墓守達に幸福を   作:虎馬

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この作品は会議のシーンが一番の見どころなのではないか?そんな気がしてきました。
誰とは言いませんがうるさいアイツのせいで。



20.浸食

 ナザリックの方針を決定し通知した会議の数日後、ナザリック近郊の土地を王国から割譲させる為に何が必要だろうかという次なる会議が行われていた。

 

 議長は勿論ネクロロリコン。

 出席者は参謀役であるデミウルゴスを始めアルベドやパンドラズ・アクターとナザリックの頭脳が集結している。

 ちなみにモモンガは剣の鍛練の為にコキュートスやシャルティアと共に円形劇場である。

 

「現在の王国は王の権威が低下しており、各貴族が大きな発言権を有しております。

 中でも6大貴族と呼ばれる有力貴族達は全て合わせると王自身に匹敵するほどの権力を持っているそうです」

「国王としてはどうにかして権力の集約を図りたいところだが、下手を打てば貴族の反感を買いそのまま内乱に突入してしまうという訳だな。……その結果が今の王国か」

「ええ、仰るとおりです。貴族共は醜く足を引き合い、改善の糸口すら見えません」

「嗚呼、何と愚昧な者達なのでしょうか?! 偉大なる支配者により良く奉仕する為にどうして最善を尽くす事が出来ないのでしょうッ?!」

「忠を尽くすべき主を持たぬとは、なんと哀れな者たちなのでしょうね」

「ンゥ正に! その通りですな、アルベド殿。それに引き換え我等ナザリックの民は! ンゥゥ何と! 幸せな事かッ!! 偉大なる支配者様方に全てを捧げる事が出来るッ! これ以上の幸せがありましょうか!?」

「! いいえ、ございませんともッ!!」

 

 会心の掛け合いだったのだろう、パンドラとアルベドがこちらの様子を窺っているのが解る。

 

 出た反語! 強調の反語!!

 と、乗ってやるべきなのだろうか? 正直懐かしすぎて気付くのに遅れてしまった。メンバーがまだそれなりにいた頃だから……もう何年前の話だったか思い出せない。

 ノリについて来られないデミウルゴスはきょとんとしている。

 

 パンドラのネタ振りに完璧な対応が出来なかったと悔しげにしているアルベドだが、そこじゃないぞ? 別に一拍遅れたから俺が反応しなかったとかではないからな?

 そもそもアルベドよ、お前は何処でそのネタを仕入れた? 玉座の間でそういったおふざけをした覚えは無いのだが……?

 守護者統括の立場なら必要だろうとリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを渡したのだが、これのせいか?

 

 実際アルベドの仕事ぶりは凄まじい。

 本来の業務である守護者統括としてのナザリックの運営を行いつつ、ナザリックの隠蔽を行うマーレの陣中見舞いに疲労回復効果のある軽食を届け、デミウルゴスと情報共有の為の会合を開き、コキュートスと防衛体制のチェックをするために地下墳墓内を駆け回る。

 その上現在ブラムの付き人として外部で活動しているセバスに代わり、俺やモモンガさんの体調やスケジュールの管理まで行っているというのだから頭が下がる。男ばかり相手をしている気がするのは気のせいだろう。

 魔性のクラス「ビッチ」のスキル〈八方美人/オールレンジビューティー〉を発動している訳ではないはずだ。

 そんな恐ろしいクラスはユグドラシルには無かったはずだ。……ないよな?

 

 取敢えずモモンガさんはシャルティアやコキュートスと一緒に剣の訓練に行って貰って大正解だった。

 ここにいたら悶絶してそのまま死んでいたかもしれない、既にアンデッドなのだが。

 

「あー、愚かなニンゲン達にとって権威とは力、端的にいえば武力に付随するものだからね。それが無くなれば抑えが利かなくなり、好き勝手をするようになるのも仕方がないのだろうね」

「定期的に力を以て押さえつけねば増長してしまう。嘆かわしい事だ」

 

 空気を変えるべく発言したデミウルゴスに素早く乗っかり話の方向性を戻す事にする。

 

「仮に担がれるだけの神輿であっても、皆が担ぎたいと思う程の魅力があるならば、問題は無いのでしょうけれど」

「それだと2代も3代も続けるのは難しいな。やはり権力を集約させるシステムがなければ国は荒れてしまうのだろう」

「そういう意味では、バハルス帝国の治世は中々と言って良いでしょうねぇ。優秀な皇帝の独裁によって必要な事を速やかに為す事が出来る。このナザリックの支配体制に近い形式です」

