墓守達に幸福を   作:虎馬

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1.夢の終わりと全ての始まり

 VRMMORPG「ユグドラシル」。

 圧倒的な自由度を売りに数多のプレイヤー達を魅了し虜にしてきた傑作ゲームであり、この手のゲームとしては破格の12年という長期に渡り運営され続けた名作だ。

 しかしそんなユグドラシルも時代の流れとともに多くのプレイヤー達が新たなゲームへと移り行きついにその歴史を終えることとなった。

 それはつまり41人の仲間達と共に知恵と技術と労力、そして何より膨大なリアルマネーをつぎ込んで作り上げたこのナザリック地下大墳墓も今日限りで消えてなくなるという事だ。

 

 それも仕方ないのかも知れない。

 我らがギルド「アインズ・ウール・ゴウン」もまたかつての勢いをなくし、僅かなメンバーが辛うじて拠点の維持費を賄っているような状況なのだから。

 

 

 素晴らしいギルドだった。

 格好よさそうだからという理由で吸血鬼を初期種族に選び、吸血鬼と言えば支配者! 貴族! という頭の悪い発想から戦闘力度外視で「エンペラー」「ハイエンペラー」「カリスマ」といった戦闘職でも生産職でもない珍妙なクラスばかりを取り続けていた俺をネタ込みで仲間と言ってくれた愉快な連中だった。

 共にクエストをこなし未踏のダンジョンに挑み、あるいはキャラ設定について日がな一日語り合ったことだってあった。

 一緒に悪役ロールプレイを繰り返し、悪の集団としてPKを繰り返していた時期もあった。

 全てが素晴らしい思い出だ。夢の時間だった。

 今でも飽きずにインしているのはそんな仲間がまだ残ってくれているからこそだ。

 

 一緒にギルドの維持費を稼ぐためにイベントをこなしたり新しいキャラ設定を考えて笑い合ったり、あるいはお互いのロールプレイでそれっぽく振る舞い批評し合ったりと二人しかいないなりに楽しく遊んでいたのだ。

 仲間が減って寂しいという思いは当然あったし、みんなに帰ってきてほしいという思いもあった。そして良い年した男二人で何やってんだと思わなくもないが、夢の時間は続いていたのだ。辛うじて。

 しかしそれもついに終わってしまう。

 ユグドラシルというゲーム自体が終わってしまってはもうどうしようもないのだ。

 

 

 ならば、せめて最後は渾身のロールプレイをして最期を飾ろう!

 どうか悔いの残らぬように。寂しい思いを少しでも隠すために。

 それがこの俺「吸血貴族」ネクロロリコンと、我らがギルドマスターにして偉大なる「死の支配者」モモンガが下した結論だった。

 

 

 

 各種準備を終えて迎えた最終日。

 お互いに最上級の装備を身に纏い、集められるだけのNPCを一度も本当の意味で使われた事の無い玉座の間に集結させる。モモンガさんは作ってはみたものの使われた事の無いギルド武器も折角だからと持ち出し、俺も能力的に相性が良いと解っていたが結局実戦で使用した事の無いワールドアイテムを宝物庫から引っ張り出してきている。

 まさに大盤振る舞い。

 最期は時間まで会議室で最終打ち合わせまで念入りに行い、ついに会議室から玉座の間に向けて歩き出す。

 

「プレアデスか、こいつらも玉座の間と同じく作っただけで使った事のない者たちでしたね」

「うむ、折角だからここに待機させておいたのだよ。最期の晴れ舞台なのだから従者くらいいなくては格好がつくまいよ」

「オホン! なるほど確かにその通りだな」

 

 俺がロールプレイを始めるなり即座に対応する辺り流石はモモンガさんというべきか、まあプレアデスを供に最期の地へ向かうのだからそろそろ始めどころだろう。

 

「私など手塩にかけて育て上げた吸血メイド忍者を供にしているというのに、我等が盟主殿に供の一人もいなくては格好がつかぬだろう?」

「スキル〈血の従僕〉で作りだした最初の一体だったか、メイド服はホワイトブリムさん謹製で設定はペロロンチーノさんと煮詰めたのだったか。まさに珠玉の一品といったところ。しかし吸血鬼でメイドな忍者とは相変わらず、なんというか、凄いな」

 

 軽い雑談をしつつ玉座の間へと歩を進める。時間的にまだまだ余裕はあるが若干早足なのは仕方ない。尻切れトンボになるのは情けないにもほどがある。

 

 そして辿りついたナザリック地下大墳墓の最奥、玉座の間。

 集められるだけ集めたNPC達が整然と並ぶ様は圧巻の一言。支配者系スキルを連発してこの日このときのためにこっそりAIを弄ったりして練習した甲斐があるというものだ。モモンガさんの感嘆の声が聞けて俺も思わず頬が緩む。

