墓守達に幸福を   作:虎馬

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今回もちょっと地味目ですね。

主人公のネクロロリコンが自分で殴って無双したり範囲魔法で吹きとばしたり出来ないから延々地味な謀略ばかりやっています。

ですのでその分別の人に頑張って貰います。
色んな意味で。


14.森の賢王

 カルネ村の人々との挨拶が長引いてしまったため、本来の目的である薬草の採集は明日に延期となった。

 

 宿泊や食料の便宜を図って貰えるのだから2泊しても良いだろうとンフィーレアさんと話した結果だ。

 「漆黒」の面々には1日延びる分の追加料金を払って中々逢えない幼馴染と旧交を温めるべきだと2泊する事を勧めたと言った方が正しいか。幸い彼も乗り気であったため直ぐに決まった。

 

 勿論これは恋する少年に対するお節介という訳ではない。昨日の夜にあったデミウルゴスとの定期報告で気になる情報を得てしまったため帰還を先延ばしにしておきたかったというのが本音だ。

 何でもンフィーレアさんの店を他の町人とは比較にならない程高レベルな存在が嗅ぎまわっているというのだ。

 

 高レベルとはいえ所詮レベル30程度の人間種ではある。直接的な脅威とは言い難い。

 しかし、俺達がバレアレ薬店に関わった直後に現れるなど偶然とは思えない。おまけに俺達と接触できないと見るやギルドの組合や「漆黒」やドラキュラ商会の宿泊先を次々回り情報収集を始めたというのだから決定的だ。

 

 一体何者なのか?

 このレベル帯でプレイヤーという可能性は限りなく0と言って良い。何故ならユグドラシルはソロでも60程度まではサクサク上がっていくし、廃人レベルなら90まで一気に上げる事が出来るゲームバランスだ。そこそこ遊んだプレイヤーならば30で止まる事は有り得ない。ユグドラシル末期では運営もプレイヤーも色んなアイテムを安売りしていたからなおのことだ。安く強力な装備を買えるなら狩りも捗るというもの。

 

 そしてNPCという可能性も低いだろう。

 拠点防衛用NPCだとしたらせめて50代は無いとレベル100同士の戦闘では役に立たない。勿論恐怖公やヴィクティムのような特殊なクラスを取らせた一芸特化ならばその限りではないが、明らかな前衛職だという話だ。

 そうなると俺のような指揮官型プレイヤーが作り出した随伴型NPC辺りだろうか……? 

 血族を作るインスピレーションを得る為に度々WIKIでクラス関係の最新情報を調べていた俺だが、そんな面白そうなクラスには覚えがない。特に人間種の随伴型NPCとなると悪魔とかが操ってどうこうみたいなのが幾つかあったくらいだろうか?

 

 とにかく情報が足りない。これがモモンガさんと話した結論だ。

 そのため監視を付けて少しでも情報を集めておきたい。少なくともニグレドに調査させてレベルと〈情報偽装〉がかかっていないかを精査させるべきだろう。

 そのための時間稼ぎだ。

 幸いカルネ村の近くには森の賢王なる主もいるらしい。一戦交える事も視野に入れておきたい。これでモモンガさん達の知名度アップ間違い無しだろう。

 

 

 カルネ村で宿を借り翌日早朝。早速トブの大森林へと薬草採集に出掛ける。

 

 ここで面白い事が解った。

 どうやらンフィーレアさん以外は誰一人として薬草とそれ以外の雑草の見分けがつかないらしい。

 索敵能力に優れた軍狼はギリギリ嗅覚で識別する事が出来るが、これもあくまで解りやすい薬草だけは見つける事が出来るという程度である。

 かく言う俺にしても自慢のモノクルが〈鑑定〉の効果を持っているから名前が違うという認識が出来る程度で、モノクルを付けている方の目を閉じて見比べるとさっぱり違いが解らない。

 

 「薬師」や「錬金術士」等の専用のクラスが無いと見分けがつかないのか、それとも〈調合〉などのスキルが必要なのか、あるいは俺達のようにユグドラシルから来た者達ではこの世界の物は見分けがつかないのか。この辺も調べていかなくては。

 早速マッドドクターとして作ったネームド血族の一人をカルネ村に派遣してみよう。あいつは〈医者/ドクター〉や〈薬師/ファーマシー〉、そして大型アップデート後に追加されたクラスの〈化学者/ケミスト〉や〈工学者/エンジニア〉のクラスを取らせた生粋の科学者だ。