「優秀な支配者が舵を取り、他の者達は手足となって働く。嗚呼、何と素晴らしい。誰もが幸せを享受する事が出来るとは!」

「しかし権力を集約させた独裁体制も、次代が暗愚であれば即崩壊だ。先ほどの神輿ではないが、いっそ優秀なものに宰相などを任せる事で国を回すシステムが必要になるということか? ナザリックであればデミウルゴスやアルベドに任せておけば安泰だが、他だとそうもいくまい。まず能力の評価方法の問題がある」

「何と身に余る御言葉! その際には我等ナザリックのシモベ一同、全霊を以て担がせていただきます」

 

 ですからどうか末永く我等の頂点に君臨なさってくださいませ、と続けるデミウルゴス。

 

「なに、君達からナザリックを追放されるまでは支配者として頑張らせて貰うつもりだよ」

 

 割と冗談では無い。見捨てられないように今も結構必死なのだから。

 

「でしたら永遠にこのナザリックに君臨して頂くことになりますわね」

「未来永劫このナザリックの支配者たるものは至高の御方々以外にありえません」

「嗚呼、ナザリック万歳! 至高の御方々万歳!!」

 

 しかし支配のシステムか、いっそ有能な領主を不老不死にしてしまうか? 過去の権力者達が不死を求めたのもそんな考えが根底にあったのだろうか。

 

 おっと話題がそれてしまった。

 

「オホン! では、どうするのが良いと思うかね? ナザリックがあるエ・ランテルは王の直轄領だから、単純に何らかの功績で拝領する訳にも行くまい」

「仰る通りです、これ以上王の領地を削れば貴族を押さえる権威を失いかねません。そのため、まずは王国を存続させるためにも貴族の力を削ぐのが先決ではないかと」

「貴族の家に生まれたというだけで、あたかも自らが有能であるかのように勘違いした愚者共に、その愚昧さを思い知らせてやるのが宜しいでしょう」

「ええ、腐敗しきった王国貴族共であれば少し叩いただけで幾らでも埃が出るというものです。実際軽く調査しただけでも贈収賄に他国への情報の横流し、裏組織への資金提供等々、一部を除いて真っ黒でございました。その証拠書類を国王に渡すだけで纏めて粛清出来てしまうでしょうね」

「つまり私がそれをガゼフ殿に渡してやれば一気に国王の権威が増すという訳か」

「後は混乱した国内の平定に手を貸してやれば、名声も高まる事でしょう」

 

 

 新たなる貴族ブラム・ストーカーが悪しき旧貴族の残党を刈っていく、そんな光景を見せれば誰が支配者か直ぐに解らせる事が出来るでしょうと笑う悪魔。

 

「ところで除かれた一部というのは具体的には?」

「はい、エ・レエブンの領主について少々気になる事が」

「ほう、気になる事とは?」

 

 私見ではございますが、と前置きをして語った内容を纏めると。

 レエブン侯は王族派と貴族派を行き来する事でバランスを取ろうとしていた形跡があり、見つけた裏組織への献金などもその一環だったのでは? という事だった。

 領地の運営も良好で民に慕われている事もあり、私腹を肥やす事に執着している様子も無いらしい。

 

 組織間を行き来する事でバランスを取って現状維持か、国家への忠誠心だろうか。

 

「……それで、彼の目的は何かわかるかね?」

「調べによりますと息子を溺愛しておりますので、完全な状態で次代に譲り渡したいのではないかと。貴族の親によくある望みですね」

「代替わりの頃には王国なんか潰れてるんじゃないか?」

「私の見立てでは、あと数年と言ったところでしょうか? 勿論我々が関与しなければですが」

 

 息子に領地を継がせたい親心か、使えるな。

 ナザリックにとっても無害な人間であり、願いもささやかなものだ。

 

「デミウルゴス君。そのレエブン侯は善政を布き、王国を瓦解しないように尽力する程度には優秀で、望みは領地を息子に継がせる事だけなのだな?」

「あくまで私の見立てでは、でございますが」

 

 表に立って動いてくれる人材は必要だ、暗躍するにも限界がある。

 

「よし、ではレエブン侯を引きこんでしまおう。王国の存続と来るべき大粛清の際に家の存続を約束してやれば協力してくれるだろう」

「実に宜しいかと」

「細かい事は任せてしまっても?」

「勿論でございます。ナザリックの為に働く忠実な駒にしてみせましょう」

「……あまりむごたらしい事はしないようにね?」

 

 承知しております、そう語る悪魔の顔は実に輝いていた。

 よし、あまり考えないようにしよう。

 

