団が他の誰よりも早くこの現場に辿り着き、全ての証拠と証人を押さえる事が何より重要なのです。襲撃班はそれまで逃げられないように押さえるだけでも良い訳ですからね」
相手に動きを悟られないように現地集合の形を取り、即座に行動に移るという電撃的なこの作戦を聞いたガゼフは自ら前線で剣を取る事が出来ない事に不満げな顔をしていた。
強者たるという自負があるのだろう、それを見てとったモモンが動く。
「王国最強の戦士長殿は、我々アダマンタイト級冒険者程度では御不満と見える。しかしながら適材適所という言葉もあるのですよ? 我々では敵を倒す事は出来ても犯人を捕らえる事は出来ないのです、お分かりですか?」
「いや、君達の実力については私も聞いている。いや、うむ、そうだな。すまなかった、出来るだけ素早く準備を整えこちらに向かうので、それまでどうか保たせておいてほしい」
「ふっ、それは自分の獲物を残しておけという事ですかな? そればかりは約束しかねますね、うっかり全て平らげてしまうかもしれませんので」
「さすがはエ・ランテルの英雄、言う事が違う」
獰猛な笑顔を向けあうガゼフとモモン。
ガゼフとてモモンのエ・ランテルの活躍は十分に聞いている為、決して大言壮語ではないという事を理解している。
「ブラム殿、どうか御武運を」
軽く会釈して戦士団の宿舎へと走るガゼフを見送り、残された6人も移動していく。
襲撃のタイミングは突入する漆黒が判断する事になっている。
そのため裏口を押さえるブラム達は、緊張した状態で待ち続けなければならない。
正確にはブラム達と共に来ているクライムが緊張の面持ちで待機しているだけなのだが。
〈少年、少しは落ち着きたまえ。緊張感は体を臨戦態勢に持って行く為に有用だが、興奮しすぎれば視野が狭まり動きも硬く直線的になってしまう。大一番でこそ、練習でやってきた事をそのまま出す事だよ〉
武者震いが止まらない少年騎士の肩に手を置きブラムが静かに言い聞かせる。
〈さあ、大きくゆっくりと呼吸するんだ。大丈夫、いつもやっている事をいつも通りにやる。それが最も良い結果を生むものだ〉
穏やかな声色で言い聞かせるブラムの声を聞く度に、クライムの震えは消えていく。
そうだ、僕はラナー様の為に今まで訓練を重ねてきた。
先日ガゼフ戦士長からのお言葉に従って体を動かし、毎日行ってきた素振りの通りに切り伏せれば良いんだ。
〈そうだ、日々の努力は決して裏切ることは無い。さあ行こう、王女の剣よ!〉
良い感じに肩の力が抜け、それでいて程良い高揚状態に調整されたクライムを引き連れて、ブラム達は裏口へと移動していく。
気付けば建物内では怒声と爆音が鳴り響いていた。
「セバス君、木っ端の輩と言えども」
「承知しております。手足をへし折った上で気を失わせ、速やかに次へ移動でございますね」
「宜しい、では派手に殴りこむとしようか!」
獰猛な笑みを浮かべる老人二人を見てもクライムの精神は穏やかだった。
老執事が蹴りで鉄扉を粉砕して一瞬我に返りかけたが、今は戦闘中だと意識を切り替える。
「な! 何だてめぇ!」
疾風の如き身のこなしで扉の隙間から飛び込んだセバスを追い掛けたクライムの前にショートソードを持った男が襲いかかる。
見える、振り下ろされてくる剣が。
だが、遅すぎる!
戦いに不要な情報を脳が排除し、必要な情報のみを最大限詳細に分析していく。
その結果視界から色が失われ、その分相手の動きが詳細に把握できるようになっていく。
「フンッ!!」
自身に振り下ろそうと持ち上げられた剣の軌道に合わせるようにして上段からの振り下ろし、剣諸共男を切り伏せる。
肩口から股下まで両断された男に生き残る術など無いだろう。
崩れ落ちる男を尻目に奥へと進んでいく。
油断なく周囲を見渡せば、倒れた男達を打ち捨て二階へと駆け上がっていくセバス姿があった。
〈見事な一撃だったぞ。しかしそのままでは危険だ、ゆっくり息をして体を落ち着かせるんだ〉
色彩を取り戻したクライムの視界にブラムが映り込む。
「よしクライム君、我々は1階を見て回ろう」
普段以上の処理を行った脳が悲鳴をあげているが、構わずブラムの後に続く。
「ふうむ、誰もいないようだな」
「2階にも誰もおりませんでした。地下から気配がしますので、恐らくは」
「地下への隠し通路があるはず、か」
室内を走ったせいでずれたのだろう、片眼鏡をかけ直しつつ呟くブラムに戻ってきたセバスが応える。
「そこの床が怪しいな。うむ、ここだけ木材が四角く揃っている」
「剣を突き立ててこじ開けますか?」
「いや、こういう連中は大抵開けようとしたときに反応する罠を仕掛けているものだ。セバス君、真上からぶち抜きたまえ」
「畏まりました」
そこそこ頑丈な作りをした隠し扉だったが、セバスの蹴りの前では紙切れ同然である。
内部に仕掛けられたクロスボウ諸共踏み砕かれてしまう。
「入口はここ1つのようだな。セバス君?」
「お任せ下さい」
仕掛けの残骸を無造作に掴んで放り投げ、地下へと続く階段を下りていくセバスにクライム達も続く。