 

「ナザリックの主力が一堂に会すると、やはり圧巻だな。あちらの騎士団はネクロさんが育て上げた吸血騎士団か。まさに総軍という言葉がふさわしいな」

「そうであろう、何せ宝物庫の彼すらも連れてきているのだからな」

「え!? そ、そうか。まああれも一度くらい宝物殿から出してやらないとな」

 

 そうこうする内に玉座まで辿り着いた俺達は玉座に座るモモンガさんとその傍らに立つ側近という風に位置を調整する。

 改めて見るとこの光景はまさに圧巻だ。意思を持たぬNPCの集団とは言えこれだけの者達の前に立つというのはさすがに興奮してしまう。

 もう暫く眺めていたいがそろそろ良い時間だ、最期のロールプレイを始めるとしよう。

 

「我等が盟主よ。かつては1500からなる大軍勢をも跳ね返したこのナザリックにいよいよ最期の時が来た。我等が力を以てしても避けえぬ世界の終焉。それに伴いこの偉大なるナザリック地下大墳墓もまた消滅する。しかしこれは誇るべきことだ。我等がアインズ・ウール・ゴウンの威を世界に示し続けたこの地は、まさに世界が滅ぶその時まで健在であったのだから」

 

「その通りだ我が盟友ネクロロリコン。そして我等アインズ・ウール・ゴウンの栄光はたとえ世界が崩壊しようとも決して消えることはない」

 

「然り。たとえこの世界が崩壊しナザリック地下大墳墓が塵芥と化そうとも、我等がアインズ・ウール・ゴウンは決して消えることはない。何故なら我等が盟主モモンガが健在である限りアインズ・ウール・ゴウンもまた滅びぬからだ!」

 

「その通り、その通りだ。既に死をも超越したこの私が世界如きの終末に付き合ってやる義理などない。世界が滅ぶというならばそれもよかろう。終焉を迎えたその先の世界で今一度アインズ・ウール・ゴウンの威光を示してみせよう」

 

「無論この身もまた不死不滅である以上、終末を迎えた先にある新たなる世界へと歩を進める事となろう。さすれば我等は再び相まみえることもあるだろう。しかし済まぬ、ナザリックの同胞たちよ。我が覇王の力を以てしてもナザリックの同胞達を連れていくことまでは出来ぬのだ。諸君等は世界の終焉に堪えることが出来ぬ故に」

 

「ナザリックが誇る精鋭達よ、これまで大儀であった。諸君らの健闘と忠勤により難攻不落のナザリック地下大墳墓は、今ここに不滅の伝説となったのだ!」

 

 加速度的に高まるテンション。悪乗りに次ぐ悪乗り。ナザリックとアインズ・ウール・ゴウンを称賛し、そんなナザリックを置いていかねばならない苦痛を吐き出していく。

 

「ナザリックの栄光よ不滅なれ! アインズ・ウール・ゴウンの栄光よ永遠なれ! アインズ・ウール・ゴウン万歳!」

「アインズ・ウール・ゴウン万歳!」

 

「アインズ・ウール・ゴウン万歳!」

 

「「アインズ・ウール・ゴウン万歳!!」」

 

 仲間達と共に作り上げた最愛のホームに最期の別れを済ませ、そしてメンバー達との再会を誓う言葉を交わす。大仰なロールプレイでのやり取りだったが結局のところこれがやりたかったのだ。

 このゲームに入れ込んでいた俺達は暫く他のゲームが手につかない事だろう。だがそれでもいずれは新たなゲームをプレイし、また一緒に遊ぼうという誓いの儀式だ。

 そしてこのユグドラシルというゲームとの別れの儀式。

 友と最期の夢を見る瞬間。

 

 残された時間は後数秒。

 多少駆け足だったがきちんと終えられて良かった。モモンガさんも満足げに天を仰いでいる。

 それを見て俺も満足感と空虚さから天を仰ぎ目を閉じる。

 

「さらばだ、ユグドラシル」

 

 23:59:57、58、59―――――

 

 00:00:00、1、2、3・・・・・

 

「あれ?」

 

 

 

 

 




という訳でプロローグでした。
墓守は勿論モモンガさんを指す言葉ですが、同時に霊廟を守護する彼もまた本来の姿のままでは望まれない悲しい存在です。
そしてもう一人、不要な悲しみを背負ってしまったあの守護者。

この3者をはじめとした本編で悲しい思いをした皆さんを救済する、そんな話を作りたいです。

ギルメンがいるのでモモンガさんも人類の守護者ルートです、念のため。

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