「ところで大過なくエ・ランテルを割譲させる理由などは考えてあるのかね? 別の貴族の領地をあてがわれる可能性も捨てきれまい」

「フフ、ネクロロリコン様も人が悪い。その為に態々エ・ランテルでいくつもの布石を打たれたのでしょう?」

「……え?」

「例年行われるバハルス帝国との戦争は今年も同様に、いえ、むしろ王国で粛清の嵐が吹き荒れた今こそが好機とばかりに動き出す事でしょう。それに対抗するため、軍略に長けた『ブラム・ストーカー』が国の盾となると言えば誰もが納得する事でしょう」

「ンゥ正しく! 帝国と王国、更には法国が接する要衝であるエ・ランテルを任せるには、高い信頼と卓越した軍才が不可欠! ヌゥァアらばァ! 衛兵を率い死者の軍勢と戦った事で現地民からの信頼も厚い『ブラム・ストーカー』以外にあり得ません!」

「かつての動乱においては民を勇気づける為にあえて解りやすい英雄である『漆黒の英雄モモン』に光を当てさせ、自らは影に徹したドラキュラ商会の主がついにその正体を明かす訳ですね」

「謙虚さ故に表に出る事を望まなかった老将が、国王に! 民衆に! そして時代に望まれ、遂に歴史の表舞台に現れるのですッ!」

「人々は知るでしょう、『モモン・ザ・グレート』に描かれることのなかった偉大なる男の真意を!

 そして『漆黒の英雄』と並び立つ『もう一人の英雄』の姿をッ!!」

「目撃者が多数いるというのにあえて自らの活躍を盛り込まなかったのは、大剣を振う全身鎧の偉丈夫と言うビジュアル的な解りやすさで可及的速やかに物語を民衆に広めさせるためだった訳ですね」

「そして先行した英雄譚を追う形で事件の真相が当事者たちによって広まる! これは普通に広まるより遥かに素早く、そして好意的に映る事でしょうッ!」

「あの時点でここまで考え布石を打たれておられたとはスァァアアッすがは至高のゥ御方ァッ!!」

 

 あれ? 俺は単に恥ずかしいから自分の情報を握りつぶしただけなんだけど……?

 それとアルベドは無理して盛り上げなくて良いからね? それとも単に突っ込み待ちなの? ビッチだけに??

 

 困惑しつつ様子を見れば、解っておりますと言わんばかりに頷くデミウルゴスとアルベド、そして目を輝かせている(気がする)パンドラの姿が映る。

 

「……フッ、少々あからさまだったか?」

 

 取敢えず渾身のドヤ顔でお茶を濁す事にした。

 

 

 

「コルデー、君は何も発言をしていなかったが何をすべきか解っているのかね?」

 

 会議を終え、自室に戻りつつもう一人の参加者に話を振る。

 結局一度も口を開かなかったのは自らを奉ずる者、忍ぶ者と認識しているからだろうか。

 正しくそのように設定したのだが、さすがに無口という設定にはしていなかったはずだが。

 

「ハッ、わたくしは旦那様の影として控え、旦那様の手足となって動くのみでございます」

 

 つまりいつも通りか。

 良かった! 俺と同程度の知能レベルだ!

 正直デミウルゴス達がなんであんなに称賛していたのかよく解らなかったけど、俺だけじゃなかったんだね!!

 

「では、わたくしは一足先にナザリックを出てレエブン侯の屋敷の下調べをしてまいります」

「下調べと言うと?」

「直接交渉を行う前にどの程度の戦力があるかを見てまいります。余裕があれば重要書類の場所や御子息の活動状況などの情報も得ておくべきかと」

「随分と性急だね、まだ協力を仰ぐか解らないのに」

「旦那様のこれまでの御働きに比べれば些事も良いところかと」

 

 やっぱり俺だけだったか。

 この羨望の眼差しは間違いなく先ほどのデミウルゴス達と同質のものだ。

 

「くれぐれも気を付けていくように。蘇生が出来るかどうかも定かではないのだから」

「御言葉、肝に銘じさせて頂きます」

 

 一礼して〈潜影〉で消える我らがメイド忍者を見送り、1人部屋に戻る俺は色んな意味で孤独を味わうのだった。

 




着々と『浸食』が進んでいきます。
どういう意味かは御想像にお任せしますが、かなり浸食しています。



以下オリ設定の様な何かの解説

「ビッチ」と〈八方美人〉
勿論そんなクラスもなければスキルもありません。
しかしあの設定魔なタブラさんがビッチとは何か? を明確に定義せずにアルベドを作ったとも思えない訳です。
彼のネタ帳にはビッチの特性を細分化しそれをスキルとして命名していたのではないかと思います。〈ポジティブタッチ/セイの接触〉とか。
モモンガ付きの為彼女は出番が少ないのですが色々頑張って貰いたいですね。イロイロと。


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