墓守達に幸福を   作:虎馬

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今回試験的に別人視点です。
理由はあとがきで。


2.変容

「あれ?」

 

 静寂が支配する玉座の間に響いたのは一体誰の声だったのでしょうか。

 世界の終末が迫る中最期まで共にある事を望まれ、ナザリックとの別れを惜しむ支配者たちのあまりにも慈悲深い御姿に胸を打たれ涙ぐむ者達が集うこの玉座の間であまりにも異質で不敬な発言でありました。思わず周囲に視線を配ってしまうほどに。

 

 とは言え誰が発した御声かは直ぐに判明しました。世界の終焉を嘆いていた至高の御方々が訝しげに周囲を見渡しておられる。更に聞く限りでは世界終焉の時は既に過ぎている筈であり何事も起こらない事がおかしいとも。

 世界の終焉というモノが如何なるものか? そのような事は蒙昧なる下僕である我々には到底計り知れぬこと。至高の御方々が何故その終焉を予知できたかも重要ではない。至高の御方々が言うのならば世界は消えてなくなっていたはずであり、むしろ御方々にとって不測の事態に陥っている事の方が憂慮すべき事態と言えましょう。

 沈黙を守るシモベ達を余所に至高の御方々は一定の所作で手を振り特定のワードを呟き状況を確認しておられます。そして速やかに結果を報告し合い共有する様はこの異常時においても泰然となさり凡庸なる者達とは正しく一線を画す聡明さの片鱗を示しておられました。

 

「やはり0時は過ぎてますね、強制退去が行われていないってことはシステム障害でしょうか?」

「強制終了も出来ませんし、そもそもメニューバーすら無くなってるし。全くクソ運営は最期の最後に」

「まあまあ、猶予時間を得たのだと前向きに考えましょう。終わったと思ったゲームがもう少しだけ遊べるって事で」

「言ってる場合じゃないですよ、そもそもモモンガさん明日早いらしいじゃないですか! 折角ナザリックの支配者として最期の瞬間を演出したっていうのに!」

「まあ、それは私も思うところがありますけど」

「一周回って最終日が延期になりました~とか言われても困りますよ、まあ嬉しいですけども」

「手放しには喜べませんしねぇ」

 

 ある程度状況の把握が進んだのか世界の終末が先送りになったのではないかという結論に至り、しかし同時に起こった何かしらの異常を訝しんでおられるご様子でもありました。今しばらく我等の主として君臨してくださる事が解り安堵の息を漏らす者達がそこかしこに現れ始めます。それも致し方ないことと言えましょう。私自身もそうなのですから。しかしそのような自分本位な感情より優先すべき事があります。見れば至高の御方々はこの異常により何らかの支障をきたしておられます。ならば我等シモベ一同は状況把握の一助となるべく死力を尽くすべきでありましょう。至高の御方々の近くに侍る守護者統括アルベド殿もまたナザリックのシモベとして当然の如く、いや守護者統括という立場ゆえにより強く決意された御様子。

 そしてアルベド殿は至高の御方々にお仕えする者達の総代として上奏すべく意を決し、

 

「おそれながら申し上げます。何らかの異常が起こっているのでしたら我等に調査を―――」

「!? 『防御陣形構築』っ!」

 

 かけられた声に素早く反応し眷族の召喚と操作を得手とされるネクロロリコン様は眷族の中から守護に適した部隊を選択・召喚し、自らの身を守る防衛陣を構築なされた。なんという神業か。ガードナーの一団を瞬時に、それも防衛に適した完璧な配置で召喚されるとは。

 勿論それだけでは終わりません。

 ネクロロリコン様が手ずから鍛えられた吸血騎士団、その最精鋭達もまた号令に対し即座に反応、特に吸血メイド殿は私の目を以てしても気付いた時には短刀を抜き放ち主の傍らで身構えてすらおられました。至高の御身をお守りすべく行動に移り始めていた他の者達もあれこそ近衛のあるべき姿であろうと称賛の念を浮かべておられます。しかし本来それをなすべきであったにもかかわらず出遅れてしまったプレアデス隊は己の未熟さを不覚に思っているのでしょう、いずれ必ずと決意をその瞳に灯しておりましたが。勿論かく言う私も同じ思いではあるのですが。