 下級血族を強化するために作ったキャラがこんなところで役に立つとは思わなかったが調査員としては最適だろう。モモンガさんにも早く許可を取らないと。

 

 その後も俺とンフィーレアさんを中心に次々と薬草を採集していった。俺は常時〈鑑定〉が発動しているので今まで知られていなかった薬効のあるキノコや薬草も見つける事ができて二人でホクホク顔である。

 

 しかしいささか深入りしすぎてしまったようだ。

 突如軍狼達が同じ方向を向いて一斉に唸り声を上げる。

 

「捕捉されたようですな。このあたりにいる大型の獣となると」

「も、森の賢王!?」

「二手に分かれて撤退しますか? 我々が殿を務めますが」

「駄目だな、側面を取られている。別れてこちらが狙われればンフィーレアさんが危険だ」

「では、迎え撃つという事で」

「構いませんね、ンフィーレアさん?」

「はい、こういった方面は素人なので。御二方にお任せします!」

「任されました。では御二人は後ろに」

「珍しいものを見た御礼に報酬は上乗せさせて貰いますよ、冒険者さん?」

「きちんと受け取れるよう、万全を尽くすとしましょう」

 

 と、ここまでが仕込みである。

 

 薬草採集に夢中になって森の奥まで踏み入り二手に分かれて逃げられない状況を作り出し、外部の人間に高名な森の賢王とやらとモモンガさんが戦うところを見せ付ける。

 流石はナザリック一の知恵者デミウルゴスである。

 軍狼達をそれとなく誘導する手際も、アウラに森の賢王を走らせるルートとタイミングも絶妙であった。

 二手に分かれて逃げられない完璧な状況である。

 

 全ては我々の予定通り。

 ただ唯一想定外だったのが、その見た目である。

 

「こ、これは!」

「なん……だと……!?」

「ふふふ、某の威容に声も出ぬようでござるな!」

「お前の種族は、ハムスター、と言ったりしないか?」

「もっと言えばジャンガリアンハムスターってところか」

「むお?! 某の種族を御存じなのでござるか?」

 

 そりゃ知ってはいるがこんなにバカでかいハムスターは見た事も聞いた事も無い。単に鼠であるとしても数10年前に絶滅したなんとかっていう鼠が結構大きかったらしいが、それでもこんなに大きくないはずだ。

 

 番が見つかるのではというかすかな希望が消えてしまったハムスターに少々申し訳ない気持ちになるが、気を取り直して戦うつもりになったらしい。

 一騎打ちを望む戦士モモンの声に応え俺達は少し離れてみる事になった。

 

 戦いは一先ず互角と言ったところか。

 戦いなれてない癖にカッコつけて二刀流で戦うモモンガさんと野生の勘を駆使して襲いかかる森の賢王。レベル差と熟練度の兼ね合いで中々良い勝負だ。

 

 しかしその拮抗も長くは続かない、モモンガさんの二刀の間合いが徐々に見切られ始めてきている。明らかにモモンガさんの鎧に傷が増え始めた。

 当然だ、二刀流は慣れない事には全く使えない剣術なのだから。俺も昔たっちさんから素手の方が強いとまで言われてしまった。

 

 そして、その時にたっちさんから教わったタフな前衛職の戦い方というものもある。

 

「その立派な鎧は飾りか冒険者! ダメージを恐れていては永遠に殴り合いでは勝てんぞ!!」

 

 そもそもモモンガさんには〈上位物理無効化Ⅲ〉という鉄壁の守りがある。レベル30程度の森の賢王ではダメージを負う可能性すら皆無なのだ。

 そんな状況で攻撃手段の剣を使って防御する意味もまた全くない。

 更に言うなら、

 

「毛皮は天然の防刃素材だ。ここは手数より火力を重視する場面だぞ!」

 

 二刀流もやめた方が良いだろう。

 なにせ相手の毛髪に刃が通らず肉を切るまで至っていないのが現状なのだから。

 

 俺のアドバイスを素直に聞いて片方の剣を捨てたモモンガさんは両手で剣を持って上段に構える。

 相手の攻撃後の隙目掛けて全力で振り下ろすという相撃ち覚悟の戦法は体力や膂力で劣る相手にとっては非常に恐ろしいものだ。現に危険性を察知した森の賢王も攻撃を止めて様子見に入っている。

