私のアトリエへいらっしゃい。   作:ルコ

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大人の魅力

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ…。…え!?」

 

 

彼女は素っ頓狂な声を上げながら、マックのポテトを机に零す。

 

綺麗なブリーチがふわりと浮かぶと、彼女は慌てた様子で私に詰め寄った。

 

 

「あ、あんた、マジで言ってんの?」

 

「…うん。…私、ディスティニーランドで比企谷くんに告白する」

 

 

愕然と、落ちたポテトを拾うこともせずに口を開き続ける優美子は、おずおずと上げていた腰を椅子に戻す。

 

放課後の暇つぶしに訪れたマクドナルドは同じ目的の高校生で溢れているが、そのおかげで声を周りに気にすることなく話すことができた。

 

 

「…あーし、知らなかった…」

 

「…誰にも言ってなかったからね」

 

「ディスティニー城にそんな噂があったなんて……」

 

「そっち!?」

 

 

想像の斜め上を行く優美子の返答に、私も思わずポテトを落としてしまう。

 

あぁ、机が落ちたポテトの残骸だらけに…。

 

 

「……わ、私が比企谷くんに告白することには驚かないの?」

 

「あ?まぁ、ちょっとだけ驚いたけど、最近のあんた見てたらそうなるかなぁとは思ってたし」

 

「へ?さ、最近の私?」

 

「だって、ヒキオのことばっかり見てたし」

 

「み、見てないけど!?」

 

「ぬわっ!?…ちょ、今更照れんなし…」

 

「照れてないもん!」

 

「…そ、そう。…まぁ、頑張んなよ」

 

 

優美子はストローを咥えながら、私の落としたポテトをペーパーで集め始める。

 

相変わらず面倒見の良いことで。

 

すると、机に置いていた私のスマホが静かに震えた。

 

画面を確認すると、そこには1通のメッセージが。

 

 

『よっす!また比企谷が浮気してるよー!』

 

 

ほうほう。

 

折本さんや、あなたは私の優秀な諜報役として任命しよう。

 

私はメッセージに添付された画像データをタップする。

 

折本さんが撮った写真だろうか、その写真には比企谷くんがしっかりと写っていた。

 

窓の枠にクリスマスの飾りつけを行う比企谷くんと、そんな彼を困らせようとお腹に抱きつく一色さん……。

 

 

あの小娘、調子付く前に消しとかねば…。

 

 

「……姫菜、目から正気が無くなってるし」

 

「…小娘…。狩るか」

 

 

 

 

 

 

 

✳︎

 

 

 

 

 

 

 

その後、ポテトを頬張り平静を保った私は、優美子と共にショッピングモールへと訪れた。

 

この前にも彼と行ったばかりだが、誰と行くかによっては店内を歩くテンションが大幅に変わってくる。

 

隣を歩く優美子を見て、私は思わず溜息を吐いてしまった。

 

 

「…はぁ」

 

「…あんた、失礼だかんね」

 

「いやね?比企谷くんが隣に居た時は心がすごく弾んだけど、優美子じゃ……」

 

「あ、あーしじゃなんだし」

 

「心が平静を保ってるよ。何とも思わないみたい。だから溜息を吐くのも仕方ないよね。…はぁ」

 

「あんた、最近あーしに酷すぎるからね……」

 

 

泣きそうな顔を浮かべる優美子はほっておいて、私は目的の場所を探してキョロキョロと辺りを見渡す。

 

とりあえず、ディスティニーに着ていく服を買おう。

 

普段よりも少しだけ女の子らしいオシャレをして、比企谷くんにちょっとでも私を意識してもらわなければ…。

 

 

「あ、このお店可愛い…。ちょっと寄って行こう」

 

「えー、なんか地味じゃね?」

 

「優美子の感性は常人とは違うからね。ほら、このニットとかすごく良いよ」

 

「むぅ。…あんたは大事な事を忘れてるし」

 

「え?」

 

「自分のコーデをする時に、1番大事な事……、それは…」

 

「…そ、それは?」

 

「下着だし」

 

「……ビッチ乙」

 

「ビッチじゃないし!いや、でもマジだかんね。男が興味あるのは外見より中だかんね」

 

「むむ」

 

 

優美子は自慢の胸を強調するかのように突き出しながら、勝ち誇った顔で私を挑発する。

 

…別に、比企谷くんに下着を見せる機会なんてないもん…。まだ。

 

少なくとも、彼が下着の良し悪しで人の評価をするとは思えないし…。

 

はぁ、ホントに優美子は脳内がフワフワな綿あめみたい。

 

まったく。

 

……。

 

 

「……でもまぁ、優美子がどうしてもって言うなら?…下着?買いに行っても?……いいけど?」

 

「……」

 

「わかったよ。優美子の勝ちだね。行きます行きます。下着を見にいくの付き合うよー。…まったく」

 

「……」

 

「ほら!早く行くよ!」

 

「……こいつ、ダメな気がする」

 

 

 

…………

……

.

.

.

 

 

 

 

早足にたどり着いたランジェリーショップは、派手派手しい色で店内を騒がしく彩る。

 

スタイルが良すぎるマネキンは下着しか着ておらず、遠目からだと露出狂が店前に立っているようにも見えた。

 

 

「ふふん。これなんていいんじゃね?」

 

「うわぁ、それ、ほぼヒモだよ?何処を隠す気で作ってるんだろうね」

 

「ちなみにあんたってカップ数いくつ?」

 

「……。あ、これ可愛いー」

 

「……」

 

 

比企谷くんはどんな下着が好みだろう、と、ふしだらな事を考えつつ、私はピンクや白の明るく可愛らしい物を見て回る。

 

無意識に彼のことばかりを考える自分にはもう慣れた。

 

お店の鏡に映る私の頬が少し赤くなっている。

 

…素直な私はすごく可愛い。

 

なんて、彼に言ってもらえたらどれだけ幸せだろう。

 

 

「えへへ。そんなに可愛いかなぁ」

 

「…あんた、鏡に向かってなに言ってんの?」

 

「へへ。ちょっと予行練習をね」

 

「予行練習?」

 

 

優美子の呆れ顔も何度目だろう。

 

今日の私ってそんなに浮かれてる?

 

でもそれは仕方がないことなの。

 

これは恋する乙女のちょっとした病なんだから。

 

 

「〜♪」

 

 

鼻歌交じりに下着を何着か手に取り眺め、その度に彼を頭に浮かべた。

 

優しく微笑む彼は、柔らかい手つきで私の頭を撫でてくれる。

 

ディスティニーランドに行く日が待ち遠しい。

 

こんなにも時計の短針に焦らせれたことは他にあっただろうか。

 

 

ふと、店内の壁には女優をモデルにした広告が貼り付けられていた。

 

黒いレース生地の下着を身に付けた女優は、豊満な身体を惜しみなく露わにし、唇を尖らせる。

 

 

 

 

 

大人の魅力は下着からーー

 

 

 

 

 

 

 

「…ちょっと大人っぽい下着にしようかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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