 

 さて、至高の御方が神業的な速度で防御陣形を展開しその血族達もまた御身をお守りしようと行動を起こされ、僅かに遅れて他の者達もまたすわ一大事とばかりに動き出しておられましたが、それらとは全く別の行動を同時に取る者達がおりました。

 声をお掛けしたアルベド殿本人と玉座におわす至高の御方々の頂点モモンガ様。

 

「な!? え、ま、待ったネクロさん! 皆も静まれぇ!!」

「申し訳ございません。不敬をお詫び申し上げます!」

「!? ――ふぅ」

「だ、大丈夫ですか? 落ち着かれましたか?」

「……今の発言はお前か、アルベド?」

「おっしゃる通りです。シモベの身の程を弁えず、おそれ多くも至高の御方々の会話に口を挿む不敬深くお詫びいたします。いかようにも罰をお与えくださいますよう」

「ね、ネクロさん。今はどうか冷静に」

「わかっています。すみ、すまなかったアルベド。少々想定外の事が続いて焦ってしまっていたん、いたのだ。皆も構えを解い、解くのだ!」

「謝罪など勿体のうございます! 身の程を弁えぬ不敬をなしたのは事実。であれば罰を受けるは必定! どうかご存分に」

 

 言って跪いたまま髪を払い首を差し出すアルベド。

 それに応えるようにして吸血騎士団の最精鋭たる聖騎士が剣を片手に主命を待つ。

 

「それには及ばぬ。咄嗟に防御陣形を整えてしまうのは長年戦いに明け暮れたが故の職業病のようなものだ。そなたに非は無い。故に罰する必要もまたない。盟主殿もそれでかまいませんね?」

「勿論だとも。ところでアルベド、我等に何か声をかけようとしていたようだが何かね?」

「寛大なる処置に感謝いたします、モモンガ様、ネクロロリコン様。声をお掛けしましたのは、御二方を悩ます不測の事態への対処に我等シモベ共も及ばずながらお力添えできぬものかと考えたがゆえにございます。御命令頂ければ我等シモベ一同万難を排し必ずや御期待に添う成果を御覧に入れましょう」

「ふむ、そうか(ネクロさんどうしましょう?)」

「(とりあえず守護階層に戻して内部に異常がないか見てきてもらうのはどうでしょう? 色々チェックしておきたい事もありますし)」

「(そうですね、ではそのように)

 アルベド、直ちに全軍を各守護階層に戻しナザリック内部の総点検をさせよ。異常がなければそれで良し。もし何かあれば即座に私かネクロさんに伝えよ。そして三時間後に各階層守護者は再び集合せよ」

 

 モモンガ様は他にも点検する必要のない場所や集合する必要のない守護者等の諸注意、私へ外部の偵察命令等続けざまに指示を出されていかれました。

 

「一先ずこんなところか。ネクロさんからは何かありますか?」

「ふむ。まず吸血騎士団の諸君はシャルティア君の指揮下に入り第1から第3階層の点検に協力してあげたまえ。彼女のシモベ達だけでは手に余ろう」

「御心遣い感謝いたしんすえ、偉大にして強大なる鮮血の支配者ネクロロリコン様!」

「え、う、ウム。点検が終わったらそのまま第1階層の守護に着かせておきたまえ。あそこは言わば最前線だからね。

 それから、〈眷族招来・【影狼/シャドウウルブズ】〉!(よし!)セバス君、この子達を連れて行きたまえ。戦闘力は兎も角索敵と隠密に長けた者達だ。撤退する際にソリュシャンの盾として使わせたまえ」

「ネクロロリコン様、身に余るご配慮感謝いたします」

「それだけ重要な仕事であるということだ。心してかかりたまえよ?」

「承知いたしました!」

「あとは、あ! そうだ。お前達は第9階層の巡回をし、そのまま警護に。確か誰もいなかったはずだ」

 