 

 しかしこのまま逃がす訳にはいくまい。

 

〈力と力、タフネスとタフネス。どちらがより強いか! より頑強か! それを比べるのに小細工など要らぬ。互いに全力の一撃を交換しあう。強きが勝ち弱きが倒れる、これこそがまさに原始の闘争! 極限まで突き詰めた殺し合いの姿だ!〉

〈どうした森の賢王! 貴様も王を名乗るなら、真正面から受けて立って見せるが良い!!〉

 

 民を導き、煽り、意のままに操る王者のクラス「エンペラー」。そのスキルの一つである〈扇動〉は敵の士気値をも強引に上げる事が出来るスキルである。

 敵の士気値を上げる。これは一見すると相手に取って有利に働くスキルに思える。しかし士気値を上げ過ぎると魔法やスキルが使えない『興奮』や『熱狂』状態になってしまう。更に上げていけば一切の制御が利かない『狂乱』状態にまで至る。

 そのため集団戦においては必ず一定値以下に士気値を戻すギミックや装備が不可欠とまで言われている。それほどまでに危険で恐れられているスキルなのだ。

 実際に俺もいくつものパーティーを〈扇動〉を使いまくった挙句思考停止で突っ込んでくる雑魚敵化して仕留めてやった事がある。

 

「某も森の賢王などと呼ばれ恐れられている存在。真正面からの打ち合いは望むところでござる!」

 

 興奮して思考が凝り固まった森の賢王は全力で尻尾を振う。

 これを肩のアーマーで防御したモモンガさんはすかさず踏み込んでお返しとばかりに切り込む。

 咄嗟に防御した森の賢王だったが深々と肉を抉られ毛皮を赤く染める。

 

「何のぉ! まだまだぁあああああああ!」

「森の賢王、覚悟ォッ!!」

 

 先ほどまでと打って変わっての乱打戦。

 恐るべきは森の賢王、聖遺物級であるモモンガさんの装備に傷を付けるとは30レベルとはいえ流石は伝説のモンスターと言うべきか。

 しかし鎧にどれだけダメージを喰らわせようと本体のダメージはどうやっても0である。徐々にその均衡は崩れ、

 

「おおおおおおああああああああああ!!」

「グアアアアアア! み、見事……!」

 

 当たり前だが冒険者モモンが鎧をボロボロにしつつも勝利を収めた。

 

「人間の勇者よ、名を聞かせて欲しいでござる」

「モモン、モモン・ザ・ダークウォーリアーだ!」

「モモン殿、見事でござる。さあ! この森の賢王の首級、持っていくが良いでござる!!」

 

 いざクライマックス!

 と、ここでモモンガさんが興奮しすぎて『熱狂』状態まで士気値が上がったのか沈静化が発動してしまう。

 そして気付く、大の大人がバカでかいハムスターとガチンコバトルを繰り広げた上に止めを刺そうとしているこの状況に。

 

「……何か言い残す事は無いか?」

 

 どうにかしてハムスター殺しの汚名を回避すべく思考を巡らせるモモンガ。

 

「フッ、某は気付いた時から天涯孤独の身。遺言を残す相手などいないでござるよ。……しかし、一度でいいから、同族と相まみえたかったでござるな。それだけが心残りでござる」

 

 満足気な笑顔(?)を浮かべる巨大ハムスター。

 しかし天涯孤独で同族と逢ってみたかった、か。

 

「…………ルプゥ、森の賢王殿に回復を」

「なんと?! 某に情けをかけるつもりでござるかッ!! 嘗めるでないでござるよ、モモン殿ォッ!!」

「情けをかけるのではない。独りで生きて独りで死ぬというのは、寂しいものだと思った。それだけだ」

「……モモン殿? そなたももしや」

「敵の施しは受けぬというならばそれもいいだろう。行け」

「良いのでござるか? 某を討てば名声を得られるであろうに」

「そのような名声など、こちらから願い下げだ」

 

 気高さすら感じる台詞だが、本音はハムスターを殺してちやほやされるとか願い下げという切実な思いが根底にある。

 どうにか逃げてくれそうな雰囲気になってほっとしたモモンガは、ここで思わず余計なひと言をこぼしてしまう。

 

