12/29 追記
某人物達の処遇について軽く追記しました。
脳内設定でやっている事を幾つか書き忘れていた為、後日非常に唐突に名前が出てしまっていました。
宝石の訪問販売がしたい。
そう言って近頃王国に現れた老商人ブラム・ストーカーは王国随一の財力を誇るブルムラシュー家へやってきていた。
まず彼は見事な宝石の数々を並べ「是非とも御贔屓にして頂きたいものです」と差し出していた。
詳しく聞けば鉱石の売買等もやっていく予定だとかで、リ・ブルムラシュールでも取引がしたいと語る。
始めのうちは何時もの商人によるゴマすりだと思い、鷹揚に対応していたブルムラシューであったが、ブラムがおもむろにカバンから幾つかの書類を取り出し机に並べ始めたとたん空気が激変する。
「貴様、その書類を何処で?!」
「わたくし、宝石以外にも色々と扱っておりましてね? こういった伝手もあるのですよ、ブルムラシュー侯」
机の上には帝国への内通を示す書類や、地下組織『八本指』へ流した奴隷や麻薬の目録、税金逃れの為の隠し財産を含む裏金や贈収賄の証書などが雑多に並べられていた。
「いやはや、人の欲望というものは恐ろしい。鉱山を領有し懐が潤っている筈の侯爵様がこれほどまで悪事に手を染めておられるとは」
この書類が国王陛下の手に渡れば即取り潰し、領土没収は間違いありませんなと笑うブラムを前に苦虫を噛み潰したような顔になるブルムラシュー。
「……幾らだ?」
「おお、話が早くて助かりますな! 私も貴族様を取り潰しの憂き目にあわせる事は望んでは―――」
「下らん世辞はいらん! 貴様、一体何が望みだ? 金か? 鉱山の権利か?!」
「私はアクマで取引がしたいだけでございます、ブルムラシュー侯」
にこやかに笑うブラムに警戒の色を強めるブルムラシューであったが、上質な書面で提示された内容は存外良心的であった。
『
1つ、リ・ブルムラシュールで産出した鉱石をドラキュラ商会に定価の半額で月々一定量を卸す。
1つ、ドラキュラ商会について他者に話さない。
以上2点を守る限り、私『ブラム・ストーカー』はこの場に用意した書類を王国の関係者へ提供する事をせず、またこれ以上の要求をしない事をここに誓うものである。
』
この書類を読み、ブラムを睨みつけるブルムラシューは内心ほくそ笑む。
この男は貴族を敵に回す事の恐ろしさを全く理解できていない、と。
「この書類にサインをすれば、本当にその書類を外部に出す事は無いのだな?」
「勿論です。この誓紙は〈誓約/ゲッシュ〉の魔法が込められたいわばマジックアイテムですので、お互いにサインした以上は決して違える事はできません」
やはり愚かだ。
効果のほどは定かでないが、このようなマジックアイテムを持ち出してきたのだから『ブラム・ストーカーとその関係者に危害を加えてはならない』と誓約させなければ意味がない。
商人風情が、明日にでも私兵を差し向けて全て奪い取ってくれる。
〈とでも、思っているのでしょうねぇ〉
(〈ああ、先日のペスペアとかいう若造も、あんなあくどい顔つきをしていたよ〉)
〈それでは暫く領内で御宿泊となりますね。動くのは今夜早速といったところでしょうか?〉
(〈その後の処理で都合3日と言ったところだろうね。別行動中のセバス達の様子はどうかね? 盟主殿の指令を道中でこなしたそうだが、その後の進展はどうかね?〉)
〈特に問題はございません。件のアダマンタイト級冒険者との接触も避けておりますので。あえて報告を挙げる事があるとすればペットを1匹拾った程度でございます〉
(〈そうか、それは何より〉)
ブルムラシューの邸宅を出て街を散策しつつ、ブラム・ストーカーことネクロロリコンは腹心のデミウルゴスと今後の予定を話し合っていた。勿論練習して口に出さずにこなせるようになった〈伝言〉を使ってである。
イメージとしてはボイスチャットをしながらタイピングをするような感覚と言ったところだろうか? 口を動かしつつ〈伝言〉で別の指示を出すというのは暫く難しいだろう。
現在ブラムの仕事は釣りである。
餌は諜報部が手に入れた『貴族を失脚させるに足るだけの重要書類』と『それを使って脅す商人ブラム』であり、獲物は勿論貴族だ。
相手が何もしてこなければ月々お小遣いが入り、手勢を直接差し向けてくるならナザリックの戦力で返り討ちにして更に搾り取る事が出来るだろう。
ちなみに書類の方は契約したブラムは誰にも渡さないが、デミウルゴスが勝手に持っていく事を止めなくて良い。このあたりは入念に下調べしてある。
情報系魔法の1つである〈誓約〉は本来『お互い攻撃しない』等の即席パーティーの結成に使われる魔法だった。あるいは経験値の配分やドロップアイテムの所得等の取り決めも予め決めておくことが出来たので使い方次第ではかなり無茶なレベリングもする事が出来た。全体的に情報系の魔法はこのように有ると便利な品物ばかりだったのだが、この世界では大きく変質したものが多いことが解っている。全体的に自由度が跳ね上がっているのだ。
