「お借りしていたものをお返しに来ました」
差し出されたものに、僅かに眼差しを細めた。
すぐに視線を前に戻すと、手に持った錫杖の環が微かな音を立てる。
「それは、お前に褒美として授けたものだ。一時的に貸していたわけではない」
「ですが、僕にはもう必要のないものです」
突きだすようにつるぎを差し出す青年の顔をじっくりと眺める。
この青年はかつて、己が追放した竜人と人間の合いの子だ。
そして、掟の為に里の長老達と話し合って、か弱い子共を追放した。その幼子が時をえて、人間の仲間を引き連れて、竜人族の里を救うとは誰が想像できようか。
試練に打ち勝った褒美にと授けたつるぎは、記憶と違わずに同じように紅い鞘におさめられていたが、どうやらこの青年はつるぎの本来の姿を取り戻してやったらしい。
鞘に封じられていても、抑えきられない力が牙を剥いているようだ。
それを難なく、持ち続けている青年の顔は穏やかだ。
このつるぎを持ち続けて正気でいられるのは、竜人族で何人いるか。人間でならば、尚の事。
一見、平凡な容姿を持つ青年が正気を保てているのは竜の血を半分とはいえ、その身に引いているからなのか、それとも精神力が凄まじいのか。
視線をこれほど受けても、微動だにしない青年が引くことがないことを悟ると、本性ではない人の手を静かに伸ばした。
「ならば、ひとまず受け取ることにしよう」
受け取ったつるぎを腰に差し、竜人族の王は凪いだ瞳を細める。
「だが、このつるぎが必要となれば、またここに来るといい」
「ないことを祈ります」
間を置かずに返された言葉に、口元が微かに弧を描いた。
本当にこの者は、面白い。それは久方ぶりに感じた感情だった。
二十年前にも、己をこんな風に思わせた娘がいた。外の世界に興味を強く持ち、里の誰よりも強く優しい娘。
「お前の性格は、どうやら母親譲りだな」
その言葉に、今は亡き竜神族の娘の忘れ形見ともいえる青年は何処か娘の面影を漂わせながら、くすぐったそうに笑った。
「そのような事を、……祖父にも言われました」
※平和な世界になった後、エイト君はすぐに竜神王様に剣を返しに行くと想像して出来た話。彼は多くを望まない人だと私は思います。
そんな彼が一番強く望んだのが、真エンディングでのミーティアとの結婚なんだろうなあとプレイするたびに感じます。
でも、新エンディングも好きです。旦那様呼び、最高です。
(プレイヤーの手を離れて、主人公自身が行動するという事)