 身に余る御配慮に必ずやお応えしようと決意を新たにする私を余所に、次いで子飼いの吸血騎士団の中でも最精鋭である聖騎士や吸血メイド達に声をかけられる。

 偉大なる《神祖/ヴァンパイア ザ・ワン》であるネクロロリコン様が力の一部を削ぎ、分け与える事で生み出された真祖や始祖の吸血鬼達。至高の御方の直接的な血族である彼等は一人一人が階層守護者に迫るほどの猛者達とお聞きしております。なるほど格式高いロイヤルスイートである第9階層の守護を任せるに足る格と力を併せ持つ者は彼らをおいて他にないでしょう。

 

 その後も幾つかの御言葉をかけてくださったネクロロリコン様はしばし考えた後、モモンガ様に向き直られ号令をかけるよう促されました。

 

「―――以上だ。では皆の者、己が使命を果たすが良い」

 

 至高の御方の御不安を解消せんと、そして御期待に応えようと次々と退出していくナザリックの仲間達。それを見送られるという事は御二方はこのナザリックの最奥たる玉座の間に残られる御様子。なるほどこの玉座の間こそが最も危険が少ない場所に違いありません。我々シモベに調査を命じ身の安全が確保されるまでは最も安全な場所に身を置かれる、正しく支配者として最善の行動と言えましょう。感服すると同時に後ほど幾人かメイドを部屋の前に回しておくよう手配しておかねばと心にとめおく。

 

 さて、私達も至高の御方々のご期待に添えるよう全力を尽くさなくては。

 気合いを新たに私達も玉座の間を辞したのでした。

 




という訳で第2話は突然NPC側の視点で始まりました。
それというのも最初の邂逅のシーンはプレイヤーが困惑しつつどうにか上手く話を合わせようと四苦八苦するのが見所だと思うのですが、既に他の二次創作等で見あきている内容なので奇をてらってみました。少しでも楽しんでもらえたなら幸いです。
シモベの一人であるセバスの視点でやっぱ至高の御方すげえ!ってなるシモベの心情などが上手く描けていればよいのですが。
あと敬語がかなり怪しいです。おかしなところがあったら御指摘いただけますと幸いです。

ちなみに次回は普通にネクロロリコン(オリ主)視点で反省会をやります。



おまけとして使ったスキルなどの解説と言い訳を少々

『防御陣形構築』
「将軍/ジェネラル」のスキルで自分を中心に設定したモンスター等を召喚して配置するスキル。ネクロはヘロヘロさんから習ったマクロを使って細かな配置なども弄ってます。

〈眷族招来【影狼/シャドウウルブズ】〉
「吸血鬼」のスキルでシャルティアが使った眷族招来と同じく設定してあるモンスターを呼び出すスキルです。ネクロは主に司令官系のスキルを取っているので出せる数がシャルティアより多くやや強化されています。

《神祖/ザ・ワン》と吸血鬼
イベントボス神祖カインアベルを始祖の時に倒すと手に入るアイテムを使ってなれる吸血鬼最上位種族。一応本家にも存在するそうですが細かい部分はオリ設定です。エフェクトが派手になる?らしいですが。
吸血鬼は元々前衛型のステータスとスキルを有し、上位の種族になるとプラスして魔力が上がると予想。しかし上位吸血鬼で魔法使いになるくらいなら初めから魔法使い特化な種族をやった方が無駄がなく強い。だから上位種族を取るよりナイトなどのクラスレベルを取った方が前衛に特化出来て強かったのではと思います。中途半端は弱いというのがオバロ公式設定の基本ですし。
ガチビルドらしいシャルティアを見る限りは魔力が伸びてくる真祖にして前衛よりの魔法戦士にして殴るのが強かったのでしょうか。

「血族」
神祖のスキルで特定の量の経験値を消費して作り出されたNPC。傭兵NPCや拠点防衛型NPCがあるなら御供用NPCもあるに違いないという妄想の産物。吸血鬼しか作れない、最大レベルは種族と作り手のスキルに依存、強いNPCが作れる始祖と真祖の数および血族の総数は決まっている、真祖・始祖にクラスチェンジするには経験値を追加投入、守護者達と違い普通にレベル上げしないといけないなどの縛りがあるため話題にはなっても実際に使う人はほとんどいなかった、みたいなスキル。勿論捏造設定です。
作中ではオリNPCを入れる為の口実であり主人公の中二っぷりを示すために主に使われることになります。


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