墓守達に幸福を   作:虎馬

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開幕から捏造設定マシマシですが、あのトンでもギルドの皆さんならこんな感じではなかろうか? と思っています。


13.初依頼

 吸血メイド忍者『コルデー』。

 クラン:ナインズ・オウン・ゴール時代に作られた《吸血鬼神祖》ネクロロリコン初の血族にして後のナザリックに多大な影響を与えたNPCである。

 

 黒を基調としたクラシックスタイルのメイド服と輝くプラチナブロンドの髪、そして手裏剣をモチーフにした飾りと首元のチョーカーのみを飾りとした非常に手堅くオーソドックスな造形をした彼女は、メイド服に命を捧げるクランのメンバーであるホワイトブリムが丹精込めて作り上げたネクロロリコン自慢の血族である。

 そのあまりの出来栄えに「これは3Dなのだからもはやリアル嫁なのではないだろうか?」だの「ゥ俺はこの子と生涯添い遂げるぞォ!!」と有頂天だった事は消し去らなければならない最大レベルの黒歴史である。

 

 しかしその性格等の設定は、メイドとしてもアサシンとしても沈着冷静に仕事を全うするという他の仲間達からすれば少々面白みのない内容であったという事も事実であった。

 勿論そんな真面目でクラシカルなメイドこそが至高であるというメンバーも少なくなかったものの、「ミニスカメイドこそ至高」「ドジっ子の良さが解らないのか?!」というメンバーも少なくなかった。

 

 これに端を発して巻き起こったのが「ナインズ・オウン・ゴール メイド戦争」であった。

 

 それからは日がな一日自身の理想のメイドについて熱く語り合う日々が続いた。

 

「クラシカルなメイド服を着て真面目だけどポンコツ! これこそがメイドのあるべき姿だ!」

「何を言う! 出来るドSメイドと夜な夜な主従逆転プレイこそが至高では無いのか!!」

「ショタメイドとか良くない?」

「褐色肌の元気っ子とかどうよ?!」

「やっぱドジっ子のロリータっしょ!」

「ハラペコ属性も捨てがたいぞ!」

「和風メイドとかどうかな? 行ける?!」

「僕はメイド長には眼鏡を掛けてて欲しいかな」

「けも耳とかも良いよね~」

「ショタメイドがダメならロリ執事はどう? 良くない?!」

「だったら老執事も良いと思うんだ」

「今話しているのはメイドだろう、相変わらず空気の読めん奴だ」

「無表情クールっ子こそが最強の属性だと何故解らん!!」

「重火器使うメイドとかも良いぞ~これ~」

「フワフワ甘ロリ廓言葉ロリババアメイド!」

「「「「「ペロロンチーノ(弟)黙れ」」」」」

「なぁあああんでえええええ?!」

 

 もはや宗教戦争の様相を呈してきたメイド戦争は長らく論争の的となり、最終的にギルドホームを手に入れた際に各々が最高だと思うメイドを作りあうことで一同が合意し、一応の決着を見た。

 そうして生まれたのが戦闘メイド部隊:プレアデスであった。

 

 

 

 そんなプレアデスの制作秘話を黒歴史に苛まれつつ思い返しているのは勿論それなりの理由がある。

 外部の調査を行う際の御供をプレアデスから選抜することになったからだ。

 

 他の階層守護者はナザリックの防衛や後方での強襲部隊等任せなければならない任務が別にあるため、人型を取る事が出来てそれなりに戦える格式のあるNPCとなると彼女達しかいないというのが理由として挙げられる。そして、

 

「私は鎧を着て『モモン・ザ・ダークウォーリアー』になるので魔力系魔法詠唱者のナーベラルを連れていこうと思うんですよ」

 

 というモモンガさんの言葉を聞いて浮かんだのがメイド戦争の時に弐式炎雷さんが主張する「ばっちり決まってて真面目だけどポンコツなドジっ子メイドこそが最高である」という言葉であった。

 

 NPC達は大体設定に従って動いている事が解っている。更に言えば作る時に望んでいた事も叶えようとしている節がある。これはあくまで俺の予想ではあるが、パンドラが異常なまでにモモンガさんに構おうとしているのは寂しがっている彼を慰めたいという皆の思いが彼の中にあるからではないだろうか?

