「ったく、次から次へと。私は便利屋じゃないのよ? そもそも山賊退治なんて、女性にやらせるものじゃないでしょう! なーにが、親愛なる美しき英雄、ゼシカ・アルバート様よ! あんたなんかと“親愛なる”仲じゃないっての!」
歩きながら、持っていた手紙を片手で握り潰し、怒りに大きく震える。
もし、この手紙で書いた相手をどうにかできるのであれば、今すぐ全身全霊の攻撃魔法でどうにかしてしまいたい。
これではいけないと荒ぶる感情を抑えるために大きく深呼吸をした。
最近思うのだが、仲間たちの――特に元『山賊』の言葉づかいの影響を少しばかり受けてしまったような気がする。
旅を終えて、リーザス村に戻ったゼシカの元に世界各地から、様々な依頼が届くようになっていた。
きっかけは、ポルトリンクに停泊していた船に潜んでいた魔物を退治した事だった。
その勇姿にその場に居合わせた商人や船乗り、そして旅人の口から口へと伝わり、気が付けば手紙が彼女の元へ来るようになっていた。
最初は断ってもいたが、手紙の文面や大いに乱れた筆跡から伝わる必死さに仕方なく引き受けるようになった。
もちろん中には、アルバート家と縁を組もうと虚言をでっちあげて、家に招こうとしたものもあったが、それは丁重にお断りさせて頂いた。
だが、実際はまたこうして旅に出たりすることが出来て、嬉しい。あの旅はお世辞にもゆっくりと世界をまわれた訳ではなかったから、新たに見てまわるのもいいだろう。
それに家にいるだけでは退屈で、母も異様に心配して家にいさせようとするのだ。
「それにしても、願いの丘ねえ。懐かしい」
握りつぶした手紙とは別のものを腰に吊るしたポーチから取り出す。今から向かうのは、アスカンタ地方にある願いの丘だ。
その手紙いわく、最近願い丘の辺りでおかしな現象と大切にしている家畜が消えたりすることが起こっているのだという。
いつか人まで消えてしまうのではないのかと怖くなり、この手紙を書いたのだという。
「家畜は魔物に襲われたとして。おかしな現象に関しては、勘違いの可能性が高いわね……」
今まで受けた依頼の中でも明らかに気のせいだというものもあった。大抵は、人の勘違いだったり、その地の環境が作り出した自然現象であったり。
冷えた風が吹いて、小さく身を震わせた。
太陽が青い空から日差しを伸ばしているが、空気はそれでも冷えている。冬が少しずつ、忍んできているのだ。
紺色の毛織りのマントの前をしっかりとかき集めて、二つの手紙をポーチに戻した。
「とにかく、この手紙を書いた人に話を聞くしかないわね」
目指すは願いの丘、そして川沿いの教会だ。