その事に気付いたのは陽光聖典隊長の死亡をユグドラシルの魔法で再現できないかという実験がきっかけだったのだが、その中で〈誓約〉で設定できる項目が事実上無制限である事が解ってしまった。
魔法を込めた書類にサインさせても良いし、お互い宣言したところで魔法を発動しても良い。相手の言葉尻を捕まえて発動する事も出来た。そして発動したら最後、お互いの同意がなければ解除できない。
無理やり破棄するためには高位の「神官」が〈魔法解除〉しなければならない事も解っている。ちなみに破棄されると相手に伝わる事も実験で解っている。
(〈これで少しはナザリックの財政も楽になると良いのだがな〉)
〈御方々に御手間をお掛けしております事、誠に申し訳なく思います〉
(〈なに、構わないさ。ナザリックの維持の為に毎日駆けまわるのは今も昔も変わらない〉)
〈本当に、感謝の言葉もございません〉
リ・ブルムラシュールの街中で産出された金銀のインゴットを眺めながら自分に出来ること、つまり金策について思いを巡らせる。
今頃アダマンタイト級に昇格したモモンガさんも高額の依頼を次々達成して金貨を手に入れている事だろう。俺も負けてはいられない。
しかし商人の立場を利用してシュレッダーこと「エクスチェンジ・ボックス」に各地の特産品等を集めて放り込んでいるのだが、成果の方は芳しくない。鉱山で大量に出る土砂を纏めて放り込んでしまえばまとまった量の金貨が手に入りそうだし、量が無くても金銀を含む鉱石を使えばもう少し効率的に金貨を作れるのではないかと思うのだが。このあたりは今後の研究に期待だ。
(〈そういえば、『黄金の』ラナーの話は聞いているかね?〉)
貴金属を扱う商店で世間話をしていたブラムは、ふと話題になった王女について尋ねる。
これまでも行く先々で耳にするその美貌と才気は設定厨にして人材マニアな気のあるネクロロリコンの食指が動く存在であった。
〈第3王女、ラナー殿下でございますね。中々に優秀だとか〉
そしてさすがは諜報部のデミウルゴス、こちらも少なからずの情報を得ていた。
街道の整備に冒険者の地位向上、果てには三圃式農業の考案までしているそうだ。国力の増強の為に様々な施策を提案しているが、残念ながらその提案のほとんどは無能な貴族達によって潰されているらしい。全ての意見が通っていれば随分国力が取り戻せていた事だろう、とはデミウルゴスの言である。
(〈私も少し調べてみたのだが、国民の人気も高いようだし、彼女も先日捕えた法国の離反者のように引き込む事が出来れば大きく手が進むのではと思うのだが〉)
〈ええ、能力的には問題ありませんね。彼女の動きを見る限りでは、王国の発展が狙いに見えます。もしくは単に自身のアイデアを実現したがっているのか〉
(〈どちらにしても、王国の貴族を目指すこちらとしては仲良くできそうだね〉)
〈どうにも彼女には裏がありそうですが、それが我々と相反する目的でさえなければ手を取り合う事も出来るでしょう。こちらも調査を進めておきます〉
(〈ああ、頼む〉)
デミウルゴスと話をしつつ錬金術で作り出した宝石を売り込み、金のインゴットを買い込む。金の精製度合い等でもやはりエクスチェンジ・ボックスの評価は変わるのだろうか?
宝石を放り込むよりはそれを売って得られた交金貨や王国の金貨を入れた方がたくさんユグドラシル金貨が手に入ったのだが、使われている金自体は粗雑である事を片眼鏡が教えてくれている。この辺りをうまく使って効率的に稼げないものだろうか、等と考えつつも宿に戻る。
ネクロロリコンは楽して儲ける為の努力には余念が無い。悲しい事にあまり儲けた事もないのだが。
(〈ところでレエブン侯はどうだったかね?〉)
〈はい、やはり彼は中々有能です。王国を崩壊させないように立ち回っておりました。犯罪にもほとんど手を染めておらず、目的もご子息の健やかな成長と領地の十全な受け渡しのようです〉
(〈ならば十分引き込めそうだね。それこそお子さんが病にでもなった時に声を掛けてやればイチコロだろう〉)
〈ええ、それは実に宜しいかと〉
後にネクロロリコンは自分の不用意な発言により幼子が苦しむことになったと心を痛めることになるが、それは暫く先の話である。
と言う訳で金策をしつつ手を進めて行きます。
相変わらずブラムメインで話を進めると地味ですね。
個人的に王国の金貨とか純度低そうだな、とか思っています。
ユグドラシル金貨は99.999%とかで、王国の金貨は少し混ざっているんじゃないかと。
ネクロさん的にはユグドラシル金貨を潰してエクスチェンジ・ボックスに入れるのと交金貨を入れるのでは違うはず、ならば何処の金貨に変えてやるのが最も効率が良いのかみたいなことを考察している訳ですね。もしかすると銅貨の方が単価あたりの変換効率が良かったりしないだろうか? なんて事も考えてしまいます。
本編で語られないということはそんなことは特にないのかもしれませんが。
そろそろ問題のシーンが近付いてきましたね。