 

 今はまあ良い、目の前に迫る外部視察の御供の選抜に注力するべきだろう。

 

 さて、それでモモンガさんが連れていこうとするナーベラルだが。彼女こそがポンコツメイド萌えなあの弐式さんが作ったNPCだ。普段の様子を見る限りポンコツとかドジっ子といった雰囲気は感じないが、外部でやらかしたら終わりなのだから慎重に選ぶべきだろう。

 

 ところで他のメンバーはと言うと。

 

 まずナザリックの内部のギミックを熟知しているという設定がなされているシズはダメだ。

 続いてデュラハンのユリも万が一首がポロリしたらシャレにならない。冒険者をやる以上アクティブに動けなければならない以上避けるべきだろう。

 それからエントマ、ハラペコキャラと設定されていたが何処まで食べるのか? またそもそもが幼い容姿であることや全身を蟲で擬態している状況は中身が見える可能性を考慮すると避けるのが無難か。

 そういった観点からナーベラル、ルプスレギナ、ソリュシャンの三人から選ぶのが安全ではないかというのが最初の俺の意見だった。

 

 モモンガさんも凡そ同じ考えの下ナーベラルを選んだという。

 

 ここまで来てやはり考えてしまうのが制作者達の思いだ。本当にナーベラルを連れていって大丈夫なのか? ドジっ子を抱えて息抜き出来るのだろうか? 不安で仕方ない。

 

「冒険者モモンはナザリックの好感度稼ぎの一環でやるんですよね?」

「ええ、あとは資金稼ぎでしょうか? 勿論情報収集も兼ねてますけど」

「それなら回復職を連れていって傷ついた冒険者に恩を売ってはどうかな?」

「二人も連れていくんですか? 多すぎません??」

「プレアデスを全員連れていっても足りないとデミウルゴス辺りは言いそうだけど、まあそれは置いておくとして。パーティーメンバーを固定するためには回復役はいた方が良いだろうよ。新しい仲間を加えるって訳にはいかないしね」

「ああ! それは考えてなかった」

 

 ナザリックの内情を外に漏らさないためにもパーティーメンバーに外部の者を入れる訳にはいかない。その考えの下、身内だけでバランスのとれたパーティーを作ってしまった方が良い。あと蓮っ葉な口調で明るいメイドという設定だったはずのルプスレギナなら回復職という立場もあって人気が出やすいはずだ。

 作った奴はおバカな子ほど可愛いみたいな事も言っていた気がするけど、普段の仕事ぶりを見る限りナザリックのメイドを作るにあたっておバカキャラは入れなかったのだろうと思う。

 俺も最後に余ったドSメイドであろうソリュシャンを連れていく事を決める。心配したモモンガさんからはセバスも連れていくよう勧められたのでこれも受ける。実際先遣隊が行っているとはいえ、俺達が実質の先陣を切るのだから前衛職が多い方が安全ではある。

 

 そんな思惑からの振り分けであったが……。

 

 

 

 これは酷い。

 俺はナーベラルのポンコツぶりを甘く見ていた。

 

 モモンガさんを呼ぶ時は必ず「モモン、さ   ん」といった具合にモモンさんとハッキリ呼ぶ事が出来ない。

 

 それだけならまだ良い、喋るのが苦手な内気な女の子という方向性でやっていける。

 しかし他のパーティーのチャラそうな男から声をかけられた際に「ゴミ蟲」呼ばわりを始めたときは顔が引きつったのを覚えている。

 

 潜入任務であり悪目立ちしないのがモモンガチームの基本である事。他者から尊敬される冒険者になる事が目的である事は出発前に重々話しておいたしモモンガさんだって個別に話していたはずだ。それを第一声からゴミ蟲とは……。

 更には俺にとっての取引相手であり、モモンガさんにとっては依頼主という立場のンフィーレアさんに対しても欠片も愛想が無い。どころか嫌悪感剥き出しである。百歩譲って軟派してきた他チームの男ならまだ邪険に扱っても良いだろうが、依頼主にこれはどうなのだろうか? わざとなのだろうか? 気さくな笑顔で必死にフォローに入るルプスレギナが何とも頼もしい。

 

 しかしンフィーレアさんが大人な対応をしてくれた御蔭で依頼自体はスムーズに進んだ。

 馬車馬はこちらが用意すると言ってアンデッドの首なし馬を提供。疲れ知らずで駆け続ける馬車に驚くンフィーレアさんも直ぐにそういう物なのかと納得してくれた。

 途中でゴブリンやオーガが襲ってくる事もあったが、俺が軍狼達で防衛陣を築き冒険者モモンがグレートソードの二刀流で暴れまわって蹴散らしてしまった。ナーベやルプゥも元気一杯でゴブリン達を蹴散らして楽しそうにしていた。