「同族に会えると良いな」

 

 この一言にハッとした顔(?)になった森の賢王は地面に頭をすり付けるような体勢に変わる。

 

「モモン殿! 某をそなたの家来にして下され!」

「えぇ!?」

「某はこの森から出た事が無いのでござる。しかし殿の下であればきっとより広い世界を見る事が出来るでござろう。どうか、お願いするでござる! 殿にお仕えさせて下され!」

「身の程を知れこの毛玉風情がァ!!」

「な、ナーちゃん落ち着くっす!!」

 

 想定外の事態に思わずネクロロリコンの方を向いてしまうモモンガ、しかし仕方ないだろう。なにせハムスターをボコボコにするという他者に見られれば苦情を貰いかねない状況からやっと脱出出来るかと思ったところで仕官を願われてしまったのだから。

 しかし焦っているのはあくまでモモンガだけである。傍から見ていたネクロロリコンは冷静に仲間として迎えるメリットを計算する。

 

「モモン君、迎えてあげてはどうかね?」

「ちょ、何を!?」

「見たところ森の賢王と呼ばれるだけあって高い知性を持っている。名高き森の賢王と一騎打ちを行い、屈服させたとあれば冒険者組合で一目置かれる存在となるだろう」

「そ、それはそうかもしれませんが……」

「君が受けたくないとゴネた最下級のクエストを受けずに済むかも知れんぞ? クエストの達成履歴よりはるかに明白な森の賢王討伐という実績があれば、あるいは一足飛びに階級も上がるのではないかね?」

「ぐ、ぬうううううううう」

「モモン殿、どうかお願いするでござる」

 

 おなかを上に向けて服従のポーズを取るハムスターの視線に耐えかねたモモンガはついに森の賢王を従える事を決める。

 苦渋の決断であった。

 

 その後ルプゥの回復魔法で全快した森の賢王の案内の下、更に大量の薬草を手に入れた一行は森を後にする。

 その道中でンフィーレアが森の賢王の縄張りが無くなるとカルネ村が危ないのではと気付き相談したが、ブラ厶が自身の軍狼の一部を森の守護に充てる事を約束して事なきを得た。

 更に今後カルネ村にはドラキュラ商会の役員を派遣して薬草の研究をする予定だと語り安全を保障したため、ンフィーレアも安心して帰路に就く事が出来たようだった。

 

 そうして一行はカルネ村にもう1泊し、4日目の昼前にエ・ランテルに帰還した。

 勿論依頼は大成功である。

 

 

 

 後日、カルネ村にブラム・ストーカーの紹介で一人の男が現れる。

 

「皆さんはじめまして。ブラム・ストーカー様の御紹介で参りました、ドラキュラ商会主任研究員ヴィクター・フランケンシュタインと申します。専攻は医学と化学、ですが薬学生物学生態学工学等にも精通しておりますので何かお困りの事がありましたら是非気兼ねなくご相談ください何かしら御力になれるやもしれません」

 

 眼鏡を掛け白いコートのような服を纏ったこの優男は、村の救世主であるブラム様の依頼により村の復興と発展に助力しつつ薬草の調査をしに来たという。

 ばけがく? という学問を修めており、村でポーション作りをするつもりだという彼は長口上の最後に村人達にこう尋ねた。

 

「ところで皆さん、科学技術で力を得る事の出来る『人体改造』に興味はありませんか……?」

 




着実に魔境と化して行くカルネ村の明日はどっちだ?!

ちなみにヴィクター博士はネームド血族の真祖で主に「化学者」と「医者」、「ゴッドハンド/神医」のスキルによって血族を強化する事が出来ます。
主に行う強化改造は薬物投与、モンスターとの癒着、機械化の3種。レベルが低く強化値が低いほど成功率が高く、失敗すれば勿論デスペナです。
普段は下級吸血鬼の一部を使って人体実・・・研究を行っていました。それこそユグドラシルの末期まで騎士団の強化の為に。
ある意味ネクロロリコンがユグドラシルを続けた原動力の一つだったりします。

しかし何でメイド忍者コルデーより先に本編に出ているんだろう?
誰得かと言われれば俺得なのですが。

マッドサイエンティストって良いですよね!!

「さあ、偉大なる英知の礎となりたまえ!!」


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