突如響いたその声に、教室内にいる皆の視線が突如教室に入ってきた少年に集まる。
「お、おい、声でけーよ。みんなこっちの方見てんじゃねえか」
白木が控えめな声で、なおかつ怪訝な表情でそう言う。少年は、
「たのむ!お前らがいないと野球部が作れないんだ!」
と白木の言葉を無視して頭を下げる。
「おい、人の話聞いてる?そもそもまずは名前教えてくんない?」
「あ、俺は一年八組の早川実だ!そして頼むから野球部に…」
少年がいざ交渉を再開しようとした、まさにその時、白木、東凪以外の存在に気づく。
「あ、あれ?光じゃねえか。いつからいたんだ?」
「…おまえが来る前からずっといたよ」
「うお、気づかんかった!」
本気で驚いている所を見ると、その少年、早川実はほんとに光に気づいていなかったらしい。やれやれとため息をつく光だが、それと同時に、さっき翔真と苺から聞いた、野球部に勧誘を進めている破天荒な男の話を思い出していた。
(うすうす予想はしていた、ほんとに実だったとは…)
実の所、光は翔真たちから話を聞いたときからすでにその男が実ではないかと疑っていた。実がもっている体は野球人のそれだし、この時期にあそこまでのキレがあるということ、この学校に野球部がないことを考えると、実が
新しい野球部を創ろうとしていることは容易に想像できる。そして何より、少し喋っただけでもわかる。おそらく誰が実と話しても最初にこう思うだろう。
“こいつは紛れもないバカだ…”
現に光も例外でもない。彼の喋り方などを見てもそうだし、許可もないのに初日にチャリで登校するところ(これに関しては光も一部共犯したのでなんともいえないが)をみて、バカ…とまではいかないものの、あんま賢くはなさそうだな、と思っていた。
「光、なんか心の中で俺のことディスってなかったか?」
「…してねえよ」
「いいやしてたね!光の眼を見りゃわかるぜ!」
「俺とお前が会うのはまだ二回目だが?」
「二回会うのも百回会うのも大して変わらないぜ」
「だいぶ変わるわ!」
「…おいお前ら、俺たちのこと忘れてないか?」
そんな二人のやりとり(漫才)の中、置いてけぼりにされてた白木が口を挟む。
「お、おう、ごめんごめん」
「で、二人とも用件は同じだったけど…同じ部活…か?」
東凪が控えめにそう聞くと、またさっきと同じように実が「え!」と声を上げる。
「同じってお前、光も野球部をつくるつもりか!?」
「ん、ああ、まあな」
「おおお、まさかこんな所に同士がいるとは!」
歓喜のあまり光の両手を握り上下に振り回す実。
「だからお前ら、俺たちがいること忘れてないか?」
白木が再び実と光のやりとりをさえぎる。
「おお、そうだった!お前ら二人と光が野球部にいれば、あと一人で野球部を創れるんだよ!」
新しい部活を申請する時には、部員が最低5人が必要のためその条件である。そこに光が、
「あ、その点だが
なんて言えば、
「マジか!だったらここは何が何でも入ってもらはないと!」
火に油を注ぐようなもの。実は白木に迫って懇願する。白木は渋ったような様子で実と見つめ合う。数秒の沈黙の後、白木はため息をついた。
「…わかったよ。入部して」
「まじで!やった!」
実の熱い熱意に白木は白旗を揚げた。
「白木が入部するんなら俺も入ろっかな」
「ん、いいのか?」
「まあ、お前ら見た感じ野球に対してはマジメそうだからな。退屈はしなさそうだ」
「東凪、お前ってやつは…最高だな!」
東凪も入部を決めたようだ。目立ちはしたものの、二人の、おもに実の誠意が伝わったようだ。
「これで部員は五人そろったわけだ。残りも早く集めなくちゃな」
「それなら弟も誘うか?気は弱いが守備はうまいぞ」
東凪がそう提案する
“
「そいつは名案だな。さっそく誘いに言って来るわ!」
「ちょっ!」
「おい、実待て!」
光と東凪が止めようとするも、実は一目散に教室を出て行ってしまった。取り残された三人は顔を見合わせる。三人とも思っていることは同じだろう。いや、教室にいた人たちも同じことを考えていたに違いない。
そして、すぐに実は戻ってきた。
「そういやお前の弟って何組だ?」
お馬鹿丸出しである。
「え、僕…?」
「そう、僕だ」
教室に戻ってきた後、実は東凪に弟のクラスを聞き、一組のときと同じように教室に突入した。それまでの間に、実が一組の生徒たちに苦笑されたり、東凪に弟を怖がらすなと釘を刺されたり、教室を出た光が翔真を小突いたりしたが、そんな瑣末なことは割愛させてもらう。
「兄さん、どういうこと?」
弟に聞かれた東凪はいままでのことを説明した。秋下は少し困惑したようだったが、実を少しの間見つめる。
「兄さんがやるって言うんだったら僕もやるよ。よろしくね、閃道君、早川君」
どうやら兄が信用した人たちを信じるようだ。彼は恥ずかしながらもふたりに挨拶した。
そして、これで部員が六人になった。
「よし、これであと三人!燃えてきたぞ!」
実は相も変わらず大声で叫ぶ。どうやら彼の音量調整メーターは壊れているらしい。
「だからうるさい」
「いいじゃねえか、光も嬉しいだろ?」
確かに嬉しいことではあるが、さすがに光には他クラスで叫ぶのはハードルが高いらしい。
ちょうどこのとき、授業開始五分前のチャイムがなった。
「あ、もうこんな時間か」
「ほんじゃ、とりあえず戻るか」
「あ、ちょっと待て!」
帰ろうとする光と東凪を実が引き止める。
「今日の放課後八組に来てくんないか?申請のこととか、色々話さないとな。もちろん弟と白木のほうもな!」
実がそう提案する。それを聞いて、二人は目を丸くし、お互いを見つめ合う。実はそれを見て面を食らう。
「おい、どうした二人とも」
「い、いや、早川がそんなことを提案するなんてな」
「っておい、それぐらい考えるわ!」
話はそれたが、彼らは放課後集まる約束をして、教室を出た。
教室を出ると、翔真と苺が待っていた。
「よお、お疲れ」
翔真がニヤニヤしながら光にそう言う。
「ああ、疲れたよ…てかお前ら、まったく手伝わないじゃねーか!」
「まあ、メンタルは鍛えられただろ?彼のおかげで」
彼とは当然実のことである。確かに、いやにも目立つ実といればメンタルは鍛えられそうだが。
「それにしてもあっという間に六人そろったよね、さすがは閃道くん」
「そうそう、この調子だったらあっという間にそろうんじゃねの?」
「今度はお前らが誘ってくれよ?」
「きこえませーん」
そんな会話をしながら、三人は自分のクラスに帰っていく。そして、そんな三人を見ている青色の髪をした女の子がいた。
「おもしろそう!」
恋恋野球部、暫定六人+マネージャー集結
おまけ2
東「白木、放課後八組で今後のことについて話すってよ」
白「…放課後か。まあいいけど」
東「ん、なんか用事でもあったか?」
白「い、いや、とくにないが。ところで提案したのは閃道か?」
東「…いや、早川のほうだ」
白「…まじ?」
東「まじだ」
実「ぶぁっくしょんっ!!…風邪か?」
すんごい久しぶりに書いた…復活とはなんだったんでしょう。