 ンフィーレアさんも「はぁー」とか「へぇー」とか言いながら観戦する様は緊張感皆無であったが、まあ仕方ないだろう。実際2、3匹抜けてきた哀れなゴブリンは軍狼の餌食になっていたのだから危機感を持つ方が難しい。

 

 

 

 そんなある意味のんびりとした空気は2日目の朝、カルネ村が見えるようになった辺りで霧散した。

 

「塀が出来てる? それに空堀も?」

 

 ンフィーレアの知るカルネ村はモンスターの襲撃もほとんどなかったため柵などの防衛施設はほとんどなかった。

 しかし今はどうか?

 村の周囲をぐるりと囲むようにして頑丈そうな塀が組まれ、その外には空堀が掘ってある。入り口と思しき表門には鐘が吊られた櫓まで立っており、その中には見張りとして村の男が周囲を見回してすらいた。

 これはもはや村では無い。要塞とまでは言わないまでも、防衛陣地として十分機能するだろう。

 

 まさか野盗に村を奪われたのだろうか?

 そんな心配をするンフィーレアさんに気付き、俺は村が帝国の鎧を着た連中に襲われて焼かれそうになったから自分が助けた事、その後も村の防衛能力強化のために色々手を貸している事を話した。

 

 まさかそんなことになっていたとはと驚く彼は、知り合いがいると言って気が気ではない様子だった。

 幼馴染がいると言う彼の様子はただの幼馴染を案ずる雰囲気ではない。おそらく想い人だ。

 大人が数人助けられなかったが同じ年格好の子供は死んでいないという説明をしたが落ち着かず急かす彼に従い村に近づいていく。

 

 こちらに気が付いた櫓の彼は俺がいる事にも気付いて手を振ってくる。

 手を振り返す俺を見て開門すると同時に皆に伝えてくれたらしく、辿り着く頃には歓迎の人だかりが出来ていた。

 

 慌ててやってきた村長達から、ナザリックから派遣されたストーンゴーレムや下級吸血騎士団の面々、エンリが呼びだしたゴブリン達が非常によく働いてくれているという感謝の声も受け、恩人の一行だからと色々用意して貰える事になった。

 また、村の防備がかなり進んだことや村人全体で弓の訓練をしている事、防衛のための自警団を組織した事等を伝えられた。

 

 後ほどンフィーレアさんの幼馴染はあの時偶然助けた姉妹であった事が解り、彼からも改めて御礼を言われてしまい流石に照れてしまう。

 今後とも良い付き合いが出来ればそれで結構とにこやかに返すも、ンフィーレアさんは浮かない顔をするばかりであった。

 

 不思議に思って話を聞いてみると、俺から伝説の赤いポーションの話が聞けないかと思って今回の話を持ってきた事を後悔しているという。

 無関係な村を善意で救いその後の支援までするような人に対して自分が浅ましいと消沈してしまっていた。

 

 申し訳なく思うならと、俺は赤いポーションについて詳しく聞いてみる事にした。

 曰く今の錬金術師では作れないとか。

 しかし伝説に存在する赤いポーションは随分と細かな情報まで伝えられているという。

 そんな赤いポーションを求めて青いポーションを作っているのが今の薬師達であるという。

 

 俺が青いポーションを不思議そうに見ている事からもしかしたらと声をかけたという言葉に若干戸惑うものの、「物珍しかったからそんな態度に出ただけだ」「もし赤いポーションを『譲る事が出来たら』お渡しする」と言っておいた。

 

 後日行われる定例会議の議題が決まった瞬間であった。

 

 




ルプスレギナ! お前には感心したぞ!!
(相対的に)出来るメイドとなった駄犬は何時まで出来るメイドでいられるのか?
意外とずっとそのままかも解りません。ホウレンソウについてはモモンのそばにいますし、意外と器用ですし。

今回は見所が無いので駆け足でカルネ村まで行きました。漆黒の剣がいないのにゴブリンなんかと戦っても仕方ないですし。
なにより二巻の見所は次回から出てくるオバロのマスコット枠をアインズ様と奪い合うあの子ですからね。
そしてその後のアンデッド戦。

あぁ、はよ書きたい。



吸血メイド忍者コルデーは相変わらず名前しか出ませんがもうそろそろ出番がある予定です。
まあずっといるんですけどね。

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