階段を下り、石造りの廊下を抜け、鉄で補強された木製の扉は蹴り破る。
既にこの程度ではクライムも驚く事は無くなっていた。
「これ以上先に行くと警備に穴が開くか、我々はここで待機しセバス君は」
「内部の捜索ですね。畏まりました」
一礼して颯爽と次の扉へと向かうセバスを見送り、クライムは大きく息を吐く。
辺りを見渡すとブラムは入り口の扉に陣取り訝しげに部屋を見渡している。
「この部屋が、どうかなさいましたか?」
「いや、どうにもきな臭い。この部屋、何かあるんじゃないかと」
口元に手を当て物置と思われる部屋全体を見回すブラムを見て、クライムも近くにある木箱を開けてみる。
密輸品などが置かれているのではと思ったが、ただの服しか入っていない。
訝しげにしつつも扉の前を動かないブラムに代わり次の箱を開けてみようかと動いたとき、突然壁際に置かれた大箱が倒れる。
そしてその奥から2人の男が部屋に入ってくる事に気付いたクライムは即座にブラムが立つ扉へ戻る。
「さすがブラムさん、大当たりですね」
「脱出経路はもう一つくらい作るべきでしたね、コッコドールさん」
即座に戦うために意識を切り替えたのは前衛職のクライムと六腕の1人サキュロント。
クライムは勝ち目の無い相手だと判断し、殿となってブラムを逃がそうとするが。
〈逃げる必要など無いぞ、君なら勝てる! 所詮あの男は三下だ〉
獰猛な笑みを浮かべるブラムから拒否されてしまう。
この発言に不快感を煽られたのはサキュロントである。
地下組織八本指において戦闘要員として鳴らす彼は人間の最高峰たるアダマンタイト級冒険者にも匹敵する実力を持つと自負している。
こんな小僧と爺相手に舐められる訳にはいかない。
幻魔の二つ名を持つサキュロントは幻術を剣を持つ右腕に施し、偽りの腕を振りかぶる。
「! いかん、〈下がれ〉!」
振り下ろされる剣を受け止めようと剣を構えたクライムを咄嗟に下がらせる。
言われるがままに下がったクライムは胸元を横に切られている事に気付く、振り下ろす動作であったにも拘らず。
「ちっ、勘の良い爺め!」
〈爺と小僧の2人組相手に態々幻術を使って挑むとは、程度が知れるな?〉
「抜かせ! てめえ楽には殺さねえぞ?」
〈ほう、腰抜けの分際で言う事だけは一丁前だな。吠える子犬を見るようで憐みすら感じるよ〉
肩を竦めつつ首を振るブラムを見て頬を引くつかせるサキュロント。
切りかかろうと踏み込むもクライムが立ちふさがる。
〈聞いての通りだ、クライム君。幻術による小細工しか能の無い詰まらん三下だ。どうだ、勝てそうに思えてきたろう?〉
ギリギリと奥歯を噛み締めて憤怒の表情を浮かべるサキュロントだったが、彼自身クライムと真正面から戦っては勝てない事を自覚している。
その事実を理解する為、そして長い実戦経験によりどうにか「興奮」状態にならずに堪え切る。
「〈多重残像〉」
サキュロントの周囲に幻影が現れていく。
油断なく構えるクライムは、
〈視覚を潰しにくる相手なら、偽りの情報を取り込むくらいなら、視覚など捨ててしまえ!〉
ブラムの言葉のまま目を閉じる。
サキュロント達は正気を疑うと言わんばかりに驚愕の顔を見せたが、耳に全神経を傾けているのだろうと声には出さない。
無数のサキュロント達とブラムの静かな睨みあいは、
「ふんっ!」
ブラムのロングフックであっけなく幕を閉じる。
「ぶっ、が、何で?!」
「魔法発動の瞬間、あからさまに私の事を見ていたではないか? 足音を殺してクライム君を迂回して辿り着く頃合いを見計らって、歩きやすそうな側に拳を振ってやっただけだよ」
ぴったりだったろ? と事も無げに言い放つブラムを驚愕の表情で見るサキュロントだったが、そのままクライムの振り下ろしを受けて意識を失う。
肩口から背中にかけて深々と斬られたサキュロントはもはや動けまい。
いつの間にか戻っていたセバスによってコッコドールも倒されている。
気付けば地上部もガゼフ率いる戦士団が到着したのだろう、随分と騒がしくなっている。
「上々だな、勝利の凱旋と行こうか!」
老商人ブラム・ストーカーが八本指の拠点の1つを襲撃し、ガゼフ・ストロノーフ率いる戦士団の下に証拠品が渡ったというこの大事件は、翌日には王都中を駆け巡る事となる。
また助けられた女性達を見て憤怒の感情を見せるモモンや、献身的に治療を施すルプゥ、そして彼女達を屋敷で引き取り手厚い看護を行ったブラムの名声は大きく高まる事となる。
しかし多くの者達は予想していた、この事件は、これから起こる大乱の幕開けにすぎないのだと。
ドヤ顔しているネクロさんですが、悪魔貴族の片眼鏡の主な効果は視界に入ったアイテムの鑑定です。
それからクライムですが、セバスとの修行とネクロさんのブーストによって本家より危険な武技を習得しつつあります。
なんの役に立つのかと言われると困ってしまう程度の微妙な強化ですが。
着々とゲヘナが近付いていますね。
6巻は特に好きな話なので書くのも楽しいです。